短期間でお気に入りやしおりが増えて嬉しい限りです。
やはり原作元の人気の高さがうかがえます。
一夏のクラス長就任パーティーから一夜明け本日は入学から初めての休日。
外出許可を取り街に繰り出す者、部屋で一日中ごろ寝する者、ISの自主訓練を行う者など過ごし方は様々だ。
そして翔介はと言うと。
「んあ~~…どうしよう…」
絶賛頭を抱えていた。
前日、セシリアの恋の相談に乗ってしまったことでいまだに罪悪感に苛まれていた。
別に恋の悩みを聞くこと自体は何でもないのだ、むしろ少しでも相手の悩みを解消できるのなら力を貸すこともやぶさかではない。
だが、セシリアの恋の相手は一夏だった。
箒と見事にかぶってしまっている。これが相手が他の男性だったのであれば何も悩むことはないのだが二人とも一夏に好意を抱いている。
そもそもこのIS学園自体、男子生徒は一夏と翔介しかいない。そうなればこうなることも想像することは難しくなかった。
その恋が打算的なもの、例えばお金目的とか自分の箔付けのためとかだったなら翔介も遠慮なく断ることはできた。
しかしセシリアの一夏への想いは間違くなく真剣なものであり、切ないと告げたあの表情を見れば力を貸さないという選択肢が出てこなかった。
その結果、こうやって頭を抱えることになることになってしまったのは自業自得ではあるのだが。
「どうしたの?」
うんうんと唸っていると、隣のベットに座って空間ディスプレイを操作していたルームメイト・更識簪が声かけてくる。
「あ、ごめんね。うるさかった?」
簪は首を振る。
とはいえ隣で唸られていい気はしないだろう。気をつけようと反省する。
「ちょっと自分の考えの足りなさに悩んでたというか」
あまり詳しく話すわけにもいかず曖昧に濁す。
「ふぅん…?」
簪はそう呟くとまたディスプレイに目を向ける。
もう一つ、翔介は気になっていることがあった。それが彼女の事だった。
更識簪。師匠たる楯無の実の妹。
姉と同じ空色の髪は彼女より少し長い。双眸は赤に近い紫色だろうか。
快活な楯無とは違い、大人しい印象を受ける。
昨日の楯無の様子から見れば相当溺愛していることがわかる。
それでありながら何故か一緒にいる姿を見たことがない。あれほどの溺愛っぷりなら四六時中くっついてそうな気もするが。
昨日見た楯無のあの暗い表情に何かあるのだろうか。
「何…?」
じっと見過ぎたようで怪訝な表情で翔介を見る。
「あ、いや、更識さん。いつも何見てるのかなって」
「別に…。後、あまり名字で呼ばないで」
不機嫌そうにそっぽを向く。
取り付く島もないとはこのことか。
「ご、ごめんなさい」
「別にいいけど…」
そういうもやはり機嫌は良くなさそうだ。
名字で呼んでほしくないというが何か理由でもあるのだろうか。
微妙な空気が流れ、困惑しているとチラリと彼女が見つめる映像が見えた。
そこに映し出されていたのは悪者と戦うヒーローの姿。
「あ、それ」
「え…?」
それは一昔前に子供たち、特に男の子たちを魅了したヒーロー番組だった。
単純明快かつ勧善懲悪と言う分かりやすさが子供たちの心をがっしりと掴んだのだ。
翔介もまたその一人だった。
「知ってるの?」
「うん、子供のころ観てたよ」
娯楽の少ない田舎の故郷。新しい物が手に入りにくい故郷で唯一流行に触れられるもの。それがテレビであった。
毎週放送日には急いで学校から帰り、テレビの前で待っていた。
ただ唯一残念な点は数話分遅れて放送することだろうか。
「変でしょ…」
「え、そうなの? 」
「だって、これ男の子が観る物だし…」
確かにヒーロー物のメインターゲットは男の子である。
実際に主人公は男性であるし、女の子向けのアニメ作品もある。
「別にそんなことないと思うけど」
だが翔介からすればあまり気にすることでもなかった。
そもそも翔介は古い少女漫画なんかも愛読していたから尚更気にする理由がなかった。
「更識さ、あ、えー、こういうの好きなの?」
「……好き」
「僕も今でも好きだよ。強くて、優しくて、カッコよくて」
「…うん」
そう言って思い出を語る翔介。
実は簪にとってヒーローが好きなのは翔介の語った理由だけではない。
ヒロインを助けてくれるヒーロー。
そんなヒーローに彼女は憧れていた。
だけどそんな憧れも彼女の心に暗い影を落とす原因だった。
「でもやっぱり変でしょ…」
「なんで?」
「…ヒーローなんていないってわかってるのに…」
これは所詮アニメ。フィクションの世界。
