インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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14話

さらに一日が経ち月曜日。

昨日は鈴と別れた後、肥料を花壇に届けた後は一緒に土いじりをして終わった。

果たして生徒会の仕事なのかは疑問であるが土いじりは故郷を思い出して都会にいることを忘れて楽しめた気がする。今思えば楯無の計らいだったのかもしれない。

 

すっかり疲れて寮に戻った後はシャワーを浴びてすぐに眠りこけてしまった。

久しぶりにゆっくり眠れた気がする。

そういえば眠る前に簪が何か言いたげだったが何だったのだろうか。

 

今日も今日とて座学。

覚えることが多く、置いていかれないようにするのが精いっぱいだ。

しかし今日はクラスが少し浮足立っているような。

 

 

休み時間。

 

「織斑君! クラス対抗戦、期待してるからね!」

 

「頼んだわよ! クラスの夢が掛かってるから!」

 

一夏に詰め寄るクラスメイト達。

そんなに対抗戦は情熱を燃やすものなのだろうか。

 

「な、なんのことだ?」

 

「どうしたの、みんな」

 

「なんとクラス対抗戦優勝クラスには学食デザートのフリーパス半年分が進呈されるんだよ!」

 

なるほど、それが目的だったか。

恐らくは楯無の提案だろう。景品を設定したほうがやる気が出ると考えたのだろう。教師陣が止めない辺り公認なのだろう。

 

「年頃の女子にとってスイーツは正義なんだよ!」

 

「そう、だからこそこの戦いは聖戦! 正義を求める戦い!」

 

「そして織斑君はその正義をつかみ取る勇者!」

 

前々から思っていたがここのクラスメイト達は随分とノリがいい気がする。

クラス内の団結が強いという意味でもあるのだろうが。

 

「お、おう」

 

一夏もクラスメイト達の勢いに押されているようだ。

 

「まあ、でもクラス代表っていっても専用機持ちは織斑君だけみたいだし」

 

「これは楽勝でしょう」

 

確かに現在一年生で専用機を持っているのは一夏とセシリアのみ。翔介も専用貸し出しという名目ではあるが実際は専用機持ちとして数えてもいいだろう。

どちらにせよ専用機を持つ生徒は全員同じクラスに集中している。

 

専用機。特に個人用に作られたISと量産型の差は大きい。

勿論経験次第ではあるだろうが、今の時期であればそれほど大きい経験の差もないはず。

であるならば、特定の専用機を持つ一夏の勝率は非常に高いだろう。

 

それに一夏の乗る白式には既に単一仕様能力。ISが持つ特殊能力のようなものを既に使用できるらしい。

前回の試合の後に聞いた話だが白式の単一仕様能力は相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられるというまさしく対IS能力という物。

まだISにわからないことが多い翔介でもこの能力の強さはよくわかる。

 

 

 

「その情報、古いよ」

 

 

つい先日聞いたことのある元気な声が聞こえてきた。

教室のドアには翔介が昨日出会った鈴が勝気な笑みを浮かべていた。

 

「二組も専用機持ちが代表になったの。そう簡単に優勝はできないわ」

 

「あ、あの子」

 

「お前、鈴か?」

 

「そう。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告しに来たのよ」

 

腕を組み、不敵に一夏を見る。

 

「おうおう、一人でカチコミたぁいい度胸だ!」

 

「先生、やっちゃってくだせぇ!」

 

そう言って一夏の背を押す。

血の気が多いのもこのクラスの特徴なのだろうか。

 

「なんで俺なんだよ!?」

 

「織斑君はクラス代表でしょ! ささっ、ズンバラリンとやってください!」

 

抵抗する一夏にヒートアップするクラスメイト達。

その様子を見ていた鈴の笑みが少しヒクッと引きつる。しかし、すぐさま余裕のある笑みへと戻すと。

 

「ふっ、そう焦るんじゃないわよ。今日は宣戦布告って言ったでしょ。決着はきっちりクラス代表戦で着けてあげるわ」

 

 

「鈴、なにカッコつけてんだ? すげえ似合わないぞ?」

 

 

「はぁ!? あんた、なんてこと言うのよ!?」

 

余裕の表情は一夏の一言であっさり崩れた。

それにしてもやはり一夏の知り合いだったようだ。

 

「んん…まあ、いいわ。あんたには色々と言いたいことが」

 

 

「それは授業を妨害してでも言うべきことか?」

 

 

ビクッと鈴の身体が跳ねる。

その背後には冷たい表情で彼女を見下ろす千冬がいた。

 

「ち、千冬さん…!?」

 

スパンっ!

