気付けばお気に入りも二十件を超えていました。
皆さんに読んでいただけて嬉しい限りです。
『道野さん、あなたどうして飛ばないんですの?』
スクリーンから試合の様子を見ていた千冬と真耶。
「そういえば道野君、ずっと地上で走っていましたね」
「更識」
千冬がチラリと後方を見る。
そこには楯無が立っていた。
「言い訳というわけではありませんが、時間が足りませんでした」
楯無の言う通り四日間の訓練期間の中、ISに乗っての歩行に二日。ダッシュに二日。途中飛行の訓練もしたが、結局飛行することはできず本番を迎えてしまっていた。
「それじゃあ試合になりませんよ」
真耶の言うようにISの基本は空中戦である。三次元で動けることは圧倒的な優位性がある。
故に今の翔介は不利な状況にある。
元より操縦経験、機体性能全てにおいて劣っている。
そもそも試合にすらならないのだ。
「ええ、ですが…彼の意志です」
楯無はスクリーンに映る翔介を見る。
どうするかと焦りの表情が隠せていない。だが、そんな中にありながらまだ負けを認めようとはしていなかった。
----------------------------------------------------------------------
「道野さん…やはり止めましょう。これではあまりにも…」
そう言ってセシリアは周りの観客席を見る。
それは翔介にも聞こえている。
『ISを動かせる男子って言ってたけどそんなに強くないのね』
『さっきの織斑君は凄かったのに…』
『道野君、ヘタレ受けもアリか』
ISのハイパーセンサーが周囲の声を拡大してしまう。
周りからの落胆の声が聞こえてくる。
最後の方は聞こえてきたけど、意味はよくわからなかったが。
翔介も始まる前からわかってはいた。
四日間の訓練ではどうあっても足りない。そもそも真っ当な試合すらできないことを。
しかし翔介は試合を放棄することはしたくなかった。
「大丈夫、続けよう」
翔介の言葉にセシリアが不可思議そうに問い掛ける。
「何故、そうまでして続けるのですか?」
「確かに、僕は弱いしISも全然使いこなせないよ」
だけど。
「今日までやってきた努力を無駄になんかしたくなかったから。それに…」
「それに…?」
「負けるとしても精一杯やったってお師匠さまに胸を張りたいから」
そう言って笑みを見せる翔介。
そんな彼を見て言葉を詰まらせるセシリア。
「…やはり改めて謝罪させてくださいまし。道野さん、いえ翔介さん」
「え?」
「あなたはお強い方ですわ。他の誰が何と言おうとわたくしセシリア・オルコットが証明いたしますわ」
セシリアの父親は母親の顔色を窺ってばかりの男性だった。婿養子でもあったためか尚更腰が低くそんな父親を彼女は軽蔑していた。
セシリアが男性に対して当たりが強かったのもそれが原因であった。
だが、この学園に来てそうではない男性に二人も出会った。
一人は織斑一夏。セシリアに怯むこともなく強い目をした男性。
そしてもう一人が道野翔介。自分の弱さを認めながらも諦めない勇気を持った男性。
「世界は広いですわね…」
「えっと?」
なにかしみじみと考えているセシリア。
「わかりましたわ。続けましょう。その代わりに…」
フフッと笑うセシリア。
「わたくしも本気を出させてもらいますわ!」
そう言うと同時にセシリアのISから四基の銃口が浮き上がる。
これこそが彼女のIS・ブルーティアーズの名前の由来たる装備。遠隔無線誘導型のビット兵器だ。
「行きなさい!」
セシリアの合図で四基のビットが襲い掛かる。
翔介は打鉄を翻す。
ビットのレーザーを一つ、二つと避ける。
だが避けた先で他の二基からのレーザーを受ける。
先程はああ言ったもののいまだこの状況を脱する手立てがない。
焔備でビットを撃ち落とそうとするも一つに狙いを定めている間に他の三基からに狙い撃ちされる。
かといって避けに徹していてもただジリ貧になるのは見えていた。
そうこうしていると追い詰められる。
四方をビットで囲まれ、目の前にはセシリアがいる。
