虚から格納庫で待機と言われ五分ほど。
あれから連絡はない。
謎のISからの襲撃を受けていると言っていたがどうなったのだろう。
時折地響きが起こっているがISが暴れているのだろうか。
ここにいるようにと言われているが何も知らされないと不安になっていく。
翔介は携帯を取り出し、虚にかけ直す。
少し時間をおいたが虚が応答する。
『どうしました、道野君』
「あ、あの、襲撃って大丈夫ですか?」
『…現在学園のシステムがハッキングされています。格納庫やアリーナの扉も開かない状態です』
どうやら今閉じ込められているのもハッキングを受けているからのようだ。
それにしても格納庫以外に観客席の方も閉じ込められているとすれば。
「じゃ、じゃあ他のみんなは!?」
『はい、一年生のほとんどが取り残されている状態です』
「その襲ってきたISは…?」
『それは…』
虚が言い辛そうに言葉を濁す。
『…現在、謎のISは織斑君と凰さんの二人で対応しています』
「二人が!?」
一夏と鈴が戦っている。
それも生徒同士ではなく、外部からの襲撃者が相手だ。
いくら専用機持ちといえど学生が対応できるものなのだろうか。
それに話からすればISが暴れているのはアリーナ。観客席からも脱出できず多くの生徒が取り残されている。
観客席はシールドで守られているが何があるかわからない。
「他のみんなは大丈夫なんですか?」
『今は負傷者はいません。ですが不測の事態が起こる可能性もあり得ます』
教師陣も対応に追われているようだが、はたして間に合うかどうか。
『とにかく道野君は事態が終息するまでそこに待機していてください』
そう言って虚は電話を切る。
待機。
確かに今自分が動いても何ができるわけではない。
だからこのままここに隠れているのが正しい判断ではある。
だけど…。
皆に危機が迫っている。
「……」
翔介は何かないかと辺りを見回す。
あった。
彼の目の前には整備中の打鉄。
自分の力では駄目かもしれないがISの力なら。
虚の判断は正しい。楯無や千冬でも同じ判断をするだろう。
それでもクラスメイト達を放ってはおけない。
外に出れば襲撃者と出くわす羽目になるかもしれない。
それは怖い。生徒同士の試合ならまだしも謎のISは間違いなく試合のように穏やかにはいかないだろう。
「…覚悟を、決めよう」
翔介は打鉄に乗り込む。
「打鉄、力を貸して」
ブウンと打鉄が起動する。
ゆっくり立ち会がり、周りを蹴散らさないように扉へと近づく。
「絶対怒られるだろうなぁ…」
翔介は打鉄で扉に手をかける。
ギリギリと扉に力を入れていく。
「ぬぬぬ…でやぁ!」
バキンと嫌な音を立て扉が開く。
いや、開くというよりは壊したというのが正しいだろう。
だがこれで外に出られた。
それにロックされた扉もISでなら開けることが分かった。
「まずは観客席だ」
翔介は廊下を打鉄で走り抜ける。
--------------------------------------------------------------
廊下を走り抜けアリーナの観客席に続く扉にの前にたどり着いた。
扉越しに生徒の声や戸を叩く音が聞こえてくる。
やはりまだ取り残されているらしい。
「皆、扉から離れて!」
翔介の声は届いたようで扉を叩く音が途切れる。
もう一度同じように扉に手をかける。
グッと力を込めるも格納庫とは違い固く閉ざされている。
「ふぬぬぬ……!」
さらに力を込めると少しずつ扉の隙間が開いていく。その隙間からは生徒たちの声が漏れ聞こえてくる。
もう少しだ。
「ぬぎぎ…ふんぬぅ!!」
ついに扉が開いた。
全開とはいかないものの人が出られるくらいの広さは確保できた。
「みんな、焦らないで出てきて!」
呼びかけのお陰か生徒たちは焦りこそあるものの転倒することなくアリーナから脱出する。
その時観客席からアリーナの様子が見えた。
アリーナでは一夏と鈴が黒いISと戦っていた。あの黒いISが襲撃者のようだ。
黒いISがビームを放つ。
二人がそれを躱すとビームは観客席を覆うシールドに衝突する。
するとさっきまであったシールドは無残にも破壊されている。
シールドが破壊されるほどのビーム兵器。
あんなものを受ければひとたまりもないだろう。
実際に二人は避けるのが精いっぱいで攻撃に転じることができていない。