千冬の出席簿が鈴の頭部に振り下ろされる。

 

「織斑先生だ。さっさと自分のクラスに戻れ」

 

「は、はい!」

 

叩かれた頭を押さえつつ千冬の横を通り抜ける。

怖いもの知らずに見えたが、どうやら千冬が苦手なようだ。

そもそも千冬が得意だという人物がいるのかは甚だ疑問だが。

 

「一夏! 後でまた来るからね! 逃げんじゃないわよ!」

 

そう言い残して自分のクラスへと戻っていった。

 

「なんだったんだ、鈴の奴」

 

「なんだか話が合ったみたいだねっ!?」

 

翔介の声が裏返る。

 

「なんだよ、翔介?」

 

首をかしげる一夏。翔介は彼の後ろを指差す。

 

「私も話があるぞ、一夏」

 

「ええ、わたくしもですわ、一夏さん」

 

一夏の背後に二人の羅刹がいる。

 

「授業を始めるぞ、さっさと席に座れ馬鹿者ども」

 

修羅場になるかと思ったが千冬のお陰で何とか回避できたようだ。

 

しかし先程の鈴の様子を見たが、やはり何かを感じる。

それも今さっきまで一夏の背後で殺気を放っていた二人と同じような何かを。

 

 

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放課後。

日課になってきた楯無との訓練も終わった。最近では訓練時間も長くなり、そこそこ本格的な訓練ができるようになってきた。

今は寮の食堂で夕食を食べに来ていた。

 

だが何か様子がおかしい。生徒たちで賑わっている夕食時の食堂のはずが静まり変えている。

何事かと食堂を見渡すと、すぐに原因が分かった。

 

「………!!」

 

食堂の中央席。

そこには不機嫌な様子で担々麺を啜っている鈴がいた。

かなりイライラしているようでその周りだけ人が避けるようにぽっかりと空いている。

 

宣戦布告しに来た後の昼休み。

一夏が一緒に食べようと言ってきたが怖い形相の箒とセシリアに捕まった。

助けを求められたがあの二人を止める勇気はなく、一夏は連れていかれた。

 

その後何があったかはわからないが、どうやらよほど腹に据えかねることが起きたようだ。

 

流石に藪をつついて蛇を出すわけにはいかず、周囲に倣い避けて座ることにした。

 

 

グスッ…。

 

 

そっと鈴の横を通り過ぎようとした時に聞こえた。

改めて鈴を見る。

腹立たしそうに担々麺をかっ込む。だが少しだけ見えた。

クリっとしたその瞳の端に涙。

 

 

 

「ねえ、凰さん。相席しても良いかな?」

 

 

声をかけてしまった。

じろりと翔介を見上げる鈴。

 

「席ならいくらでも空いてるじゃない」

 

「じゃ、じゃあ一緒に食べてもいいかな?」

 

さらにじっと見つめる鈴。半ば引きつり笑いの翔介。

周りからは「無謀な…」「骨は拾おう」「偉大な英霊に敬礼」などと不穏な台詞が聞こえる。

 

「……さっさと座りなさいよ」

 

「あ、ありがとう」

 

なんとかお許しが出たようだ。

鈴の前にトレーを置き、席に着く。余談だが今日の夕食はカレーライスだ。

だが席に着いたはいいが無言の時間が続く。

しかしこのまま本当に食事だけで終わるわけにはいかない。

 

「えっと、凰さん?」

 

「……何」

 

「何かあった? 随分と不機嫌みたいだけど…」

 

「…………」

 

黙り込む鈴。

だがなんとなくだが想像は付いていた。

 

「もしかして、織斑君?」

 

ぴくッと箸を持つ指が動く。

どうやら当たりらしい。

 

「…あんたには関係ないでしょ」

 

「まあ、そうなんだけど…関係ない人間相手だからこそ話しやすいこともあるんじゃないかなって」

 

これでも駄目ならこれ以上は聞かないでおこう。

そう考えて鈴の返事を待つ。

 

「……ねえ、翔介」

 

担々麺をテーブルに置き、語り始める。

どうやら話してくれるようだ。少しホッとしながら彼女の話を聞く。

 

「あんた、これから毎日酢豚を作ってあげるって言われたらなんて思う?」

 

「酢豚? これから毎日?」

 

豚なのは中国出身だからなのだろう。

でもこの文言はなんとなく聞いたことがある。

 

「日本風で言えば味噌汁よ」

 

「ああ、プロポーズだね」

 

翔介の予想は当たっていたようだ。

中国流のアレンジなのかはわからないが、大体の意味は理解できる。

 

