波乱の朝礼も終わり、休み時間。
授業が終わると同時にシャルルの周りにクラスメイト達が集まっている。
ある種の転校生の洗礼のようなものだろう。
打って変わってラウラの方だが同じ転校生だというのにえらい違いだ。
常に不機嫌そうな仏頂面がクラスメイト達を遠ざけているのだろう。
翔介と一夏はそんな二人の対比を見ていた。
「翔介、大丈夫か?」
「うん、もう痛みはないよ」
とはいえ引っ叩かれた頬の赤みは消えていない。
あの小さな体躯でありながらなかなか威力の高いビンタだった。
「それにしても僕たち以外にも男性操縦者がいるなんてね」
「ああ、そうだな」
二人はクラスメイト達に囲まれるシャルルを改めて見る。
金髪、紫の瞳、小柄で中性的な容姿は絵本に出てくる王子様のようにも感じる。
これは間違いなく女子生徒に人気が出るのも頷ける。
「意外と探せばいるのかな?」
「少なくとも俺、翔介、シャルルって出てきたわけだしな」
織斑一夏がISを動かせると分かってから、これで三人目の男性操縦者。
これは偶然なのだろうか。
「それだけではありませんわ」
するとセシリアが二人に近づいてくる。
「彼はデュノアと名乗りましたわ。間違いでなければあのデュノア社の関係者となりますわ」
「デュノア社って…あれ、確か…?」
「ISの企業だったよな? フランスの」
デュノア社。
フランスに本社を持つ今のIS業界でもトップクラスに値する企業だ。
学園の訓練機にもあるラファールもデュノア社の開発した機体だ。
「ええ、そうなれば世界で三人目の男性操縦者というだけでなくデュノア社の御曹司という事にもなりますわ」
ますます王子様感が出てきた。
容姿端麗で大企業の息子、その上紳士的な立ち振る舞い。
これはますますモテる。
「なんだか住んでる世界が違うね…」
「おう…」
「何をおっしゃいますか。生まれ、育ちなんて関係ありませんわ。人とは生きている間に何を為すかですわ」
セシリアが得意げに告げる。
だが一夏と翔介はそんな彼女をジーッと見つめる。
「何か?」
「いや…」
「別に…」
本当に随分と変わったものだ。
入学当初は男であるというだけで目の敵にされていた二人だったが、彼女がこんなことを言うようになるとは想像できただろうか。
しみじみそう思っていると校内放送が流れてくる。
こんな最新式の学園でも校内放送の音声は変わらないようだ。
『一年一組 道野翔介君。すぐに応接室に来てください』
校内放送は翔介を呼ぶものだった。
「お前、何したんだ?」
「いや、何も…」
「何も叱られるというわけではないかもしれませんわ。職員室ではなく応接室を言っていましたわ。翔介さんにお客様でも来たのではないのでしょうか?」
セシリアの台詞で確かに、と二人が頷く。
「お客様だとしたらあまり待たせるのは悪いのではないですか?」
「そうだね、ちょっと行ってくるよ」
翔介は席を立ち、急いで応接室へと向かった。
-------------------------------------------------------------
翔介が応接室に入室するとそこには速田と山風の科特研
の二人と千冬、楯無が待っていた。
「やあ、翔介君。久しぶりだね」
「速田さん、山風さん。どうしたんですか?」
「君に届け物だよ」
届け物。
それを聞いただけで何のことかわかった。
「実物は格納庫の方に運んでおいたよ。データの方だけでも先に見せておこうと思ってね」
そう言って速田が手持ちのタブレットを操作し、三人に見せる。
そこに表示されるのは翔介の打鉄に取り付けられる新たな翼。
ハイドロジェネレードロケットだ。
本来のロケットは科特研ビルの前に設置されていたジェット機のモニュメントに取り付けられていて随分と大きなものに見えた。
しかし、タブレットに映し出されているのはISの打鉄専用に開発し直したもののようだ。
速田の説明によればロケットは打鉄の背部に大きなロケットを一基、腰部に中型のロケットを一基、足部の左右に小型がそれぞれ一基ずつ取り付けられるようになっているようだ。
「合計四つのハイドロジェネレードロケットですか」
「ああ、本来のロケットのように大気圏を突破する能力はないが打鉄のスピードを極限まで引き上げることができるぞ」
