鈴との夕食から一日が経った。
「ぬああ~~……」
翔介は放課後の教室で頭を抱えて唸っていた。
どこかで見た光景だ。
またやってしまった。
これで箒、セシリア、鈴と三人の少女たちの協力者となった。しかも全員が同じ少年に向けての恋をしている様子。
言い訳をするとすれば、翔介は生来のお人好しだ。
その上、常日頃から人に優しく困ってる人を助けなさいと教え込まれてきた。その為もはや本能のようなものであった。
とはいえそれで自分が困っていては元も子もないのだが。
「ううぅ…どうしよう…」
そもそも、そもそもである。
「恋の応援ってどうすればいいの…」
翔介は初恋すらまだであった。
そんな自分がどうやって応援するのか。
それにセシリアはともかく、箒と鈴に関しては一夏のことを翔介以上に知っているはず。彼との付き合いも間違いなく長いだろう。
もしこれが3人に知れたら…。
『ほう…最初に私を応援するといったのだがな…』
『やはり男など信用できませんわね』
『あんた…潰すわよ』
駄目だ。どうあっても平穏に終わる気がしない。
「でもだからってこのままって訳にもなぁ…」
もう一つ翔介の性格を紹介するとすれば、彼は根っからの正直者だ。
嘘をついてもすぐにバレる。そもそもあまり嘘が好きではない。誰かのために吐く嘘ならともかく他人を騙すだけの嘘は好まない。
だからこそ三人に何も言わずこのまま黙り続けていていいものかと悩むのだった。
だけど同時に少し羨ましくも感じた。
あれだけ人に恋することができることが羨ましい。
翔介にとって恋愛とは映画や演劇だ。
それも自分は舞台に立つ役者ではなく、席から役者たちを見上げる観客だ。
自分には恋などできない。
いや、そもそも恋などは自分には縁がない。そう考えている。
だから一夏に恋心を寄せる三人は眩しい存在だった。
なんとか手伝ってあげたい。
そんな眩く輝く三人をなんとか手伝いたい。
八方美人。コウモリ。
自分でもわかってはいるものの、やはり見て見ぬ振りはできなかった。
三人とも彼を想う気持ちは間違いない。
それでも選ばれるのはその三人の内一人。
だけど純粋な好意を持つ三人の内、一人だけを応援するということもできなかった。
「はあぁ…」
ため息が出てくる。
ピロン
ため息を吐いていると制服のポケットに入れていた携帯が音を鳴らす。
ピカピカの携帯電話。元々高校に上がるときに買ってもらうことになっていたものだ。
メッセージは楯無から。
『クラス代表戦について打ち合わせがあるから生徒会室に十分以内に集合すること。遅れたら…』
遅れたらなんだというのか。
しっかり明記されていないのが尚更怖い。
悩みは尽きないが楯無からの罰ゲームは怖い。
急いで生徒会室へと向かうことにした。
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「遅くなりました」
生徒会室に入ると既に楯無と虚が待っていた。
制限時間以内に到着はできたはずだ。
「うぅん、時間以内よ。残念」
「残念ってなんですか」
このお師匠さまは事あるごとに翔介をいじり倒そうとしてくる。
油断できない人物である。
これが世に言うパワハラだろうか。
「それじゃあ全員集まったし打ち合わせ始めるわよ」
いそいそと翔介は自分の席に座る。
「今週末に迫った一年のクラス代表戦なのだけど、当日私はちょっと用事で学園を離れることになっちゃったから各種業務は二人に任せることになるけど大丈夫かしら?」
「用事ですか?」
「そう、女の子には色々とあるのよ」
また意地悪な笑みを浮かべる。
「会長」
虚が窘める。
楯無はムフフと笑いながらも話を続ける。
「業務と言っても大体の準備は終わってるし、他のことは教官方がやるしそれほど面倒な業務はないから心配しないで」
「困ったことがあれば私がフォローしますからね」
「それなら…」
始めはどうなるかとも思ったが虚が残ってくれるなら大丈夫だろう。
すると楯無が少し不機嫌そうな顔になる。
「なんか私より虚ちゃんへの信頼度高くない?」
「だってお師匠さま、しょっちゅうイジメてくるし」
「日頃の行いです」
「酷いわ、二人とも」
『よよよ』と扇子をもって泣いた振りをする楯無。
少しくらいは反省してほしいのだが。
「まあ、その話は置いといてと」
すぐにケロリといつもの彼女に戻る。
「次の議題、と言ってもクラス代表戦絡みだけど」
そう言って翔介に資料を渡す。
そこには各クラスの代表者の名前が載っていた。翔介のクラスは当然ながら織斑一夏の名前が記載されている。
「クラス代表戦の組み合わせも決まったから目を通しておいてちょうだい。他の生徒たちにも明日には発表されるはずだから」
そう言われ資料に目を通す。先日の宣言通り二組の代表者は鈴になっている。
そして肝心の組み合わせ。
「んん!?」
クラス代表戦第一回戦 織斑一夏VS凰鈴音。
