インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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41話

「やったね! ボーデヴィッヒさん!」

 

試合が終わり、控室に戻った翔介はISから降りてすぐに目を輝かせながらでラウラへと駆け寄る。

無理もない。この試合が彼にとって初めての勝利なのだから。

その様子はどこか子犬のようにも見えた。

 

「落ち着け、まだ一試合目だろう」

 

興奮しているパートナーに苦笑交じりにそう窘める。

 

「あ、ああ、そうだったね…」

 

窘められ少し冷静になる翔介。だが、その表情は未だ興奮冷めやらぬ様子だ。

とはいえ、ラウラも今回の勝利に少しばかり浮かれる気分も理解できた。

以前のラウラなら勝利は当たり前。出さなければいけない結果であると淡々とそれを受け止めていたことだろう。

 

これも目の前のパートナーのせいだろうか。

今回は自分一人だけの勝利ではなく、共に戦うパートナーと掴み取った勝利。

試合中に箒を思い出す。

試合相手とはいえ、翔介が他人に与える影響はけして少なくない。

ラウラも例外ではない。

 

「…存外、悪くないものだな」

 

「え?」

 

「気にするな、独り言だ」

 

それよりも、とラウラが口を開く。

 

「今回の連携、少しもたつきがあったぞ」

 

「うっ…ごめんなさい…」

 

試合最初はこんなにも早くぶつかるとは思わなかった動揺のせいで、訓練時から二人で練っていた連携が遅れてしまったことを言っているのだろう。

 

「まあ…連携自体は及第点だろう。次もあの調子で行くぞ」

 

「…うん!」

 

二人で話していると次の試合の時間が近づいていた。

そろそろ控室も次のタッグに交代しなければいけない。

今日は一年生の一試合目を行っていく日程となっているため、翔介たちの次の試合は明日になるようだ。

二人は控室を退室する。入れ替わるように次の試合の生徒たちが入っていった。

ラウラは観客席の方へと体を向ける。

 

「私は情報収集のためにこの後の試合を観ていくが、お前はどうする?」

 

ラウラの言う通り、以降の試合を観ることは次の自分たちの試合のためにも有用だ。

このトーナメント期間中は他の試合を見学するも良し。自分の出番が来るまで休むも良しと自由に過ごすことを許可されている。

大体の生徒は試合観戦をしているが、試合に出場すれば出席とみなされるので学園内は割と自由な空気が流れている。

 

「僕は…少し休もうかな」

 

勝利したものの体力は結構消耗している。

次の試合のための見学も重要なことだが、本調子でない身体で次の試合に挑むわけにもいかない。

 

「そうか、ならゆっくり休むと良い」

 

「ごめんね、僕も見学したほうがいいと思うんだけど…」

 

「明日も試合があるのだろう。疲れているなら休め」

 

「うん、ありがとう。それじゃあね、ボーデヴィッヒさん」

 

翔介はラウラに手を振りながら寮の方へと歩を進めた。

 

-----------------------------------------

 

ラウラと別れて寮へと戻っている翔介。

チラホラと自由に過ごしている生徒たちの横を通り過ぎていく。

やがてグラウンドに差し掛かるとふと足を止める。

グラウンドの横には花壇が作られており、そこには季節の花が植えられ生徒たちの学園生活に色を添えているのだが。

 

「あ…そういえば、今日は轡木さん出掛けるって言ってたっけ」

 

轡木さんとは教員まで女性が揃うこの学園で用務員をしている轡木十蔵という壮年の男性だ。

生徒会に入って間もないころ、庶務の業務という名目で彼の手伝いをした縁で仲良くなり、業務関係なく花壇の手入れなどを手伝うようになっていた。

今回も朝から出掛けてしまうため、花壇の水やりを頼まれていたことを思い出したのだ。

六月となり季節も初夏を迎え梅雨入りもしたが、ここ最近は晴れ間が続いているため水やりは欠かせない。

 

翔介はくるりと踵を返し、用具室へと向かった。

十蔵から自由に使って構わないと言われ、用具室の鍵を預かっているためホースを引っ張りだし、水道に設置する。

ホースのコックを握ると勢いよく水が流れ、花壇の花たちに降り注いでいく。

大きい花壇でもないため水やりにさほど時間はかからない。

だがよくよく見てみれば雑草が目に付く。十蔵が毎日手入れしているが梅雨時の雑草というものは目を離した隙にあっという間に顔を出してくる。

 

