「夢はまだ冷めないのか…」
そろそろ夢は冷めてもいいんじゃないかと思いながら川沿いを歩いていくと、目先に映ったのは夕暮れと天高くそびえ立つ縦長い建物に軽い感動を覚えた。
目測でしかないがかなり大きい建物と分かる。取り敢えずはあの建物に向かって、先程捕まえて焼いた魚を齧りながら歩みを進める。
しかし問題となってくるのは街だった場合、関所で通行料などが発生すると困ってくることがある。
「ポケットの中から何も見つからなかったもんねー」
今時分が持っているのは川で捕まえた川魚のみ。物々交換が通じれば良いが、その街で使っている通貨を求められた場合確実に詰んでしまう。
最悪、どんな乗り物を使っているか分からないが、ファンタジー世界のような設定であった場合、馬車の荷台にこっそりと隠れ乗り込むしかない。
夢の中で初めて直面した問題が金銭関係とは、やけにリアルだなと思わずため息をいてしまうのであった。
歩いて体感的に10分ほど歩いたところ、関所のようなものが見えてくる。そこでは馬車や人が関所の前で止まり、何らかのやり取りをしたあと関所を通り過ぎて行った。
「通る時には通行証みたいなのを見せていたよな」
馬車に乗り込むとなると問題になってくるのはこの開けた大地である。森を抜けると30メートル位の位置に関所があり、その前には障害物となるものが見当たらない。
そうなってくると今来た道を少し戻り、草木に体を隠して馬車が止まったところに隙を見て乗り込むしかない。
たかが10数年生きてきた病人にはこれくらいの考えしか思いつかない。杜撰な計画であるが、自分にとって何もかもが初めてのことで、見つかった時はなんとかなるくらいにしか考えていなかった。
来た道を戻り、焼き魚を5匹程度食べたあと、ある馬車が自分の目の前を通り過ぎようとしたあと、数メートルの位置で止まり、人が降りてきた。これはチャンスだと思い、馬車の後ろ側に周り、荷台に乗り込み、身を隠すところはないかと探すと奥の方に長方形の子供一人分入りそうな木箱を見つけた。
これは好機だと思い、その木箱を開けると中身は入っておらず、中に入り身を隠す。
「(この馬車は帰る途中なのかな…?)」
いざ中に入ってみると、甘い香りにアルコールの匂いが漂ってくる。その匂いに僅かながらも嫌悪感が湧いてくるが、少しの我慢だと思い、耐えながら馬車の持ち主が鼻歌を歌い戻ってくる。
ある程度時間が経つと馬車が走り出し、酔いそうになるほどの振動に耐えながら街に着くのを心待ちにしていた。
というか吐きそう…。
寝ていれば着くかと思ったが、木箱の中に満ちているアルコール臭とガタガタと体に襲いかかる振動と戦いながら眠れるわけがない。
吐き気と戦いながら、約30分ほどしたら人の声が聞こえ始め町の中心部へと近づいていくのが分かり出した。
「(…早く止まってくれないかな。吐きそう…)」
この木箱の中で吐瀉物をぶちまけるのは流石に申し訳なさ過ぎる。
もうそろそろ限界だと思い始めたところで馬車のスピードが徐々に緩みだし、目的地に着いたのであろうと馬車は止まった。
しかし止まったのはいいが、ここからの行動を全く考えていなかったので、取り敢えず木箱の中で大人しくしていると外から話し声が聞こえる。
これはチャンスを、逃してたまるかとなるべく音を立てないように木箱の蓋を開け、荷台から降りる。
しかし荷台から降りたのは良いが降りた衝撃で、腹部への圧迫感が伝わり、胃液が喉の奥まで登りつめる。
「(名も知らぬ商人よ、ありがとう!この借りはいつか返します!)」
兎に角走る。走りまくってなるべく人のいないところへと走り、商店街らしき通りを右へ曲がり、数メートル先へ走ると、もう限界だとばかりに地面に四つ這いになり、焼き魚を全て大地に注ぐ勢いで吐きまくった。
「「お、おっぇぇぇええ!!」」
約1分間も続く吐瀉物をすべて吐き出すと、自分以外にも同じような音が聞こえると思い、横を向くと自分と同じ姿勢で地面へゲル状の液体を地面に注ぐ人物がいた。
「やっぱり、行くんじゃなかった…。ロキと会うし、ヘファイストスには小言を言われるし、他の神にも弄られるし、散々だよぉ…」
こうべを垂れて地面と話しかけている女性は両方の側頭部で髪をっているツインテールという自分もよく見ていたアニメでもよく見られた髪型だった。
横顔しか見られないが童顔であるものの非常に整った顔立ちをしており、同じ女性でも見とれてしまう美しさがあった。
視線を下に向けるとその身長と顔立ちからは考えれないほどの胸部があり、その胸の下には青色の紐が着いており………紐?
「そりゃあ、居候の身で何、酒飲んでロキと喧嘩してどんちゃん騒ぎをしたっていってもさぁ、あんなに言うことはないだろう…」
待て待て、wait。こんな特徴的な服と暴力にも等しいダイナマイトボディを持つ、童顔少女がいるのだろうか。いや居ない。
100歩譲って顔立ちと犯罪的なボディにコスプレして街を出歩いているとしても、この人物から感じられるオーラ的なものから考えて見るに、あのアニメのキャラクターではないかと確信めいたものを感じる。
「(この人、ヘスティア様じゃね?)」
あのアニメは自分も好きなシリーズであり、何度も見直したものであったが、ライトノベルの方は買っておらず、アニメの続きが出ないかと待ち望んでいたアニメである。
ヘスティアはある程度気分が治ったのか、愚痴は止まっており四つ這いのままこちらと向き合う。
「なんでこんな路地裏に君みたいな子供が?」
「道に迷いまして…」
あの時は無我夢中で走り、人の目のつかないところを探していたため、こんな薄暗い路地裏に来てしまったのである。実際に迷子でもあるが、そもそも自分の名前も出身も分からずにここまで来たため自分が何をしたらいいのかと途方に暮れそうな所であった。
「こんな所であった所も何かの縁だ!。
僕の家族になってくれないかい?」
「(え、えぇ…?)」
こんな感じで簡単に誘ってくるものだろうか。
自分のイメージ的にはヘスティア様は子供っぽい所もあり、ベル君と会うまではヘファイストス様のところでニートしていたところもあったが、しっかりする所はしっかりしていた気もするのだがと思う。
ヘスティア様はだいぶ酔っているようで、顔も赤く、視点も定まっていない。そんな状況で家族になりましょう宣言されても動揺するしかない。
路地裏で同時にゲロを吐きあったのはまさかのヘスティア様で、酒の勢いで家族になろうと誘ってくるのに自分はどうしようもなく、ただ困惑するばかりであった。