「禁忌目録違反だけど愛さえあれば関係ないよねっ!」「えっ」   作:練れば練るほど色の変わるお菓子

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 合言葉は
 システム権限<愛の力

前回のあらすじ!
・100秒後に押し倒されるフレニーカとティーゼ。

というわけで右目の封印編を一気に駆け抜けます。




ルクス君の最速秘奥義!相手は死ぬ!5

 人界歴三百八十年五月。放課後。この日は春に入って初めての嵐となった。靡くような雨と吹き荒れる風が窓を叩き、周囲の音を妨げるほどの騒音を生み出している。

 

「うーん、朝から弱まらないね。これは一年に一回ぐらいの大荒れかなぁ」

 

 かく言う僕は特に変わった事もなく、傍付きの仕事をするロニエと平和な日常を過ごしていた。こんな雨の日もあって良いだろう。

 

「そうですね…。んー…邪魔ですし、消します?」

 

「こらこら、自然現象に手を出さないの。禁呪をあんまり乱発すると整合騎士が飛んでくるかもよ〜」

 

 …うん…平和だ。多分。一セントリア国民のする会話ではない気もするが、割と平和な気がする。

 

「さて!ルクス首席修剣士殿!本日の清掃、滞りなく終了致しました!」

 

「はい、お疲れ様。…掃除、手伝わせてくれてもいいのに…。見てるだけで何もしないっていうのも結構気まずいんだよ」

 

「いえいえ、そんな!これは傍付きの任務ですから!先輩の手を煩わせるわけには行きませんよ!」

 

 上級修剣士は、傍付きに世話をされるのが普通。特に貴族なんかは、お手伝いさんに世話をしてもらっていたこともあって慣れている…筈なのだ。しかし、どうにも歳下の女の子が働いているのを何もせず眺めると言うのは抵抗を覚える。何かしていないと落ち着かないのは、元日本人(・・・・)の性だろうか。

 

「それで、今日はどうしようか?このまま帰るのもなんだし、お茶でもしていく?」

 

「いいですね。この間、いい茶葉が入ったんですよ」

 

 そう言いながら、ロニエはいつの間に隠していたのか、僕の部屋の棚から少しいい包装の茶葉の箱を取り出す。

 

「システム・コール。ジェネレート・サーマル・エレメント」

 

 そうして淀みない動きで熱神聖術を発動させ、ポッドの中の水を沸騰させた。なんだか、彼女がやると絵になっているように感じる。

 

「それじゃあ、僕は適当にお茶請けの準備でも……」

 

「ダメですよ。雑事は私に任せてくださいってば。先輩は愛剣(・・)の手入れでもしておいてください」

 

「はいはい。もう、ロニエは頑固だなぁ」

 

 仕方なく、上げかけた腰をベッドに下ろす。手持ち無沙汰を誤魔化すように、そのまま壁に立てかけてあった『愛剣』を鞘から抜き取る。

 

 SとCを連続させたような文字を描いて、剣の天命値を確認。最近使う機会もなかったからか、天命は10程度しか減っていない。

 

 まぁ、他にやることもないので布で以って剣を撫でるように手入れしていく。お茶の注がれる音、心地よい雨の音に耳を傾けながら、無心で剣と想いを通わせる───

 

 

 と、ふと窓の外に妙な音が混じった気がした。ありえないことに、人が枝に飛び乗ったかのような音。

 

 不思議に思って窓の方を見ると、そこには見知った顔が今にも窓を叩こうとしているではないか。

 

「って、キリト!?」

 

「ルクス、悪い!開けてくれ!」

 

「キリト先輩……」

 

 剣を仕舞って壁に立てかけ、言われた通りに窓を開けると、冷たい風と共に幾つかの水滴が入り込んでくる。ずぶ濡れのキリトは、器用にも窓からその身を滑り込ませた。

 

 

 流石のロニエも驚いたのか、驚愕に顔を歪め………いや、普通に二人きりの時間を邪魔されて嫌な顔しているだけだな、あれは。

 

 

「どうしたの、そんなところから!?」

 

「こっちの方が俺の部屋から近いんだ!……それより、ロニエは来たか!?」

 

「え、ロニエならまだここにいるけど……」

 

「えっと、ご無沙汰してます、キリト先輩」

 

「よかった、いるのか……!……なら、二人はどこに……?」

 

「ごめん、事情を説明してもらえるかな?」

 

 安堵した次に焦ったような表情を浮かべるキリト。流石に疑問に思って尋ねてみると、どうやら掃除の時間になってもティーゼ、フレニーカ両女史が部屋に来なかったという。

 

