「…取り乱したわ、ごめんなさい」
「い、いえ…」
なんとか落ち着きを取り戻した楯無が決まりの悪そうな顔で言う。
振り回されて乱れた制服を直す翔介。
虚が抑えてくれなかったらもっとひどいことになっていたのではないだろうか。
「会長は簪様のことになると見境が無くなることがあります。もう少し落ち着いていただきたいものですが」
「だから悪かったわよ」
少しこの生徒会のパワーバランスが見えた気がする。
「と、とにかく書類の方は問題ないわ。訓練の方も明日から今までと同じようにやっていくわよ」
「よろしくお願いします」
これで諸々の手続きは終わったようだ。
「そういえば道野君。この後何かパーティーがあるのではなかったですか?」
本音から聞いたのだろうか。
そうすると楯無の目が輝きだす。
「え、パーティー?」
「会長は仕事を片付けてください。そもそも一年生のパーティーなんですから会長が混ざっていいわけなでしょう」
「虚ちゃんのケチ…」
口を尖らせる楯無。
このお師匠さまは子供なのか大人なのかいまいちわからない。
「あの生徒会の仕事ってそんなに大変なんですか?」
「うちの生徒会は他所の学校とは少し違くてね。やることは多いのだけど、今年は特にね」
どういうことだろうと考えたが、今年は例外があった。
織斑一夏と道野翔介という二人の男性生徒の入学。これだけのことだが、世界中が騒ぎ立てた一大事。その対応に生徒会も追われたのだろう。
「もしかして仕事が溜まっているのも僕が訓練をつけて欲しいって言ったからですか?」
「え?」
ただでさえ多忙であろう生徒会の仕事にさらに翔介の訓練が重なってしまったため仕事が溜まってしまったのではないだろうか。
これからも楯無の厚意で訓練を続けてくれるというがそれではさらに生徒会の仕事が滞ってしまうのではないだろうか。
それなら翔介にも何かできることがあるのではないだろうか。
「お師匠さま、僕にも何か手伝えることないですか?」
「み、道野君? 別にそんなことは…」
虚が何か言いかけるがそれを制する楯無。
「手伝うというのは…生徒会の仕事をってことかしら?」
「はい。訓練してくれるならせめて少しでも力になれれば」
ふうんと扇子を顎に添える。
「か、会長。まさか…!」
「いいじゃない、虚ちゃん。生徒会の人数も少ないんだから少しでも人手が多いほうがいいわ。それに本人たっての願いなんだから」
虚がなにやら慌てている。
「それなら翔介君。お手伝いと言わず正式に生徒会に入らないかしら?」
「お嬢様!?」
「生徒会に僕がですか?」
「ええ、翔介君が手伝ってくれればそれだけ私も訓練のための時間が割けるようになる。生徒会も万年人員不足だから私たちも助かるわ」
勿論いきなり難しい仕事は任せないと続ける。
生徒会に入るつもりはなかったが自分で言いだしたこと。それに楯無たちを手伝いたいという気持ちは本当だ。
「わかりました。それで少しでもお師匠さまたちの負担が減るなら」
「はい、決まり!」
『歓迎!』と扇子に書かれている。
どうやら喜んでくれたようだ。しかし、何故か虚はあちゃーとこめかみを抑える。
申し訳なさそうに虚が翔介に話しかける。
「すいません、道野君」
「いえ、僕の方こそお世話になってますから」
「…そうですね、これから頼りにしています」
「はい!」
実をいえば楯無の仕事がたまるのは彼女がほっぽり出すことが多いからだ。
勿論、楯無自身にも色々事情があり仕事ができないこともあるが割と自業自得な部分も多い。
ただそれを伝えなかったのは翔介自身の厚意は間違いなく本物であり、そこに水を差すようなことをするのはなんとも気が引けたからだ。
それに生徒会の人数が足りないのは本当のことだった。
まあ、あえて言わなかったというのもある。
どうせすぐにバレるだろうし。
そう思う虚の視線の先には得意げに生徒会の仕事を説明する楯無とそれを真剣に聞いている翔介がいた。
話し合いも終わりそろそろ翔介が生徒会室を退出しようとすると楯無が呼び止める。
「翔介君」
「はい?」
「簪ちゃんと仲良くしてあげてね」
先程その妹のことで暴走していた人の台詞とは思えない。
「迷惑じゃないですか?」
「最初は借りてきた猫みたいに警戒されるかもだけどね…あの子、人付き合いが苦手だから」
楯無の言う通り彼女とは今までの会話というと挨拶くらいしかしてこなかった。
部屋の中でも布団をかぶって空間ディスプレイを操作している姿しか見ていなかった。
「……まあ、私のせいなんだけど……」
「はい?」
何かボソッと呟いたように聞こえた。
簪の話をするときの楯無は楽しそうに笑う時もあるが、辛そうに顔を曇らせる時がある。
「なんでもないわ。ほら、パーティーがあるんでしょ?」
行った行ったと扉を指差す。
「は、はい」
翔介は楯無に促され生徒会室を出て行った。
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生徒会室を退出するといそいそと食堂へと向かう。
思った以上に時間がかかってしまった。
食堂からは既ににぎやかな声が聞こえてくる。
「お、翔介!」
食堂に入ると真っ先に一夏が手を上げる。
それに気づき他のクラスメイト達も翔介に気付く。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「気にするなって、こっち座れよ」
一夏に呼ばれその隣に座る。
テーブルの上にはお菓子や軽食が広がっている。
