空気が重い。
部屋に三人もいるのに誰一人口を開かない。
一夏と翔介は目の前に座る少年…いや、少女を見やる。
「……」
シャルルは二人の視線に気づくと気まずそうに眼を逸らす。
取りあえず謝るべきなのだろうか。わざとではないのだが、シャワー中の彼女を覗いてしまったのだ。
幸いと言うべきか、謎の力が働いたのか、肝心な部分はシャワーによる湯気で見えなかった。それでも丸みのある身体つきは彼女を女性であることを物語っていた。
「えっと…デュノア君、いやデュノアさん…?」
「やっぱりシャルル、お前…」
ようやく口を開いた翔介に一夏が続く。
既に言い逃れができないと観念したのかシャルルはポツリと語り始める。
「そうだよ、僕は本当は女なんだ。本当の名前はシャルロット」
「どうして、男だなんて言っていたの?」
「僕の実家がデュノア社だっていうのは知ってるよね?」
彼女が言うにデュノア社は世界第三位のシェアを誇るIS企業だが、その技術や情報が遅れており第二世代で止まっているのだという。
そもそもIS企業は国からの援助を受けて開発を行っている。つまり逆を言えば先がないと判断されれば国の援助は打ち切られてしまう。
この経営危機を乗り切るためにデュノア社が目を付けたのが世界初の男性操縦者であった。
娘であるシャルル、いやシャルロット・デュノアを男性として送り出すことで世界で三人目の男性操縦者と言う広告塔とすると同時に織斑一夏や道野翔介という前例を調査しデータ収集をさせようとしたのだ。
ふと翔介が横を向くと一夏の表情が険しい。
無理もない。一夏には物心がついたときから両親はいなかった。家族といえるのは姉の千冬のみ。そんな彼にしてみれば家族を利用して会社を存続させようとするデュノア社のやり方は気に入らないのだろう。
それは翔介も同じであった。
彼も家族は大事にするべきものと考えている。だからこそデュノア社に対して良い感情を抱かないのも当然であった。
勿論、二人とも企業を存続させる難しさや、そこに働く大勢の従業員たちを守るという責任の重さを理解できないほど子供ではない。
だが、その為に家族を利用しようとするやり方を仕方ないと言えるほど大人でもなかった。
「でもそれも終わり」
「終わりってどういうことだよ?」
「僕は男だと偽ってこの学園に来たんだよ。それがバレた今この学園にいることはできないよ」
シャルロットが自嘲気味に笑う。
「いることはできないって…この後、どうするの?」
「恐らくはフランスに帰国、その後は僕にもわからない」
わからないというシャルロットだが、その表情からみてもけして良い扱いを受けることはないだろう。
「バレたのも僕たちが黙っていれば問題ないんじゃないかな?」
「じゃあ、二人ともこれから三年間ずっと黙ったままでいられる?」
「それは…」
古来、人の口に戸は立てられぬという。どれだけ気を付けていたとしてもいつまでも黙っていられる自信はない。
それにシャルロット自身も三年間ずっと隠し通せるかはまた難しい問題だ。
「でしょ? だからもうこれでおしまいなんだよ…」
部屋中が重い空気で満たされる。
確かにこればかりは子どもである翔介たちにはどうこうできるものではなかった。
だがそんな中さらに怒りを募らせている人物がいた。
「…いかねえ」
「え?」
「納得いかねえ!」
一夏がバッと立ち上がる。
「子どもは親の道具なんかじゃねえ! 子供をなんだと思ってやがる!」
「仕方ないよ…」
「仕方ないってなんでそう言えるんだよ!」
「僕は愛人の子だから」
シャルロットの言葉に二人は絶句する。
愛人の子、それがどんな意味なのかを知らないわけではない。
「僕は愛人の子。僕の母が亡くなったのを知った父が僕を拾ったんだ。つまり僕は父からすれば使い勝手のいい駒なんだよ」
乾いた笑顔を見せるシャルロット。
「やっぱり納得いかねえ! 愛人の子だからなんだってんだよ!」
それでも一夏の怒りは止まらない。
