IS学園の職員室。
織斑千冬は自分のデスクでパソコンに向かっていた。
一学期も既に終盤。
ISの技術を学ぶという特殊な学園ではあるが、普通の学校と変わらず学期の最後にはこうやって通知表を配っている。
これを作成するのも担任である千冬の役目だ。
ずっとパソコンとにらめっこを続けて、疲れた目を癒すように目頭を揉む。
大体の生徒たちも終わり、残すところはあと一人。
「道野か」
女性しか動かすことのできないISを弟である一夏以外にも動かしたもう一人の少年。
多方面から注目されることが多い少年だがけして甘い採点はしない。
道野翔介。七月十日生まれ、満十六歳。
身長百五十九センチ、体重五十六キロ。
身長、体重共に十六歳の平均より下。小柄な分身長が百七十二センチの一夏の隣に立つとその差が際立つ。
肉体の成長は個人差であるため特筆するところもないだろう。
次は学業面。
この学園において学業は一般科目とIS科目の二つがある。
最初は一般科目面だ。
翔介は良くも悪くも得意不得意がはっきりしている。
得意科目は現代文、社会、理科。
逆に不得意科目は数学、英語。
文系を得意とする。社会と理科は歴史と生物が得意であり、地理や化学といった分野になると苦手となるようだ。
また理数系も苦手分野のようだ。
先日期末テストが行われたが、確かに現代文と歴史、生物は平均点以上の成績を出している。数学や英語は平均点を少し下回る成績だが赤点となる科目はなかった。
次はIS科目。
座学と実技、そして学年別トーナメントなどの行事の成績によってランクとしてCからSまでで評価される。
端的に言ってしまえば彼のランクはC。ランクとしては一番下のランクとなる。
実戦経験などは他の同級生と比べると多いが、操縦技術や知識などにややムラがあるためだ。これには日頃の訓練もそうだが、一人一人のセンスにもよってくる。
だが千冬からしてみればこのランクなどはあくまで指標に過ぎない。
それを踏まえて考えれば彼はけして力不足ではない。
知識に関しても少しずつだが理解を深めている。
次の項目は授業態度。
授業中も真面目に受けているし、理解できないところは理解できるまで学習している。ISに関しても放課後の自主訓練のお陰で最初のころと比べれば間違いなく上達している。ただその自主訓練の影響で授業中の居眠りに発展することもたまにある。
しかし、それを差し引いても他の教師陣からも評判は良い。
次は生活面。
普段の生活面に問題行動は特にない。部活には所属していないが入学早々から生徒会に所属し、放課後は自主訓練に勤しむか生徒会の仕事をしていることが多い。
生徒会の仕事の繋がりで個人でも用務員の轡木十蔵と共に学園の美化活動を自主的に行っている。十蔵からも助かっていると好評だ。
また最近いつの間にかできた相談室なるものの相談役も担当しているとのこと。こちらは会長たる更識楯無の発案によるものらしいが何故そんなことになっているのか。
学年別トーナメント以降相談者が増えているようだ。
最後に総括を付け加える。
学業面、生活面共に目立った問題行動もなく優良生徒と言える。
ただし危険や困難に立ち向かおうとするが故に無茶を通そうとする場面も多く、それ以外にも他者の問題に首を突っ込むこともある。
だがそこも含めて彼自身の長所ともとれるため、今後もそれを伸ばしてやれるように指導していくべきだろう。
千冬はそう締め括り通知表を閉じる。
これで全員分の通知表は終わった。
だがまだ千冬の仕事は終わっていない。
翔介に関してはもう一つ書かなければいけない書類がある。
道野翔介の報告書。
こちらは国に提出するものだ。
在学中はあらゆる企業や国の干渉を受けないとされているが世界でも二人しかいない男性操縦者。それを守るためという理由で報告書の提出を国から指示されていた。
すると職員室の扉を叩き入室する人影が。
「失礼します、織斑先生」
「更識か」
入室してきたのは楯無であった。
「頼まれていたものお持ちしました」
そう言って楯無がファイルを渡してくる。
タイミングがいいというべきか。
「ああ、丁度今から取り掛かるところだった」
ファイルを受け取り中身を確認する。
その中には翔介の今までの経歴やらが事細かに表記されていた。
これを基に国に対して報告書を作成することになる。
だが正直なところ千冬は本人に隠れて素性を暴くような行為は好まない。
だがそれで無視するわけにもいかない。
