「禁忌目録違反だけど愛さえあれば関係ないよねっ!」「えっ」 作:練れば練るほど色の変わるお菓子
前戯。流石に前の話に色々と盛り込みすぎたので、内容は繋ぎです。
合言葉は
システム権限<愛の力
ルクス君、そろそろ需要に応えよっか……
そこから先は、まさに地獄絵図だった。
鬼気迫るルクスは、ライオスとウンベールが泣いて謝罪をしてもなお、その体を切り刻んだ。それは、ある種の拷問に等しかったのかもしれない。
ライオス達は、痛々しかった。何度も譫言のように謝罪を繰り返し、それでもなお続く剣戟に体を震わせ、泡を吹いた。
ただ、それ以上に。必死になって剣を振るルクスの方が、よっぽど辛そうで。その姿が、あまりにも見ていられなかった。
俺は、気絶したライオス達になお剣を振り下ろそうとするルクスを止める。
「やめろルクス!」
「…………キリト……止めないで。こいつらのせいで、君たちは……!」
「もういい!それは、今更こいつらに剣を振るったところで変わらない!」
そう呼び掛けても、ルクスは腕を止めなかった。不可視に匹敵する透明度の刃が、再びライオスの首目掛けて振り下ろされる。
「……ぐぅっ!」
ギャリィッ!という音と共に、ルクスの剣を手持ちの剣で受け止める。……剣のタイプは間違いなく
(なんて……馬鹿力だ!)
「………いいや、変わる!ここで彼らに起こったことを喋らせなければ!君たちは……君たちの罪は隠し通せる!」
「……ふざ、けんな………俺が、ユージオが……そんなこと、望むとでも思ってるのか!?」
「…………ぐっ!」
俺の言葉に、ルクスの剣筋が多少ブレた。その隙を逃さず、俺は秘奥義《バーチカル》を発動させ、ルクスの剣を弾いた。
「らぁっ!」
「……………」
《輪廻の剣》を、なんとか上段へと吹き飛ばす。それだけの動作で、体力の殆どを持っていかれてしまった。しかしルクスは、まだ全開とは程遠くピンピンしている。
「……まだ……やるか!?」
「………僕……は……」
ルクスの剣が、新たな光を放つ。細剣カテゴリ下段突き《ストリーク》……コルバルト流《
……その数秒は、完全に無に帰した。
「システム・コール」
「!?」
神聖術の式句が、天井の紫色の板から聞こえてきたからだ。咄嗟に二人とも構えを解き、そちらの方向へと剣を構える。
「シンギュラー・ユニット・ディテクト」
そこに浮かんでいたのは、人の顔だった。ガラスのような無機質な瞳が、こちらをじっと覗き込んでいる。
「……!これをティーゼさん達に聞かせないで!」
数秒ほど神聖語に耳を傾けたルクスの声へ反射的に反応し、近くにいたフレニーカの耳を抱きしめる形で塞ぐ。同じく、ユージオがティーゼの耳を塞いだ。残念ながら、俺もルクスと全くの同意見だった。
「アイディー・トレーシング」
そこから、紫の板の男は何か奇怪な声を発した。二、三秒ほど何も言わずに沈黙する。
「……なんだ、あれは………僕は………あんなモノ、知らないぞ……!?」
ルクスの顔には、驚愕と焦りが刻まれていた。喘ぐような声で、目を大きく見開いている。
そして、男は再び神聖語を口にしようとした。直感的に、それが最後の言葉になると理解した。
……だが、その数瞬。なにやら、紫の板がブレたように感じた。男も、ほんの少しだけ顔を怪訝に歪ませた。
「アイディー・トレーシング。アイディー……アイディー………ミス。イリーガル・アクセス。………リポート・コンプリート」
何かを聞き取ろうとしたが、男はそのまま板ごと消えてしまった。
そして、部屋の中に残ったのはティーゼ達の啜り泣く声だけとなる。
「……まだやるか?」
俺がルクスにそう尋ねると、彼はゆっくりとかぶりを振った。
「………ううん。……ごめん」
短くそう呟き、ルクスは《輪廻の剣》の切っ先を唐突にユージオへと向けた。
「ちょっ、何を!?」