「手続きってそんなに時間かかったのか?」
「うぅん、手続きはすぐに終わったんだけどね。生徒会に勧誘されて」
「生徒会? お前、もうそんなのに入ったのか?」
「うん、誘われてね」
「へぇ、翔介凄いな」
二人でそんな話をしていると一夏を呼ぶ声がする。
「おっと、悪い。ちょっと行ってくるな」
「うん」
一夏と離れるとそれと入れ替わるようにセシリアがグラスを持ってやってくる。
「お疲れ様ですわ、翔介さん。こちらをどうぞ」
手渡されたグラスを礼を言いながら受け取る。そのままセシリアは翔介の向かいの席に座り、グラスを傾ける。
中身はジュースなのだろうが優雅な仕草が大人っぽく見える。
「どうかしましたか?」
「え、あ、オルコットさんが随分と大人っぽく見えたから」
「あら、お上手ですこと。わたくし本国でパーティーはよく行っていましたので」
こういった賑やかなパーティーはあまり来たことはないと付け加える。
「へ~…。オルコットさんってもしかしてお金持ち?」
日本と違い外国ではパーティーとは割と良くあることなのだが、翔介にとってパーティーというとお金持ちの集まりというイメージがあるようだ。
「お金持ちといいますか、実家が貴族でして」
「貴族!? 凄い!」
「そんなに凄いものではありませんわ」
翔介の反応に笑うセシリア。
それを見ているとやはり最初の頃の態度からは想像できない変わりっぷりだ。
「なんだかオルコットさん、変わった?」
「何がですの?」
「えっと、ほら、最初は凄く怒ってたっていうか…」
「あ、あれですか…」
翔介が言うとセシリアは苦い顔をする。
「あのことは本当に申し訳ございません」
そう言って頭を下げる。
それを見て慌てて翔介が手を振る。
「ああ、いや! 別にそういう意味じゃなくて! ただ何かあったのかなと思って」
「そ、それは…」
すると今度は顔を赤らめ、視線を泳がせる。
そしてその視線は他のクラスメイト達と会話をする一夏へ。
んん?
翔介の第六感が何かを感じ取る。
「え、あれ…? オルコットさん、もしかして…」
「織斑君の事、好きになったの?」
「な、ななななな何を言いますの!?」
その反応で確定した気がする。なにせ箒と同じ反応をしている。
「いつから?」
「そ、その…」
セシリアの話によれば。
男性を蔑視していたのだが、一夏との試合の中で自身の考える理想の男性の姿を見たという。
「そっか、織斑君が理想の男性か」
「はい…あの翔介さん…」
「どうしたの?」
「わたくし、どうするべきでしょう?」
「え」
答えに困る質問がきてしまった。
「どうするって?」
「わたくしはこの想いを秘めるべきなのでしょうか?」
「え、秘めるってどうして?」
想像とは斜め下の質問がきた。てっきりどんな風にアプローチすればいいのかとか聞かれるのかと思っていたがまさか隠すべきかと聞かれるとは思っていなかった。
「知っての通りわたくしは男性を蔑視してあのような態度を取ってしまいました。第一印象最悪ですわ。それなのにこの想いを向けてもいいのでしょうか…」
沈痛な面持ちのセシリア。本当に想像以上の質問だ。
しかし適当に答えられる質問ではない。
「つまり…嫌なことしちゃったのに好きでいちゃ駄目ってこと?」
「え、ええ…」
「うーん…」
翔介は顎に指を添え思案する。
そんなことないよ、と言うこと自体は簡単ではある。
だがそもそも彼は箒を応援すると言ってしまっている。ここでセシリアに何かアドバイスすることは箒に対して嘘をついてしまったことになるのではないだろうか。
とはいえ、だ。
「えっと…オルコットさん、織斑君のことを考えるとどうなる?」
「一夏さんの事ですか? それは…名前を呼ぶとこう、胸の奥がキュッと締め付けられて痺れると言いますか…」
「じゃあそれを織斑君に言わずにずっと隠せる? 織斑君は他の女の子と仲良くなるかもしれないけど」
「それは…」
そう言ってしばらく考え込む。
たっぷり十秒くらい思案し。
「それは嫌、かもしれません…。想像しても胸がモヤモヤして、切なくて…」
「そっかぁ…」
その様子はまさに恋する乙女。
「それなら隠すことないよ。それでも抵抗があるなら、まずは謝ろう。織斑君もちゃんと謝れば怒るような人じゃないよ。オルコットさんは僕に謝ってくれたくらいなんだから難しくないよね?」
「え、ええ…」
「ほら、それならもう気後れする理由はないはずだよ?」
「あ…」
「好きって気持ちは無理に隠す必要はないと思うよ」
翔介は足りない語彙ながらも必死に答えをひねり出す。
これで少しでもセシリアの恋の重荷が軽くなってくれればと思う。
「そうですわね…諦める理由なんてありませんわ」
キラリと瞳が光り、美しい金髪を翻す。
「ありがとうございます、翔介さん。お陰で心が軽くなりましたわ」
「うぅん、少しでも力になれたなら良かったよ」
どうやらすっかり悩みはなくなったようだ。
箒には申し訳ないがこれくらいなら許して欲しい。
「こんなことチェルシー以外に相談できるとは思いませんでしたわ」
「あはは…」
「翔介さん、これからもよろしくお願いしますわ」
「うん。僕でよければ」
では失礼します、と言ってセシリアは一夏の下へと歩いていく。
もう心配はなさそうだ。
その背に手を振る。
「これからも?」
今更ながらとんでもないポカをやらかしたことに気付いた翔介だった。
二日ほど開けての投稿になりました。
翔介、生徒会参加。
同時にセシリアの相談役就任。
やってしまった感のある翔介。
彼の未来はどっちだ!