どんなに憧れても存在などしない。だけどそれでも憧れは止めらない。
「いるよ」
「え?」
「ヒーローはいるよ」
翔介の予想外の台詞。
「会ったことがあるから」
「会ったことが、ある…?」
冗談でもからかっているのでもない。
本気でそう語っている。
「それってどういう…」
「あっ!」
唐突に翔介が声を上げる。
「ごめんね、用事があるのすっかり忘れてた!」
そう言っていそいそと準備を整えていく。
すっかり話し込んで忘れてしまっていたが、今日から生徒会の仕事をすることになっていた。
初日から遅刻なんてしたら楯無に何をされるか分かったものではない。
「行ってきます!」
どたどたと部屋を出ていく翔介。
「あ…行って、らっしゃい…」
呆気にとられる簪。
ヒーローに会ったことがあるという彼の言葉。いったいどういう意味だろうか。
慰めでも何でもない本当にそうだと信じている言葉。
「帰ってきたら…聞いてみようかな…」
ディスプレイには丁度アニメのエンディングが流れていた。
---------------------------------------------------------
結果から言って遅刻は免れた。
あと数分遅れてたらお仕置きだった。
一体何をされるところだったのだろうかと冷や汗が出る。
翔介の役職は庶務。
庶務と言えば聞こえはいいが実際のところは虚や楯無の手が回らない雑務関係をやることが仕事だ。
そして最初の仕事は用務員の仕事の手伝いだった。
用務員は轡木十蔵と言う壮年の男性だ。学園の性質上、教員も女性ばかりなのだがその中でも珍しい男性職員だった。
楯無の話では柔和で親しみやすい学園の良心ともいえる人物らしい。
その評価の通り、初めて会う翔介にも気さくに話しかけてくれた。
その柔和さは翔介と似通ったところもありすぐさま意気投合。
今は倉庫から花壇にやる肥料を運ぶよう頼まれていた。
手押し車に肥料の入った袋を乗せて花壇へと向かう。
一袋の重さはなかなかあるが、故郷では畑仕事を手伝っていたためこれくらいはなんともない。
「ねえ、ちょっとあんた」
肥料を運んでいると誰かが声をかけてくる。
何かと思い振り返る。するとそこには小柄なツインテールの少女が立っていた。
翔介もけして身長が高い方ではないがそれ以上に小さい。
だがキリッとした眉や爛とした瞳は気の強さを感じさせる。
「職員室ってどこ行けばいいかわかる?」
「あ、職員室なら」
と翔介が職員室の行き方を教える。
少女はふんふんと頷く。
「そう、わかったわ。ありがと」
するとじっと翔介を見つめてくる。
「あんたね。もう一人の男って」
「え、僕?」
もう一人の男。この言葉の差すところはおおよそ想像がつく。
「ふ~ん……思ったより普通ね」
また普通と言われた。
いや、翔介自身も自分は取り立てて凄い部分はないと思ってはいるのだが。
「あ、名乗り遅れたわね。あたしは凰鈴音。中国の代表候補生よ。まあ、転入生ってやつね」
「転入生? この時期に?」
「い、色々あったのよ」
転入するには余りにも期間が中途半端な気がする。
しかしセシリアに続く候補生。
ということはこの鈴音と名乗った少女はかなりの使い手ということになる。
「凰さん、凄い人なんだね…」
「ふふん、そうでしょそうでしょ。あ、あたしのことは鈴で良いわよ」
「僕は道野翔介。よろしくね、凰さん」
「鈴で良いって言ってんでしょ」
少しムッとしたように口を尖らせる。
「あ、その、ごめんなさい。会ったばかりの人のこと名前で呼びにくくて」
「ふ~~ん…ならいいわ」
ムッとしていた割にはスパッと納得したようだ。
随分とさっぱりとした性格のようだ。
「そうだ、翔介。あんた、織斑一夏って知ってる?」
「え、うん。知ってるよ、同じクラスでクラス長してるよ」
「クラス長。ってことは確か来週のクラス対抗戦ってのに出るのよね」
転入生ではあるがどうやらこちらの行事については既に把握しているようだ。
「うん、そうみたい」
「そっかそっか、丁度いいわね」
「丁度いい?」
「こっちの話よ」
それじゃあと言って職員室に向かっていった。
一夏のことを随分と聞いていたようだが、彼の知り合いなのだろうか。
それとも世界初の男性操縦者だから興味があるのか。
悪い人物ではないのだろうが、何故だろう。
嫌な予感がする。
言い知れない何かを翔介は感じていた。
と言うことで鈴登場。
原作一巻の後半に入っていきます。
他にも簪が正式に登場。
翔介が話した『ヒーローに会ったことがある』という言葉。
この真意とはいかに。