三ノ輪銀は勇者である オラトリアの緋跡   作:大腿筋膜張筋

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独眼竜(笑)

「アァァァァァァァァァ!!」

 

「おーい銀ー!って聞こえてない…」

 

銀が自分たちに迫ってくるモンスターを鬼のような表情で斬り伏せていくのをベルはその後ろで眺めていた。

銀は絶賛狂乱中であり、こちらの声に振り向きもしない。

それもそうかとベルは思わずため息をつく。

銀が『散花』というとてつもないデメリットがあるスキルを封印出来たと聞いて、ダンジョンへ行こうと昨日の夜に起こった出来事が原因であると思い出していた。

 

 

 

 

「ベル君!聞いて聞いて!」

 

「どうしたの銀?」

 

銀は話したくてたまらないという表情でベルに話しかけてきた。

その内容とは『散花』というスキルを使えなくしてダンジョンに参加できるというものだった。

 

ベルはそのことを聞いて嬉しく感じていた。今まで銀とは自己鍛錬でしか斧を振るう姿を見たことしかなく、一緒にダンジョンへ潜れることに喜びを感じる。

その後、銀とは何回層まで降りるのか、どういう配置で戦うのか作戦を練りながら話していると、キィーっとドアが弱々しく開く音がした。

 

「た、ただいまー」

 

「おかえりなさい!ヘスティア様!」

 

銀は立ち上がり、帰ってきたヘスティアの豊満な胸へダイブする。

いつもならヘスティアは銀を抱きしめて頭を撫でるのだが、今日は目線を横に逸らしながら気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「どうしたんですかヘスティア様?」

 

「どうやら、銀くんに謝らなくちゃいけないことがあってだね…」

 

ヘスティアは頭を掻きながら、クルクルと巻物のように巻かれた羊皮紙を銀に差し出す。

 

「さっき、神会(デナトゥス)があって銀くんの二つ名が決まったのだけど…」

 

ベルも気になって銀の頭の上から羊皮紙に書かれていた内容に目を通すと、思わず固まってしまった。

 

「ど、独眼竜(笑)(ダークドラゴン)?」

 

そこに記されていた内容は銀のレベルアップで付けられていた二つ名だった。

独眼竜という意味は分からない恐らく、銀が今、視力を失っており、目の瞳孔が混濁しているため眼帯を付けていたことからこの二つ名が命名されたのではとベルは予想する。

しかし語尾に付けられていた言葉は明らかにおちょくっているというのが分かる。

羊皮紙を持っていた銀はプルプルと震えながら、羊皮紙の端をグシャリと握りしめていた。

 

「ふんっ!」

 

そして黒歴史の塊とも呼べる羊皮紙を縦に引き裂き、ビリビリと原型が残らないほどに細かくちぎっていた。

その様子にベルとヘスティアはガクブルと震え、振り返った銀の表情を見ると般若の形相をしていた。

 

「ヘスティア様ー?これってレベルアップしたら変えてくれるんですよね♪」

 

「う、うん」

 

ふふふと恐ろしい笑みを浮かべながら、外へ消えていった。

その時、ヘスティアとベルは心に誓った。銀を怒らせてはならないと。

 

 

 

 

 

 

 

我を忘れて辺りのモンスターを全て惨殺すると少し、落ち着いてきて暴走してしまったと反省する。

 

「ぎ、銀ー!」

 

ベル君は大声を上げながらこちらへ走ってくる。無意識にベル君を置いて行ってしまったのかと自分の行動を振り返って恥ずかしくなってしまった。

 

「ごめん、ベル君。先に行っちゃって」

 

「ま、まぁ落ち着いたなら良かったよ…」

 

ベル君が怯えながらこっちを見ている。何故だろう。

まぁいいかと切り替えて、ベル君と足並みを揃えてダンジョンへと足を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀!そっちは頼んだ!」

 

「かしこま!」

 

現在は7階層でキラーアントの群れと戦いを繰り広げていた。

後ろと前の両方から挟み込む様に距離を詰めてきたキラーアントに対して新調した『黒鉄』と『白銀』を使って斬りこんでいく。

 

今までは刃先が先端にしかついていなくて、距離を詰められた時の対応に苦戦していたが『黒鉄』と『白銀』は自分の身長と同じくらい長く刃先がついているため、近距離の戦闘でも苦戦はしなくなった。

それに加えて1人で対処していた部分をベル君がカバーしてくれるのも大きかった。

何気に今回のダンジョン探索がベル君と行くのが初めてで、どのくらい戦えるのか気にしていたが、片手用のナイフを使って、器用に自分の懐に入られないようにナイフを振るっていた。

 

そしてキラーアントの群れを対処し終えると少し休憩しようと地面に腰を下ろす。

 

「ふぅ、そろそろ帰ろうかな。」

 

「もう帰るの?」

 

「うん、今日は豊穣の女主人でアルバイトがあるし、早めに帰ろうかなって」

 

そう。私はまだ豊穣の女主人でアルバイトを続けていた。つい先日、修理代を立て替えるぐらいの労働時間になっていたので、そろそろ終わってもいいかとミアさんに告げると、お金は払うから続けてくれないかと頼まれてしまった。

確かにダンジョンでモンスターと戦闘し、お金を稼ぐのもいいが、お店で働く楽しさを覚えてしまったので、もう少し続けることにしたのだ。

 

「それじゃあ、僕はもう少ししてから帰るとするよ。まだまだ弱いしね…」

 

「ベル君…」

 

あの件はもう気にしなくてもいいと声をかけようとしたが、ベル君は更に奥へと足を進める。

 

「夕飯前には帰るからー!」

 

ベル君は私に手を振りながらナイフを片手に走り出した。

私もまだまだだなと今日のアルバイトが終わったら、自己鍛錬に集中しようと決意し、ベル君とは反対方向へと走り出す。

 

 

 

 

 

 

今日も疲れたとコキコキと首を鳴らしながら着替えを行っていた。私がアルバイトをしている時間帯は大体、夕暮れから深夜前だった。

流石に私のような子供が夜遅くまでアルバイトするのは良くないとのことからみんなより終わるのが少し早かった。

そして着替えている途中で今日は早めの退勤らしくシルさんとリューさんが着替えながら私に話しかけてきた。

 

「そういえば銀ちゃんは明日の怪物祭(モンスターフィリア)はどうするんですか?」

 

「怪物祭?」

 

「あぁ、ガネーシャファミリアが開催しているお祭りのようなものだ」

 

そういえば、ヘスティア様がそんなことを言っていたような気がする。私もベル君と同様に誘われたが、すみと遊ぶ約束をしていたので断ることになったと思い出していた。

本当ならばヘスティア様とベル君も一緒に行来たかったのだが、ヘスティア様がベル君と二人きりでデートをしたいと小声で話しかけていたので、それならばと若いふたりでご自由にと断らせてもらった。

 

「んー、友達と一緒に行くことになっているんですけど…」

 

「それなら友達と一緒に私達と回りませんか?」

 

私は全然大丈夫なのだが、すみが若干人見知りなんだよなぁと思うが二人とも良い人なので、すみと直ぐに仲良くなるだろうと承諾した。

 

「はい!大丈夫ですよ!」

 

それならばと明日の集合時間と場所を教えて貰い、ではまた明日と言って先に上がらせてもらった。

 


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