インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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20話

「ふわぁ…」

 

翔介は大きなあくびをかみ殺す。

黒いISの襲撃事件から一日が経った。

昨日は散々だった。怪我は全然なかったが精密検査と言われて長い時間をかけて検査され、その上終わったと思いきや千冬の説教が待っていた。

格納庫やアリーナの扉を壊したのは今回大目に見てもらったが、そもそも格納庫で待機していろと言われたところを勝手に飛び出したことについてはがっつり絞られることに。

だが生徒たちを助けたということで反省文の提出だけで済んだ。

 

とはいえ早急に提出するようにと言われ昨日は夜中まで起きて書いていた。

 

そのせいか今はとても眠い。気を抜いたらそのまま眠ってしまいそうだ。

今日は休日。本当だったら寝ていたいけれど今日は既に予定があった。

 

あったのだが…。

 

「お師匠さま、遅いなぁ…」

 

学園の校門前で集合と言われていたが、約束の時間から三十分も遅れている。

するとトントンと肩を叩かれる。

叩かれた方を向くとムニッと頬を押される。

 

「にゃにひゅるんでひゅか、おひひょうひゃま?」

 

「うふふ、隙だらけよ」

 

そう言って笑うのは楯無であった。

扇子には『油断大敵』と書かれている。

 

「随分と眠そうね」

 

「昨日は遅くまで反省文書いてたので…」

 

「織斑先生にかなり絞られたみたいね。それなら私からは特別お説教は無しにしておきましょうか」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

流石に昨日の今日で二度目の説教は勘弁願いたかったのでありがたい。

振り向くと今日の楯無は制服ではなく、私服であった。

 

「ところでお姉さんに何か言うことないかしら?」

 

「えっと…おはようございます?」

 

「はい、おはよう。でもそれじゃないんだなぁ」

 

そう言って楯無はクイクイとこれ見よがしに服を示す。

 

「あ、服似合ってます」

 

「はい、ありがとう」

 

今度は扇子に『正解』と書かれている。

どうやらこれでよかったようだ。

 

「あの、それでこれからどこに行くんですか?」

 

「もうせっかちさんはモテないわよ?」

 

せっかちと言われるがそもそも何も聞かされていないのだから気になるのも仕方ないような気がするが。

それでも着いてからのお楽しみと言われてしまう。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

楯無も来たので駅へと歩み始める。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

すると背後から楯無に呼び止められる。

振り向くと今度の楯無は真面目な表情をしている。

 

「翔介君、本当に調子は大丈夫?」

 

「え? あ、はい。そもそも打鉄の絶対防御のお陰で怪我も全然しませんでしたし」

 

「…そう」

 

「それがどうかしましたか?」

 

「うぅん、なんでもないわ。行きましょうか」

 

楯無が歩き出すと翔介もそれに倣って歩き始める。

だが楯無は隣を歩く少年を見ながら昨日のことを思い出していた。

 

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襲撃事件の報を聞き急いで学園に戻った楯無。

学園に戻って早々地下にある部屋に呼ばれていた。

 

部屋に入ると千冬と真耶が待っており、部屋の中央のデスクにはバラバラになったISらしきものが置いてあった。

 

「急に呼び戻してすまなかったな」

 

「いえ、話は聞きましたが…」

 

チラリとデスクの上を見る。

 

「それが襲撃者ですか。そして…」

 

「ああ、道野が破壊した」

 

電話先でも聞いたがいまだに信じられない。

訓練を始めてから確かに上達はしてきているが、ここまでのことができるとは到底思えなかった。

 

「信じられないといった様子だな」

 

千冬が先んじて真耶に指示を出す。

すると真耶がモニターに映像を流す。そこには黒いISと一夏たちの戦いの一部始終が映し出されている。さらにコアを破壊されたはずのISが再び異様な姿で動きだす様子。そして翔介が単身立ち向かい、光波熱線で破壊した。

 

「以上が一部始終だ。信じられんかもしれんが道野が完全破壊したのは間違いない」

 

「レーザーを跳ね返す光の障壁、リング状のエネルギー兵器、そして光波熱線。どれを見ても打鉄の装備にはないものですね」

 

「はい、戦闘後道野君が使用した打鉄を解析しましたがその様な兵装は確認されませんでした」

 

そうなるとあの武器は一体どこから来たのか。

謎は深まる。

 

