「禁忌目録違反だけど愛さえあれば関係ないよねっ!」「えっ」 作:練れば練るほど色の変わるお菓子
合言葉は
システム権限<愛の力
Web版での恨みは忘れていない。そんな話。
酷く乱暴に扉を開く。感情が、爆発してしまいそうだった。悲しみで、絶望で、心が、どうにかなりそうだ。
涙はもう止まった。扉を入る前に、無理やり止めた。こんな姿を、彼女に見せるわけにはいかなかったから。
「お帰りなさい、先輩」
「……ロニエ……」
「事情は全部知ってます。………大変でしたね。よく、頑張りました」
ロニエは優しく微笑んで、僕を抱きしめてくれる。それだけで、少しだけ心が軽くなった。……なってしまう。そんな単純な自分が、許せない。
「………違う。僕は、頑張ってなんてない。………失敗、ばっかりだった。ボクがあんなまどろっこしいことをしないで、直接部屋に行っていれば……もしかしたら、ユージオ君達は禁忌を犯さなくて済んだかもしれないのに……」
「先輩……」
少なくとも、僕は誰よりも早く事実を知った。ならば、あんな書類なんて使わずに直接乗り込めばよかったのだ。そうすれば、あそこまでことが大ごとにはならなかったはずなのに。
「………キリト先輩達は?」
「………アズリカ先生が、懲罰房に連れて行った。………最低だよ。僕は。せめて、僕も一緒に入っていれば──」
「先輩。先輩が私のものでなくなったら、そのときはこの世界を破壊しますよ。先輩が私の前からいなくなるなら、そのときは、今度こそもう駄目です。先輩が私のものじゃないなら、私はもう誰も欲しくない。全部跡形もなく壊します。全部消し炭残らず殺します。そのくらい、わかってるじゃないですか」
彼女は、焦ったようにそう言う。
あぁ、そうだった。昔、そんなことを約束した。『今度僕が君の前からいなくなったら、何をしてもいいよ』なんて。そんなことを言った。
……少しばかり、嬉しいと感じてしまう。そんなに大切に思ってもらえることが、嬉しいと。今抱くには、不謹慎と言われても仕方がない感情だ。
「……ロニエ」
「どうしました、先輩」
「……抱いても、いいかな」
もう、何もかもが嫌だった。彼女が与えてくれる快楽に溺れて、堕落して。何もかもを、忘れてしまいたかった。
「……はい。いいですよ、先輩。私は、先輩のものですから。先輩が好きなように、してください」
返答を得るや否や、ロニエをベッドへと押し倒す。自分より華奢な少女は、抵抗することなく僕を受け入れてくれる。その柔らかな肌が、なによりも優しく、妖艶に僕を誘う。
「………ロニエ……!ロニエ………!」
ぎゅぅっと、腕の中の存在を抱きしめる。今にも折れてしまいそうな花を、自分のものだと主張するかのように。
「はい。私はここにいますよ。あなたのロニエです。先輩、私は先輩が大好きですよ。ずっと、ずぅっと昔から、大好きです」
ロニエに覆いかぶさって、快楽への期待で潤んだ青い目を見る。すると不思議なことに、何もかもがどうでも良くなって、彼女のことしか考えられなくなる。その深い蒼に魅了されて、頭の中がそれで埋め尽くされる。
………でも。
「………ごめん。やっぱり、やめていいかな」
「えっ……?」
残った数カケの理性が、本能を押しとどめた。……自分の姿が、どうしてもライオス達と被ってしまう。こんな相手を尊重しないやり方では、あの連中と変わらない。そんな気がしてしまった。
「………先輩、私のこと、嫌いになりましたか?」
「そんなことっ!……そんなこと、ない。……僕は、ロニエのことが好きだ。身体とか、身分とか、そんなの関係ない。僕は、ロニエが全部好き。好きだよ」
勘違いさせてしまったろうか。なんとか思うがままを口にして、誤解を解こうとする。
……こんな自分勝手なことを言って、説得力などない。自分で口にしながら、そんな風に思った。自分の本心から出たはずの言葉なのに、どうしてこうも薄っぺらいんだろう。
ロニエは、そんな困惑に揺れる僕をみて、ほんの少しだけ微笑んだ。
「……わかりました。今日のところは、その事実だけで我慢してあげます」
「え?」
