僕は曜に千歌日記を見せている   作:白河ぽえむ

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第4話

「つい一昨日くらいのことだけど、沼津の花火大会でやったライブ、なんだか懐かしいな」

「あれ、すーごい忙しかったもんね」

「えへへ。でも、ちゃんとやりきったよ」

 千歌たちはほんとうにすごい。果南ちゃんが加入してすぐの話だったのに、歌も振付けもそうとは感じさせないほどのものになっていた。衣装に関しても、Aqoursのみんなと僕とでできる範囲で手伝った。それでも曜の負担は大きかったように思う。

「そういえばあのとき、曜はやりきったらなにかご褒美頂戴って言ってたっけ」

「お、さすがケージ、ちゃんと覚えてるのは偉いですよー」

「曜ちゃんほんと頑張ってたもんねぇ」

「それでご要望はなんですか、お嬢さま」

「んーとね、ケージがまんなかで、千歌ちゃんそっちで、私はここね。で、手をつなぐ」

「ただのハーレムですやん」

「そうだよ?」

「昔の私たちみたいで懐かしいね」

 と千歌がやわらかに笑って言った。あーーーー、美少女ぉ。大天使チカリエル♡ と思っていると曜に握られていた右手が痛んだ。なに、と小声で曜に訊くが、曜はなんでもない、と笑いながら言うだけだった。

「てかこれべつに曜へのご褒美でもなんでもないじゃん。かき氷とか奢ろうか?」

「んーん、そういうのはべつにいいや。あとでやってもらいたいことがあるからそのときにね」

 なんだろう、とそのときは思っていたが、まさかあんなことを所望されるとは僕は思ってもみなかった。

 曜、僕のためにご褒美券を使ってくれてありがとう。また今度、たくさんお礼をしなくてはならないね。

 

 港の海面に船から灯籠を流すのが例年の決まりだった。「夢で夜空を照らしたい」のMVでやったスカイランタンのことを思いだしてちょっと泣きそうになった。

「きれいだね」

「うん」

 千歌と曜の瞳に灯籠の灯りが映っていた。目の前の内浦の海よりきれいだった。

「私たち、内浦のお陰でAqoursになれたんだよね」

「そうだね。でも、千歌がやりたいって言ったから、それに応えてくれたんだよ。だって千歌は、内浦のことが好きだから」

「けーちゃん……」

 千歌は微笑みだけを返してくれた。それだけでよかった。それだけなのに僕は、生まれてきてよかったと、心の底から思えた。

 

 千歌の謎のモチベーションに連れられて盆踊りを楽しまされたあと、ようやく花火がはじまった。

 花火のためにりんご飴をふたり分買わされた。僕は両手がふさがっているから、食べものは千歌と曜のものをひとくちふたくちもらっていた。

 たとえばかき氷はみかん味とブルーハワイが味わえたし、たこ焼きは千歌がふーふーしてくれた。曜は熱いままつっこんできて、口のなかを火傷しながら叫ぶ僕を笑っていた。ひどくない?

 射的のときは千歌のエイムがゴミクズだったので、背中から覆いかぶさるようにして銃を支えてあげた。しかしそれでもだめだったので、業を煮やした曜がなぜか僕の背中から覆いかぶさってきて、千歌、僕、曜のサンドイッチで射的をするというわけのわかんないことをやらかした。射的のおっちゃんは僕たちのあまりの青春力の高さに涙をしていたように思う。

 

 花火があがった。港は狭いのでどこにいても見える。みんな空を見上げて、年に一度の夜空の芸術を楽しんでいた。

「ね、ケージ。ご褒美忘れてないよね」

「ん、いま?」

「曜ちゃん、花火を待ってたの?」

「そうなのです。ケージ、やってほしいことがあるの」

「なに」

「ちゅーして」

「え? いまなんて?」

「ちゅーして」

「ちゅーって、キスのこと?」

「そう」

「いや、曜さん? 僕たち恋人ではないのですが」

「む。でもケージのファーストキスって私だったでしょ?」

「えっ!? なにそれ私知らない! けーちゃん曜ちゃんとキスしたことあるの!? 私とはないよね!?」

「それめっちゃくちゃ前の話じゃん。小学生のときだし」

「そうだよ。あのときはあのときでドキドキしたよね、恋人の真似事だって。だからまた真似事してみたいんだ」

「ほえーーーー、曜ちゃんマセてたんだねぇ」

 マセてたんだねぇ、というリアクションどうなの。いやたしかに曜はめちゃくちゃおマセさんだったんだけども……。千歌は幼稚園生のときから変わんないけども……。

「え、けーちゃん、ほんとにキスするの? 曜ちゃんと? いまここで?」

「いや、うん、いや、いやーーー? でもーーー……ご褒美、だし、なぁ」

「ご褒美だよ」

「えー、曜ちゃんだけずるい。ということはセカンドキスも曜ちゃん? むー、じゃあ三回目は……。ね、曜ちゃんにしたあと、チカにもキス、ちょーだいっ」

「え?」

「いいでしょ?」

「え、いや、いい、けど。千歌は僕にキスしてもらいたいの?」

「だって曜ちゃんばっかりズルいし」

「へー。それじゃあそうしようよ。私だけじゃなくて千歌ちゃんだってすっごくがんばったんだしさ。ご褒美、くれるよね?」

「あ、はい」

 

 それからのこと、ここに書きます? 曜、恥ずかしくない?