「そうよね、そう聞こえるわよね」

 

でもと言うと箸を両手で握りこむ。

 

「あいつ、なんて言ったと思う?」

 

「あわわ…」

 

「これから毎日酢豚を『奢ってやる』…?」

 

握りこまれた箸がミシミシと悲鳴を上げ始める。

 

 

 

「誰がそんなこと言ったあああああ!!」

 

 

 

ベキィッ‼

箸が四等分にされた。

おお、織斑よ。汝はどうしてトラブルを呼び込むのか。

入学して一週間ちょっと。これで三度目だ。

 

「お、落ち着いて凰さん」

 

「ふーっ…ふーっ…」

 

興奮冷めやらぬ鈴。

水を差し出すと一気に飲み干す。

 

「そっか、凰さんも織斑君の事好きなんだ…」

 

「も?」

 

「あっ」

 

どうやら口が滑るのは翔介も同じのようだ。

 

「な、なんでもないですよ?」

 

必死に隠すが鈴はため息を吐く。

 

「別にいいわよ。わかってるから」

 

「わかってる?」

 

「あのファースト幼馴染とかいう子と金髪おっぱいでしょ」

 

「き、金髪おっぱい?」

 

名前は言っていないがセシリアの事だろう。

ファースト幼馴染は箒。先程チラリと聞いたが箒と鈴はそれぞれ入れ替わるように一夏と出会ったようでその順番からファースト幼馴染、セカンド幼馴染らしい。

 

「ま、まあ、やっぱり織斑君絡みなんだね…」

 

「そうよ。あいつ昔からああなんだけど…」

 

また落ち込みだす。アップダウンが激しい。

鈴の怒りは最もではあるだろう。彼女の言葉を聞いて奢りと勘違いする方が難しい気もする。

しかし一夏の性格を知っているとなんとなくわかってくることも。

 

「そ、そのね。僕の考えだけど織斑君相手には持って回った言い方はあまり良くないんじゃないかな?」

 

「そんなの分かってるわよ…でも…」

 

「でも…」

 

自分の思ったことはズバッと言う性格なのが鈴だ。

そんな彼女が回りくどい言い方をする理由。

 

 

「あたしだって素直に言えたらって思うわよ…でもあいつを前にするとどうしても憎まれ口が出るのよ…」

 

 

ああ、これはいけない展開な気がする。

つい先日も、この食堂で似たようなことがあった気がする。

でもやはり無視なんてできるはずもなかった。

 

「好きな人に素直になれないっていう気持ちはしょうがないと思うよ」

 

「しょうがない?」

 

「うん。それは多分凰さんの性分なんだろうし。ならさ…」

 

多分これを言ってしまったら後戻りはできない。

絶対に次の日悶絶している未来が見える。

 

 

「そのままの凰さんで織斑君にアプローチしていこうよ」

 

「はあ?」

 

「そしていつか織斑君が凰さんの気持ちに気付いたときに言ってあげるんだよ」

 

 

 

「『やっと気づいた? 随分遅かったじゃない』って」

 

 

なんの解決にもなってない答えだとはわかっている。

そもそも一夏に対して効果的なアプローチの仕方なんて想像がつかない。

ストレートに好意を伝えてもきっと別な意味に勘違いする気がする。

だから今は率直な答えは出さない、出せないとも言えるが。

だけど、どんなアプローチをするにしても彼女がやる気を出さなければ意味はない。

 

今は鈴を元気づける。それが第一だと考えた。

 

彼女は強気な少女なはず。

なら少しでも闘争心に火が点けばきっと立ち直るはずだ。

 

答えになっていない答え。

それでも今は必死に言葉を紡ぎだすべきだ。

 

「……あんた馬鹿ね」

 

ばっさり切り捨てられた。

 

「でも…悪くないわね、それ」

 

そういうと鈴の表情が笑みに変わる。

 

「あたしに惚れた一夏に思いっきり言ってやるってのも悪くないわね」

 

そう言うと鈴はニヤリと笑ったまま翔介を見る。

 

「あんた、乗り気にさせるんだから当然最後まで付き合ってもらうから」

 

「う、うん!」

 

「頼んだわよ、翔介」

 

勝気に笑う鈴はすっかり機嫌が直っていた。

本来の目的は果たせたようでよかった。

 

 

 

 

またやってしまった。

 

ああ、翔介よ。汝はどうして自らを死地に置くのか。

 




本日はここまで。

道野翔介、ある意味で三股完成。

斬られるか、撃たれるか、殴られるか。

彼の未来はどっちだ!
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