インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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45話

時期は七月。

梅雨も明け、からりとした青空が広がっている。

学園内は期末テストも終了し迫る夏休みの予定を立てたりなど浮足立っている。

それに反して翔介の気分はどんよりと曇り空であった。

 

理由はいくつかあるのだが…。

 

「……おい、聞いているのか、マブよ」

 

「あ、うん、聞いてるよ」

 

目の前で不満そうに眉を吊り上げるのはラウラ。

ちなみにマブというのは翔介の事らしい。なんでもマブダチだから、という事らしいが一体どこでそんな言葉を覚えたのか。

VTシステムに取り込まれた後の影響も特になく今では元気に登校している。

それは良いのだが…。

 

「それでだ、嫁の奴めさっさと服を着ろとうるさくてな」

 

「それはそうだと思うよ…」

 

「何故だ?」

 

心底不思議そうな顔をする。

翔介の悩みその一。

それがラウラの世間知らず加減だ。

学年別トーナメント後、一夏を嫁と呼び積極的にアプローチをかけている。

なんでも彼に「守ってやる」と言われ、今まで誰かに守られるという経験のなかった彼女の心をがっちりつかんでしまったらしい。

図らずも試合前の軽口が現実になってしまった。

 

その後彼女の友人、いや今やマブダチとして彼女の相談を受けることと相成った。

ただ、彼女の行うアプローチは過激すぎる。

今朝も一夏の部屋に忍び込み、すっぽんぽんで添い寝してきたとドヤ顔で報告し来た。今まで軍隊の中で生きてきたため恋愛という物を知らないからかぶっ飛んだ判断を取ることがある。

そもそも彼女からすれば一夏は嫁であり、自分とは夫婦の間柄。だから何も恥ずかしいことはないというのが彼女の持論。

 

直球なのはいいのだがもう少し慎みを持って欲しいのだが…。

 

だが彼の悩みはこれだけではない。

 

「ほら、ラウラ。翔介も困ってるから」

 

そう言って二人の間にシャルロットがラウラにやんわりと声をかけてくる。

 

「むっ、シャルロットか」

 

「ほら、一夏って日本人でしょ? 積極的に行くより三歩下がって男の人を立てる子が良いんじゃないかな?」

 

「むっ、ヤマトナデシコというやつか」

 

どう伝えたらいいのかと悩む翔介にシャルロットが助け船を出してくれた。

ラウラに対して一般常識を伝えるのには彼女の助太刀が大変助かる。

 

 

のだが…。

 

 

このシャルロットもどうやら一夏に好意を抱いているようだ。

経緯としては自分に居場所をくれたからと言うものらしい。

どうやらデュノア社社長に直談判した後に何かあったらしい。

女の子として学園に通えるようになった翌日頃に彼女自身からカミングアウトを受け、もはやお約束のように相談を受けることに。

 

ただ少し違うのは彼女は翔介の事情を知っていることだろうか。

翔介が箒たちの恋愛相談を受けているという事を知っている。

持ち前の察しの良さで勘付いたらしい。

だがそれでも特に怒ることもなく受け入れているようだ。

元より穏和な性格でもあるため波風を立てたくはなかったのだろう。

 

そこまで聞けば凄くいい子なのだ。

 

「うむ、つまりスニークミッションだな! 任せろ!」

 

「え、いや、そういうわけじゃ…」

 

大和撫子が暗殺のプロみたいになってしまっている。

ラウラは制止する言葉を無視して教室を駆け抜けていった。

 

「あはは…行っちゃったね」

 

苦笑い気味のシャルロット。

やがて翔介の方を向き直る。

 

「今度は僕が相談してもいいかな?」

 

「あ、うん…」

 

「実は今度の休日、一夏と街に買い物に行くことになったんだけど…」

 

凄くいい子なのだ。

たださらりと良いところ取りしていくちゃっかり娘でもあった。

これで他者を蹴落としていくことよしとする性格であったのなら協力を拒めるのだが、先程ラウラへのアドバイスも真面目に告げたものなのだからやはりいい子であった。

 

「そうなんだ、良かったね」

 

「うん、でもほら僕まだ街の事よく知らなくて」

 

察するにデートでどこかいい場所がないかと聞きたいのだろう。

だが生憎と翔介もこの街に詳しいわけではないため残念ながら力にはなれなさそうだ。

 

そのことを伝えるとシャルロットは嫌な顔一つせず首を振る。

 

「気にしないで、それよりそろそろ臨海学校だけど翔介は準備したの?」

 

「ああ、まだなんだよね…」

 

臨海学校。

厳密に言えば校外実習にてISの各種装備の訓練をすることが目的だ。

それでも大半の生徒たちは海水浴に行くような気分らしい。

 

「折角海に行くんだから水着くらい用意しておいた方がいいかもね」

 

「う、うん…」

 

シャルロットに曖昧な返事で答える翔介。

ふと時間を見てみるとそろそろ放課後の訓練の時間だった。

 

「あ、そろそろ訓練だから僕は行くよ」

 