「ユージオ君、動かないで。……安心して。痛みは、無くしておく」
ルクスの剣が、ゆっくりと。沈み込むように、ユージオの右目へと侵入していく。言葉通り痛みは無いようで、ユージオが何かを言うことはない。
数秒ほどその状態を保ち、ルクスは優しく《輪廻の剣》をユージオの目から抜き取った。
「見えるかい?」
ユージオが閉じていた目をゆっくり開くと、そこにはいつも通りの緑の瞳が、その輝きを取り戻していた。凄まじいほどの再生能力だ。恐らく、俺が万全の状態で光神聖術を使ったとしても、ここまでのことはできないだろう。これが、武装完全支配術の力なのだろうか。
「………うん。ありがとう」
ユージオの言葉に、ルクスは反応しなかった。剣を鞘へと仕舞い込み、魂の抜けた幽鬼のようにぼうっとしながら、部屋を出て行こうとする。
「ルクス!」
「………大丈夫。大丈夫だから、キリト。……多分、さっきのは教会の元老だ。もう、このことは教会側に知られてしまった。このままだと多分、君たちはセントラル・カセドラルに連行されちゃう。……そうなる前に、止めないと……!」
「ルクス!!」
何度言っても聞かない青年を、キリトは無理やり引き留めた。その灰色の眼には、冷たい決意だけが詰まっている。
「ルクス、そんなことまでしなくていい!これは、俺の。俺たちの問題だ!禁忌目録を犯していないお前が、そこまでする必要はないだろう!」
「……キリ、ト………」
ルクスは、何か言いたげに口を何度か閉口させた。……しかし言うのを諦めたのか、再び顔を陰らせ、コクリと頷いた。
「………わかった。……今から、アズリカ先生に事情を説明してくる……せめて、君たちの処遇がまともになるように訴えることくらいは、許してくれるかい?」
「……あぁ、それでいい。お前は、もう気にしなくていいんだ。こんなことに巻き込んでしまって、すまない」
俺が頭を下げると、ルクスは今にも泣きそうな顔を作った。……きっと、優しいルクスはもっと頼って欲しいのだろう。もっと必要として欲しいのだろう。
だが、これ以上関係のないルクスを巻き込むわけにはいかない。彼には、今まで築きあげた立場があり、家があり、大切な許嫁までいるのだから。
殴られる覚悟で下げた頭に、小さく「わかった」と言う声が降ってくる。
ルクスから流された一滴の雫が、赤い絨毯に染み込んでいた。
(ふぅ、危ない危ない。対元老用の認識阻害術式を仕込んでおいて正解だったなぁ。これで、先輩だけは連れて行かれないで済むよね)
遠視の神聖術でその光景を見ていたロニエは、フッと指を振って水晶に映っていた映像を切り替える。
そこには、涙を流しながら廊下を歩く愛しい人の姿がある。
「あぁ……先輩。その泣き顔、すっごく可愛いです……!」
脳内で何度もシャッターを切り、ルクス表情コレクションを増やす。その中には、つい先ほど怒りを顕にしたルクスの表情も当然のように含まれていた。
「いやぁ、大収穫でしたね。先輩、困ることはあってもなかなか怒らないから。貴重なお顔をいただいちゃいました」
ホクホク顔で、少女は水晶へとのめり込んだ。じろじろと、四方八方から視点を変え泣いているルクスを観察する姿は、誰が見ようとゾッとする光景だろう。
「………さて。それじゃあ、
きっと、傷ついたルクスはロニエの元へと足を運ぶ。普段被っている貴族の仮面を外し、自らの感情をぶつけられる相手はロニエしかいないからだ。
よだれすら垂らしながら、ロニエは自らに都合のいい妄想に浸る。そして、その妄想は容易に現実の思い出へと形を変えるだろう。
「えへへ。先輩、たっぷり甘やかしてあげますからね……」
緩む頬に手を当てながら、再び指を振って水晶の映像を消し、ロニエは数分後に訪れるだろう青年を待ちはじめた。
次回!ライオス、死す!
デュエルスタンバイ!