僕は曜に千歌日記を見せている   作:白河ぽえむ

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第2話

 Aqoursのメンバーが九人になった。果南ちゃんも入ったというか、そもそも一年のときにスクールアイドルをやっていたということに驚いた。たしかに忙しそうにしていたような? でも果南ちゃんはいつも忙しそうにしているので、なにか特別なことをやっていそうだということには思い至っていなかった。

 僕はたまにダイビングショップを手伝いはするけど、それは本当にただの手伝いでしかなくて、果南ちゃんがやりたいことをする時間が増えるのかといえばそうではなかった。スクールアイドル活動とショップが両立するのかどうかはわからない。果南ちゃんの負担はすごく増えるだろうと思っていた。でも千歌は果南ちゃんと一緒にスクールアイドルをやれることにすごく喜んでいたし、果南ちゃんも同じ感情を抱いているように僕には思えた。だから僕は千歌に、これからはもっと果南ちゃんのお手伝いをしようねと提案した。千歌は当たり前だよ! と僕の手を握って言った。

「九人もいるから、代わりばんこでやればそんなに負担にはならないでしょ? それに、美少女がいるダイビングショップだって話題にもなるかも!」

「いや、そしたらお客さんがたくさん来て負担が増えるんじゃない?」

 と、一週間くらい手伝っていたら、果南ちゃんのお父さんが怪我から復帰したので、あまり手伝いはいらなくなってしまった。

「あぁ! ダイビングショップで天下を取る夢がっ!」

 謎の嘆きをする千歌がかわいかったです。でも、スクールアイドルで天下取れるので問題ないのでは?

 

 

 そうだ、手伝いといえば、僕は十千万が忙しいときはだいたい駆り出されている。毎回志満さんが「花婿修行だねぇ」とからかってくるのでやめてほしい。ただ、高海家には受け入れられているということでもあるので、あとは千歌を落とすだけなのだ、僕は。

 それが無理だからこんな日記を書かされてるんだよなぁ……。

 僕はずっとずっと千歌にアピールを続けている。というより告白をしたことだってある。

「千歌ー! ちゅきちゅきー!!」

「けーちゃん! 私もちゅきちゅきー!」

 何度このやりとりをしてきたことか。これを曜に言うと、軽すぎてほんとうの意味が伝わらないんだよ、って呆れた顔をされる。でも、もう長いこと同じ時を過ごしてきた幼馴染に、真面目くさった顔をして愛の告白をするなんて、僕には照れくさくてできそうもない。

 どうしたらいいんでしょう、曜先生。

 

    ☀

 

 曜はAqoursの衣装担当なので、新しい衣装を作るために僕といっしょに買い物にやって来ていた。

 衣装のデザインはほとんど事前に完成していて、生地屋さんでデザイン画を見せられながら、あの高いところにある生地取ってだの、これちょっと持ってて、と比較のために無理な体勢で生地を持たせられたりだのした。

 いつの日か、荷物持ち以外で僕なんて必要ないのでは? と思って、千歌とか梨子とかと来たらいいじゃん、と言うと、そんなことないよ! ケージがいないと衣装は完成しないよ! とすこしむくれた顔をして反論された。

 小物や、個々人の特徴にあった細かいデザインなんかは、僕にアドバイスをもらったりして決めているかららしい。ほんまかいなと思うのだが、千歌、僕、曜のなかでは、曜がいちばん誰かのために自分を抑え込むタイプの性格をしている。その曜がここまで強情に言うのだからほんとうなのだと思う。

「それで、なんだっけ、千歌ちゃんにちゃんと告白する方法だっけ?」

「あ、それ今やります?」

 内浦に向かうバスに射し込む夕陽が、窓際に坐る曜の横顔を照らしている。いつもの曜はこういうとき悪戯っぽく笑うのだけど、なぜか眠たげな表情をしているので戸惑った。とうとう愛想を尽かされたのかもしれない。

「もう諦めたら? だってほんとに好きならもう告白できてるはずじゃん」

「いやそれは、ほんとに好きだからこそできてないっていうパターンもあると思うんですけど……」

 曜の口から気のない返事と溜息が混ざったような吐息が漏れる。いつもとは様子が違う。

「僕、なにか怒らせるようなこととかした?」

「んーん、なんでもないよ。ちょっと疲れただけ」

 たしかに僕とふたりだけでどこかに出かけるときの曜はいつもよりテンションが高いけど、曜は体力があるのでそんなことでは疲れるとは思えない。

「あ、もしかして昨日は夜遅くまでデザインを考えてたの?」

「ん? あー、たしかにそうかも」

 車窓から内浦の海が見える。西に沈む太陽が波をオレンジ色に輝かせている。毎日のように見ている風景だけど、このうつくしさに飽きることはない。曜もそう思っているだろうか? 曜は窓ガラスに側頭部を預けながら外を眺めているので、表情はよく確認できない。

「もしあの堤防に女の子が立っていて」唐突に曜は話しはじめる。「夕陽の逆光のせいでシルエットしかわからなくて、でもそれがもし私だったとしたら、すぐに私だってわかってくれる?」

「もちろんだよ」

「千歌ちゃんだったとしても?」

「もちろん」

「それは、どうして?」

「ふたりとも、大好きだから」

 すこしだけ見える曜の口元が幽かに微笑みの形になった気がした。

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