駅に着くと楯無の先導を受けながら目的地へと向かう。
空を覆うようなビルが並び立ち、どこか圧迫感を感じる。
そして初めて学園に来た日も同じことを思ったが通りを歩く人の多さに目を回しそうだ。
「大丈夫、翔介君?」
そうしていると楯無が声をかけてくる。
「やっぱり都会って人が多いですね…」
「今日は休日だから尚更ね。科特研までもう少しだから頑張りなさい」
楯無に励まされながら人の多い道を歩いていく。
しばらく歩いていくと規則的に並ぶビル群の中で変わった形の建物が見えてくる。
なんというか台形状の建物と平行四辺形状の建物がくっついたような建物だ。都会にはこんな建物もあるのかと感心してしまう。
「さあ、着いたわよ。ここが科特研よ」
「ここが…」
変わった建物と思ったがここが目的地のようだ。
建物の目の前には飛行機のモニュメントが設置されている。赤と銀に流線形の姿がシンプルながらカッコよく見える。
さらに赤と青の流れ星のようなマークはこの会社のロゴだろうか。
「それがこの企業のメイン商品のジェット機よ。小型だけど装備によっては宇宙空間にも行けるようになるらしいわ」
「へ~…」
「ただ今はその計画も凍結されてるらしいけれどね」
「どうしてですか?」
「元々ISが宇宙空間用のマルチスーツだったのは知ってるわよね? このジェット機はISと一緒に宇宙空間で活動するために開発を進めていたのだけどISの宇宙空間での使用も凍結されちゃったからその影響でね」
なかなかままならないものである。
もし宇宙空間での活動が想定通りに進んでいれば、この宇宙をこのジェット機とISが飛び回っていたのだろうか。
「ただその代わりに今はISの装備開発を主に行ってるの」
そろそろ行きましょうか、と楯無が建物のロビーに入っていく。
中に入ると受付に一言二言話しかける。
すると数分くらい待っているとロビーに人がやってくる。
青いブレザーとグレーのスカートを履いた女性だ
「ようこそ、科特研へ。あなたたちがIS学園の更識さんと道野さんね」
「はい、本日はお忙しい中お時間を作っていただきありがとうございます」
普段のおちゃらけた様子は鳴りを潜め、その様子を見ていると年上の余裕を感じられる。
「初めまして。私は安芸藤子です。ここでは事務員をしているわ」
「よ、よろしくお願いします」
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。それじゃあさっそくこちらにどうぞ」
藤子に連れられてビル内を案内される。
建物内を案内されながら広い部屋に通される。そこには四人の男性が座って待っていた。
「キャップ。お客様をお連れしました」
藤子がそう言うとキャップと呼ばれた壮年の男性が立ち上がる。
「やあ、待っていたよ。科特研所長の松村です。ここでは皆キャップと呼ぶから君たちも気軽にそう呼んでくれて構わないよ」
松村は人のよさそうな笑みを浮かべる。
「では他のメンバーも紹介しよう」
松村がそう言うと他の三人も椅子から立ち上がる。
「速田です。ここでは副所長をやっています。よろしく」
「山風だ。営業部長なんてやってる。なかなかいい目してるじゃないか!」
「井部です。開発主任をやっています。君が僕たちの発明を使ってくれるんだね」
それぞれの男性たちと握手を交わす。
自分とは違う大人の男性たち。キャップや藤子も含めてとても頼りになりそうな大人たちだ。
「この五人の方たちがあなたと打鉄の装備を用意してくれる方たちよ」
「よろしくお願いします」
「いやいや、こちらももう一人の男性操縦者の支援ができるなんて貴重な経験ができてむしろ感謝したいくらいだよ」
松村がニコニコと告げる。
「あの、ここってどんなものを作ってるんですか?」
ISの装備を作っているとは聞いたが装備と言ってもその幅は広い。
「ここではISの装備は何でも作っているよ。武器に周辺装備なんかを」
僕が作ってるんだよ~と井部が手を上げる。
「さて、道野翔介君。彼女から事前に聞いていたけど宇宙に行きたいんだって?」
速田が尋ねてくる。
