慌てふためくスロウ・ダウン   作:兵庫人

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ジョジョの奇妙な冒険・黄金の風と名探偵コナンのDVDを見てオリジナルスタンド能力を思いつき、この作品を書いてみました。


#001

 この世界の時間がループしていると気づいたのは今年の四月。「二度目の高校二年生の新学期」を迎えた時だ。

 

 何を言っているのか分からないって? 安心してくれ、僕もよく分かっていない。

 

 その日、僕はいつも通りに学校に登校していつもの教室の、いつもの自分の席に座っていた。だが担任の教師が「今日からお前達も二年生だ。気を引き締めるように」という言葉を聞いて、世界の時間がループしていると気づいたのだ。

 

 もちろん僕も最初は何かの間違いかと思ったが、よく考えてみれば高校二年生として一年間過ごした記憶はしっかりある。しかしこの事に気づいているのは僕だけのようで、刑事をしている叔父やクラスメイトの女性にこの事を話したら「夢でも見ているんじゃないか?」と笑われてしまった。

 

 叔父やクラスメイトの女性の言うように、これが僕が見ている夢だったら良かったのだが、生憎とこれは紛れも無い現実だ。僕はいつの間にか、時間がループして僕以外の人がそれを認識しない状況に巻き込まれてしまったようだ。

 

 そして時間がループしているという事実に気づくと、それと同時に自分が暮らしている町の異常にも気づいてしまった。

 

 僕が暮らしている米花町なのだが世界でも犯罪発生率がトップで、夜になればパトカーのサイレンの音が絶え間なく聞こえてくるし、町に出れば探偵事務所や護身術の教室などの看板が大量に目に入ってくる。今までは特に気にならなかったが、今こうして見るとこの町がかなり異常だと分かる。

 

 ……まあ、こうして自分の回りが異常だと分かったのだが、僕がやることは変わらない。

 

 僕の将来の夢は叔父さんのような刑事になることで、周囲の異常に気づいてもそれを解決する手段が見当もつかない以上、将来のために学業に専念するだけだ。

 

 そして僕はいつものように米花町のすぐ近くにある警視庁へと向かう。

 

 僕が警視庁に行くのは、刑事の叔父さんに着替えと差し入れを持っていくためだ。

 

 刑事の叔父さんは毎日のように起こる事件にかかりっきりで毎日のように警視庁で泊まり、月に一回か二回家に帰れればいい方である。そんな叔父さんに着替えと差し入れを届け、使用済みの服を受けとるのが僕の役目だ。

 

 そして差し入れは自分で焼いたピッツァマルガリータ。ピッツァマルガリータは子供の頃にイタリア料理店で食べたのがきっかけでハマり、ピッツァマルガリータだけはお店に出せるレベルのものが作れて、着替えを届ける時は決まってピッツァマルガリータを焼いて差し入れすることにしている。これが叔父さんと叔父さんの同僚の人達に結構評判がいいのだ。

 

 今までに何回も叔父さんに差し入れを持ってきたから警視庁の人達にも結構顔が知られており、警視庁に行くと受け付け役の人に「やあ、ジョジョ君」と愛称で呼ばれたりする。そして受け付け役の人に叔父さんの着替えと差し入れを渡して、代わりに使用済みの服を受け取って帰ろうとすると、警視庁の外から人の叫び声が聞こえてきた。

 

 何事かと警視庁の外へ出てみると、そこには一人の男が子供を人質に取って包丁を子供の首筋に突きつけていた。……って! 何をしているんだあの人!?

 

「俺をこの町から解放しろぉっ!」

 

 男はかなりやつれているが、目が血走ってかなり興奮しているのが離れているこちらからでも分かり、人質の子供に包丁を突きつけたまま大声で叫んだ。

 

「もう嫌だ、こんな町! 毎日毎日事件が起こって人が死んでいって! それなのに市役所はこの町を出ることを許してくれなくて……! いい加減にしろぉっ!」

 

 そういえば聞いたことがある。米花町では毎日起こる殺人事件を恐れた住民達が別の町に出ていこうとするが、人口の減少を防ぐために市役所がかなり強引な手を使ってでも阻止しているそうだ。

 

 例えば住所変更の書類で句点とかがなかったり、漢字のハネなどがないといった本来なら何の問題ない点を指摘して、書類を受理できないとしたりと……。噂で聞いたときは嘘だろうと思っていたが、もしかしたら本当なのかもしれないな。

 

「お母さん、助けて! 怖いよ……ぎゃっ!」

 

 人質の子供が泣きながら親に助けを求めると、男は包丁の柄尻で子供の顔を殴り黙らせた。

 

「うるせぇ! 黙れ! 泣きたいのはこっちなんだよ!」

 

 ………!?

 

 男が人質の子供を殴る姿を見て、僕の中で何かがキレた。

 

 うん、気持ちは分かるよ?

 

 この米花町って毎日殺人事件が起こるし、毎晩パトカーのサイレンの音が聞こえてくるし、心が休まる日なんてないよね?

