シルバーウィークで学校が休みのとある日、僕は一人で銀行へと向かっていた。
銀行へ向かう理由は、夏休みに伊豆の旅館で働いたアルバイト代をおろして、それで念願のバイクを買うためだ。さて、それで一体どんなバイクを買おうかな? 今からでも結構楽しみ……。
「あれ? ジョジョの兄ちゃんじゃねぇか?」
「本当だ。どこに行くんですか?」
突然後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきて振り返ると、そこには元太君に光彦君の姿があり、その更に後ろには歩美ちゃんと哀ちゃん、そしてコナン君の姿があった。
「ああ、君達か。ちょっとね、銀行にお金をおろしに行くんだ」
「え? ジョジョの兄ちゃん、お金取りに行くのか? 何か奢ってくれよ」
……元太君。君、何普通に人にたかっているの? 友達の皆も呆れた顔をしているよ?
「悪いけど、銀行でお金をおろしたら買い物をする予定があるからね。そんな余裕はないかな」
「ええー、何だよそれ」
「買い物って、何を買うつもりなんですか?」
僕の言葉に元太君が不満そうな顔をして光彦が質問してくる。別に隠すようなことでもないので、僕は正直に話すことにした。
「バイクだよ。自分だけのバイクが前から欲しかったんだよ。……それじゃあね」
そう言って僕は再び銀行へと向かうのだが、その後ろを何故かコナン君達もついて来ていた。
「どうしたの? 君達?」
「せっかくだから一緒に行こうと思いまして」
「歩美達もバイク選び手伝ってあげるね」
「仮面ヤイバーみたいなカッコいいバイク見つけてやるからよ」
僕がコナン君達を振り返って聞くと光彦君、元太君、歩美ちゃんの順に元気な答えが返ってきた。いや、自分のバイクくらい一人だけでじっくりと選びたいんだけど……。
一縷の望みにかけてコナン君と哀ちゃんに視線を向けると、哀ちゃんは「バイクだったらハーレーが一番よね……」とか呟いて微妙に興味ありそうだし、コナン君にいたっては事件の容疑者を見るような鋭い目をこちらに向けていた。……そういえば夏休みの伊豆の旅館の件でコナン君に何やら疑われていたっけ。
どうやら帰れと言っても素直に帰りそうにないので、諦めた僕はそのままコナン君達を連れて銀行に行ってお金をおろすと、渉兄さんに相談したときにお勧めされた個人経営のバイクショップへと向かった。渉兄さんに相談したらバイクに興味がある刑事や交通課の警官に色々聞いてくれたのだ。
渉兄さんにお勧めされたバイクショップは規模こそ小さいが中々に良さそうなバイクが揃っていた。しかし……。
「誰もいないわね……」
周囲を見回して呟く哀ちゃんの言う通り、バイクショップは開いているのに店員の姿が一人もいないのだ。
「ねぇ、あそこ……」
仕方がないので店員がやって来るのを待ちながら店内のバイクを見ていると、コナン君が何か気づいてある方向を指差す。そこにあったのは一つの倉庫でシャッターが半分ほど開いていた。
「何ですか?」
「行ってみよーぜ」
「あっ。ちょっと君達……」
光彦君と元太君がそう言うと子供達は僕が止める間も無く倉庫に向かって行ってしまった。……全く。勝手に店の倉庫に入っては駄目だろうに。
このまま放っておくわけにはいかないので僕も子供達の後を追うと、子供達はすでに倉庫の中を覗き込んでおり、元太君が急に顔をしかめる。
「何だ? この中、油クセェぞ?」
「油臭い? ……これってガソリン!?」
僕も倉庫の中を覗き込んでみると倉庫の中にはガソリンの匂いが充満していた。何事かと思ってよく倉庫の中を見ると、倉庫の床には大量のガソリンが撒かれており、奥には作業着を着た一人の男が気絶した状態で縄で縛られていて、その隣にはタイマーとライターを組み合わせた時限式の着火装置が……って!?
「皆逃げろ! 爆発するぞ!」
状況を把握したコナン君が鋭い声を僕達に飛ばす。
倉庫の中には床に撒いてあるのとは別に大量のガソリンがあり、着火装置のタイマーも十秒を切っている。このままだとコナン君の言うように、この倉庫は爆発するだろう。
子供達はコナン君の言葉に従って倉庫から避難するが、それに対して僕は……。
「ジョジョお兄ちゃん!?」
「何をやっているの!?」
「早く戻れ!」
僕は倉庫の外へ避難せず逆に中に入っていった。それを見て歩美ちゃんが悲鳴のような声を上げ、哀ちゃんとコナン君が叫ぶ。
確かにコナン君達の言っていることは正しいだろう。ここは皆と一緒に倉庫の外へ逃げるのが正解なのかもしれない。
……でも、それだと「あの倉庫にいる男を助けられない」だろう?
普通なら倉庫の奥にいる男を助ける可能性はない。そう、普通なら。
だけど僕には「力」がある。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ世界に待ってもらって、今にも死にそうなあの男を助けるチャンスを手にする「力」が。
「出動しろ、スロウ・ダウン! 時の流れを『減速』させろ!」
僕は倉庫の中に入ると同時にスロウ・ダウンを呼び出した。幸い、倉庫の入口から着火装置までの距離は十メートル少し、ギリギリ「時間を遅くする空間」が届く。
スロウ・ダウンの能力で着火装置のタイマーが遅くなったのを確認すると、僕は着火装置の元まで走って着火装置を手に取った。着火装置のタイマーは八秒だが、時間の速度が十分の一になっているから着火まで八十秒の猶予がある。
よし! 八十秒もあれば充分だ!
着火装置のタイマーを確認した僕は急いで倉庫の入口まで走る。途中でコナン君達が驚いた顔でこちらを見ているのが目に入ったが、僕はそれに構うことなく倉庫の外へ出ると、手に持った着火装置を遠くに投げ捨てた。
その数秒後、遠くの道路で着火装置に火がつくが起こったのはそれだけで、当然倉庫が爆発したりはしなかった。
本当に危なかった。もう少し倉庫に行くのが遅ければ、倉庫は爆発してあの男も命はなかっただろう……。
「ふぅ……。何とか間に合ったな……」
僕は間一髪で倉庫の爆発を防げたことに安堵のため息を吐いたが、この時の僕は危機を脱したことに安心してして気づかなかった。
スロウ・ダウンの能力をコナン君達の前で使用してしまったことを。
そして僕の背中をコナン君が非常に鋭い目でまるで睨み付けるように見ていることを。