ご都合主義などもありますが、どうぞよろしくお願いします。
机が綺麗。
翔介が真っ先に思ったのはそれだった。
彼の座る席は傷一つない最新式の机。大きく、卓上のスペースもとても広い。
机に限らずこのIS学園の設備の全てが最新式。
翔介の中学校といえば木の机に、築百年以上の古い校舎であった。それから見てみればまさに未来的設備と言えた。
翔介的には机に彫刻刀で掘られた落書きがないだけでも十分驚きであった。
学校の設備もそうだが、もう一つ気になるといえば。
「あれが二人目…?」
「なんか普通?」
「うん、普通」
女子たちのひそひそ話。
一部を除いて教室にいる生徒が女子ばかり。
IS学園なのだから当然といえば当然なのだが。
IS-インフィニット・ストラトス-は女性しか動かせない。故にこの学園は女子しかいない。
例外があるとすれば、翔介ともう一人。
恐らく翔介よりも視線を集めているであろう。座席の一番前に座っている男子。
織斑一夏。世界で初めてISを動かした男子。
翔介がIS学園に来ることになった遠因とも言えるかもしれない。
なんだかガチガチに緊張しているようだが大丈夫だろうかと心配になってくる。
翔介も緊張はしている。女子ばかりというのも勿論だがこんなに同級生が多いこともその一因だ。
なにせ中学時代の全校生徒数は三人。しかもどちらも上級生であり、彼には同級生という物がいなかった。だから女子ばかりなうえに、クラスメイトの多さにカルチャーショックのようなものを受けていた。
「はーい、皆さんHR始めますよー」
すると、教室の扉が開き眼鏡をした小柄な女性が入ってきた。容姿はとても幼く、教員というより中学生と言ってもおかしくないかもしれない。ただその胸元はふくよかに膨らんでおり、その容姿とのアンバランスが激しい。
「皆さん、初めまして。このクラスの副担任を務めます山田真耶と言います。よろしくお願いしますねー」
「よろしくお願いしま…」
真耶に挨拶を返そうとするも、誰も声上げず翔介の声も尻すぼみに消えていく。
反応の無さに涙目になってオロオロする真耶。
気を取り直したように自己紹介をすることになった。
次々とクラスメイトが自己紹介していく中、順番は一夏の番に。
考え事をしていたのか何度か真耶に声をかけられ、ようやく立ち上がる。
「……えーっと、織斑一夏です」
と言ったきり黙りこむ。
何を話そうか悩んでいるのだろうか。
「…………以上です‼」
たっぷり時間を使った結果、出てきた言葉はそれだった。
ズデデッと椅子からズッコケるクラスメイト達。
翔介も肩透かしに面食らう。
すると、スパァンと激しい音が鳴り響く。
見るとそこには出席簿を片手に持つホームまで迎えに来てくれた教員、織斑千冬と頭を押さえて悶えている一夏の姿だった。
どうやら出席簿で頭を叩かれたらしい。
「げえっ、関羽!?」
スパァン!
またも出席簿が振り下ろされた。
「誰が三国の英雄だ。貴様は挨拶もまともにできんのか」
「千冬姉!? 何でここに!?」
三度目の快音が教室に響く。
「ここでは織斑先生と呼べ」
千冬は教壇に立つと、クラス中に宣言する。
「諸君、私がこのクラスの担任を受け持つ織斑だ。諸君をこの一年で使い物にすることが役目だ。口答えも、反抗もして構わん。ただし、私の言うことには必ず従え」
なかなか強烈な挨拶をしてくれる。
すると、それを合図に。
『きゃあああああああああああああああああああああああああ‼‼‼』
クラス中が沸く。
「本物よ!本物の千冬様よ!」
「お母さん、産んでくれてありがとうぅぅぅ!」
「貴方に憧れてこの学園に来ましたぁ!」
スタンディングオベーション状態のクラスに千冬がため息をつく。
「はぁ…毎年毎年、私の受け持つクラスはなぜこうも馬鹿が集まるんだ」
「きゃああああ!もっと言って!もっと罵って!」
「そして時に優しくして!」
「でも付け上がらない程度に躾けてぇ!」
あまりの事態に目を白黒させている一夏。
翔介も目を丸くしていた。これが都会なのかと固まっていた。
やがてクラスの騒動もおさまり、再び生徒の自己紹介となった。そしてついに翔介の番。
クラスメイトの表情も変わる。
織斑一夏以外の男性操縦者である。注目されるのも致し方ない。
人の前に立つことに慣れない彼からすればなかなかの難易度だ。
「ぼ、僕は道野翔介です。東北の方から来ました」
自己紹介が始まってからずっと考えていた内容を話していく。
今のところ順調。
「都会にも慣れませんが、よろしゅくお願いしみゃす」
固まる翔介。
「噛んだ」
「噛んだわ」
最後の最後で台詞を噛むという痛恨のミス。
「よろしく、お願いします…」
顔を真っ赤にして着席する。
初対面だというのにこれはキツイ。
強烈なダメージを受けたまま、時間は進んでいくのだった。
本日はここまで。
原作主人公の織斑一夏も登場し、これから原作ヒロインたちも登場していきます。
田舎者な翔介の学園ライフもここから本格的に始まっていきます。
温かく見守ってあげてください。