「星の翼を上手に使いこなしたい?」
「はい、どうしたらいいでしょう?」
放課後。いつもの楯無との訓練で早速翔介は彼女に相談をしていた。
彼の相談に楯無は扇子を口元に当てながらふむと考え込む。
ちなみに今日は簪は不在である。もうすぐ彼女の専用機が完成すると言っていた。だが今回のトーナメントには間に合いそうにはないらしい。
「そうねぇ、なら使い方を考えてみましょうか」
「使い方?」
「そう、考えても見ればいきなり全てのロケットを使おうとすることが間違っていたのよ。まずはそれぞれ動かすことから慣れていくのがいいわね」
早速やってみようという事で打鉄に乗り込むように指示を受ける。
翔介は打鉄に乗り込み、星の翼のスロットを開く。
「まずは両足の方から慣れていきましょうか。エネルギー効率を両足の方にだけ分配。はじめは十%くらいにしましょう」
楯無の師事を受けながら言う通りに設定する。
「行きます…」
恐る恐る両足のロケットを起動させる。
打鉄を纏った翔介は上空へと飛び上がっていく。
初めて星の翼を使った時とは違って、その加速度は比較的緩やかだ。
とはいえ普段の打鉄の飛行速度より格段に向上している。
「おお…!」
思わず感嘆の声が上がる。
翔介はロケットの出力を抑えながらアリーナの地面へと降り立つ。
「うん、中々いいじゃない」
楯無から褒められた。
翔介自身も初めて星の翼を使って墜落しなかったのだ。嬉しくないわけがない。
「でもまだまだですよね」
そう、使えたとは言っても出力は十%、それも両足のロケットだけと非常に限定した状態でだ。
到底使いこなせたとは言えない。
「ええ、だけどようやくはじめの一歩を踏み出せたと言えるわ。小さい一歩こそ大きな結果への礎なのよ」
「は、はい」
「それじゃあ方針も決まったわね」
まずは両足のロケットから始まり、徐々に出力を上げていく。それに慣れてきたら今度は腰のロケットを。その次が背中のロケットと段階に分けて訓練していき、最終的に星の翼全ての機能を使えるようにするという方針が決まった。
時間がかかるかもしれないが段階を踏むことで確実にモノにして行く方向で考えていくようにしたようだ。
「そうだ、翔介君。少し聞いてもいいかしら?」
「はい?」
星の翼のエネルギー分配を調整していると楯無が問い掛ける。
「トーナメントのパートナーは決まったのかしら?」
「ああ、それなんですが…」
翔介は箒にパートナーの誘いを受けたことを話す。
勿論、優勝したら一夏に告白云々は黙っているが。
「そう、箒ちゃんに誘われたのね。てっきり一夏君と組もうとするかと思ったのだけど」
「えっと、織斑君と戦って勝ちたいって」
「なるほどねぇ、それで箒ちゃんと組むのかしら?」
「それがパートナーの件は自分でも考えてみて欲しいって言われまして」
箒の誘いを受けるのもアリだろうが自分でもパートナーを探すようにしたことを伝える。
それに対して楯無はホウホウと頷く。
「ならまだ正式には決まっていないわけね。それなら私から一人推薦していいかしら?」
「推薦ですか?」
楯無の推薦。なんとなく誰だか想像がつく。
「そう、私は我が更識家が誇る優秀で超プリティーな自慢の妹。簪ちゃんよ!」
やはりそうであった。
とてもキラキラした目でまるで劇を演じるようにくるくると回っている。
本当にいつぞやの楯無はどこに行ったのかと思うほどの変わりっぷりだ。そんな溺愛っぷりが当の簪にやや鬱陶しがられているのだが。
「更識さんですか?」
「ええ、専用機は間に合わないかもだけどあの子の技術は私も保証するわ。あなたと二人なら良い線まで行けるわ」
簪の操縦技術はまだ見たことはないが、代表候補生に選ばれるくらいなのだから彼女の言う通り腕前は確かだろう。
そう思うとパートナーを頼んでみるのもアリかもしれない。
しかしそれとは別に少し気になることが。
「でもお師匠さまから言うなんて思わなかったです」
「え、どうして?」
「お師匠さまのことだから、『簪ちゃんのことは任せられない!』とか言うのかと」
「翔介君、私の事なんだと思ってるのかしら…」
日頃の行いである。
「そんなこと言わないわよ。むしろ愛する妹と愛弟子のコンビなんて姉としてお師匠さまとして見てみたいに決まってるじゃない」
「そ、そうですか…」
思わず顔が赤くなる。
妹への愛はいつも通りだが、こんな出来の悪い自分を愛弟子と言ってくれることが素直に嬉しかった。
「それに簪ちゃんも翔介君となら安心して戦えると思うわ」
「そうでしょうか…?」
「ええ、だからもし良ければ考えてみて頂戴」
そう言ってにこりと笑う楯無。
確かに翔介としても代表候補生がパートナーというのは非常に心強い。
簪とパートナーを組むことも考えてみてもいいかもしれない。
ドンッ!
