豊穣の女主人で騒動があってから数週間、私はすみから武器が完成したという連絡を受け、すみのお店『水簾』に訪れていた。
「おぉ…!」
「どう?出来るだけ銀の要望に答えられるように作ったのだけれど」
すみから2对の斧を受け取ると重量や握り心地に驚きを感じた。今まで使っていた斧はバトルアックスのように先端に刃先がついたものを使用していたが、今回頼んだものは結城友奈は勇者であるの作中で三ノ輪銀が使用していたものと瓜二つであった。
「ありがと!すみ!」
「ぎ、銀!?」
武器を置き、すみの手を握ってお礼を言うと頬を紅潮させて目線がキョロキョロと動き回っていた。
なんで顔があかいんだ?と疑問を持ち、首を傾げるが、そんな日もあるのだろうと結論をつけ、腰に巻いていたポーチからお金を取り出した。
「金額はこれでいいかな?」
「うん、大丈夫よ。あと防具の方も渡しておくわね」
すみは棚から防具一式を取り出して私に預ける。オーダーメイドを頼んだ次の日にどうせならばと防具も頼んでいた。
その時のすみの表情はまとめて頼みなさいと言わんばかりの顔を浮かべていたが快く承諾してくれた。
「もう少しすみと話したいんだけど、今日は予定が色々あって…」
「気にしなくて大丈夫よ」
今日はあと2件ほど回らないと行けない場所がある。
豊穣の女主人の騒動があった次の日に再び訪れて、金額を返済しようとしたのだがロキファミリアが金額をほとんど払ったらしいのことだった。
それでも迷惑をかけたのだがらと私は告げると、お金はいいからお店を手伝って欲しいとのことだった。
今はダンジョンも行けないのでちょうどいいと私は豊穣の女主人でアルバイトをすることになったのだ。
私は防具に着替え、2対の斧を担ぐとすみにお礼の言葉と別れの挨拶をして『水簾』から出ていった。
豊穣の女主人のアルバイト開始時間は大体夕暮れの時間から始まるのだが、その前にもう1件回るところがあった。
そこは南のメインストリートから少し外れた裏路地にある『火鉢亭』と呼ばれる酒場であった。
中に入り、集合時間は間違えていないだろうかと周囲を見渡すと奥の席にある人物が席に着いていた。
「アンドロメダさん!」
「こんにちは銀ちゃん」
透き通る様な肌と切れ長い瞳に銀縁のメガネをかけているヘルメスファミリアの一員、アンドロメダさんが高そうなお酒を片手にこちらに手を振っていた。
私は失礼しますと一声かけてから椅子を引き、席に着いた。
何故私がヘルメスファミリアの団長であるアンドロメダさんと知り合えたかと言うと1週間前の夜での事だ。
「銀ー!この料理を3番テーブルの方に持っていっておくれ!」
「分かりましたー!」
私が豊穣の女主人に勤めてから2日が立ち、ホール兼キッチンを担当していた。元々はホールで接客をする予定だったが私の昼ごはんをアーニャさんとクロエさんにつまみ食いをされた所、ミアさんにキッチンも出来るのではと報告され、キッチンも担当することになってしまった。ホールに人手が足りなければ接客を行い、キッチンが忙しければおツマミなどの簡単な料理を作るなどピンチヒッターの様に使い回されていた。
徐々に仕事も覚えだして、こっそり私の様子を見に来たヘスティア様を横目で見ながら3番テーブルに料理を運ぶ。
「お待たせしました。パエリアとスパゲッティ、飲み物になります」
「どーもどーも、新人ちゃんかい?小さいのによくやるねぇ。」
私に声をかけてきたのは橙黄色の髪をした、人当たりの良さそうな旅人風の男性だった。
「はい!新しく入りました、三ノ輪銀と言います!よろしくお願いします!」
「元気がいいねぇ、何かいい事でもあったのかい?」
「ヘルメス様、あまりちょっかいを…。すみません、うちの主神が」
軽くペコりと頭を下げてきた人を見る。端正な顔立ちでどこかのお姫様みたいな雰囲気を感じる人だった。
「大丈夫ですよ!少しづつお客様も少なくなってきたので…」
ちらりとミアさんの方に視線を向けると相手をしてやれと目配せしてきた。
