「皆、手伝ってくれてありがとう」
翔介は四人分の飲み物とケーキを差し出す。
更識姉妹の仲直り作戦を手伝ってくれたお礼だ。
四人はそれぞれをケーキを受け取る。
「別によろしいんですのよ? こんなことしていただかなくても」
「手伝ってもらったのは間違いないし。そのお礼だから」
「手伝いと言っても大したことはしていないがな」
翔介の考えた仲直り作戦。
それは単純明快。
まずは四人に簪を捕まえていてもらう。
そして次は楯無を焚きつけてその本心を炙り出す。
それを事前に繋いでいた一夏の携帯からスピーカーで簪に聞かせるというもの。
楯無の本心を炙り出すのは以前の経験からけして難しくはない。
妹のこととなれば落ち着いていられないという性格を利用すればよかった。
一番の難関は簪を留めておくことだ。
彼女の性格上その場に留めておくことは難しい。だから四人には教師からの依頼という事で資料室の片付けをしてもらった。
それも千冬からの依頼とすれば流石の簪も逃げるわけにはいかないだろう。
当然のことながら嘘であるため千冬にバレた場合が恐ろしいが。
大したことはしていないというが恐らく一番大変であったと翔介は思う。
「それはいいんだけど最後まで見届けなくてよかったのか?」
ケーキを食べながら一夏が問い掛ける。
話がもつれるのではないかと心配しているようだ。
「大丈夫だよ。きっと仲直りできる」
一夏の心配をよそに翔介は言い切る。
鈴が呆れたようにケーキを食べる。
「まったく、その自信はどこから来てんのよ」
「ですが意図しなかったとはいえ本人にアレを聞かれたのですから」
「うむ、少なくとも今までのように擦れ違いが起こることはないだろう」
セシリアや箒の言う通り。
楯無の本当の想いは間違いなく簪に届いたはずだ。
すぐにとはいかないけれどきっと仲のいい姉妹に戻れるはずだと信じて。
「それにしても一夏。あんた、あの簪って子となんかあった?」
「え? 何かあった?」
「いや、資料室の片付け中ずっと睨まれてたというか…」
そういえば以前もそんなことがあった。
あれは入学したての頃、一夏が箒と喧嘩した時の事だっただろうか。
「う~ん、織斑君は何もしてないのに嫌われるタイプじゃないと思うけど」
「だ、だよな!?」
「ならば知らずの内に何かしたのではないのか?」
箒がふんと鼻を鳴らす。
箒だけではなくセシリアや鈴の表情もどこか冷たい。
更識姉妹のことですっかり忘れていたがこの状況は非常に厄介であったことを今更ながら思い出す。
三人とも一夏に好意を抱くもの同士。そして翔介が三人全員の相談役であるという事。
ああ、なんというコウモリ状態。
いや、コウモリの方がまだいいだろう。あっちは鳥と獣だったが、こっちは三人。
コウモリより質が悪いかもしれない。
「ほ、ほら! 更識さん、人見知りするんだよ。男子生徒だから色々緊張してたのかも?」
必死にフォローを入れる。
一つの問題を終えて、新たな問題が持ち上がってきた。
翔介の胃がキリキリと痛む。
「別にそういうわけじゃない」
一人の少女が声をかけてくる。
そこにいたのは話題に上がっていた簪だった。
手には夕食であろううどんの乗ったトレーを持っている。
「……相席、いい?」
「え…?」
簪から絶対に聞けそうにない台詞が聞こえた。
驚いて目を丸くしていると。
「だ、駄目なら別のところに…」
「あ、うぅん! 僕はいいよ!」
翔介が他の四人を見やる。誰も拒否しない。
それじゃあ、と簪がテーブルにトレーを置く。流石に六人となると狭くなってしまうので隣のテーブルと椅子をくっつける。
着席したはいいものの何とも言えない空気が流れる。
五人とも聞きたいことは決まっているのだが果たして聞いていいものなのかと思案しているようだ。
「え、えっと、更識さん。そういうわけじゃないって?」
取りあえず空気を換えようと翔介が問い掛ける。
「…私、日本の代表候補生なの。本当なら専用機もできてるはずだった」
そう言うとチラリと一夏の方を見る。
「倉持技研って知ってる?」
「あれ、それって俺の白式の」
そう、一夏の専用機である白式を作った企業の名前だ。
「私の機体もそこで作られるはずだった」
簪の話によれば元は倉持技研で彼女の専用機は用意されるはずであった。
