インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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46話

今日は日曜日。

翔介は科特研に向かうため単身で街にやってきていた。

普段であれば楯無と同行するのだが厚意を無碍にした気まずさから一人で出てきたのだが。

 

 

「おら、さっさと出すもんだしな」

 

「ほら、跳んでみ」

 

 

翔介は早速一人で出てきたことを後悔していた。

街に出て科特研へ向かう途中、ガラの悪い男二人に絡まれていた。

典型的なカツアゲだ。

 

都会に出てくるとき、故郷のもう一人の従姉妹に言われたが翔介は絡まれやすそうだから一人で動くなと言われたがまさにその通りになっていた。

 

「ご、ごめんなさい、僕今お金持ってません」

 

嘘ではない。

現在翔介の所持金はそんなに多くない。昼食代と帰りの電車賃程度。

これも従姉妹からの忠告であり常に財布に大金は入れないようにと言われていたからだ。

 

余談であるが翔介の懐事情はとても潤っている。これは科特研での装備のテストをしているお給料だそうだ。

翔介は始めは断ったのだが装備のテストは立派な仕事だ、ということで受け取ることになった。

その為一般高校生に比べて非常にブルジョワなのだが元よりお金の使い道という物を考えたことがないため貯まる一方だったりする。

 

「はぁ~、それなら今持ってる分だけで良いからよこせよ」

 

ドンと男が翔介の肩を小突く。

 

「うわっ…!」

 

人生初のカツアゲに緊張でガチガチに固まった翔介はそれだけで後ろによろめき、倒れ込む。

特に怪我はないもののやはり恐怖が大きい。

背後の方から何かガタリと音がした気がするがそちらに視線をやる余裕はない。

 

するとキキッと三人の近くに自転車が止まる。

 

「こらっ! 何をしているんだ!」

 

そう声を上げながらコックコートを身に纏い、首には白いスカーフを捲いた男性。

自転車から降りて駆け寄ってくる。

 

「やべえ! ずらかれ!」

 

男たちは男性が近づくのを見るとそそくさと逃げていく。

 

「大丈夫か?」

 

男性は追いかけることなく倒れた翔介に手を伸ばす。

 

「は、はい…」

 

翔介は差し伸べられた手を取ることなく自分で立ち上がる。

 

「あの、ありがとうございました」

 

「いや、俺は何もしていないよ」

 

男性は特に気を悪くすることなく笑顔を見せる。

そんな男性の態度に決まりの悪い翔介。

 

「あの、それじゃあ僕行くところがあるので…」

 

居た堪れなくてその場を立ち去ろうとする。

 

「ああ、待ちなさい」

 

すると男性が呼び止めてきた。

 

「怪我をしているじゃないか。そのままにしておくのはいけない」

 

男性に指摘され、自分の手の平を見ると血が出ていた。

恐らく先程小突かれて倒れた時に擦り剝けたのだろう。

 

「いえ、これくらいなら…」

 

「そういうわけにはいかない。すぐ近くに家があるから手当をしよう」

 

そう言って男性は自転車を引いて先導する。

見ず知らずの人にここまでお世話になるのも気が引けるが断れる雰囲気でもない。

翔介は男性の後ろを大人しくついていった。

 

 

果たしてり男性の家には程なくして到着した。

ただ普通の住宅とは少し違ったようで。

 

「ベーカリーエース…?」

 

「ああ、こう見えてうちではパン屋をやっていてね。そうだ、まだ名乗っていなかったね。俺は北登誠司だ。君は?」

 

「僕は道野翔介です」

 

誠司はよろしくと言うと自転車を店の横に置き、住居となる二階へ続く階段を上がっていく。

 

「今帰ったよ、結子。救急箱持ってきてくれるかい?」

 

「はーい、今行きますよ」

 

扉を開き、誠司が声をかけると奥の方から女性の声が返ってくる。

やがて薬箱を抱えた女性がやってくる。立ち振る舞いから上品な印象を受ける。

 

「あら、その子は?」

 

「ああ、さっきカツアゲにあっていてね手のひらを擦りむいているようだから手当てを頼むよ」

 

「はいはい」

 

結子は頷くと翔介の手を取り、傷口を消毒していく。

最後に絆創膏をぺたりと張り付ける。

 

「はい、これで終わりよ」

 

「ありがとうございます…」

 

翔介は手のひらを眺めながら頭を下げる。

結子はにこりと笑う。

本当にいい人たちに助けられたようだ。よくよく感じてみれば下がパン屋なだけにどこか

焼きたてパンの香りがする。

 

「ごめんなさいね、誠司さんが無理やり連れてきたのでしょう?」

 

「いえ、こんなに親切にしてくれて…」

 