まさかの組み合わせ。こうも早く二人が対峙するとは思いもしなかった。
「どうしたの?」
変な声を上げたせいで二人から注目されてしまった。
「あ、いえ、一試合目の組み合わせが」
「ああ、織斑君と編入してきた凰さんですね」
「一夏君の方は知っての通りだけど、彼女の方も専用機持ちね。初回から専用機持ち同士の試合とは教官陣も思い切ったわね」
「今年は既に専用機持ちが三人。あ、道野君もいれると四人でしょうか」
唐突に自分の名前が告げられる。
「え? 専用機持ちって僕もですか?」
「そうね。厳密に言えば専用貸し出しだから少し違うのだけど、扱いとしては他の専用機持ちの子と同じになるわね」
楯無によれば専用貸し出しだとISを優先的に使うことができたり、個人的なカスタマイズもできるようになるという。ただその代わり普通の専用機持ちのように待機モードとして携帯することができないようだ。
しかしそれを差し引きしても専用貸し出しは専用機持ちとほぼ変わらない扱いを受けるそうだ。
「そっか、専用機持ちか…」
自分には関係ないことかと思っていたが、自分も一夏たちと同じ立場であることが変な気分だった。
「優先的に打鉄を使えるわけだからこれからバシバシ鍛えていくから覚悟なさい」
「は、はい」
楯無に言われ、数日前の保健室での会話を思い出す。
セシリアに成す術もなく敗北し、初めて悔しさを覚えたあの日。楯無に強くなりたいと訓練を頼み込んだ。
楯無は快く今も訓練をしてくれている。
専用機持ちと同じ立場になるというのなら尚更真剣に取り組まなければいけない。
あの時と同じように『精一杯頑張ったと胸を張れるように』。
「そうだ、翔介君」
「はい?」
「クラス代表戦が終わった次の日曜日なんだけど、時間あるかしら?」
「え? 大丈夫だと思いますけど」
そもそもまだ立てられるような予定もなかった。
近々街に出てみたいとは思っているが。
「それならお姉さんとデートしない?」
「デートっ!?」
「お嬢様、あまりからかいすぎるとその内オオカミ少年になりますよ」
「あら、ならオオカミの格好でもしてみようかしら」
そう言ってガオッと手をワキワキとさせる。
どちらかと言えば楯無は猫寄りな気がする。それも凄くマイペースな猫。
「冗談はそれくらいにして。一緒に学園外にお出掛けしようっていうのは本当の事よ」
「お出掛けって何かあるんですか?」
「あなたに紹介したい場所があるの」
紹介したい場所。土地勘もない場所だから全く見当はつかない。
楯無に尋ねてみても当日のお楽しみと言われる。
「それに当たってなんだけど一つ質問いいかしら?」
「なんですか?」
またからかってくるつもりかと身構える。
虚の言う通り既にオオカミ少年化しているのではなかろうか。
「翔介君はISで何がしたい?」
「何がしたい、ですか?」
「そう。強くなりたいとかは別にしてISで何がしたいってあるかしら?」
「やりたいこと…」
「難しく考えなくていいのよ」
楯無に言われ、少し考えてみる。
ISでやってみたいこと。
「僕は……宇宙に行ってみたいです」
「宇宙?」
宇宙。人類にとって未開の領域。
元々ISは宇宙空間での活動を目的としたマルチフォーム・スーツ。
ハイパーセンサーやデータ通信ネットワークであるコア・ネットワークも当初は宇宙空間での使用を想定されていたもの。
現在では軍事転用や競技用としての意味合いが強くなり、本来の想定から外れてはいるが。
これらはIS学園に来る前に送付された教本やISについての授業で初期に学ぶものだ。
しかし、翔介はこれを聞いた時真っ先に思い至ったことがあった。
それが宇宙に行くということ。
「どうして宇宙なのかしら?」
「友達と…約束したんです。いつか宇宙に行くって」
遠い思い出。だけど大切な思い出。
今でこそ宇宙空間での使用という本来の目的は凍結状態であるが自分が目指すことで何か進展があるかもしれない。そう彼は考えたのだ。
「友達との約束で宇宙に行くね…」
翔介の言葉に楯無が目を閉じる。
「変、ですか?」
「いいえ、目標が高いことに悪いことはないわ。それにその答えなら充分よ」
「充分?」
「それも来週の日曜日にね」
そう言って笑う楯無。今度は虚も止めることなく一緒に微笑んでいた。
いまいち二人の笑顔の意図が読めない。
「じゃあ以上で打ち合わせは終了。時間も時間だし早く寮に戻ること」
結局楯無の真意を見抜くことはできないまま解散となった。
確かに時間は既に放課後を過ぎ、空は夜の帳が降りている。
その帳の中にはキラキラと星が瞬いていた。
そして、時間は過ぎ。
遂にクラス対抗戦が始まる。
本日はここまで。
箒、セシリア、鈴の三人を手伝うと言ってしまった翔介の苦悩。
自業自得とはいえ一体どう収めるつもりなのか。
そして、楯無の言う『紹介したい場所』とはいかに。
次回からはついに原作一巻クライマックスに突入します。