そう考えていると翔介たちのいるアリーナに隣接するもう一つのアリーナから爆音が起こる。
誰かが模擬戦でもしているのだろうか。
いや、それにしては生徒たちの悲鳴のようなものが聞こえる。
「どうしたんでしょう?」
「…何かあったみたいね。行ってみましょう」
「はい!」
二人は急遽訓練を中止し、隣のアリーナへと駆け出した。
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息を切らせてアリーナに駆け込むと、中央には黒いISと一夏が対峙していた。彼の後ろにはセシリアと鈴が倒れ伏している。彼女たちの纏うISは見るも無残なほどにボロボロだ。
今の状況から鑑みればあの黒いISが二人を打ちのめしたのだろう。
両肩には大砲のような大型レールガン、重厚な印象を受ける黒い巨体。
それを見るといつか学園を襲撃したISを思い浮かべる。
その黒いISをよく見ると、ヘッドギアから覗く銀髪。そして左目を覆う眼帯。
「あれはボーデヴィッヒさん?」
「ドイツからの転入生だったわね。そしてあれが彼女の専用機、シュヴァルツェア・レーゲン。ドイツの第三世代ISね」
一夏とラウラは何事か会話をしているようだ。会話の内容は翔介たちの場所からは聞こえないが二人の間に一瞬即発の空気が漂う。
弾かれたように二人がぶつかり合う、かと思われた。
しかし、その二人の間に割り込む影。
「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」
千冬だ。
千冬は二人の間に割り込むとISの近接ブレードを手にラウラの手刀を受け止めていた。
乱入者の登場に驚く二人。
驚いているのは割り込んだこともあるだろうが、千冬が生身で近接ブレードを振るっていることもあるだろう。自身の身の丈以上もあるブレードを自分の手足のように扱う。
「模擬戦をやるのは構わん。だがアリーナのバリアを破壊される事態にまでなると教師としては見過ごすわけにもいかん。この決着は学年別トーナメントで着けてもらおう」
文句はないな?と千冬が二人を見やる。
「教官がそう仰るなら」
「あ、ああ」
「ならトーナメントまで一切の私闘を禁止する」
千冬の鶴の一声によりアリーナの騒ぎが終息する。
セシリアと鈴はISを解除され、担架で運ばれていく。このまま保健室に連れていかれるようだ。
「お師匠さま…」
「ええ、いってらっしゃい」
翔介は楯無に許可を受けると保健室へと向かった。
アリーナを出ようとした横目にラウラの姿が見える。
ISを解除し、依然表情を変えることなくアリーナを後にする。そんな彼女を腫れもののに避ける生徒たち。
気丈な姿だが、翔介にはどこかその後ろ姿が寂しげに見えた。
本日はここまで。
だんだんと原作二巻の後半戦へと入ってまいりました。
作品執筆の資料のために原作を読みますが、どうやって主人公を関わらせていこうかと結構悩みます。