だが突然、織斑一夏という男性操縦者が現れてしまい大急ぎで彼の専用機を用意したり、データ収集などに人員はほとんど取られることになってしまった。
その割を食ったのが簪だった。彼女の専用機制作は後回しにされてしまったのだという。
「それじゃあ一夏の事睨んでいたのは」
「そういった経緯があったのですね」
「そりゃあ腹も立つわね」
箒、セシリア、鈴の三人は納得したようだ。
「でもそれは織斑君のせいではないような…」
一夏も好きでISを動かせるようになった訳ではないだろう。それに専用機も彼が用意してくれと頼んだわけでもないだろう。
「うん、それはわかってる。けど…」
そう簡単に割り切れるものでもなかったという事だろう。
「そうか…なんかすまん」
「うぅん…もう大丈夫」
そう言って空間ディスプレイを取り出す。
昨日見せてもらった彼女が一から作り出しているISが記録されているはずだ。
「これ、完成できそう」
「本当!? 凄いじゃない!」
我が事のように喜ぶ翔介。
他の四人は何のことだかよくわかっていないようだが、簪が自分でISを作ろうとしていることを話すと一様に驚いた表情を見せていた。
「ISを一から作るって凄いですわね」
「ホントに。学生の内からそんなことできる奴なんてそうそういないでしょ」
「…皆のお陰…」
簪は小さい声でそう告げる。
「どういうこと?」
「お姉ちゃんが整備科の人たちを紹介してくれるって」
その言葉に五人の表情が明るくなる。
「それって!」
「お姉ちゃんと…その、ちゃんと話せたよ…」
五人は笑顔で顔を見合わせる。
どうやら思惑通りに。いや、それ以上にいい結果になったようだ。
「その、それで…」
もごもごと口を動かす。
「ありがとう…」
不器用ながらも初めて笑みを見せてくれた。
これだけで十分な報酬となることだろう。
「ただ…」
しかし、今度は少し困り顔で翔介を見る。
「道野翔介…」
「うん、何?」
「責任、取って」
凍り付く食堂。
「せき、にん…?」
意味が分からない。
「道野、お前…」
「翔介さん…」
「あんた、それはないわぁ…」
女子三名の視線が痛い。
「い、いやいや! 責任ってどういうこと!?」
翔介が慌てて問い返す。
すると簪が背後をチラリと振り返る。
その視線を追っていくと見たことのある空色の髪と赤い瞳がこちらを見ている。
誰であろう楯無であった。
「お、お師匠さま、何してるの…?」
「その…」
五人が更識姉妹二人を置いて出ていった後。お互いの胸の内を曝け出し、本音を伝えたあった。そのお陰で数年分の蟠りがようやく解けた。
これで更識姉妹も以前のように仲のいい姉妹に戻れる…はずだったのだが。
数年分の蟠りと共に、楯無の数年分の妹愛が一気に爆発した。
なまじ溜め込んでた期間が長かった反動か溢れ出す妹愛が抑えきれなかったようで。
「ちょっと…いや、かなり…暑苦しい」
「お師匠さま…」
元々、重度のシスコ…もとい妹愛に溢れる楯無。
仲直りできたことがよほど嬉しかったのは分かるのだが、些か愛が行き過ぎているようだ。
すれ違っているよりはいいのだろうが、構いすぎるのもどうなのだろうか。
「話せるのは嬉しいんだけど…」
「…僕、少し話してくるね…」
翔介は席を立ち、楯無の方へと歩いていった。
「た、大変だな、翔介の奴」
「そこが翔介さんの良いところですわ」
「ああ、そうだな」
視線の先で楯無にお説教している翔介を見ながら苦笑いを浮かべる四人。
「…どうして、あんなに私たちに構うんだろう…」
それに対して簪は不思議そうにつぶやく。
「どうしてねぇ…あいつもその辺はよくわかってないみたいよ」
「え…?」
「ただ翔介は『仲のいい二人をこのままずっと擦れ違ったままにさせたくない』って言ってたな」
「翔介さんはきっとあなたとお姉さんを仲直りさせたかっただけなのでしょう」
「そこに裏も表もないのだろうな」
再度翔介を見る。
今は説教していたはずがいつの間にか簪の素晴らしさを語る楯無に気圧されている。
蟠りの無くなった楯無にとってはまさに水を得た魚。立て板に水。
「面白い奴だろ?」
その様子を見て、箒が笑いながら告げる。
他の三人も苦笑しながらもそんな翔介の様子を見ていた。
「……うん、面白い」
簪もまた笑顔でそう返すのだった。
本日はここまで。
原作二巻に入ると言いながら今回まで更識姉妹仲直り編となりました。
次回、二人の転校生登場。