インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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47話

ベーカリエースを後にした翔介は約束の時間が近づいた科特研の前へと来ていた。

いつもの変わった形の建物が目の前にそびえ立つ。

ふと視線を動かすとジェット機のモニュメントが目に入る。

モニュメントの翼に取り付けられたロケット。

それが今翔介の打鉄に取り付けられた『星の翼』の原型。いつか宇宙に飛び出すために科特研の面々が心血を注いで作り上げた宇宙への架け橋。

 

「……」

 

その名の通り、翔介の『宇宙へ行く』という夢を叶えるための翼だ。

しかし、それでありながら今の翔介にとっては一番の悩みの種であった。

 

翔介はそれを振り切るように建物の中へと入る。

中に入ると受付には安芸藤子と速田が待っていた。

 

「こんにちは、安芸さん、速田さん」

 

「いらっしゃい、翔介君。待っていたわよ」

 

藤子はにっこりと笑う。

速田も笑みを浮かべて迎えてくれた。

そんな二人の温かい歓迎も翔介には申し訳ない気持ちになる。

自分はこの人たちの期待を背負っていると思うと今の自分が情けなくなってくる。

 

「あの、これ良かったら皆さんでどうぞ」

 

そう言って翔介は袋を手渡す。

それは先程ベーカリーエースでもらったクッキーやラスクなど焼き菓子の詰め合わせだった。

本来は無料でパンを食べるのも気が引けたので何か買っていこうとしたのだが誠司から持って行けと持たされたものだった。

伴侶の結子は困った笑みを浮かべていたが嫌がる様子もなく結局断ることもできず受け取った。

今度行くときは今日の分までいっぱい買おうと心に決めた。

 

「うん? これはエースのお菓子かい?」

 

「速田さん、北登さんたちのこと知ってるんですか?」

 

「ああ、昔のサークル仲間でね。なかなかおいしいんだよ、これが」

 

速田は自分の事のように笑う。

世の中は狭いというがまさにその通りだ。

そうしているとドタドタと重い足音が近づいてくる。

 

「待ってたよ~翔介君~~!」

 

足音の主は井部だった。

ボールのように丸い身体を弾ませて駆け寄ってくる。

 

「井部さん、翔介君から差し入れいただいたわよ」

 

「やあ! 僕はこう見えて甘いもの大好きなんだよ!」

 

ほぼ見た目通りな気もするが敢えて口には出さない翔介。

 

「オヤツは後にして。それより翔介君、さっそく来てもらっていいかな!?」

 

井部はがっしりと翔介の手を掴み、返事を待たず引きずるように連れていかれた。

 

-----------------------------------------

 

連れてこられたのは制作室と呼ばれる部屋。

ここで星の翼や重ね畳など翔介の装備が作り出されている。

そして作業台の上には新たな装備が横たわっている。

 

「これが?」

 

「ああ! これが新しい君の武器『鋼頭』だ!」

 

鋼頭。

頭の名を冠しているがそれはかぶるようなものには見えない。

どちらかと言えばボクサーのグローブのようで翔介の頭くらいの大きい拳が付いている。元々ISの四肢は人より巨大であるがそれを差し引いても大きく見える。

 

「これはどんな風に使うんですか?」

 

「ああ、これは打鉄の右腕に装備するものだ。一撃必殺がコンセプトの武器でね…!」

 

まさに立て板に水。水を得た魚。

詳しい説明をされているのだがなかなか理解できない。

 

「井部、もっとわかりやすく説明した方が良いんじゃないか?」

 

速田が苦笑気味に告げる。

井部はたははと笑いながら簡単に説明してくれる。

 

この鋼頭はその拳を相手に叩き込む格闘戦用装備だ。

使い方はそのまま格闘することを想定しているが、その真価はそれだけではないようだ。

 

「これには所謂、必殺技モードがあってね。それを起動することでこの装備に熱エネルギーを収束させて対象に叩き込むんだ。これなら宇宙のデブリだって破壊できるはずだよ!」

 

「へえ…」

 

翔介は鋼頭に触れる。

強力な新武器のようだが果たして自分に使いこなせるのだろうか。

ただでさえ今の星の翼をうまく使いこなすことはできていないというのに。

 

「ああ、ただ一つ気を付けて欲しいのだけどエネルギーを過剰にチャージすると鋼頭が

熱暴走するから気を付けてね」

 

「熱暴走ですか?」

 

「威力は文字通り爆発的に上がるけどその分機体へのフィードバックが酷いからね。くれぐれも注意して使って欲しい」

 

「わかりました」

 

「さあ! 紹介も終わったしオヤツにしようか!」

 

井部はウキウキと翔介のお土産を開く。

 

「翔介君、私たちもお茶にしようか」

 

速田に誘われるまま翔介もご相伴にあずかることとなった。

 

-------------------------------

 

「何から食べようかな~」

 

「井部さん、山風さんとキャップの分も残してよ?」

 

「わかってますよ、でもどれを食べるかは早い者勝ちでしょう?」

 

藤子と井部のやり取りを翔介と速田は離れた場所で見ていた。

 