翔介は蛇口を捻り水やりを終えると、腰を落として草むしりを始める。

単調な作業だが翔介にとっては苦には感じられなかった。それどころか知らず知らずのうちに鼻歌が漏れてくる。

さっきまでISを操縦し戦いを繰り広げていたとは思えないほどの穏やかさ。

他人から見れば労働に見えるだろうが、故郷では畑仕事や花を育てることに慣れ親しんできた彼にとってみれば心休まる瞬間なのだろう。

 

鼻歌交じりに雑草を引っこ抜いていき花壇の見栄えも良くなってきた。

 

「向日葵ももう少しで咲きそうだね」

 

天に向かってすくすくと伸びた向日葵の姿を見ながら嬉しそうに呟く。

四季折々のどの花も美しいが、特に翔介は向日葵の花が好きであった。

最初は小さな芽でありながらその名の通り太陽に向かって伸びていくその姿はいつか空の果て、宇宙を目指す自分と重ねていた。

 

 

「何をしているんだ、道野」

 

 

ニコニコと向日葵を眺めているところを後ろから声をかけられた。

振り返るとそこにはつい先程刃を交えた箒と簪の二人が不思議そうに彼を見ていた。

 

「花壇の手入れをしてたんだ。轡木さんに頼まれてたの思い出して」

 

翔介は手の泥を叩きながら立ち上がる。

 

「頼まれたからといって、試合が終わったばかりなのにか? 少し休んでからでもいいだろう?」

 

「いや、僕的には楽しいんだけど…」

 

そう言いながら額の汗を手で拭う。タオルでもあればいいのだが生憎と持ち合わせておらず手の泥が顔を汚してしまう。

 

「ああ、試合と言えば…」

 

翔介は表情を曇らせる。

試合が終わった直後は初勝利に興奮して思い至らなかったが、それはつまり箒の目的が潰えてしまったことを意味していた。

 

「篠ノ之さ…」

 

「言うな、道野」

 

口を開こうとした彼を手で制する箒。

 

「お前が今言おうとしていることはボーデヴィッヒやお前自身を貶める台詞だ。それに何よりも私たちに対しての侮辱だ」

 

制した箒が厳粛な表情で告げる。

その言葉で翔介は自身の至らなさを痛感した。

負けた相手に「勝ってごめんなさい」とはあまりにも無責任な言葉だ。

故郷のある人物に言われた言葉があった。

「勝負事にはどうしても勝ち負けがある。負けた相手を思いやるのならば勝利した人間は頭を下げてはいけない。それはその勝負の価値を下げてしまうことだから」と。

 

今がまさにそれだ。

 

「お前たちは正々堂々と戦って私たちに勝ったんだ。ならば何も負い目を感じることはない。あの時の私のように…」

 

そう告げると箒は中学時代の剣道全国大会を思い出していた。

中学三年の頃に全国大会で優勝という成績を修めたが、彼女にとっては苦い思い出であった。

その頃の彼女は姉である束の失踪、重要人物保護プログラムによる一家離散、日々続く監視と聴取などの過酷な生活で荒んでいた。

剣道全国大会優勝などと聞こえはいいが、当時の荒んでいた箒は日頃の憂さを剣道にぶつけていただけであった。そのことに気付き、更に自己嫌悪が彼女を苛んだ。

 

それと比べればISの性能差こそあれど自分たちの持てる力全てをぶつけ合ったこの試合は天と地ほどの差があった。

だからこそ、彼女は翔介に頭など下げてほしくはなかったのだ。

とはいえこの少年、なにもフォローしないと延々と悩んでしまう可能性もある。ならば少しでも吹っ切れるように声をかけるべきだろう。

 

「道野、私たちは負けたがお前たちは勝ったんだ。なら、このまま勝ち続けろ。それが私たちへの手向けだ」

 

「……うん! 頑張るよ」

 

翔介が力強く頷く。

初めて会ったときはナヨッとしているように見えたが、この少年への印象はすっかり変わっていた。

箒自身も未熟ではあるが、彼の成長が楽しみでもある。彼は同年代のはずだが、なんとなく弟がいればこんな気持ちになるのだろうか。

 

「じゃあ、試合のことは置いといて…あの、更識さん?」

 

翔介がちらっと簪の方を見やる。

そういえば先程から一言も喋っていない。というか、いつの間にか箒の隣から背後へと移動している。

 

「何をしているんだ、簪」

 

「さ、更識さん?」

 

声をかけるが肝心の簪はコソコソと箒の後ろに隠れたままだ。

最初の誰も寄せ付けない雰囲気のあった彼女から比べれば、随分と箒と仲良くなったものだと感心するがこれはこれでどうしたものか。

 

だがそれも無理からぬものだろうと箒は感じていた。

 

「簪も疲れたのだろう。私たちはもう行くから、お前もちゃんと休むんだぞ」

 

「う、うん」

 