このままじゃ二人が危ない。
翔介は破壊されたシールドの隙間からアリーナへと飛び出す。
-----------------------------------------------------------
「くそっ! 近づけねえ!」
「もう一回行くわよ、一夏!」
一夏と鈴は何度となく接近戦を試みるが刃をぶつける前に黒いISはあり得ない動作で回避し、反撃してくる。
遠距離攻撃も全身装甲のため、非常に高い防御力を持っている。
再度一夏と鈴が攻撃を仕掛ける。
一夏は雪片で、鈴は衝撃砲でそれを後ろから援護する。
黒いISは衝撃砲を上半身と下半身を捻りながら躱し、近づいてきた一夏をビームで迎撃する。
「うおっ!」
一夏はバランスを崩し、地面に不時着する形で降り立つ。
しかし着地地点には既に黒いISが狙いを定めていた。
「一夏!」
一夏は避けきれないと判断したのか雪片で防御の構えを取る。
「わあああああああっ!!」
大声をあげて打鉄が飛んでくる。
そして黒いISを妨害するように組み付いた。
「翔介!?」
「織斑君、だいじょううわぁっ!?」
組み付いた翔介を黒いISは引き剥がし放り投げる。
それを一夏と鈴が受け止める。
「あんた、何してんのよ!?」
「ご、ごめん、でも居ても立ってもいられなくて」
鈴に怒鳴られる。それと同時に打鉄に通信が入る。
『道野、何をしている』
相手は千冬だ。
声音からだいぶ怒っているのがわかる。
「す、すいません。でも観客席のみんなは無事アリーナから出ました」
『それはまあいい。だが何故そこにいると聞いている』
やはり戦いの場に飛び込むのは無茶だったか。
それでも苦戦する二人を見て黙ってはいられなかった。
「ふ、二人より三人がいいと思って…」
『理由にならん。ヒヨッコが三人束になったところで変わらん』
確かに千冬の言う通りだ。
黙っていられなかったのも明確な作戦などなく、ただ感情で動いてしまっただけ。
それでも。
「織斑先生の言う通りだと思います…。でも今飛び出せたのは僕だけだったから…」
自分しかできない。だから飛び出した。
「来るわよ!」
黒いISのビームが三人を襲う。
三人は空中に散らばる。
「何ができるかわからない、けどやらなきゃ何も変えられないから!」
翔介は近接ブレード・葵を呼び出す。
「ああ、その通りだ翔介!」
「しょうがないわね、行くわよ。あんたたち!」
「うん!」
『お前たち…』
三人はそれぞれ手にした武器で黒いISに立ち向かう。
さっきの組付きでわかったが、どうやらあのISも全ての攻撃に対応できるわけではないようだ。
「それなら二人が陽動。もう一人が本命ってことでどうかしら?」
「なら誰が本命で行く?」
「それは一夏、あんたでしょ」
「俺?」
この中で一番有効打を叩き込めるのは一夏だ。
一夏の白式の単一仕様能力・零落白夜。直接シールドエネルギーにダメージを与えることができる能力。
相手がどれだけ熟練だとしても使用しているのがISであるならばそこに例外はないだろう。
「なら僕と凰さんであのISの気を引いて、隙を見て織斑君が攻撃、だね」
「わかった! なら行くぜ!」
一夏の合図と同時に三人は黒いISに目掛けて飛んでいく。
一夏はあえて視界から外れるようにISの背中側へと飛ぶ。そしてそれを気取られないように鈴と翔介が真正面から攻撃を仕掛ける。
翔介の葵と鈴の双天牙月がISを襲う。
しかしその攻撃を黒いISは受け止める。だが、作戦通りだ。
「もらったぁ!」
背後から一夏が雪片を振るう。
それすらも見抜いていたかのように黒いISは二人の武器を受け止めたまま振り回す。
「うわっ!?」
三人はもつれるように地面に転がる。
「くそっ! これでも駄目かよ!」
「何度でもやるしかないよ! 動ける限りやらなきゃ!」
「はは、翔介。あんた結構根性あるじゃない」
それでも三人の心はまだ折れない。
ふらつきながらも立ち上がる。
だがそろそろISの限界が来ている。そもそも一夏と鈴は直前まで二人で試合をしていたその機体ダメージが残っている。
その時だ。
「一夏! それくらいの敵を倒せずなんとする!」
アリーナ中に声が響く。
そこには箒が観客席から声を張り上げていた。
「箒!?」
そしてその声に反応したかのように黒いISは箒に銃口を向ける。
「箒! 逃げろ!」
