といっても番外編など途中で挟むと既に超えていたのですが。
これもひとえに皆さんのお陰です。
これからもよろしくお願いします。
『おお~~!!』
バス内に歓声が広がる。
クラスメイト達の視線の先にはどこまでも続く青い海。
そう、今IS学園一年生は臨海学校へとやってきていた。
天気もすっきりと晴れ、日差しも照り付けまさしく海水浴日和。
いや、勿論遊びに来たわけではないのだが大体の生徒は海を楽しみにしに来ていた。
「やっぱり海を直に見るとテンション上がるな」
一夏もご多聞に漏れず目の前に広がる海を見て心を躍らせていた。
「なあ、翔介」
一夏は自分の隣に座る翔介に声をかける。
「え、あ、うん…」
しかし夏の青空のように晴れやかなクラスメイト達とは打って変わって、どよーんと曇り空な翔介。
「おい、大丈夫か? 酔ったのか?」
「いや、そういう訳じゃないけど…」
翔介は車酔いはしないのだが気分がどんよりしているのは間違いなかった。
「そうか? でも外見てみろよ、凄いぜ」
「う、うん…」
一夏の言う通り外から見えるどこまでも広がる海はとても美しい。
普段であれば翔介のテンションも上がるというものだが、後のことを考えるとそうも言っていられなかった。
「お前たち、そろそろ宿泊先に到着する。忘れ物には注意しろ」
そうしていると千冬が立ち上がる。
どうやらもう少しで宿泊先に着くようだ。
『は~い!』
テンション上がりまくりの生徒たちの元気な返事。
「ふぅ…」
それに反して翔介は小さくため息を吐いた。
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着いた先は『花月荘』と書かれた旅館だった。
海のすぐ見える趣のある旅館は生徒たちのテンションをさらに上げていく。
「こちらが三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の方たちの仕事を増やさないように注意しろ」
『よろしくお願いしま~~す!!』
生徒たちの元気な挨拶に旅館の女将と思われる女性がにこやかに答える。
「はい、今年の一年生も元気があってよろしいですね」
年の頃は三十代くらいだろうか、しっかりした雰囲気であり女将という立場とは別に若々しく見える。
その口ぶりからこの旅館は毎年お世話になっているようだ。
「あら、そちらの男の子たちが?」
「はい、男二人で浴場分けが難しくなり申し訳ありません。ほら、お前たちも挨拶しろ」
ほら、と千冬が一夏と翔介を促す。
「織斑一夏です」
「道野翔介です、よろしくお願いします」
「うふふ、ご丁寧にどうも。二人とも良い子たちですね」
「いつも手を焼かされています」
そう言いつつも少し笑みを浮かべる千冬。やはり自身の生徒が褒められるのは嬉しいようだ。
「それではお部屋の方にご案内しますね。海に行かれる方は別館で着替えられるようになってます」
生徒一同の目が輝く。
一刻も早く海に行きたいという念が滲んでいる。
初日は終日自由行動らしく、食事も旅館で各自とるようになっている。
「ねえねえ、おりむー、ミッチー」
部屋に向かおうとする二人に本音たちが呼び止める。
「二人ともお部屋どこ~? 一覧に書いてなかった~。遊びに行くから教えて~」
本音がそう尋ねると他の生徒たちも聞き耳を立て始める。
「そういえば俺たちの部屋ってどこだ?」
知ってるか?と一夏が翔介に視線を向ける。
翔介はそれに首を振って応える。彼も部屋については何も聞いていなかった。
そうしていると千冬が自身の荷物を持って声をかけてくる。
「織斑、道野、お前たちの部屋はこっちだ」
二人は一旦本音たちに別れを告げて千冬についていく。
「織斑先生、僕たちの部屋って?」
「着いてくればわかる」
それだけ告げるとスタスタと廊下を歩いていく。
旅館の内装は広くとても綺麗だ。歴史を感じさせる内装でありながら新しい設備がしっかり取り入れられている。
廊下も快適な気温で保たれている。
「ここだ」
千冬が部屋の前で立ち止まる。
どうやら二人の部屋に到着したようだ。
「「うん…?」」
二人は思わず首をかしげる。
部屋の戸には『教員室』と札がかかっている。
「ち、千冬姉、ここって…」
「織斑先生だ。お前たちの部屋はここだ」
「え、先生たちと一緒なんですか?」
「何か不満か?」
あるかないかと言われたらあると言わざるを得ない。
てっきり一夏と二人部屋になるかと思っていたのだが、まさかここまで来て教師と同室だというのだろうか。
とはいえ本人にそんなこと言える訳もなかったが。
そもそもこの部屋割になるのも頷ける。
もし二人部屋であったら一夏目的の生徒たちが大挙して押し寄せてくる。それは先程本音が部屋割を聞いてきた時の様子から見ても想像に難くない。
