ベッドに寝転がり天井を見つめる。
いくら考えても答えが出てこない。
更識姉妹を仲直りさせる方法も、そしてどうして自分がそうしたいのかその理由も。
見えてこない答えに胸のモヤモヤが渦を巻く。
そうしていると寮の部屋が開く。
どうやら簪が帰ってきたようだ。
「おかえり、更識さん」
「…ただいま」
翔介は努めて平静に声をかける。
すると珍しく簪から声をかけてくる。
「ねえ、昨日お姉ちゃんと一緒にいた…?」
「え、うん」
どこかで一緒にいるところを見られたのだろうか。
しかし自分から楯無の話をするとは思わなかった。
「あなた、お姉ちゃんと知り合いだったんだね」
「…うん、ISの訓練とか生徒会でお世話になってるんだ」
「そうなんだ…お姉ちゃんと…」
そう呟く彼女に影が落ちる。
やはり彼女にとって姉の楯無はどこか重いものなのだろうか。
「…私たちの事、聞いた?」
「…うん」
「なら私にはもう構わないで」
それは明らかな拒絶。
その言葉で自分には何もできることがないのではと思えてしまう。
簪はそれだけ言うといつも通り布団にくるまってしまう。
「…ねえ、更識さんはお姉さんの事…」
「私はずっと比べられてきた」
翔介の言葉を簪が遮る。
「お姉ちゃんは何でもできて、更識の当主で…私はずっとそんなお姉ちゃんに追いつきたかった」
しかしそんな彼女に姉が言った言葉はそれを否定するものだった。
「私は…お姉ちゃんに…」
更識簪は優秀な姉がいた。
文武両道、才色兼備。さらに若くして更識家の当主になるなど自分とは全然出来が違う。
だから簪はせめて少しでも姉の役に立てるようにと必死に努力した。
苦手な運動も勉強も努力し続けた。
そうすればいつかは姉の隣に立てると信じて。
いつか姉に『自慢の妹』と言ってもらうために。
だがその想いは砕かれた。
ほかならぬ姉自身に。
そこまで言うと簪の包まる布団が震えている。
必死に零れ落ちそうなものを我慢しているのだろう。
だが翔介は今の話に一つの光明が見えた気がした。
「ねえ、更識さんは今でもお姉さんの事尊敬してる?」
翔介の問いに簪が黙り込む。
すると彼女は布団の中から何かを取り出す。
それは投影型ディスプレイ。いつか昔のヒーローアニメを映し出していたものだ。
そこにはアニメではなく設計図のようなものが映し出されている。
「これは?」
「ISの設計図」
「え、これ更識さんが?」
ISのフルスクラッチ。
簪はISを一から組み上げているようだ。
「お姉ちゃんのISもお姉ちゃんが一人で作り上げたの」
だから自分も同じようにISを組み上げることで姉に追いつこうとしている。
そこには姉への尊敬が見え隠れしている。
姉と同じことをすることで自らの自信を取り戻したい。
それは同時にもう一度姉である楯無に向き合おうとしているという事なのではないだろうか。
もしそうなら…。
「更識さん…」
「私はただ…」
「じゃあどうしてお姉さんと同じことをしてるの?」
「それは…」
姉と同じ偉業を達成することで自分の価値を証明できる。
「ねえ、どうしてそんなに私たちに関わろうとするの…?」
数分前に構うなと言われておきながらもそれでも声をかけてくる翔介。
簪からすれば翔介の行動は不可解極まりない。
だがその答えは翔介自身もまだ出していなかった。
「どうして…どうしてだろう…」
「わからないのなら…」
鈴から言われた言葉が思い出される。
翔介にとって更識姉妹が仲直りするかどうかは関係ない。
それでも放っておけないのは…。
「更識さん、最後に一つ聞いていい?」
「……何?」
「更識さんはお姉さんの事、お師匠さまと仲直りしたい?」
楯無と同じ質問をする。
「仲直りなんて…」
「仲直りじゃなくてもいいの。お師匠さまともう一度一緒にいたくない?」
「私は…私は…」
布団の中からすすり泣く声が聞こえてくる。
どれだけ離れていてもどこかで姉の後ろ姿を追い求めている。
「お姉ちゃんと…一緒にいたいよ」
「…わかった」
簪の言葉が翔介の胸を打つ。
今はっきり分かったことがある。
更識姉妹の確執は翔介に直接関係はない。
これはあくまで他所の家庭の問題だ。翔介がどうこうするべき問題ではないのだろう。
でも…。
楯無も簪もどちらもお互いを嫌ってなどいない。
楯無は簪のことを想って更識から遠ざけようとした。
簪は楯無の役に立ちたくて必死に努力を重ねた。
お互いがお互いを想うが故にすれ違ってしまった。
こんなに仲のいい姉妹をこのままにしていいのだろうか。
そんな訳がない。
翔介は家族とは離れていても心で繋がっているものだと考えている。
だからこそ近くにいながらも離れている更識姉妹を放っておけなかったのだ。
目の前で泣いている女の子を放ってなどおけない。
昼休みに鈴や箒の言葉に対する答えになっているかはわからない。
けれども翔介が動く理由はこれだけで十分だった。
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「皆、力を貸して」
いつも通りに楯無との訓練終了後の朝食を摂っていたいつもの四人に声をかける。
一夏、箒、セシリア、鈴は翔介の真剣な眼差しに目を丸くしている。
「翔介さん、取りあえずお座りになっては?」
セシリアに勧められ四人の座る席に混ざる。
「それで力を貸すってその姉妹喧嘩をどうにかするって話?」
「うん、ほんの少しでいいから皆の力を貸して欲しいんだ」
「手伝うか…あんた、答えは出たの?」
鈴が頬杖を付きながら問い掛ける。
他人の家庭事情だとしても助けたい理由。
「うぅん…考えたけど結局わからなかったよ…」
「なのに手を出すっての?」
「鈴、もっと言い方があるだろ」
一夏が咎めるも鈴は気にした素振りも見せず翔介を見やる。
「良いんだ、織斑君。凰さんの言ってることは間違いないから」
「ならあたしたちが手伝う理由もないんじゃない?」
「昨日ね、その妹さんと話したんだ。その子にも関わるなって言われた」
「ならばそれこそこれ以上首を突っ込むことは避けたほうがいいのではない?」
今度は箒がそう告げる。
確かに箒と鈴の言う通り本人から拒否を受けたのならもう関わらないほうがいいのだろう。
「だけどね…一緒にいたいとも言ってたんだ」
翔介の言葉に四人が黙り込む。
お互いを想い合いながらすれ違う姉妹。
「僕はあんなに仲のいい二人をこのまますれ違ったままにさせたくない」
これは翔介の主観でしかないかもしれない。
それでもあの二人もこのままでいたいなんて思っていない。
「だからお願い。皆の力を貸して」
翔介はテーブルに額が付くほど下げる。
四人は顔を見合わせる。
「何よ、分からないって言いながら十分じゃない」
「ああ、それなら私は協力しよう」
「勿論わたくしも」
「よし、翔介。俺たちは何をすればいい?」
「皆…ありがとう」
翔介は心から四人に感謝する。
自分だけではできないけれど、きっと友達がいるならできる。
「皆にお願いしたいのは一つだけ」
翔介は四人に自分の考えを伝えた。
勝負は放課後だ。
本日はここまで。
結構強引な展開ですがご了承ください。
次回は更識姉妹の確執がついに決着。
翔介はどうやって二人を繋ぎとめるのか。