慌てふためくスロウ・ダウン   作:兵庫人

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#004

 警視庁の前でコナン君達と出会ってから二ヶ月後。僕はコナン君達と出会った日の翌日からつけていた日記を見ることにした。

 

 日記をつけることにした理由は、世界の時間がループしているのが僕の勘違いでない事を確かめる為と、世界の時間がループする原因を探るためだ。

 

 江戸川コナン君との出会いはやはり、僕の知っている去年の「高校二年生としての一年間」になかったイレギュラーだ。つまり時間がループしていると言っても、全く同じ時間が繰り返しているわけではなく、何らかの違いがあるということだ。

 

 そういった前の「高校二年生としての一年間」との違いを調べることで、時間がループしている原因を探れるのではないかと日記をつけ始め、とりあえずこの二ヶ月間の記録を振り返ってみることにした。

 

 

 

 七月☆日

 朝から電話がかかってきて誰かと思って出ると、相手はクラスメイトの毛利さんだった。

 何の用かと聞くと、知りあいの家でピッツァマルガリータを焼いてほしいと言われた。何でもこの間、ピッツァマルガリータを焼いてあげると約束した太っている男の子にコナン君経由で頼まれたそうだ。

 今日は休みだし断る理由もなかったので、商店街で毛利さんとコナン君と待ち合わせてピッツァマルガリータの材料を買っていると、そこにひったくり事件が発生。ひったくり犯は刃物を振り回しながらこちらに逃げてきたのだが、毛利さんの上段回し蹴りであっけなく倒される。

 流石は空手部主将。

 ちなみにピッツァマルガリータを焼くのは警視庁の前で会った太った老人、阿笠博士の自宅で、そこには阿笠博士と一緒に出会ったコナン君を初めとする五人の子供達の姿もあった。

 名前は太っている男の子が元太、黒髪の女の子が歩美、痩せている男の子が光彦、茶髪の女の子が哀というらしい。

 

 七月○日

 学校の帰り道に二日連続でひったくり現場に遭遇。

 ひったくり犯はスロウ・ダウンで動きをスローモーションにしてから捕まえて、追ってきた警察官に引き渡した。

 

 七月◎日

 夕飯の買い物をしようと商店街に行くとまたしてもひったくり現場に遭遇。これで三日連続だ。

 ひったくり犯は昨日と同じようにスロウ・ダウンを使って捕まえた。

 商店街の人達に感謝されて買い物をしていたらいくつかおまけをしてもらった。

 

 七月△日

 警視庁に渉兄さんへの着替えと差し入れのピッツァマルガリータを届けて家に帰る途中、電車の中で毛利さんとコナン君とあった。

 三人で会話をしていると、突然座席に座っていたカップルの彼氏が突然苦しみだして死んでしまった。

 死因は毒殺で、犯人は死んだ彼氏の彼女。その彼女はまるで手品みたいなトリックを使って彼氏を殺した罪を別の人になすりつけようとしていたようだ。

 それでこの事件、一応僕が解決したことになっているんだけど、何も覚えていないんだよな。

 警察の捜査を見ていたら急に眠たくなって、次に目を覚ましたら事件が解決していて……。

 一体何があったのだろう?

 

 七月◇日

 渉兄さんに連れられて米花町の警察署に行くと、そこで警察署の署長から表彰状をもらった。

 先日の事件の解決と、今までに何件かひったくり犯を捕まえたことにたいする感謝の証らしい。

 ちなみに毛利さんも同じような表彰状をいくつかもらっているようだ。

 

 七月□日

 今日から夏休み。

 家に帰ると神戸の母さんから電話がきた。

 電話の向こうで母さんは「夏休みくらい家に戻ってこない?」と聞いてくれたが、僕は米花町にいると答えて電話を切った。

 

 

 

「はぁ……」

 

 僕は七月の分の日記を読んでいると思わずため息を吐いていた。ため息を吐いた理由は神戸の母さんから電話がきたという文章を見たせいだった。

 

 ここだけの話、僕は実家に苦手意識を抱いている。

 

 僕は自分の父親が誰だか知らない。いや、僕だけでなく母さんも家族の誰も僕の父親のことを知らないのだ。

 

 母さんは昔、海外旅行をしている時に何者かに誘拐されて、一ヶ月後に路地裏に倒れているところを保護されて日本に帰国した。そして日本に帰国後、母さんは一人の子供、つまり僕を出産した。

 

 海外旅行をしていた母さんを誘拐した犯人が僕の父親なのは間違いなく、そのせいで一時期は家族の関係はぎくしゃくしていた。それ以来僕は実家に苦手意識を抱くようになって、未だにそれを克服できずにいる。

 

 高校に進学する時、渉兄さんの所に居候して今の高校に進学することを決めたのは僕だが、今考えればあの実家から逃げたくて東京に上京したのかもしれないな。

 

「いつかはちゃんと向き合わないといけないな……」

 

 母さんに血の繋がらない父さん、そして半分だけ血が繋がっている妹の顔を思い浮かべて僕はそう呟き、八月の記録を見るのだった。

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