私の人生は一日の日々を耐えるだけのものだった。10歳の頃、神経難病として、筋萎縮性側索硬化症を患った。この病気は治るのが難しく徐々に筋肉が萎縮していくという病気であった。なので、病院で過ごすことが多く、外に出ることはほとんどなかった。
そうなると勉強もしたところで生涯は短く終えることが決まっているため、12歳になる頃にはただ惰性で行っていた。
するとやれることは限られ、最低限のリハビリと一般教養程度で行い、趣味としてはアニメや漫画に片寄っていた。自分が出来ることはないものを見るのは羨ましくもあり、憧れの対象でもあった。
そこで自分が特に好きだったのは異世界ものの転生であり、自分には持っていないもの、体を動かし新しい人生を苦しくも楽しんでいるものには憧れはあったが、それと同時に嫉妬の対処でもあった。
自分とは違い好きに体を動かし、好きに生きていくことに強い憧れを覚えていた。アニメの中でも辛い場面、苦しい場面があったのは分かるが、体を好きに動かし、未知の出会いがあるのは自分の人生と比べ、何事にも変えられない素晴らしいものであるのは間違いないだろうと思っていた。
初めの頃は病気に負けず、外に出て好きに動かせる自分になると信じえ止まなかった。しかし10年の月も経てば諦めが勝り、病室で閉じこもりの生活が続いていた。
そして、つい先月に自分の余命が告げられるも、特に日々は変わらず、リハビリの先生や家族からは、自分のしたいことは何かと言われるも何も思いつかなかった。ただ、自分の好きなアニメを見直すという行為を行うことしかしなかった。
その中で、結城友奈は勇者であるというものを見ていた。自分の好きなアニメは異世界転生ものに偏っていたが、1番好きなアニメと聞かれれば、このアニメだと思う。自分には指名を課せられ、勇者という役割こなしながら学生生活を行っていた。その中で唯一亡くなった勇者といして、三ノ輪銀という少女に自分は凄く惹かれた。
初めは仲のいい、同級生とバーデックスという日本を脅かす化け物と戦っていたが、この少女は正義感が強く、仲間の鷲尾須美といえ少女と反発し合っていたが、力を合わせて勇者としての仕事を全うしていた。しかしバーデックスも力をつけていく中で三ノ輪銀という少女は亡くなってしまった。
この事実としてファンからは気さくなキャラとして愛されており、作中で亡くなってしまったのは悲しみの声が大きく、私も大号泣して、家族や病院の方々に迷惑をかけてしまったが。しかし自分としては悲しいという気持ちよりも羨ましい気持ちが大きかった。結果としては亡くなったしまったが、仲間のために役に立てたならば良いではないかと。病院でただ死の運命を待つだけのわたしに比べたら羨ましい限りだと思う。
そんなことを思いながら病室の中で薄れていく意識の中、出来れば誰かの役に立ち、天寿をまっとうしたい願うばかりであった。
「…ここは…?」
もうひらかれることはないだろうと思っていた閉じた瞼には明るい光が知覚され、少しづつ目を開いていくと目に入り込んできたのは、もう拝めることはないだろうと思っていた太陽の日差しであった。その光景が嘘ではないかと確認するように瞬きを数回繰り返し、今映っている景色が幻覚では無いことを確認する。その次には今まで動くはずのなかった四肢が動くことに気づき、体を起こし周りを見渡してみる
「ここはどこなんだ…?」
病室の窓から眺めることしか出来なかった風景に感動来ると思っていたが、その事よりも自分がいる場所に疑問が出てくる事の方が先であった。辺りを見渡してみても、ビルや住居どころか建物が1つも見当たらず、草原と森林、青く澄みきった空に太陽しか目に映らない。
「取り敢えず、歩いてみよっか」
地面から臀部を離すように立ち上がると、スムーズに立ち上がれたことに驚きを感じる。今までは支えがなければ立ち上がるのがやっとで、それをこなす筋力も段々と無くなっていき、ベッドでの生活が長く続いたことから足を踏み出すのに躊躇したが、踏み出してみると地面の感触は硬いものではなく、草をクッションにして感じられる自然の感触に喜びを感じ、徐々に走り出した。
「ははっ、あはははっ!!」
楽しい!楽しい!
ただ走るだけなのに今まで味わったことの無い、体に風が通り抜け、全身の隅々まで伝わる快感が、もっと体を動かせと爽快な気分になりながら息が切れるまで走り駆けた。
たとえ夢であろうとも今感じているこの瞬間は忘れまいと思う自分であった。
やがて体が疲れを感じ、走るのを辞め、息を整えていると視線の先には子供二人分の幅がある川を見つけ、そこまで歩いて行く。
「ん…?」
その川は水も澄んでおり、喉の渇きも感じていたので水分補給をしようと水面の反射で自分の顔が映る。
そこに映ったのは今までなんの特徴もない一般的な日本人の顔ではなく、大きい瞳に、茶色と言うよりもやや灰色に近い髪を紐で結い、1本で縛ったショートポニーテールというものに近かった。その顔つきは将来美人になり、良い姉御肌のような優しくも頼れる存在になるであろう……ちょっち待ち?
「いや、これ三ノ輪銀じゃね?」
これは神様がくれた夢とでも思えばいいのだろうか。頬を抓ってみても普通に痛覚があるが今の現状が夢以外に信じられなかった。
今流行りの異世界転生というものではないかと思うが、正直あれらは創作物のもので、死んだら天国か地獄に行くものばかり思っていた。
「けど神様っぽいものにもあってないし…」
自分が今まで見てきた作品では神様と会い、言葉を交わして異世界にいくものだと思っていたので、正直転生ではなく、夢の延長戦のようなものだと感じていた。
まぁ、夢なら覚めるまで好きにやるかと川で喉を潤した後、歩き出すが何処へ行こうかと再び歩みを止める。
「取り敢えず、街を目指そうか」
とはいえ、目印となる建物の影も形もないことから何処へ行けばいいのか分からなかった。
この少女の記憶が無い。この子がどんな生活をし、どんな親に育てられ今まで生きてきたのか分からないので、正に八方塞がりであった。
まぁ、取り敢えず川を下っていったら何かしらの街に着くかと思い歩き始めた。