 真面目な二人にしては珍しいと訝しみ、キリトは初等錬士棟を訪ねたそうだが、そちらにも二人の姿はなかった。もしかすれば二人と仲のいいロニエが何か知っているのではないか、とボクの所に来たのが事の顛末だそうだ。

 

「ロニエ、何か知ってる?」

 

「いえ、私は彼女達とは別室になってしまいましたから………でも、そういえば今朝は何か変な表情をしていたような気が……」

 

「………そうか。俺は今からアズリカ先生のところに行ってみる。もし何かわかったら、まだ部屋にいるユージオに伝えてくれ」

 

「わかりました。私も初等錬士棟を探してみます」

 

「僕も手伝うよ。一応、これでもツテはあるつもりだから」

 

「助かる」

 

 それじゃ、と言って、キリトは再び窓からその身を躍らせた。俊敏な身のこなしで木を下り、あっという間に視界から見えなくなってしまった。

 

「………ここ、四階なんだけどな……」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「とりあえず、二人を探そう。僕はできる限り『訊いて』回るから、ロニエは出来るだけ初等錬士寮の方を」

 

「わかりました。システム・コール。ジェネレート・アンブラ・エレメント。ユナイト・アイディー・NS-6588・6596」

 

 二人の個別番号(ID)を記憶していたのか、ロニエは暗素を使って大凡の方角を特定した。

 

「……下、ですか。当然でしたね」

 

「寮内で神聖術は禁止だから、使うなら人目のないところで。それじゃあ」

 

 それだけ言って、僕とロニエは二手にわかれる。僕は外へ。ロニエは初等錬士寮の方へと。

 

 階段を使っていち早く一階に降りた僕は、人目がないことを確認するために辺りを見渡した。幸い、雨だからか外の人通り自体はないに等しい。そうして適当な木を見繕って、右手を木に押し付けた。

 

(………教えて。君の記憶を)

 

 そう念じた途端、大量の記憶が僕の脳内に流れ込んでくる。通る人、雨の様子、窓から見える光景。

 

 周囲が光り輝くため、できればこんな目立つことはしたくないが、緊急事態だ。意識を集中させ、その中から二人の姿を探す。

 

 だが、その中につい先日見た二人の姿はない。どうやらハズレだったらしいと手を離し、また別の木へ同じようなことを行う。

 

 そうして、いくつめかの木に触れた時。

 

「────アイツら!!!」

 

 僕は、真相を知ると同時に自らの部屋へと駆け出した。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「い、あぁぁぁ!!オレの!オレの左腕がぁぁぁっ!?」

 

 ユージオは、どこか俯瞰するように『欠けた視界で』目の前の光景を眺めていた。

 

(どうして、こうなったんだっけ──)

 

 そう。確か、キリトを送り出した後にウンベールの傍付きのノーレン・チェルシィさんが部屋にやってきて。自らの境遇の改善を訴えるため、ティーゼとフレニーカがウンベールとライオスの二人の部屋へ行ったと伝えられた。

 

 そのあと、ルクスにも会った。事情を説明しようとしたが、何も聞かずに首を振り、怒りを堪えるような表情でこう言った。

 

『ライオス達の部屋に行って。そして、なるだけ時間を稼いでほしい。いいかい、絶対に怒っちゃダメだ。何があっても、僕が行くまで手だけは、出さないでくれ……!』

 

 言われるがままに頷き、ユージオは二人の部屋へと向かった。

 

 しかし、その言葉は守れなかった。貴族裁決権なる権利を行使して、欲望のままティーゼとフレニーカを穢そうとしたライオス達を、どうしてもユージオは許すことができなかった。

 

 紅い痛みでユージオを御そうとする右目を破裂させ、青薔薇の剣で以ってウンベール達に斬りかかった。ライオスには避けられてしまったが、ユージオの剣は確実にウンベールの左腕を根本から切り払ったのだ。

 

「いぎぁぁぁ!!痛いぃい!!あぁぁぁ、血が、血が、こんなにも!!天命が減っていくぅぅ!!」

 

 甲高い悲鳴も、今のユージオには遠くに聞こえた。……絶対に破ってはいけない禁忌目録。その中に記されている絶対的な条項。『他者の天命を奪う行為』を、たった今犯してしまったのだから。

 

「ライオス殿っ!!神聖術をっ!!いや、もう普通の術じゃ間に合わない!!天命っ!天命を分けてくださいぃぃっ!!」

 

「うるさいぞウンベール。この紐を傷口に巻いておけ。その程度の傷ならば、血さえ止めれば天命の減少は止まる、はずだ」

 

 ウンベールの必死な叫びに、ライオスは冷たく返した。それ以上に優先すべき愉悦が、彼の前には立っていたのだから。

 