今度は、僕が困惑させられる側だった。いつのまにか、僕はロニエの胸に顔を埋めていた。というか、がっちり後頭部を固められて、無理やり埋めさせられた。
「……なんで……」
「このまま先輩に無茶苦茶にされるのもいいと思ったんですが………そういえば、春休みのお返しをしていなかったなぁ、と。いいですよ、
………彼女の匂いがした。……本当に。心の底から、安心できる匂いだった。
目尻から、涙が溢れた。一度漏れ出たそれは、止めようもなく彼女の服を濡らし、僕の優等生の仮面を溶かしていく。
「………友達だった」
「………はい」
「キリトも、ユージオ君も……!大切な、大切な……僕の友達だった……!なんで、なんでこんなことになっちゃったんだろう……!僕はただ、みんなと一緒に、過ごせていればよかったのに……!」
「………お兄ちゃん。それ、私にとっては最低です」
「………わかってる。……でも、初めてだった。僕を対等に見てくれたのは、あの二人が初めてだった……!友達なんて、初めて言ってくれたのに……!僕が……僕がもっと、あの二人に気をつけていれば……!こんなことには、ならなかったかもしれないのにっ……!」
ボロボロと涙を零しながら、情けなく女の子に縋る。そのことさえも、今だけは幸せなように感じた。
「……そうですね。でも、そうはなりませんでした。この話は、そこで終わりです」
「…………あぁ、くそっ……悔しいなぁ……ちくしょう……ちくしょうっ……!」
熱い液体が、頬を伝っていく。意味のない後悔の言葉が、胸からすぅっと口へ抜けていく。心が軽くなって。……全てが終わったことを、やっと体が認識し始める。
もっといい結末にできたはずだ。そんな幻想に囚われた心が、現実に戻ってきたのだ。
(……あぁ。やっぱり。悔しいなぁ)
「………はい。お疲れ様です。お兄ちゃん」
ロニエに頭を撫でられて。僕はようやく、悔し涙を流すことができたのだった。
「落ち着きましたか?」
「……うん。ありがとう、ロニエ」
「大丈夫ですよ。これから、お代は支払っていただきますから」
「へ?」
「先輩。自分から誘っておいて、お預けはないですよね。さて、気を取り直して。先輩、抱いてもいいですか?」
「………ぅ。えっと、その……」
「え?聞こえませんよ?」
「………はい。ぇっとその……抱いて、ください」
「はい。先輩の意識がなくなるまでやりますね!」
「えっちょっと聞いてなっあっ♡」
「……くそっ!くそっ!くそぉぉぉっ!!私が、この私が六等爵士だとっ!?この、このライオス・アンティノスが、平民上がりの貴族と同等など……馬鹿げている!」
「あぁ……終わり……終わりだ……こんな失態、父上に知られたら………あぁぁ!!」
ウンベールとライオスの部屋は、乱雑に物が散らかるゴミ屋敷と化していた。部屋にあるその悉くは剣によって破壊し尽くされ、残っているものは学園の備品のみ。それらも、所有権がライオス達にないから、という理由で壊されていない……壊せないに過ぎなかった。
「あの男さえ!あの男さえいなければっ!今ごろ、あの大罪人どもを処刑して、私は最強の座を手に入れられたのに……!!」
「……そっ、そうだ!あの男が……ブラッディが全部悪いんだ……!オレは、オレは悪くないッ……!」
ベッドの上の特殊な縄が、その天命を消費し尽くして青いポリゴンに変わる。そのことが女たちが手に入らなかったことを想起させ、さらにライオスを苛立たせた。
そんな内情を知ってか知らずか。トントン、と、部屋の扉を叩く存在があった。
「………誰だっ!?こんな遅くに!」
『夜分遅くに失礼致します。私、ルクス主席修剣士殿の傍付きのロニエ・アラベルと申します。実は、本日の件についていくつかお伺いしたいことがございまして…………』
壁越しに聞こえてきたその言葉を聞いて、ライオスとウンベールは顔を見合わせ……そして、ニヤリとほくそ笑んだ。
(確か、ブラッディの傍付きは五等爵士だったはず……何かしらの逸例行為を働かせて貴族裁決権を使い人質にすれば、俺たちへの宣告を撤回させることもできるではないか!)