その怒りはここにはいないシャルロットの父へと向けられている。
「そしてお前にも納得がいかねえ!」
すると今度はシャルロットへと視線を投げかける。
困惑するシャルロット。
「お前さっきからしょうがないとか仕方ないって諦めてるが本当にそうなのか!?」
「ど、どういう事?」
「お前は本当にそれでいいって思ってるのかよ」
一夏が投げかける問いは彼女の本心を問いただすものだった。
「僕の…?」
「ああ、お前は本当にこのままでいいのか? このまま流されてばかりでいいのか?」
真剣に問い掛ける一夏。
彼の問いかけに言葉を失うシャルロット。
「デュノアさん、織斑君のいう事も間違ってないと思うよ」
彼女の今の姿は仲直りする前の更識姉妹を思わせた。
本心を隠し、ただひたすら現実に流されようとしている。
「デュノアさんはどうしたい? 本当にこのままフランスに戻っていいの?」
「親の意向とか、会社とか関係ねぇ。お前の意志が聞きたい」
二人の問いかけにシャルロットが顔を俯かせる。
「僕だって…僕だってこんなことしたくないよ!」
今まで貯めていたものを爆発させるシャルロット。
「でもどうすればいいのさ! 相手は大企業! 僕は愛人の子で! どうしようもないじゃないか!」
一度爆発した感情は止められない。
今の自分に納得なんてしていない。それでもそうしなければどうしようもなかった。
母を亡くし、身寄りのない自分が生きていくにはそれしかなかったのだから。
「それなら大丈夫だ!」
一夏が胸ポケットから学生手帳を取り出す。
「『特記事項、学園に在籍する者はいかなる国家、団体、組織に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として禁止する』」
「それって…?」
「つまりこの学園にいる三年間はどの国からの干渉を受けない。だからこの間に何か手段を考えるんだ」
IS学園は世界で唯一のIS操縦者の養成校。一夏や翔介のような未経験者やセシリアや鈴のような国家の代表候補者のような人物が集まってくる。
そんな学園は世界各国の企業からすれば人材の宝庫だ。
だがその中にはそんな生徒たちを食い物にしようとするアコギな企業も存在する。そんな企業から生徒たちを守るために定められた校則だ。
勿論、翔介のように学生の内に提携する例もある。
つまり一夏はこの校則を利用してデュノア社からの介入を回避しようということのようだ。
確かにこれならば最低でも三年はシャルロットを守ることはできる。
その間に糸口を探ることも可能だろう。
だが。
「それでいいのかな…?」
「どういうことだよ?」
翔介の言葉に一夏が問い掛ける。
「えっと、僕も織斑君の特記事項を利用して三年間、方法を探すことには賛成だよ。この特記事項があれば三年間は間違いなくデュノア社から守ることはできると思うし」
だけど、と続ける。
「でもそれが問題の先延ばしにならないかなと思って…」
翔介の心配はそこだった。
特記事項により三年間は守られるだろう。しかし、その三年間でいい方法が見つかるかどうかわからない。
結局は時間をかけただけで解決できなかったなんてことが起きかねない可能性もあり得るのだ。
「だけど今はそれ以外方法はないだろ?」
「うん…でも一つだけなら…」
「え、あるの?」
シャルロットの言葉に頷く翔介。
策と呼べるようなものではない。ただ翔介には一つだけどうにも腑に落ちないことがあった。
もしその答えを得ることができれば。
「どんな策なんだよ、教えてくれ」
一夏もシャルロットと同じように問い掛ける。
翔介は賛同されないかもしれないが一つの方法を告げる。
「デュノアさん、お父さんに電話してみない?」
本日はここまで。
また間が開いてしまい申し訳ありません。
この辺りはだいぶオリジナルの解釈などが入っています。
綺麗なまとまり方はしないかと思いますがご了承ください。
翔介が告げた方法。
シャルロットを救う手段となるのだろうか。