時折、店員がお客様の相手をすることがあり、お酌をしながら会話を盛り上げるのも仕事のひとつだと教えて貰っていたが、ぶっちゃけ今回が初めてなので緊張でガクブルだった。
「そうかい?ならお酌をしてもらおうかな?」
「失礼します!」
「アッハハ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
瓶に入っていたお酒を若干震えながらもお酌をし、話しかけてみる。
「お二人は冒険者なんですか?」
「そうそう、自己紹介が遅れたね。ヘルメスファミリアの主神のヘルメスだ」
「私はこの人の遺憾ながら団長をしています。アスフィ・アル・アンドロメダと言います」
アンドロメダさんの口からため息が出て、苦労していますとばかりに表情が出ている。顔はすごく綺麗なのだが心労が滲み出ていて黒いオーラを発していた。
そこから会話を続け、酒が空いていると注文を取るかと聞き、アンドロメダさんの愚痴を聞きつつも、ヘルメスをよいしょしながらお酌を続けていると2時間もしないうちに2人はベロベロに酔っていた。
「貴方はいっつもいっつも、私に何も言わないで勝手なことばかり…!」
「わ、悪かったってアスフィ!そ、そういえば銀ちゃんは冒険者なんでってね?」
「はい、ヘスティア様のところでお世話になっています!」
ヘルメス様はもう聞きあきたとばかりに急な話題変換をして私に問いかける。私はお酒を飲んではいないが雰囲気によってしまったのだろうか冒険者であることや自分のスキルなど色々喋ってしまった。
「そして厄介なスキルのせいで今はダンジョンに行けていないと?」
「そうなんですよねー…」
『満開』の代償である『散花』について色々と調べたりしているのだが解決策も見つからずに途方にくれていた所だった。
「ならアスフィに頼んでみるといい。アスフィは魔道具っていうかなり便利な道具を作成出来るスキルがあるんだ」
「本当ですか!?」
まさかの棚ぼたである。しかしこの状況を考えてみるとお気に入りのキャバ嬢に援助しているのと変わらないのではと思ったが、せっかくの機会だ。
アンドロメダさんにその話を伝えると机にうつ伏せながらも手でOKのサインを出していた。
しかしベロベロに酔いすぎて頼んだことを覚えていないのではないかと思うが、そこは大丈夫だとヘルメス様が言ってくれた。
その後、1時間程度すると2人は完全に爆睡し、自分が2人を担いで近くの宿舎に送って、お店に帰るとクロエさんとアーニャさんから恐ろしい子とばかりの表情を浮かべ、
そんな経緯があり、アンドロメダさんから商品が完成したという連絡を受け、『火鉢亭』で待ち合わせて受け取るということである。
「これがスキルを抑える魔道具です」
「すみません、ご迷惑をかけてしまって」
「いいのよ、私達もかなり迷惑をかけてしまったし」
手渡されたのは銀で作られ、中央には緑色の輝きを放っている魔石のようなものが埋め込まれていたブレスレットだった。
「こ、これ。かなり高いんじゃ…」
「本当だったらかなり立派な家が3つほど立つ商品だけどサービスということで1万ヴァリスで大丈夫よ」
「あ、ありがとうございます!」
私はブレスレットを握りしめながら深々と頭を下げる。今まで『散花』の影響でダンジョンに出ることが出来ずに葛藤を感じていたがこれでダンジョンに行けることになる。
「使用する時はブレスレットに魔力を込めて、封じたいスキルをイメージすればそのスキルは使えなくなるということよ」
アンドロメダさんは目の前のお酒を一気飲みすると、少し用事があるということなので私からお金を受け取り、お店を後にした。
私は拳を握りしめ笑みを浮かべる。これでダンジョンに行ける。豊穣の女主人でアルバイトをするのも楽しかったが、やはりダンジョンに行けるという気持ちが勝る。
流石に今日は豊穣の女主人でアルバイトがあるので行けないが、明日からはベル君と一緒にダンジョンへ向かおうとお金を払ってお店を後にし、走り出す。
私は色んなに助けて貰って、ここに生きている。そのお礼をを返せるまで強くならねばと更に走るスピードを早めるのであった。