それは、彼らにとっては天啓のように思えた。自分たちが既に貴族裁決権を行使できない立場にいることなど、頭から抜け落ちている。何なら、今日あの二人に出来なかったことの続きを、あの男の傍付きにしてやるのもいいかもしれない。
そんな下卑た考えを浮かべながら、二人は小さく頷いた。────それが、巨大な蜘蛛が張り巡らせた罠だと気がつくこともなく。
「あぁ、なるほど。よかろう、入りたまえ」
そんな一言を、口にした。
だが、扉が開く瞬間にウンベールはふと冷静な思考を取り戻した。上級修剣士ならともかく、規則が厳しい初等錬士が、この時間に出歩くのは学院則違反ではないか、と。
だが、そう思い至ったときにはもう遅い。
「失礼します。────死んでください」
「ごっ……!」
「ぎゃぁっ……!」
扉が開いた瞬間、ライオスとウンベールの体に電流が走った。そして、そのまま床に倒れ込み、身動き一つ取れなくなってしまう。
「何……が……………」
「何って。躾ですよ。とりあえず逃げられたり声を上げられると困るので、体の自由を奪わせてもらいました」
辛うじて動く顔をゆっくりとあげ、声の主を見る。
そこには、ルクス以上の冷たい瞳をした茶髪の少女が、その蒼玉で以ってライオスたちを見下ろしていた。
「……お前……こんな術は……禁忌目録違反……」
ありえない。その思考に頭が支配される中で、何とかそれを口にする。一体、彼女はどんな抜け道を使って禁忌を侵したというのか。どんな大義名分を持って、ライオス達を害したのか。様々な仮説が頭をよぎり、否定されてを繰り返す。
だが。
「
少女は、それら全てを下らないと一笑に付す。なんでもないように、そんなことを言う。
「……なに、を………」
「で。目録違反だから、どうしました?それであなた方を助けてくれる人はいるんですか?元老?あんな術式だけで動くお人形さんに、私が引っかかるわけがないじゃないですか。そもそも、私たちの教会への反逆を決めて感情の規定値が突破したのは、随分昔の話ですし。あれは一定値を突破した瞬間を報告する防衛機構ですから、私たちには無意味です」
つらつらと、ライオス達には理解不能の言語を並べていく少女。その姿は、一種の恐怖を二人に植え付けた。
「一体、何が目的で……!」
「目的……?目的、ですか。強いて言うなら、復讐?……いや、お礼を言いに……?あ、お礼参りというんでしたね!こういうの!」
復讐。思い当たる節は、今日のフレニーカとティーゼ。この少女は、つまりその恨みを果たすためにやってきたということ。そうライオスは解釈した。
だが、少女は口にすら出していないその思考を即座に否定した。
「あ、いえいえ。ティーゼ達は関係ないですよ。まぁ、全くないといえば嘘になりますが、ほんの一厘くらいです。一応親友ですし、大切だと言う気持ちもありますけど。それでも、今の私の目的とは別物なんです」
「じゃあ……何が……」
「お兄ちゃん…………じゃなく。ルクス先輩ですよ。私、これでもあなた方には感謝してたんですよ?先輩が怒ることって、ほんとに五年に一度あるかないかくらいで。貴重な表情を見れたなぁって、すっごく感動してたんです。……でも、さっきの先輩を見て、許せないなぁって思い直したんです」
そんなことを言うと、少女はより一層狂気的な目をし始めた。………ウンベールには、それはルクスのものより恐ろしいものに見えた。
ルクスはまだ、辛うじて自分たちを人として認識していた。いくら見下してその価値を下げても、その一線だけは超えることがなかった。
だが、今の少女は何だ。まるで、そこらの土や草を見るように、ウンベール達を見ている。そこには幻滅も軽蔑もない。その代わりに「どうでもいい」という感情だけが渦巻いている。
「先輩、泣いてました。キリト先輩とユージオ先輩の為に、泣いてたんです。………最初は、その泣き顔もいいと思ったんですけど。でもしばらく見てると、とっても胸が締め付けられちゃいました」
それは、恋する乙女のようなセリフだった。だが、その放つ雰囲気が、その言葉の説得力をまるでなくしている。