やや戸惑いながらも翔介は二人を見送る。

簪は終始箒の影に隠れながらではあったが。

 

「どうしたんだろ、二人が組んだ理由ちゃんと聞いてみたかったんだけどなぁ…」

 

翔介は頬を掻きながら、残る草むしり作業に戻った。

 

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「……おい、簪。もういいだろう?」

 

「う、うん…」

 

ある程度翔介から離れたところでようやく簪は箒の影から離れた。

 

「だいぶ不審がっていたぞ、あそこまで露骨に隠れなくてもいいだろう?」

 

「で、でも…」

 

簪は細い指を合わせながら目を泳がせる。

まあ、口ではああいったが箒には彼女の気持ちは理解できた。

箒が簪とタッグを組むことになった理由。

翔介には同じ目的を持っているとだけ伝えた。

その目的というのが。

 

箒は簪からパートナー依頼を受けた時の言葉を思い出す。

 

 

 

『翔介にどうしても勝ちたい。だからお願い、一緒に組んで』

 

 

 

それが彼女の目的であった。

理由を尋ねてみれば、楯無との関係が修復されて以降何度かその訓練を見学していたが小さいながらも一歩ずつ成長していく彼を見て触発されたらしい。

今まで自分のISを組み上げることに躍起になっていたが、密かに操縦の訓練も行ってきた。

ゆっくりだが一歩一歩と成長していく彼とどうしても戦ってみたくなった。そして勝ちたくなったのだ。

 

それを聞いた箒は一も二もなく了承した。

勝ちたい相手がいる。その目的を同じくする簪と組むことに悩む余地などなかった。

まさか一試合目からぶつかるとは思わなかったが。

 

結果は敗北であったが、簪は目的の翔介と刃を交えることができたのだ。

 

「満足したか?」

 

箒の問いかけに簪は下を向いて考え込む。

 

 

 

「全然。だって私、勝ってない」

 

 

 

その答えに思わずフッと笑みが浮かぶ。

なるほど、確かにその通りだ。簪の目的は『翔介と戦うこと』ではなく、『翔介と戦って勝つことなのだから』

 

「でも、箒は良かったの?」

 

「む?」

 

「だって、一夏と…」

 

そう、簪は敗北したとはいえ目的の相手と戦えた。だが箒はそうではない。

 

「まあ、確かに私は一夏とは戦うことはできなかった。だが、あの試合で負けて文句などない」

 

先程も言った通り、お互いが正々堂々と真正面からぶつかった結果なのだ。あの剣道大会から比べれば負けたにも関わらず清々しい気持ちでいっぱいだ。

 

「それに私は文句はないが、諦めるつもりは毛頭ないぞ。こんな機会はこの学園にいればいつだってある。ならば次こそはあいつと戦う。そして勝ってみせるさ」

 

「箒…」

 

それに箒の目的は一夏と戦って勝つ、だけで終わりではない。勝ったうえで告白するまでが彼女の目的だ。今回は上手くいかなかったと諦めもつく。

 

 

ただ一つ懸念があるとすれば。

 

 

学園内でささやかれる『優勝者が一夏と付き合える』という噂。

こんな根も葉もない噂だが、嘘から出た実なんて言葉もある。

願わくば一夏が優勝して有耶無耶になるが。もう一つの手段とすれば。

 

「とにかく明日以降は道野たちを応援するぞ」

 

「う、うん?」

 

翔介とラウラのタッグが優勝することを願うしかない。

翔介は同性、ラウラは今はそこまででもないが一夏に好意を抱いている様子もない。幸か不幸かセシリアや鈴もいないため、優勝の目は十分あるはず。

 

キョトンとする簪を尻目に箒は懊悩しながら歩を進めた。

 

 

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一日目の日程も無事に終わった放課後。

 

早速次の試合の組み合わせが発表された。

 

 

『二日目 第一試合 道野翔介&ラウラ・ボーデヴィッヒVS織斑一夏&

シャルル・デュノア』

 

 

 




本日はここまで。

お仕事休みで今日は妙に筆が乗り、早い投稿となりました。
書いていてですが箒が原作より大人しくなりすぎているようにも感じます。違和感を覚えるかもしれませんがちょっと大人しいだけと思って大目に見ていただけるとありがたいです。

他にも主人公がのほほんとしすぎていたりと試合時とはギャップが凄すぎるような気もと書いてて内心「これでいいのか」と思ってしまったりしなかったり。

今回はオリジナル展開でしたが、次回から原作に進路を戻しまして原作二巻クライマックスとなります。


箒と簪タッグとの試合も終わり、束の間の休息を取るもまさかの組み合わせが発表!

主人公とラウラは、この二人とどう戦うのか!
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