一夏が叫ぶも既に黒いISはビームを収束させ、生身の箒へ向けて放つ。
箒の眼前にビームが迫る。
「篠ノ之さん、危ない!」
箒の前に銀灰色の壁が立ちはだかる。
「ぐううううううっ!!!」
そこには打鉄の両肩に装備された楯でビームを防ぐ翔介がいた。
「道野!?」
「篠ノ之さん、今のうちに逃げて!」
必死にビームを防ぐ。しかし安全用のシールドを破壊するほどのビーム。
ビキリ、ビキリと両肩の盾にひびが入り始めて。
楯が弾けた。
その瞬間、翔介は爆炎に包まれた。
「「翔介!」」
「道野‼」
爆炎の中から翔介が墜落していく。
地面に倒れた翔介はピクリとも動かない。
「翔介! 千冬姉! 翔介は!?」
『バイタルはある。気絶しているだけだ』
千冬がそう告げるも声に焦りが見られる。
幸いにもISのシールドが操縦者を守ってくれたようだ。しかし、完全には衝撃から守り切ることはできず翔介は気絶してしまったようだ。
『これ以上は危険だ。織斑、凰。道野を連れて脱出…』
「この野郎! やりやがったな!」
千冬が言い切る前に一夏がいきり立つ。
そして鈴の前に立ち、背を向ける。
「鈴、やってくれ!」
「どうなっても知らないわよ!」
鈴は衝撃砲の照準を一夏の背中に合わせる。
ドンっという音と共に一夏の背中に衝撃が走る。
一夏は鈴の衝撃砲で自らを加速。これは瞬時加速と言われ放出したエネルギーを再度取り込み爆発的な加速を生み出すものだ。本来は自身のスラスターのエネルギーを利用するが外部からでも使用可能となる。
加速した一夏は雪片を振るい黒いISへと斬りかかる。
一夏の雪片が黒いISの片腕を断ち切る。
しかし、もう片腕のカウンターを受ける。さらにそこから熱源反応。
更にビームで一夏に追撃するつもりのようだ。
だが。
「狙いは?」
『バッチリですわ!』
レーザーの一斉掃射が黒いISのコアを撃ち抜く。
ボムっとその機体が爆発を起こし、黒いISはついに地面に堕ちた。
「ナイスタイミングだ、セシリア」
一夏の作戦はこうだ。
自身の零落白夜でシールドエネルギーを断ち切り、無防備となったところを観客席からセシリアがコアを狙い撃つというものだ。
結果的に上手くいった。
「いいえ、お役に立てたのならば」
観客席にいたセシリアもアリーナへと降りてくる。
これで襲撃者も制圧できた。この騒動もこれで終わりだろう。
「そうだ、翔介!」
一夏は自身の幼馴染を庇って倒れた翔介の下へと駆けつける。
鈴とセシリアも彼の下に集まる。
「翔介、しっかりしろ!」
「あまり動かしてはいけませんわ、後は教官たちを待ちましょう」
「そうね、しかしこいつも無茶するわね」
それでも戦いは終わった。
三人の気も抜ける。
ゾクッ!
三人を嫌な気配が襲う。
振り向くとそこには倒したはずのISが立ち上がり、今まさにビームを放とうとしている。
ヤバいと本能が判断する。
しかし今避ければ翔介が危ない。
三人は咄嗟に翔介の壁になるように防御姿勢を取る。
そんな三人をビームの光と爆炎が包んだ。
爆炎が収まるとそこには三人が倒れている。既にISも解除されてしまった。
一夏や鈴は既に限界が来ていたため仕方ないが、ほぼ余力を残していたセシリアですら一撃で解除されてしまっている。
「ど、どうなっていますの、コアは確かに撃ち抜いたはず…!」
「っていうか、あいつ姿変わってるわよ…!」
鈴の言う通り、黒いISの姿は先ほどまで戦っていた姿と異なっている。
まず一夏が断ち切ったはずの片腕が元に戻っている。自然に修繕されると言ってもあまりにも早すぎる。
そしてそのボディには見たことのない紋様が浮かんでいる。それがどこか禍々しい印象を受ける。
黒いISは再度ビームを収束させ、無防備な三人に放つ。
万全のISすら一撃でノックアウトさせたビーム。それをなんの対策もされていない人間に放てばどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
「一夏ぁ!!」
箒の悲痛な叫びが木霊する。
一夏たちは来たる衝撃に目をつぶる。
やがて光に包まれて…。
しかし、いつまで経っても衝撃は来ない。
恐る恐る目を開く。
「翔、介……?」
三人の前には赤と銀の機体に乗った翔介が立っていた。
今回は長くなってしまいました。
戦闘描写って難しいですね。
次回、遂に発動。