「しかし、随分と時間がかかりましたね」
楯無がタブレットを見ながら尋ねる。
すると速田が苦笑いを浮かべる。
「あいつはフィーリングで生きてるからな」
山風は腕を組んで顔をしかめる。
「フィーリング?」
「井部は優秀なんだがその時の感覚で開発をすることがあってね。そのせいで設計図や資料が用意されてないことも多くてね」
「ハイドロジェネレードロケットもあいつがフィーリングで作ったものなんだよ。だから設計図も何もなくてあいつの頭の中からもう一度引っ張り出すのに時間がかかったんだよ」
そういう山風の言葉になにやら千冬が微妙な顔をしている。
何か思うところでもあるのだろうか。
ただ頭から設計図を引っ張り出したら後は早かった。
あっという間に打鉄専用のロケットとして作り出したようだ。
やはり天才は天才であった。
そしてハイドロジェネレードロケットに打鉄専用の名前が付けられた。
「その名も『星の翼』」
「『星の翼』ですか…」
翔介は改めてタブレットに映るロケットを見つめる。
今からその新たな翼で空を飛ぶのが楽しみだ。
「後、このロケット以外にも装備を持ってきたから是非見て欲しい」
「他にもですか?」
「ああ、随分待たせてしまったお詫びも兼ねてね」
速田はそう言ってさらにタブレットを操作する。
翔介はチラリと時計を見るとそろそろ次の授業が始まる頃合いだ。
それに気付いた千冬。
「授業は気にするな、公欠扱いにしておいてやる。その代わりしっかり説明を受けておけ」
千冬からのお許しも出たので科特研の二人の話をじっくり聞くことに。
「速田さん、山風さん。お願いします」
「ああ、それじゃあまずは…」
そう言って速田と山風が他の装備を紹介してくれる。
一つは大型の楯。
普段は半分に折りたたまれているが、起動させるとガラリと開き打鉄を覆うほどの楯になるという。さらに分割し、さらに打鉄の各部位に装着することもできる。
その名も『重ね畳』。
元々防御力の高い打鉄をさらに底上げするための物のようだ。
もう一つは小型の片手装備。
こちらはワイヤーを射出するもの。ワイヤーの強度はそんじょそこらの刃物では断ち切ることができないほどの硬さを持っている。先端にはフックが付いている。
相手に巻き付けて動きを封じたりすることに使えるという。また小型でありながらワイヤーも非常に長く伸びる。
名前は『絡み蔦』。
二人の説明はとても分かりやすかった。
どのように使用して、どんな時に効果的かなども一からアドバイスを受ける。
二人の言葉に頷きながらメモを取る翔介の横では千冬と楯無が見守っていた。
今回持ってきたのはこの二つだけのようだがこれだけでも今とは随分と変わるだろう。
始めはどうなるかと不安だった企業との提携もこれならうまくやっていけそうだ。
しばらく持ってきた装備の説明を一通り終えた速田と山風は学園を後にした。
今後も色々と開発した装備を持ってくるというので、その都度使った感想を聞きたいと言い残していった。
「ふぅ…」
翔介の口からため息が漏れる。
この短時間で覚えることが多かった。色々考えて茹だった頭が冷えていく。
「お疲れ様」
「なんだか色々疲れちゃいました」
「まあ、覚えることが多かったしね。でも話を聞いて終わりじゃないわよ?」
「話の次は実践、ですね」
翔介がそう告げると楯無がにこやかに頷く。
「道野。企業の装備を使うという事は自分だけではなく、相手企業のメンツを守る必要も出てくるぞ」
「はい…」
企業のメンツ。
二人はそんなことは言わなかったが、彼らは科特研で一番目玉の装備を提供してくれたのだ。それだけ翔介に期待をかけているということでもあるのだろう。
「できる限りでは駄目だ。何が何でも結果を出せ。それが企業と関わるという事だ」
千冬にそう言われるとうまくやっていけるかと思っていた心が少し挫けてくる。
「大丈夫よ、翔介君。その為に私がいるのだから」
「…はい、よろしくお願いします、お師匠さま」
心が挫けそうだが、何もしない内に諦める理由はない。
まずは始めることから。
それに正直にいえば楽しみな気持ちの方が強かった。
翔介はグッと拳を握り締めた。
本日はここまで。
時間が空いてしまいましたが、投稿しました。
新たな装備を手にした翔介。
彼が上手に使いこなすことができるのか、特訓次第です。