「先輩の涙も、先輩の想いも、先輩の声も、全部!全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部!!私のもの。私のためだけに、使われるはずなんです!!私は、先輩の全てが大好きだから。先輩は、私が大好きだから。みんなみんな、それでいいんです。それでよかったのに。今日の先輩は、私以外のために泣いて、悲しんで。やっと私に甘えてくれたのに、これじゃ全然足りません!」
それは、正気がすり切れていくような光景だった。ライオス達には、まだ自分達より年下の少女が、人間とは全く別の怪物に見えた。
「要するに、先輩を泣かせていいのは、私だけなんです。最初はキリト先輩達を殺そうかなって思ったんですけど、それじゃまた先輩が泣いちゃいますし、ティーゼ達も悲しむと思うので仕方なく。死んでも先輩が悲しまなくて、かつ元凶のあなた方を殺しにきたんです。あ、目的が今わかりました!憂さ晴らし、というやつです!」
「………ひ、ぃ……」
今更になって、ライオスは後悔した。
あれほどの力を持つ主席修剣士が、今やただのお飾りのように思える。目の前の怪物に比べれば、あんなもの人の形をとっているだけマシだ。こんなに強大で、恐ろしい気迫を放つ相手に比べればどんな相手だって霞むだろう。
「あぁ、安心してください。流石に本当に殺しちゃうと先輩もほんの0.001センくらいは後悔しちゃうかもしれないので、殺すのは人格の方にしておきます。ふらくとらいと……でしたっけ。あれを適当に改造して、模範的な人格を詰め合わせたら……まぁ、なんとかなりますよね」
「やめて……助けて……」
ライオスは、一秒でも長く生きながらえるために、後退りながら少女から逃れようとする。少女はそんな体勢で移動するライオスを不思議そうな顔をして眺め、ポンと手のひらを叩いた。
「あ、そうか。『対象接触の原則』!私があなた方に触れない限り、あなたを対象にした神聖術は発揮できないと、そう思ってらっしゃるんですね!神聖術の基本ですもんね!いざとなったら、触れられた手をはね除ければいいと!なるほど!」
そして。
少女は、床にへたりこんでまともに動けないライオスを、全力で蹴り飛ばした。
「ごぶっ……」
「そんなわけないでしょう。馬鹿なんですか?」
数メルほど吹き飛んで、壁の柱に背をぶつける。天命が、恐らく100は減った。本当に目の前の少女が禁忌目録に一切縛られていないことを実感し、痛みもあってか呼吸すら危うくなる。
そんな無様なライオスを見て、少女は呆れたようなため息をついた。
「人への対象接触の原則なんか、とっくの昔に克服しましたよ。あの女狐はまだみたいですけど。私が先輩以外の男の人に触れるわけないじゃないですか、穢らわしい。あなたになんか『心意の
少女は、試してみるか、と言わんばかりに神聖術の式句を唱えた。
「システム・コール。
そこから、全く聞き取れない単語と数字らしきものを口にすると……なんと、先ほどまでライオスを放って逃げようとしてたウンベールの体が、パキパキと石化していくではないか。
本当に一切触れることなく、少女は近くにいただけのウンベールに神聖術を行使したのだ。
「う、嘘だっ!こ、こんなの!こんな終わり方、あんま……」
最後まで言い切ることすらできず、男が手を伸ばしながら涙を流すという、不気味な一つの彫像が完成する。ライオスは、自分がアレと同じ末路を辿るのだと本能的に悟った。
「ひぃっ!そ、そんなっ!いや、嫌、嫌だっ!」
「そんなに騒がないでくださいよ。別に今生の終わりってわけじゃないんです。解放だってしてあげますよ。まぁ、解放するときに頭の中がどうなってるかは知りませんし、そもそも解放されるのがあなた自身なのかはわかりませんけど。私を陵辱しようだなんて不相応な妄想に浸る脳なんて、ごちゃ混ぜにした方がマシでしょう」
「うわ……ぁぁぁぁっ……」
どれだけ恐怖しようと、少女からは逃げ出すことはできない。体はほとんど動くことがなく、叫ぼうにも声も満足に出ない。
「じゃ、そろそろ終わりますか。いい加減、先輩以外と話すのも億劫ですし。そろそろ、帰って先輩を沢山からかうことにしましょう!あなた方の妄想で穢されたぶん、先輩分をたくさん補給しないと!」
「……来るな………う、違う………こんな……こんな死に方……」
「システム・コール」
「……嫌………だ」
ディープ──────
────フリーズ。
絵面は完全に自暴自棄になって主人公に裸で迫るヒロイン。