「まったく、おかげで無人機という衝撃が薄れてしまうな」

 

「無人機ですか?」

 

「ああ、見ての通り襲撃してきたこのISに搭乗者はいなかった。となれば無人機という結論しかあるまい」

 

確かに千冬の言う通り映像内でもこのISには人間らしい動きを感じられなかった。どんな攻撃を受けても最善手で返すというプログラムのような。

 

「今回の事翔介君は?」

 

「それなんだが…」

 

「道野君、この時のことを覚えていないみたいなんです」

 

「覚えていない?」

 

あの事件が終わってから関わった者全員に事情聴取を行った。

一夏、鈴、セシリア、箒の四人は全員がほぼ同じような内容を語ったが、唯一翔介だけは箒を庇ったところまでの記憶しかないと言った。

 

嘘を吐いている様子もなかった。

そもそもここで嘘を言っても意味がないだろう。となれば本当に庇った後の記憶はないという事になる。

 

「この映像の事、翔介君には?」

 

「伝えていない。今伝えても混乱するだけと判断した」

 

さらにこのことは見ていた全員に緘口令がしかれることになった。

これも本人に無用な混乱を与えないためとしている。またあの兵器の正体を知るまではできるだけで知らないほうがいいという考えでもあるようだ。

 

「更識もこのことは許可を出すまで道野に話すな」

 

「わかりました」

 

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「お師匠さま?」

 

翔介に声をかけられて我に返る。

 

「どうしたのかしら?」

 

「そろそろ電車来ますよ?」

 

どうやら昨夜のことを思い出していたらいつの間にか電車の時間になっていたようだ。

数分もしない内に電車がやってくる。

休日だが座席は座れるくらいに空いていた。

二人が座るとすぐに扉が閉まり、電車は走り出す。

 

「それじゃあ街のほうまで行くわよ」

 

「はい」

 

そう言って隣に座る少年は昨日の映像で見た彼とは全然違う。

だがあれは間違いなく翔介であった。

実力を隠していたという事でもなさそうだが。

 

「おお…」

 

翔介は車窓から見える都会の様子に声を上げる。

都会に来て半月。まだしっかりと街に出たことがなかった。

眠いけど、正直楽しみが勝っていた。

 

「うふふ、そんなに目を輝かせて。お上りさんに見えちゃうわよ?」

 

「実際、僕お上りさんですし」

 

わくわくが止められないといった様子の翔介。

故郷の田舎はもちろん大好きだが、新しい世界とも言える都会にも興味は深々だった。

 

「あの、お師匠さま」

 

「あら、何かしら?」

 

「そろそろどこに行くか教えてくれませんか?」

 

当日を楽しみにしていろと言われてきたがやはり気になる。

楯無は少し考えてから「まあ、いいでしょう」と教えてくれるようだ。

 

「今日行くのはある企業よ」

 

「企業?」

 

「そう、ISにも色々な企業があることは勉強したわね?」

 

楯無の問いかけに頷く。

一夏の白式の素体や打鉄のようなIS本体を作る企業や近接ブレードや銃のような装備を作る企業などISに関わる企業は多岐にわたる。

ISが今のように普及してからは現在まで企業間の競合が続いている。

 

「翔介君の打鉄は学園からの貸し出しだけど、あなたの使いやすいようにカスタマイズすることも許可されているわ。つまり打鉄をあなた色に染め上げるのよ。その為にあなたの装備を専任で作ってくれる企業を探したの」

 

「専任で装備を?」

 

「そう、翔介君。どこの企業が性能がいいとか見分けがつく?」

 

「それは…」

 

正直な話、見分けることはできない。

何が良くて何が悪いのかの見極めは大事であるとされてはいるが、そもそもの基準がよくわかっていない。

 

「そう思って私がチョイスしたの。間違いなく信頼できるところだし、翔介君の目標にも合致すると思うわ」

 

「目標ってこの前に聞いてきた?」

 

『宇宙に行きたい』

その目標にも合致するとはどういうことだろうか。

 

「それでどういう企業なんですか?」

 

 

 

「宇宙航行科学特殊研究所。通称『科特研』よ」

 

 

 




本日はここまで。

今回は場面があまり動きませんでしたが、次回のお楽しみという事で。


楯無に連れられて向かう先『科特研』。

一体どういう場所なのか。

次回をお楽しみに。

分かる人にはわかる名前。

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