「うん、頑張ってね」

 

翔介はシャルロットに告げて立ち上がる。

彼女は手を振り見送ってきた。

 

 

廊下に出てようやく一息つく。

 

翔介の悩みその二。

計五人となった少女たちの恋愛相談である。

 

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ビュンと風を切る音がアリーナに響く。

目の前を翔介が通り過ぎると楯無がストップウォッチを止める。

 

「…またタイムが伸びてるわね」

 

楯無はタイムを覗き込みながら呟く。

 

「どうでしたか…?」

 

楯無の傍に打鉄を纏った翔介が降りたつ。

 

「駄目ね。途中で加速が落ちたように見えたけれどどうしてかしら」

 

「それは…」

 

「その翼のスペックであればもっと早く飛べるはずよ」

 

「うっ、はい…」

 

しょんばりと肩を落とす翔介。

 

「翔介君、最近訓練にも身が入っていないようだけれどどうかしたのかしら?」

 

「いえ、そんなことは…」

 

その通りであった。

学年別トーナメント以降どうにも訓練に身が入っていなかった。

いや、真剣に行っていないわけではない。むしろ以前よりも訓練に対しては真面目に取り組んでいるはずなのだが。

 

翔介の悩みその三。今抱えるモノの中で最大の悩み。

それは武道、勉強に限らず多くの人がいつかぶつかる問題。

 

伸び悩み。

 

ISに乗り始めた頃は毎日が成長の連続だったが、トーナメント以降どうにも訓練の成果が目に見えて現れなくなっていた。

伸び悩みの原因は分かっている。

 

トーナメントでの敗北。

 

一夏とシャルロットのタッグに完膚なきまでに敗北したあの日。

厳密に言えば途中からシュヴァルツェア・レーゲンの暴走により有耶無耶になったがあのまま続けていれば間違いなく敗北していただろう。

ラウラとの連携もけして悪くはなかったはずだが、それでも一夏たちには通用しなかった。

敗北自体は初めてではなかったが一試合目に初めての勝利の直後の出来事であったためなおさらそのショックは大きかった。

 

伸び悩みの理由はもう一つ。

星の翼の全開スピードへの恐れがあった。

箒と簪との試合で簪相手に行った星の翼を使用した体当たり。

相手がISを装備していたため怪我こそなかったがアレが生身の人間相手であったらと思うと背中に怖気が走った。

それのせいなのかどうなのか星の翼のスピードが恐ろしく感じるようになってしまった。

 

「翔介君、何か悩み事でもあるの?」

 

「え…」

 

「人間、心に引っ掛かりがあればその動きにも粗が出てくるわ」

 

楯無はそう告げるとフッと笑みを浮かべる。

 

「さあ、悩みはお姉さんに話してすっきり解決よ!」

 

ドンと来なさいとそう告げる楯無。

 

 

 

「いえ、これは僕が解決しないと…」

 

 

 

翔介から返ってきた答えはNOであった。

 

「はい…?」

 

「ごめんなさい…今日は失礼します…」

 

翔介は頭を下げると打鉄を片付けに向かっていった。

 

ポツンと一人アリーナに残された楯無。

まさか拒絶されるとは思わなかったのかしばらく呆けていた。

 

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「悪いことしちゃったなぁ…」

 

一人トボトボと部屋に戻る翔介。

自分の悩みは自分で片を付けなければいけない。

そうでなければ成長できない。その考えから楯無からの厚意を無碍にしてしまった。

 

するとポケットの携帯から着信音が鳴る。

携帯を取り出すと着信相手は『科特研』と表示されていた。

 

「はい、道野です」

 

『やあ、翔介君。今大丈夫かい?』

 

声の主は速田であった。

 

「はい、大丈夫です」

 

『それは良かった。実はこちらで新しい装備を作ったから是非こっちに来れないかなと思ってね』

 

「あ、はい、大丈夫です」

 

これで次の日曜日に科特研へと行くことになった。

だが先程のことから楯無に同行は頼みにくい。

ならば今度は一人で行くしかないだろう。

 

一言二言会話を交わすと通話を切る。

そのまま携帯をしまおうとするがふとメールが届いているのに気づく。

 

差出人は…。

 

「長姉さん…?」

 

故郷の従姉妹からのメールであった。

 

「ああ、もうそんな時期なのか…」

 

IS学園に来る前に従姉妹たちと約束したことがあった。

故郷を離れる時、ホームシックにならないようにと三カ月は連絡を取らないようにすると。

怒涛の三カ月でホームシックになっている暇なんてなかったためすっかり忘れていた。

 

メールを開く。

 

『お元気ですか。一人故郷を離れたその後はいかがでしょうか。あなたにとって未知の体験かもしれませんがあなたのご活躍をお祈り申し上げます』

 

随分と短く、お堅い内容だ。

だが従姉妹らしい文章だった。

 

しかし、今はそのメールでさえ彼の気持ちを重くさせていた。




本日はここまで。

伸び悩み始めた自分に困惑する主人公。

彼はこの悩みを乗り越えることができるのか。
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