【新】ダンジョンにファンタジーを求めるのは間違っているだろうか 作:東西南 アカリ
あと、旧版とかなり話の内容は変わりますがご容赦ください。
1-1
喧騒鳴りやまない今日もにぎやかなギルド本部で多くの冒険者たちがロビー内を行き来する。
そんな足音や話し声の届かないロビー隅、アドバイザーと冒険者用の面談用ボックス。
防音設備がきちんと施されたその場所でベルとエイナは、机を挟んで向き合っていた。
だが、その雰囲気は少し重たいものだった。
「ダンジョン異変……ですか?」
ベルがその空気を破るようにエイナに尋ねた。
それに対してエイナはこくりと頷き、言葉を続ける。
「詳しくはまだ分からないんだけどね、最近ダンジョンでこれまでに起きてこなかった現象が確認されているの」
「それってどういうやつなんですか……?」
ベルが慎重に尋ねると、エイナは手元にあったバインダーを開き、『ダンジョン異変に関する調査報告書』と書かれている書類一式をベルに提示した。
「ベル君、これを見て。この現象はね、一週間前ほどから確認されたことなんだけど、君たち冒険者生命に関わる重大な事態だからギルド本部より各ファミリア、冒険者個人個人に通達をすることになっているの」
「えぇーと、この『
「うん、そうだよ。他にもあるんだけどね、一番留意しないといけないのはこれだと思う」
普通なら人間にロマンを感じさせる言葉ではあるように思えるが、駆け出しとはいえ数多くの修羅場を掻い潜ってきたベルにはその言葉の持つ恐ろしさを正確に捉えていたのだ。
ベルの顔色を見てエイナも少しホッとした。
ベルはどこか危ない所がある。今まではうまくやってきたがある日突然いなくなった冒険者たちをエイナは今までたくさん見てきた。
だからこそ、ベルがこれの危険性を正確につかめていたことに安堵したのだ。
そしてエイナはコホンと一つ咳払いをしたのちにアドバイザーとしての仕事を全うすることにした。
「おそらくベル君は気づいたと思うけれど、この現象の危険性は突然モンスター達が沢山湧いているところに、意図せず飛んでしまうことなの。一匹、二匹なら問題ないと思うんだけれど、確認された限りで最高は五十匹に囲まれて全滅した冒険者達もいたわ」
「ご……五十匹ですかっ!?」
その数をきいてベルは絶句した。
一応ベルも一度だけその数に近い値のキラーアント達からリリを助けるために相対したことがあったが、その時は覚悟を決めて無我夢中でやっていたからできたことだ。
もう一度同じことができる保証は今でも持てないし、あれは火事場の馬鹿力というものだろう。
そしてもし、ベルがこの現象の餌食となった時、果たして冷静でいられるかと考えると思わず身震いもした。
「まぁ、全ての冒険者にこの現象が起きているわけでは無いんだけどね、やっぱり伝えておかないと万が一があるし、このせいで一週間だけで冒険者死亡率が倍に増えてしまったの」
「死亡率が倍に……」
「あぁ、でも気にしないで。死亡率が倍になってしまったのは対応をとる前に巻き込まれた人達の数が多かったからというのもあるわ。おそらく究明とともにその数は元の数値に戻ると予想されるけどね」
少しだけ不安を取り除くようにエイナは微笑むがやはりその表情はどこか固かった。
全ての冒険者に起きてはいないとはいえ、目の前の少年がいつその毒牙にかかるか分からないのだ。
ただでさえ万が一があるダンジョン探索で、その上に万が一な状況がベルに起きるかもしれないのだ。
心配だ、とても心配だ。
本当ならばベルにはダンジョン探索には行ってほしくはない。
だがしかし、彼は冒険者。日々の生活の為にも冒険者となった時からダンジョン探索は避けては通れない道でもある。
一応ダンジョン探索以外の依頼などもあるにはあるのだが、彼のファミリアは懐事情がよくないと聞く。
それの改善の為にもダンジョン探索は必要不可欠なのである。
あぁ、こんな時に自分がベルと共にダンジョンに向かうことができればどれほど良かっただろうか。
だがしかし、自分はアドバイザーだ。
ベルを直接助けることはできはしない。
こんな時そういった面で無力な自分が、ただ見送ることしかできない自分が恨めしい。
「だけど……私にもできることがある」
「えっ?」
「あっ!? ごめんね、何でもないよ」
「そ、そうですか……」
いけないいけない、つい心の声が漏れてしまったようだ。
コホンとまたもや咳払いを―――今度は羞恥を隠すものではあるが―――ついて、しっかりとベルをエイナは見据えた。
「さて、ベル君。これから君はもちろんダンジョンに潜ると思うんだけど、今回こそは冒険しちゃダメよ」
「は……はい……」
冒険者なのに冒険してはダメ。これはエイナの口癖の一つである。
矛盾しているような言葉ではあるが、この言葉の裏には冒険者達の無事を願うエイナの密かな思いが隠されている。
その思いに気付いているベルは俯きがちになりながら首肯した。
たびたび事件や危険に巻き込まれる体質であるベルではあるが、やはり彼女を心配させたくない思いもある。
もちろん少し冒険したい気持ちもあるが、できるだけそのような事態は避けつつもしっかりと実力をつけてからの方がいい。
だが、万が一があるので強くは肯けないベルであった。
「まぁ……君が冒険せざる負えない状況になりやすいのは分かっているけど、それでも無事に帰ってきてね」
「は、はいっ!!」
少し遠い目をしたエイナだったがすぐにベルの目を真剣に見つめるとベルの手を自身のその手で強く包んだ。
その行為に少し赤面するベルであったが、女性と物理的に触れ合う経験が増えたこともあってか、少しキョドリながら返事をした。
その顔を見て微笑むエイナだったが、ふと自分もベルの手を取っていたこともあり、みるみる顔が赤くなっていた。
どちらも純情ゆえの変化であった。
「え……えーと。まぁ気を取り直して具体的にどんなことが起きているのか説明しましょうか」
「そ、そうですねっ!!」
暫くしてお互いに止まっていた時間を動かすように次の話題に進んだベルとエイナ。
ベルは先の時間をもう少し味わいたかったなぁと男の欲望を少しだけ抱えながらエイナとその後の会話に臨むのであった。
?? 「作者様ぁ、恋愛描写ないって言っていたじゃないですかぁ!!」
?? 「作者くん、ボクは嘘つく君が嫌いだねっ!!」
作者 「スキンシップ程度ならアリじゃね?」