それに楯無が自分の思う通りに言ってみると良いと告げる。
「はい、いつか宇宙に行きたくて」
その為にはもっと強く、もっと速く、もっと高く飛べるくらいの力が欲しい。
「それならやはりうちに来て正解じゃないか!」
山風が手を叩く。
先程の楯無の説明にあったように元は宇宙への装備を作っていたという科特研。
最初に楯無が翔介の目的に合致するといったのはそういう意味なのだろう。
「それなら武器よりまずはブースターを用意したほうが良さそうですね」
「うむ。速田、井部。すぐに用意できるものはあるか?」
「彼の機体は打鉄ですからね。選択の幅は広い」
打鉄はあらゆる追加装備に対応することのできる柔軟な性能をもった機体だ。その為か量産型でありながらその装備次第では強さが大きく変わる。
「最近作ったブースターはどうだ? あれならかなりの飛行速度が出るんじゃないか?」
山風がそう言うと井部がチッチッと指を振りながら割って入る。
「いやいや、待ってくださいよ山風さん。打鉄は確かに汎用性がありますがどちらかと言えば防御性能寄りの機体。同じ量産型のラファールと比べると飛行性能に劣ります」
井部が滔々と語る。
流石は開発主任。
「それに彼はいつかは宇宙へ行きたいと言ってるのであれば中途半端なブースターじゃあ駄目ですよ。ここはアレを使ってみるのはいかがでしょうか?」
「アレ?」
翔介が首をかしげる。
すると山風が眉を顰める。
「アレってまさかハイドロジェネードロケットの事か? あれはジェット用の装備じゃないか」
「ふっふっふ、そう言うと思いましたよ。この不肖、井部がこんなこともあろうかとIS用のロケットを開発していたのですよ」
不肖と言いつつもふふんと得意げに鼻を鳴らす。
「何ぃ!? 井部、そんなものがあるならなんで話しを通さないんだ。言ってくれれば営業で使えたっていうのに」
「井部、随分と張り切ってるじゃないか」
文句を言う山風に苦笑い気味の速田。
そもそもハイドロジェネレートロケットとは何のことだろうか。
「ハイドロジェネレートロケットは元々ウチで開発していたジェットの装備でね。大気圏突破や宇宙空間での安定した航行のためのものなんだ」
首をかしげる翔介に速田が教えてくれる。
ジェットとは建物の前に置かれていたジェット機のモニュメントの事だろう。
「大気圏突破って…」
「勿論、その辺はIS用に調整してありますよ。大気圏を突破することはできませんけど従来のブースターとは比べ物にならない代物になってますよ」
「そんなに凄いものを僕のためにいいんですか?」
「良いに決まってるじゃないか。君は僕たちの悲願を叶えてくれるかもしれないんだから」
井部は笑いながら告げる。
「悲願?」
「その通り。我々にとってもこの宇宙へ漕ぎだすことは大きな夢なんだよ」
松村が代わりに答えてくれる。
楯無の言っていた外のジェット機とISで宇宙を飛ぶという事はまさにその夢の形なのだろう。
「今は凍結しているISの宇宙空間活用も君のような夢を持つ若者が共に歩んでくれるのならばこれほど心強いことはない」
「僕が…」
「翔介君。君が宇宙に行きたいと言ってくれたのなら我々は夢を同じくする君を全力でバックアップしていく。そのつもりだよ」
科特研の全員が翔介を見つめる。
その姿を見て、改めてここにいる大人たちをカッコいいと感じた。
大人になっても夢を忘れず、今は難しくてもけして諦めずに前に進もうとする。そんな姿は翔介にとても大きて、とても輝いてみえた。
「……僕も宇宙に行くって大事な友達との約束があるんです。だから…よろしくお願いします」
「よし、商談成立だ」
「いやぁ、燃えてきますね!」
「俺たちの科特研魂見せてやろうぜ!」
翔介の言葉に五人が奮起する。
「改めてよろしく。道野翔介君」
速田は翔介に手を差し出す。
翔介はその手を取り、ともに固い握手を躱した。
本日はここまで。
どこかで聞いた企業名に職員名ですがわかる人にはわかるかと思われます。
科特研との企業提携をすることになった翔介。
ここから彼の打鉄がどう変わっていくのか。