実際に誠司が助けてくれなければ少ない所持金を奪われていただろう。

 

「あの、それじゃあ僕はこれで…」

 

「ああ、待ちなさい」

 

翔介がお暇しようとするとまた誠司が呼び止めてくる。

 

「今日は暑い、折角だから少し休んでいきなさい」

 

「でもこれ以上お邪魔するのは…」

 

「若いもんが遠慮なんかしなくていいんだよ。結子、冷たいお茶用意してもらって良いかい?」

 

「わかりました」

 

断る隙も与えられず、結局翔介はここで一休みすることになった。

通されたのは和室でしばらく待っていると誠司がお茶を持ってきた。

誠司はお茶を目の前に置くとテーブル越しに翔介の目の前に座る。

 

 

「さて、何か悩み事があるみたいだね」

 

 

「……え?」

 

誠司の言葉に呆気にとられる翔介。

 

「顔に書いてあるよ」

 

そう言われてペタペタと顔に触れる翔介。

そんなに表情に出ていただろうか。

 

「良かったら俺に話してみないかい? 知り合いより見ず知らずの人間になら話しやすいこともあるだろ?」

 

「もしかしてだから僕をここに…?」

 

「いや、怪我をしていたのは無視できなかったからだよ。でも何か悩んでいる顔をしていたから放っておけなかったのも本当さ」

 

「………!」

 

初めての人にここまで悟られるものなのだろうか。

しかし、誠司の言葉には善意の心が滲んているのを感じられた。

それに彼の言う通り、知り合いではないからこそ話せるというのも確かであった。

 

そう思えば自然と翔介は自身の悩みを口に出していた。

といってもISについてはぼかしながらではあるが、最近いくら訓練をしてもぜんぜん上達しないこと。むしろもうこれ以上伸びないのではないかという不安を口にしていた。

誠司は黙ってそれを聞いている。

 

「僕を心配してくれた人にも冷たくしちゃって…そんな自分がさらに嫌で…」

 

楯無にすら素気無くしてしまったことを翔介は後悔していた。

 

「少し待ってなさい」

 

誠司はそう告げると店舗のある一階へと降りて行った。

しばらくするとトレーにパンを乗せて戻ってきた。

 

「これはうちのパンなんだが食べてみてくれるかい?」

 

「え? は、はい…」

 

翔介は差し出されたパンを一口齧る。

すると口の中にふわっとした柔らかい食感と小麦の甘い香りが口の中に広がる。

一言で言ってしまえば美味しかった。

 

「美味しいです、凄く…!」

 

一口、二口とさらに頬張る。

 

「そうかい? だけどこのパンもまだ完成じゃない」

 

「え?」

 

完成ではないとはどういうことだろうか。

 

「俺はこの美味しさを出すまでいろんな悩みや苦労をしてきた。それでもまだ完成したとは思っていない。ここからさらに美味しくするにはどうしたらいいのか、今でも悩んでる」

 

「今でも…」

 

「君は悩むことを悪いことのように感じていないかな?」

 

そう言われると確かにそうであった。

翔介は悩むことははっきり答えを出せずにいることは悪いことのように感じていた。

実際にずっと悩んでいるせいで楯無に冷たくしてしまったりと周りの人にも迷惑をかけてしまった。

 

「悩むという事は今の自分に満足していない証拠さ。満足していない、まだその上に行こうと思えるから悩むんだろう」

 

「その上に…」

 

「確かにこのパンはこのままでも十分好評をもらっている。でもここで満足してしまったらここで終わってしまう。俺はこのパンをもっとおいしいパンにしたい。だから悩むんだ」

 

 

 

「人は悩むことで先に進んでいくことができるんだ。悩むこともなく人は成長することはできないよ」

 

 

 

「成長するために悩む…」

 

人は悩んで苦しんで一歩ずつ進んでいく。

その一歩がどれだけゆっくりでも成長するために悩んで悩んで悩み抜く。

悩み抜いた先にきっと次の自分がいる。

 

「悩めよ、少年!」

 

誠司が翔介の隣に立つとその背中を強く叩く。

その衝撃で咳き込む翔介だが、その背中の痛みにどこか温かなものを感じていた。

 

「あの、またここに来ていいですか?」

 

「…ああ、勿論だ。いつでも来るといいよ」

 

 

こうして翔介に行きつけのパン屋さんができた。

 

 

 




本日はここまで。

また随分と間が開いてしまいまして申し訳ありません。
オリジナル展開だとなかなかああして、こうしてと悩んで時間がかかってしまいますね。

今回、一人の大人との出会いにより悩むことの大切さを学んだ翔介。

しかし、まだまだ彼の悩みは尽きない。
主人公はスランプ状態から脱することができるのか。
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