 

 自分もいつ殺人事件に巻き込まれて死んでしまうかも分からない、こんな危険なところ一刻も早く逃げ出したいよね?

 

 それなのに他の町に引っ越すことを認められないなんて怒りたくもなるよね?

 

 確かに警視庁の前で子供を人質に取って叫びたくなる気持ちは分かるけど、あんたはやってはいけないことをしてしまったんだよ。

 

 僕は、子供と犬を虐める奴を見ると虫酸が走るんだよ……!

 

 出動だ。『スロウ・ダウン』。

 

 僕が心の中で命じると、僕の隣に大型のブーメランを持った人型のロボットらしきものが現れる。

 

 この人型のロボットらしきもの「スロウ・ダウン」は不思議な力で僕を助けてくれる守護霊みたいな存在だ。僕がこのスロウ・ダウンを呼び出せるようになったのは高校に入学したのと同時期で、初めてスロウ・ダウンを見たときは自分の頭がおかしくなったのかと思ったが、今では自由に操れるようになっている。

 

 どういう理屈かは分からないが、スロウ・ダウンは僕以外の人間には見ることができないらしい。

 

 子供を人質にしている男にも、人質になっている子供にも。そして男を何とか説得して子供を助けようとしている警察官の人達にもスロウ・ダウンの姿は見えていない。

 

 僕はスロウ・ダウンを男の側まで移動させると、スロウ・ダウンに左手で男に触れさせた。本当だったら右手に持つ大型ブーメランでブン殴ってやりたいところだけど、ここはグッと我慢だ。

 

 そしてスロウ・ダウンの左手が男の体に触れた瞬間、スロウ・ダウンの「能力」が発動する。

 

「……! な……ん……だ……!?」

 

「っ! 今だ!」

 

 突然男の動きが明らかに鈍くなり、それを見た警察官達が突入をする。それを見て男は抵抗をしようとするが、その動きはスローモーションで、あっさりと警察官達に取り押さえられてしまう。

 

 これが僕の、スロウ・ダウンの能力。

 

 スロウ・ダウンを中心とした半径十メートルの空間に接触した、もしくはスロウ・ダウンが直接接触した対象の時間の流れを十分の一にする能力。

 

 今、あの男には警察官達が猛スピードで自分に迫って取り押さえに来ているように見えているだろう。それはとてつもない恐怖だろう。

 

 ……いい気味だ。

 

 僕は警察官達に取り押さえられる男を見ながらそう思うと、そのまま帰宅した。

 

 

 

 

 

「高木君。『ジョジョ君』から着替えと差し入れが届いているわよ」

 

 米花町の警視庁にある捜査一課の執務室で女性の刑事、佐藤刑事が同僚の男の刑事に声をかける。

 

「あっ、本当ですか? いやー、いつも助かるな~」

 

 佐藤刑事に声をかけられた男の刑事、高木刑事は佐藤刑事から自分の着替えと「差し入れ」が入った紙袋を嬉しそうに受け取る。そしてそれを見た別の男の刑事、白鳥刑事が感心したように言う。

 

「今日も持って来てくれたんだね。……よく出来た子だね」

 

「ええ、自慢の甥っ子ですよ」

 

 白鳥刑事の言葉に高木刑事は胸を張って答える。

 

 高木刑事こと高木渉には一人の甥がいた。その甥は生まれも育ちも関西であったが、高校に進学した時に東京に上京して来て高木刑事と同居する事になった。

 

 最初は甥と二人暮らしなんてどうなるかと思っていた高木刑事だったが、その甥は滅多に家に帰れない高木刑事の代わりに家事の全てをやってくれる上に、こうして週に一、二回差し入れと一緒に着替えを持って来てくれて、今では凄く助かっていた。

 

「ねぇ、高木君。ジョジョ君からの差し入れってやっぱり『アレ』よね?」

 

「ええ、いつものコレですよ」

 

 佐藤刑事が期待するような表情でいうと高木刑事が甥からの差し入れを見せる。差し入れはトマトとチーズだけの「ピッツァマルガリータ」と呼ばれるシンプルなピザであった。

 

「おっ。今日も来たか、高木の甥っ子のピザ」

 

「美味いんだよな。そのピザ」

 

「前は食い損ねたからな。今度こそはいただくぜ」

 

 高木刑事が甥の差し入れであるピザを見せると同僚である刑事達が集まってくる。高木刑事の甥が焼いたピザは店に出しても売れる出来で刑事達からも人気があり、一切れは当然高木刑事の取り分だがそれ以外を欲しがる刑事は多く、ピザ争奪のジャンケン大会は捜査一課の名物となっていた。

 

「そういえばジョジョ君って、なんて名前だっけ? というか何でジョジョって呼ばれているの?」

 

 佐藤刑事からの質問に高木刑事は「ああっ」と言ってから答える。

 

「彼の名前は古城(こじょう)静士郎(じょうしろう)といって、名字と名前を繋げてジョジョってアダ名がついたんですよ」

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