「ははは、井部の奴は本当に甘いものに目がないからなぁ」

 

「……あの速田さん」

 

「何かな?」

 

おずおずと話しかける翔介に速田が視線を向ける。

 

「最近の僕の成果、というか記録は見てますよね…?」

 

「ああ、君のレポートは見せてもらっているからね」

 

翔介が科特研と提携することになった際にここの装備のレポートの提出を義務付けられた。気付いたことや使い心地、どれだけ使いこなせているかを報告するのだが。

 

「なら僕が最近全然ダメなのも…」

 

「ああ、知っているよ。初めのころと比べて不調なのも」

 

やはりそうだったか。

素人である翔介ですら実感できるのだ作り出した本人たちが実感できないわけがなかった。

それを思えばこそ翔介の心に重いものがのしかかってくる。

 

「ごめんなさい…僕がもっとISを上手く使えれば…」

 

 

 

 

「何を言っているんだい?」

 

 

 

「え…?」

 

思わず速田の顔を見返す。

 

「翔介君、君は何か勘違いをしているね。私たちは君に感謝こそすれ、失望なんてするわけがないじゃないか」

 

速田から出てきた言葉を信じられず目を丸くする翔介。

そんな彼に速田は優しげな表情で続ける。

 

「私たちは今まで二度も夢を諦めたことがある」

 

「諦めた?」

 

「最初は現行の宇宙服よりさらに高機能の宇宙服を作ろうとした」

 

今の宇宙服は気密保持などの都合でゴテゴテとしており非常に動きにくい。それを改善した次世代の宇宙服の開発を目指していた。

 

しかし。

 

その夢はISの登場により露と消えた。

宇宙空間での使用を想定したマルチフォーム・スーツとして作られたISの汎用性には勝てなかったのだ。

 

「そこで私たちの最初の夢は潰えた。だから次の夢を選んだ」

 

「星の翼…」

 

「ああ、宇宙空間でISと共に飛び立つための翼。それが私たちの次の夢だった」

 

しかし、その夢も半ばで終わりを告げた。

ISはある事件を契機にその力は兵器としての意味合いが強くなってしまい、結果宇宙進出の計画は凍結。

その影響は科特研にも及び次の夢も脆くも消え去った。

 

「これで二度目の夢が消えた」

 

「……」

 

しみじみと語る速田。

 

「私たちの夢は宇宙へと飛び出すことだった。だけどもう一度夢を見ようと思うほど私たちは若くなかった」

 

だから科特研はそれ以降、堅実にISの装備やパーツを作ることを主体とすることにした。

もう次の夢はないと諦めて。

 

 

 

「だけど君が来てくれた」

 

 

 

「僕が?」

 

「もう夢を見ることはできないと諦めた私たちの下に私たちと夢を同じくする若者が来てくれた。だからもう一度夢を見てみようと思えたんだ」

 

速田は真っすぐと翔介を見つめる。

 

 

「だから、ありがとう」

 

 

速田の飾らない感謝の言葉が翔介の胸に響く。

 

「君がいるからもう一度夢を見られる。だから君が謝ることなんて何もないんだよ」

 

「でも僕は成果を…」

 

「成果はすぐ出るものじゃないさ。私たちだって何度も失敗しながら前へ進んでいるんだ。だから君も焦ることはない。ゆっくりでいいんだよ」

 

ゆっくりでいい。

その言葉を聞いた時、翔介の心がスッと軽くなった気がした。

もしかしたら翔介はずっとその言葉が欲しかったのかもしれない。

どれだけ頑張っても出ない成果。それがどんどん彼から余裕を奪い、焦りを生んでいた。

 

だけど。

ゆっくりでいい。

 

その一言のお陰で今のままでいい。今のゆっくりなスピードで構わないのだとようやく思えるようになった気がした。

 

「勿論僕たちの翼を使いこなしてくれることに越したことはないけれどね」

 

そう速田は笑った。

それを見た翔介の心には改めて熱い想いが芽吹き始めていた。

自分を信じてくれるこの人たちのために必ず翼を使いこなしてみせる。

そして必ず空の彼方、遥かな宇宙へと飛び出して見せる。

 

自分を助けてくれる全ての人たちの想いを乗せて。

 

「……ありがとうございます、速田さん。僕、もっと頑張ってみます。自分のやり方で、自分のスピードで」

 

「ああ、楽しみにしているよ」

 

翔介はようやく心から笑みを浮かべることができた。

 

 

 

「さて、それはそれとして何が原因だい?」

 

「えっと…実は全速力のスピードが怖いというか…」

 

「なるほど…確かにスピードへの恐怖は致命的か」

 

速田はうーんと顎に指を添える。

やがて何かを閃いたように携帯を取り出す。

 

 

「翔介君、この後まだ時間はあるかい?」

 

 

 

 




本日はここまで。

速田から努力を認められ、ようやく心に余裕が生まれ始めた主人公。

しかし肝心の悩みはまだ解決していない。
そんな時、速田からの提案で翔介はある場所へと向かうことに。
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