中身を確認する千冬だがふと視線が止まる。
「更識、道野の両親だが…」
「はい、間違いはありません」
道野翔介の両親についての文面を確かめる。
父、道野明介。
両人とも大学院で博士号を取得、後に天文学者となる。
妻となる巡とは入所していた研究所で出会う。
母、道野巡。旧姓、四季。
同じく天文学者。
明介と出会い、一人息子を儲ける。
どちらも天文学者と職業以外は普通の夫妻。
だが気になるのは次の欄。
夫妻ともども優秀な研究員だったそうだが、ある日を境に状況が変わる。
周囲からは気が触れたなどと言われ、夫妻は研究所を退所。
街から離れた山奥に自分たちの研究所を作り、そこで何かの研究をしていたという。
だが夫妻はその研究所の火事で一人息子を残し鬼籍に入る。
一説によれば火事の原因はそこで行っていた怪しい研究によるものだと言われている。
「この研究については何かわかっていることは?」
「申し訳ありません、そこまでは…」
更識家を以ってしても謎に包まれた研究。
よほど厳重に管理していたのだろうか。
千冬はさらに資料を読み進める。
両親を失った翔介はその後、東北の母方の実家に引き取られ今に至るようだ。
「引き取られた先では祖母と従姉妹二人と同居しているようです」
「ふむ…」
なんとも謎が残る出生というべきか。
両親を亡くすという壮絶な経験をしている割には今のような性格を形成されたのは引き取り先が両親の代わりにしっかりと愛情を持って育ててきた証拠だろう。
「調査段階では彼の両親は亡くなる直前までの動向が本当に不明です。研究内容も勿論ですが、突然気が触れたというのも気になります」
気が触れたとは言われていたようだが、その内容は全くと言っていいほど探ることはできなかった。どうにも研究所や学会内でもまるでタブーのように口を閉ざしている。
「このことについて道野はなにか言っていたか?」
「いえ…なにせ彼も随分と幼い頃のことですから」
そもそも翔介自身から両親の話を聞いたことがない。
話しにくいとかではなく、そもそも話題にするほどの物がないといった感じであった。
これ以上の情報も引き出せそうにない。
仕方ないので報告書の次の欄の記入に移ることにした。
今度はISについて。
専用機は持たないが、学園の打鉄を専用貸し出しという形で使用している。
扱いとしては専用機持ちとしてカウントされている。
現在は更識楯無の勧めもあり、宇宙航行科学特殊研究所と提携。
特殊装備としてハイドロジェネレードロケットをIS用に小型化した『星の翼』、ワイヤー射出装備である『絡み蔦』、可変型大型シールド『重ね畳』がある。
操縦技術や適性に関しては通知表に書いてあることと丸々同じで構わないだろう。
付け加えるとするならば未だ装備、特に星の翼を十全に使いこなせてはいない。とはいえ現段階で出来ることを把握し、自分の役割を全うしようとしているなどけして宝の持ち腐れという訳ではない。
今後も倦まず弛まず努力を続け成長に期待する、と最後に締めくくる。
「まあ、こんなものだろう。更識、手間をかけたな」
「いえ、それより織斑先生。一つ抜けがあるように思われますが」
「抜け?」
疑いを挟む楯無に千冬が首をかしげる。
「彼のあの力についてです」
あの力。
それは学園に黒い無人機のISが襲撃してきた際やこの前のシュヴァルツェア・レーゲンがVTシステムを発動させた際に見せたあの力。
打鉄に装備されていない謎の力。
これについても記載するべきものだと楯無は告げたのだ。
「何か書くことがあるか?」
そう言われるとなんとも返せない。
報告書に書ける事柄がないのだ。
なにせあの力について全くわからないのだ。
これでは報告も何もあったものではない。
あの篠ノ之束ですらわからないといった代物だ。不要に記載して面倒事に発展するのは楯無にとっても望むところではなかった。
「更識、引き続き道野の指導を頼む。あいつはしっかり指導してやれば間違いなく上達していくはずだ」
「畏まりました。ええ、言われずともあの子が一人前になれるくらいには指導していきますよ」
「頼んだぞ」
千冬がそう告げると、楯無は一礼して退室していった。
千冬は再度ファイルを見つめながら思案する。
「道野、お前は一体何を抱えている…」
番外編はここまで。
少し醜いかもしれませんが現段階の主人公の紹介となりました。
今後も何かの節目で番外編を投稿していこうと思います。
次回は本編に戻ります。