「素晴らしい。素晴らしいぞユージオ修剣士。精々逸例行為が限界だとタカを括っていたが、まさか禁忌目録を破ってくれるとは!通常の罪人ならば別だが、禁忌を犯した大罪人とあれば話は別だ!このまま一息に首を刎ねてくれよう!!その天命、今ここでステイシア神に捧げるがいいっ!!」

 

 興奮したように、ライオスは上段から剣を振りかぶる。何も抵抗しなければ、このままユージオの首が落ちるだろう。

 

 それでいい、と思った。禁忌目録という絶対的な制約を破った事実は、齢二十を超えない少年にはあまりにも重すぎた。

 

 だが。

 

 その剣は、扉から飛び込んできたもう一つの黒剣と拮抗して止まった。

 

「……キリ、ト………」

 

「剣を引けライオス。お前にユージオは傷つけさせない」

 

 乾いた声が口から漏れた。黒の外套に水を滴らせる相棒は、なお剣気を迸らせて、ユージオの首に落ちる寸前の剣を受け止めていた。

 

「ようやくお出ましか、キリト修剣士!だが、それも遅すぎる!そこの田舎者は禁忌を犯した大罪人となった!ならばこの三等爵家長子にして次席修剣士たるライオス・アンティノスには、その罪を裁決する権利がある!貴様こそ下がれ!いつぞやの花のように、この罪人の首が落ちる様をなァ!!!!」

 

 ライオスが発した長口舌に、キリトはずっと短く、簡潔に、しかし何倍もの重さの言葉で答えた。

 

黙れ。禁忌だの、貴族の権利だのと知ったことか

 

 その言葉は。それもまた、禁忌目録違反。『協会への絶対服従』を明確に無視する、決意の言葉。

 

「ユージオは俺の親友だ。そしてライオス、お前は闇の国のゴブリンにも劣る屑野郎だ」

 

 その言葉に、ライオスは一瞬だけ顔を醜悪に歪め。そして、悦びを隠しきれないというように口元を綻ばせる。

 

「──二人揃って大罪に落ちたか田舎者共!!これで私は貴様らを纏めて処分できる!!これぞ、ステイシア神の導きというものだ!!」

 

 ライオスの剣が、血のような濃い赤色に染まる。秘奥義特有の光が、しかし今は粘度の高い別の何かのように剣にまとわりつく。キリトの黒剣は、勢いに押されるようにジワジワと下へ下へとにじり下がっていく。

 

 

「死ね!死ねぇ!!死ねぇぇぇっ!」

 

 

 鈍色の殺意が、じわりじわりとキリトへと押し込まれていく。………だが、ライオスの優勢もそこまでだった。

 

「……は?」

 

 今まで《レイジスパイク》の青い色を放っていたキリトの剣が、唐突に(ライムグリーン)の光を放つ。ユージオには、一瞬だけ剣が細く(・・)なったかのように見えた。

 

 蛍光緑の輝きは、ライオスの剣の勢いを受け止めずに(・・・・・)全く別の方向へと逸らした。殺意の刃は簡単に別方向へと往なされ。キリトの返す刃。コルバルト流(・・・・・・)紗旋(シャセン)》が、剣を握るライオスの両腕を──

 

 

「お前が、死ね」

 

 

 呆気なく、切断した。

 

 

「ひ、ぎぁぁぁ!!!?!?」

 

 

 絶叫に等しい金切り声を上げながら、両腕を失ったライオスが床に倒れ込む。

 

(……さっきの技は!)

 

 先日の練習試合でルクスがキリトに繰り出した、別流技の合わせ技。彼が《紗旋》から《天山烈波(テンザンレッパ)》を繰り出したように。キリトは《ソニックリープ》から《紗旋》を繰り出したのだ。

 

 茫然と、目の前の光景を眺める。一体、目の前の剣士はどれほどの速度で成長しているというのだろうか。たった数日前の敗北すら糧にして、自らの強さを高めている。

 

 それに比べて、今のユージオは何だ。

 

(僕はまだ、弱いままじゃないか……!)

