「ねぇ、ヘスティア。こればかりはダメだと思うのだけれど」
鍛冶師系のファミリアの主神、ヘファイストス様は目の前で正座しているちんちくりんな駄女神であるも、友人のよしみで今まで居候させてきたヘスティア様に説教をかましていた。
「酔った勢いで、名も知らない、身元もわからない子供を連れて帰って、挙句の果てには眷属にしようとした?今までは見逃してきたけどこればかりは許容範囲外よ」
「はい、返す言葉もありません…」
ヘスティアの頭にはギャグ漫画のようなタンコブが3つ重なっており、冷たい床の上に正座をしていた。
その横には私も同様に正座しており、ヘファイストス様の顔を見つめるも、壁に飾られている武器を作るための金槌や、書籍などがありそちらの方に目がいってしまう。
「それよりも…君、名前は?」
ヘファイストスに尋ねられ、思わず黙ってしまう。今まで夢とばかり思ってきたが、痛みも感じるし、昨日から一晩寝ても自分の姿かたちがまるで変わらず、これは本当に夢なのだろうかと疑ってしまう。
例え、夢であろうとなかろうと今の自分の名前を使うべきではないと思った。
「…銀、三ノ輪銀です。」
「三ノ輪銀ね…。予想はしていたけどあまり聞かない名前ね。」
それもそうだろう。というか私も自分の出身、身元も分からずじまいで取り敢えず、この街にたどり着いたのだから。そこで出会ったのはまさかのアニメのキャラクターであるヘスティア様だ。それに加えて、街の風景や目の前にいるヘファイストス様っぽい人もいることから考えて、ダンまちの世界に迷い込んでしまったということか。
とは言っても1日眠ったくらいで夢が覚めるとは限らないし、結局は夢の世界が少し長く続いているだけなのだろうという結論に至った。
「そういえば、自己紹介が遅れたわね。私はこの駄女神の友人をしているヘファイストスよ。よろしくね。」
ヘファイストス様は目線の高さを私に合わせるようにして自己紹介をしてくれた。
やはりこの女神様は良い人なのだろうと思う。しかしこの優しさを持ってしても昨日のヘスティアの失態は許容範囲外ということかと横でタンコブを3つ作って涙目のヘスティア様を見る。返答が遅かったのか怪訝そうな顔を浮かべるヘファイストス様に慌てて頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
「取り敢えずは自己紹介したけれど、銀ちゃんは自分の名前以外ほとんど分からないのよね?」
ヘファイストス様の質問に対し、こくこくと頭を上下させる。
自分のの身元を保証する持ち物なく、記憶もない。そもそも三ノ輪銀のそっくりさんがいるとしても、服装まで讃州中学の制服までも被るのはおかしすぎる。
「それなら…。
ちょうどいいわヘスティア、アンタこの子を連れて出ていきなさい」
「ヘファイストス!?」
「あんた、このままここに居座る気?」
「うっ、それは…。」
ヘスティア様は痛いところをつつかれたとばかり呻く。それは自分にとって好都合でもあった。正直、ヘファイストス様の所に保護されてゴロゴロ過ごすよりも、アニメでヘスティアがじゃが丸くんのお店でバイトをするのもいいし、冒険者となり生計立てていくのもありだと感じる。
今まで病院の中でベッドから出ることのない生活を送っていた身としては、外の世界で体を動かしながら生きていきたい。
「しかもヘスティア、銀ちゃんに神聖文字刻んだんでしょう?」
「な、なんでそれを…。」
昨日の夜、ヘスティア様はヘファイストスギルドの自分の部屋に行くと私の体をスッポンポンにして背中の上に羊皮紙を置いて血を垂らすというアニメであったような儀式めいたものを行っていた。
その後のことは眠くなり詳細には覚えてはいないが、後ろの方で騒いでいたような気がする
「こうなった以上、あんたは責任を取らなくちゃならないのは分かるわよね?」
「おっしゃる通りでございます…。」
こうべを垂れてショボーンと見るからに落ち込んでいる雰囲気を出しているヘスティア様である。
世間に疎い私から見てもヘスティア様のした行為は流石にどうしようもないと思うが、自分としては都合の良い展開であった
ヘファイストス様の領地から出て、数時間ほど経ち、住む場所を探していると街の外れに廃教会があり一先ずそこで生活していくことになった。
こじんまりとしているが、中は意外と広く感じ、2人で生活していく分には問題はなさそうであった。
それからは軽く部屋の掃除や生活用品、食材などを揃えていくうちに夕暮れに近づいていた。
「銀くん、大切な話があるんだけど。」
買った食材で初めての料理に胸を踊らせながらも、ネットサーフィンにハマっていた頃に眺めていた料理のサイトでのことを思い出しながら、どんな料理を作ろうか迷っているとソファーに腰掛けていたヘスティア様に呼ばれ、自分もソファーに腰をかける。
「はい、なんですか?」
「まずは…ごめんなさい。」
ヘスティア様は自分の方を向いて、ソファーの上で器用に土下座をした。その光景をポカーンと眺めていると我に返り、慌てて辞めさせる。
「これは、相手に謝罪する時の最上級の謝罪の態度って、僕の友達から習ったんだけど。」
「と、取り敢えず顔を上げてください!」
相手は昨日いくらあのような失態を犯しても、神様である人に土下座をさせるなんて申し訳がなかった。
「昨日はいくら酔ってたとはいえ、銀くんみたいな小さな子供に同意も得ずに眷属にしてしまったのはほんとに悪いと思っている…」
「それはここに来る途中で、何度も謝ってもらったので大丈夫ですよ。」
それに関してはほんとに頭を下げすぎて、脳に血液が溜まりすぎるのではないかと心配になるほど程に頭を下げたので、謝られ過ぎてこっちが申し訳無くなるほどである。
「そこで相談になるだけど…、銀くんはほんとに冒険者になりたいのかい?」
ここへ来る途中に話した内容は自分が冒険者となってかせいでいくというものだ。ヘスティア様は住むところを探す途中で見つけた、じゃが丸くんのお店で働くと言っていた。自分もそこの店舗で働けばいいのだろうけど、自分の体格から考えて、おそらく断られるだろう。
流石にヘスティア様に路銀を稼いで貰いながらニート生活を送っていくのは人としてダメであることは分かる。自分がいくら子供と変わらないものであってもアルバイトだけの金額では2人で生活していくのは細々しく生活していかなければならない。
そこで選択肢として挙がるのは冒険者という職業だ。冒険者は年齢も実力さえあれば認めてもらえ、自分が稼いだ分だけの金額が貰えるらしい。
「はい!自分だけ食っちゃ寝するのはダメだと思うんで!」
「そ、その通りだネー」
冒険者というものはメリットも大きいが、当然デメリットもあり、モンスターと戦い、戦っていく中であっさり死んでしまうことも充分にある。
だが自分にとっては何もせずに生活して行くことが何よりも苦痛であり、自分が惨めに思えて来るのも、親が申し訳なさそうに自分の見舞いにやって来ることを思い出してしまいそうで、途轍もなく辛かった。
「私は誰かの役に立ちたい!それが私のやりたいことだから!」
「…分かったよ。でも僕の友達の所に行ってダンジョンへ行く許可を貰ってから行くこと!これは絶対だよ。」
ヘスティア様は有無を言わせない真剣な表情で顔を近づけて言ってきた。
私は誰かの役に立ちたい。今まで関わってきた人に恩返しが出来るように。病気を患っていた私を支えてくれた親に立派に成長していると見せるようにと。
そして三ノ輪銀のように、人々から愛され、皆を守れる力が欲しいと強く決意するのであった。