 いいぜ。そっちがその気なら書いてやるよ。

 

 僕はふたりとつないでいた手を外し、まずは曜と向かいあった。千歌は興味津々で僕たちを見てくるのでかなり恥ずかしかったが、曜は千歌なんて目に入っていない様子だった。あれだけ強気な態度だったのに、僕と正対するととても緊張した面持ちになって、唇をぐっと閉じ、両手を身体の前で組み直したりして落ち着かなかった。

 僕はその手をとって優しくなでた。曜の爪には薄ピンクのマニキュアが丁寧に塗られて、花火に輝いていた。きれいだったので思わず愛撫してしまう、千歌からほえーという声が聞こえてきた。曜はびくっと身体を震わせたあと、僕を上目遣いで見上げてきた。

 こいつわかっておるな。がらにもなく曜にドキドキさせられたのでなんだか悔しくなり、そのまま手を強く引き、身体を寄せてキスをした。鼻と鼻があたった。いったん離れて曜の顔を見ると、えへへ、と面映ゆそうに笑うので、こんどは優しく腰を抱いて唇をあわせた。曜の唇はやわらかくて、すこしだけ冷たかった。

「さ、次は千歌ちゃんの番だよ!」

 曜はそうやっておどけたように言った。照れ隠しだというのがばればれだった。

 そして僕と千歌は引き寄せられるようにして幸せなキスをした。

 

   -Happy End-

 

 

   ☀

 

 

「は?」

「あ、曜さん顔怖い。やめっ! クッションで叩くのやめて!」

「なにこれ!?!? なんで肝心の千歌ちゃんとのキスの描写がないわけ!? 死にたいの!?」

「いや実際死んだんですよ、情緒が。あまりの多幸感になにも覚えていないんですよ。ただ千歌の汗の匂いと、やわらかい身体と、えっちな唇を楽しんでただけなんすよ僕は。夢にも出てきたんですよ。夢精もしましたしね」

「ムセー? むせい。むっ、夢精!? こらっ! セクハラ!」

「いや、それ知ってる曜もムッツリだと思うけど」

「私おマセさんだから!!!!」

「曜! 感情がぐちゃぐちゃになってる!」

「そりゃなるでしょ!!! 私が! 超絶技巧のお膳立てをして! 私も私の欲望を満たしつつ! ふたりの仲を取り持ったのに! ケージはそれをあんまり覚えてないと!? 千歌ちゃんあんなにメス顔になってたのに!?」

「メス顔はちょー覚えてる。くそエロかったですね、ええ。あれ、あれですよ、僕と曜のキスを見て発情したんすよね? やばかですね。千歌も女の子だったんすね」

「はーー、千歌ちゃんだって女の子だよ。気づいてなかったのはケージだけ。いい? ケージが覚えていないようだから私の主観になるけど、あのときのキスの様子を教えてあげるね」

 まずケージと千歌ちゃんは向かい合いました。千歌ちゃんは完全にメスの顔になってました。ケージはそんな千歌ちゃんの顔を合わせる舐め回すように見たあとイケボで言います。

「キス、するぞ。千歌とのファーストキスだ」

「は、はいっ」

 千歌ちゃんがなぜか敬語で返事をしたのが尊いのです。

「あの、けーちゃん、曜ちゃんにしたみたいに手、握ってほしいな」と言います。嫉妬ですね、これ。

 ケージはイケメンなので私にしたよりも素敵に手を握ってあげました。にぎにぎしたあと、恋人つなぎにして千歌ちゃんをすこし強引に引き寄せます。ふたりの身体がひっつくとケージはすかさず千歌ちゃんの腰に手を回します。千歌ちゃんはあっ♡と完全な喘ぎ声をもらしてなすがままになっていました。抱き寄せられて感じたんでしょうね。わかります。

 それからケージはつないでいた右手を離し、千歌ちゃんのイヤリングを弄ります。

「千歌がスクールアイドルになってから、こういうアクセとかマニキュアとかのお洒落するようになったけど、ちょっと大人っぽくてドキってさせられてたよ。今日も浴衣にも似合ってて、きれいだよ」

「けーちゃん♡」

「キスしたい。千歌のファーストキス、僕にくれるか?」

「うん。私、けーちゃんにファーストキス、あげたい」

「ありがとう、千歌」

 ケージは千歌の頬を鍵型にした人指し指でこしこししたあと、親指で千歌ちゃんの唇の端を撫でて千歌ちゃんにキスを意識させます。

 千歌ちゃんはトロ顔でケージを見上げ、ふたりはそのままゆっくりと顔を近づけ、この世でいちばん尊いキスをしました。

 ケージはまた千歌ちゃんの左手を取り、やさしく愛撫します。千歌ちゃんはそうやってケージに触られるたびに可愛くえっちな声をもらしました。

 ふたりのキスはとても長いあいだ続きました。完全に世界中に自分たちしかいないと思っている恋人どうしのキスでした。

 ケージと千歌ちゃんはただ唇を合わせるだけのピュアなやつだけでなく、お互いの上唇や下唇をはむような愛のあるキスもしました。

 花火が打ち上がるなか、ふたりはそれはそれは漫画みたいなシーン繰り広げたのでした。

「って感じかな」

「僕、そんなに恥ずかしいことしてた? 覚えてないから曜が言ったことが本当になっちゃうんだけど、妄想とかじゃないよね?」

「さぁ、どうでしょうかねー?」

「曜ー!」

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