 

「ひぃっ!ひぃぃぃっ!!う、ウンベェェル!!血をッッ!!私の血を止めろっっ!!お前の紐を解いて、私の傷口を縛れッッ!!」

 

 両目と口とを限界まで開いたライオスがウンベールへと声を上げる。先ほどウンベールが腕を切り落とされた時は冷静に対応していたのに、自分の場合はそうはいかないらしい。

 

「い、嫌だっ!この紐を解いたら俺の天命が減るっ!その命令は禁忌目録違反だ!」

 

「な、貴様……そんな………………いや!そうだ!南セントリアから取り寄せたアレ(・・)だ!アレを使え!」

 

「……あ、ぁぁっ!アレ!!」

 

 そう言いながら、ウンベールは片手で器用に胸元を弄り、何かほのかに赤色づいた結晶のようなものを取り出した。

 

 それが、授業中に何度か見た四大聖花の結晶。つまり、空間神聖力(治療用リソース)を大量に含んだものであると気がつくのにそう時間はいらなかった。

 

「……まさか!」

 

「……はは、ははは!!貴様ら下民とは違うのだよ!格も!知能も!財力も!知能もなぁ!!この結晶は、希少な天然の薔薇(最高級のリソース素材)で作られたもの!人の腕程度、簡単に再生できる!」

 

 ユージオが止める間も無く結晶は砕かれ、複雑な神聖語と共にライオスへと押し当てられる。途端、瞬く間にライオスの両手が復活していくではないか。

 

 まだ、戦うのか。そう考えながら、キリトは己の剣の切っ先をライオスへと向けた。何度だろうと、その腕を切り落としてやろうと。

 

 だが、その予想は裏切られることとなる。

 

「……はは。先の奇術には少々驚かされた。いやはや、流石だよ曲芸師。だが!もうそんな小手先の技は通用しない!!なぜなら!こちらには人質がいるのだからな!!」

 

 先程の調子を戻し、高々と声を上げたライオスが、寝台に横たわっていたフレニーカを無理やり起こし、そのまま傍らに置かれていたウンベールの剣をフレニーカの首元へと当てる。

 

「他人の天命を削るのは禁忌目録違反だが……目録を破った大罪人二人を裁くためとあらば仕方あるまい!!おい貴様ら!この女の命が惜しくば、手に持ったその剣で自らの命を絶て!!」

 

「ひっ……!」

 

「……どこまでも、卑劣な!!」

 

「何とでも言うがいい!!どうした!?貴様らが死なぬというのなら、この女が無駄に苦しむだけだぞ!?」

 

 キリトが、悔しそうに口元を噛み締める。例えキリトが斬りかかろうと、フレニーカを盾にする形のライオスには届かない。一瞬の隙でも与えれば、ライオスはその刃をフレニーカへと突き立てるだろう。

 

「さぁ!さぁ!!」

 

 面白い見せ物を見るかのように。目をギラつかせて、ライオスはキリトとユージオに自害を迫る。

 

「ダメ、ダメです!キリト先輩!」

 

「黙れ下民!!たかが五等爵士の分際で、三等爵士の私に逆らうか!?言ったであろう、今は貴族裁決権の執行途中だ!ここで動けば、貴様も大罪人として処罰するぞ!」

 

 フレニーカの声も、ライオスに遮られて届かない。………そうしてキリトが、向けた剣を降ろそうとした。

 

 

 その、瞬間。

 

 

 シュッという、威力が極限まで押さえられた静かな音。それだけが、部屋に訪れた前兆らしい前兆だった。

 

 

「なぁっ……!?」

 

 

 そのコンマ数秒後に起こったことを、簡潔に述べるとしたら。

 

 

 純白の彗星が。

 

 たった1センの狂いもなく。

 

 たった少しの力のミスもなく。

 

 正確に。ただただ正確に。ライオスの剣だけを、粉々に砕いた。

 

 

 

「コルバルト流、奥義。《 瞬迅閃刹(シュンジンセンセツ) 》」

 

「ルク……ス!?」

 

 その正体は。

 

 普段とは違い、酷く冷酷な目をした、主席修剣士。

 

 ルクス・ブラッディその人だった。

 

 

 

「………間に合わなかった、か」

 

 周囲を見渡し、床一面に広がった血。縄に縛られたティーゼ達。片腕のないウンベール。そして、右目を失ったユージオを見て、彼は無力感に満ちた声を漏らす。

 

 そしてその目が、剣を砕かれ、未だ茫然とするライオスを捕らえた。その迫力は、その気迫を向けられていないユージオでさえ身震いするほどのものだ。たちまちライオスは、情けない悲鳴をあげた。

 

「ひぃ……ぶ、ブラッディ殿!こ、これは、これは………そ、そう!正当な、正当な権利の末の行為でありまして!!」

 

 ズカズカと、ルクスは言い訳にすら耳を傾けずライオス達へと迫る。伏せられたその顔には、一切の表情が伺えず。その手には、硝子(ガラス)細工のような透明な剣(・・・・)が握られていた。有無を言わせぬまま、少年は手に持った剣を貴族二人へと振りかぶり。

 

 そして。

 

enhance(エンハンス)──

 

 その式句と共に。

 

armaments(アーマメント)

 

 彼の持つ透明な剣が、美しく光り輝いた。

 




 

まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ!
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