「さあ、これで終わりといたしましょう」
焔備は既に弾切れ。葵で斬りかかろうとしてもその前に撃ち落とされるのがオチだろう。
やはり地上だけでは躱し続けるにも限界があった。
「やっぱり空か…」
空を見上げる翔介。
はるか遠くの青空。
楯無はISを動かすのはイメージが大事だと言った。時間が足りずに飛行訓練ができなかったのだがそれは言い訳でしかない。
ギュッと体操服の下にしまったお守り袋を握る。IS越しなのにポウッとまた温かさを感じた。
その時、ふと幼い頃の大切な思い出が蘇る。
あの遠い場所からやってきた友達との思い出。
まるで時がゆっくりになったような感覚。自分を囲むビットの銃口にレーザーが収束している。
カッとレーザーが翔介を襲う。
これだけの一斉射撃。受ければ試合は終わる。
しかし、そこには弾の切れた焔備だけが残されていた。
全方向からの射撃。避けられる方向は限られてくる。
「まさか……」
翔介は目を閉じていた。
風と妙な浮遊感を感じる。
恐る恐ると目を開く。
視線の先にはどこまでも続く青空。
風を切ってあの青い空へと昇っている。
「飛んでる…僕、空を飛んでる…!」
翔介はそのまま大空へと昇り。
『どこまで飛んでいくつもりだ、さっさと戻ってこい』
千冬からの通信でハッと気づく。
気付けば先ほどまで試合をしていたアリーナから随分離れていた。
アリーナへ戻ろうと打鉄の向きを変える。
少しフラフラと飛びながらもアリーナに戻ることができた。
「まさかこの土壇場で飛ぶなんて…」
セシリアが追い打ちをかけることなく話しかける。
心底信じられないといった様子だ。
「気を抜いたら落ちそうだけどね」
翔介の言う通り夢中で飛んでいたときは普通に飛べていたが、意識するようになると時々ガクッと態勢を崩してしまう時がある。
「今日は本当に驚かされてばかりですわ」
ですが、と続ける。
「まだ続けますわよね?」
「うん、最後まで」
「では行きますわよ!」
セシリアがスターライトmkⅢで狙撃する。
今度は左に躱す。それをビットが追いかけてくる。
飛べるようになったが優位になったわけではない。それどころかスタート地点に立った訳でもない。
それでも一矢報いたかった。
そこでふと地面に転がるある物が見えた。
翔介が地面に着地する。それと同時にビットの射撃が彼の周囲ごと薙ぎ払う。
その衝撃で濛々と土煙が立ち込める。
「終わりましたわ」
そう呟きスターライトmkⅢを下ろすセシリア。
しかし次の瞬間、警告音が響く。
それとほぼ同時に土煙の中からバッとセシリアめがけて飛んでくる。
「不意打ちのつもりでしょうが!」
それを躱してすぐさまビットの照準を合わせる。
「甘いですわ!」
ビットのレーザーがそれを撃ち落とす。
「……なっ!?」
しかしセシリアは驚愕で目を見張る。
セシリアがビットで撃ち落としたのは不意打ちで飛び出してきた翔介ではなく、地面に転がっていた焔備。
観戦していた生徒たちもざわめく。
「だああああああっ!!」
呆気に取られて反応が遅れてしまった。
セシリアの背後から翔介が葵を振りかぶる。
「くっ!」
スターライトmkⅢで葵を受け止める。だが不意打ちで耐性を崩してしまったのが悪かった。
翔介の葵がスターライトmkⅢを弾く。
「や、やった!」
「お見事ですわ。完全に虚を突かれました」
驚愕の表情であったセシリアだが、にやりと笑う。
「ですが」
ブルーティアーズの腰パーツが翔介を捉える。
「隠し玉という物は残しておくものですわ」
腰パーツからミサイルが飛んでくる。
「え」
眼前に迫ったミサイル。
「それは予想が…」
ズンッとミサイルは打鉄の真正面に命中し爆発。
「いいいいいいいいいぃいいいぃぃぃぃ‼‼?」
翔介はそのまま地上に墜落。
目を回して気を失った。
『勝負あり。勝者セシリア・オルコット』
千冬のアナウンスにより長いようで短かった二人の試合は終わった。
本日はここまで。
セシリア戦もこれで終了。
結局敗北となりましたが、彼の中で一つの壁を乗り越えました。
これから先どう成長していくか、ぜひよろしくお願いします。