そうなれば旅館側に迷惑がかかってしまう。
それを避けるためにも教師と、それも千冬と同室にしたのだろう。
「ほら、海に行くならこの部屋で着替えろ。私はここで待っててやる」
「お、おう。翔介、さっさと着替えていこうぜ」
「あ、えっと、僕は少し休んでから行くよ。先に行ってて」
「そうか? なら先行ってるからな」
翔介の言葉に一夏は頷きながら部屋に入っていった。
「体調が悪いようなら無理せず横になったほうがいいぞ?」
「い、いえ、移動で疲れただけなんで少し座って休めば大丈夫ですから」
翔介は荷物を置くとそそくさと旅館の廊下を歩いていった。
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そそくさと逃げてきた翔介が廊下を歩いていくと、旅館の中庭へとやってきた。
中庭はしっかりと手入れがされており、その光景はどこか故郷を思い起こされる。
その光景は翔介の心を覆う暗雲が晴れていく気がした。
思えば入学から三カ月。
入学早々からクラス代表決めの試合、黒いISの襲撃事件、クラス別トーナメント。
怒涛の日々であった。
ISを起動できると分かってから本当に矢のように時が過ぎていった。故郷にいた頃とは比べ物にならないほどガラリと彼の世界は変わった。
そんな忙しない日々であったが、今この瞬間だけでも心安らぐ。
とはいえ。
そんな忙しない日々が嫌ではない。
忙しいけれどIS学園に来たお陰で友達がいっぱいできた。故郷にいた頃はまさかこんなに友達ができるなんて思わなかった。
ISのように自分の知らない世界がどんどん広がっていく。
きっとこれからもそんな風に色んな世界、人々と出会っていくことだろう。
翔介は首から下げたお守り袋から赤い宝石を取り出し、空を見上げる。
自分の頭上に海のように青く、広い大空。
今でもこの空を飛べるようになったけれど、彼が目指す先はまだ遥か遠くにある。
それでも自分の夢を大勢の人が助けてくれている。
彼らの期待に応えるのは簡単なことではないかもしれないが、いつか彼らの夢と自分の夢を翼に乗せてあの空の果てへ。
そして…。
「いつか君に…」
ギュッと赤い宝石を握り締める。
心なしか宝石がポウッと温かくなった気がした。
「おい凡人」
突如後ろから声をかけられる。
振り向くとそこには青いエプロンドレスを着た女性が立っていた。
眠たげな眼に何故か頭にはウサギの耳が付いている。
「私を無視とはいい度胸だな、凡人」
「え、ぼ、凡人?」
突然のことに面食らっていると女性は不機嫌そうに顔をしかめる。
それにしても初対面の人に対して凡人とは言う了見だろうか。
「凡人って…僕の事ですか?」
周りを見渡すが他には誰もいない。
どうやら勘違いではなく、間違いなく翔介の事らしい。
「ここにお前以外いないだろう。そんなことも分からないのか、凡人」
辛辣。
あまりにも辛辣。
一体翔介が何をしたというのだろうか。
少なくとも目の前の女性とは面識はない。知らず知らずのうちに不興を買ったとも考えづらい。
「そ、それで僕に何か…?」
恐る恐ると尋ねる翔介。
いきなり凡人呼ばわりされるのだから警戒してしまうのも仕方がないだろう。
しかし、女性はそれに答えることなくジロジロと無遠慮に翔介を眺める。
まるで品定めでもするようなその視線に思わず怯んでしまう。
やがて女性はフンと鼻を鳴らす。
「やっぱり実物を見ても凡人だな。一体どうしてお前がISを動かせた」
「そ、それは僕にも…」
実際に何故翔介がISを動かせるのかはわかっていない。
それは翔介に限らず一夏もそうである。
「何故凡人であるお前がいっくんと同じく動かせる」
「いっくん? あ、あの、僕は凡人って名前じゃなくて道野翔介って…」
翔介が訂正しようとするも女性は興味なさげに無視してくる。
マイペースというよりはもうこういう性分なのだろうか。
翔介自身、初対面の人物に嫌われたりはしないと自負しているのだが一体何が気にくわないのだろうか。
「まあ、それはいいとして…それよりもアレだ」
女性は翔介のことを気にすることなく一人で呟く。
やがて翔介の方へと向き直る。
「お前は一体何なんだ?」
「…………え?」
一体何なんだと言われてもどう答えればいいのだろうか。
翔介が答えあぐねているとやがて女性は興味をなくしたように背を向ける。
「あ、ちょっと…!」
「凡人。何も知らないままでいいと思うなよ」
そう言って女性は廊下の角を曲がる。
翔介が追いかけると既に女性の姿は見えなかった。
「何だったんだろう…」
ここの宿泊客だろうか。てっきり学園で貸し切りかと思っていたのだが。
それにしたってあまりに謎過ぎる。
一体何なんだという問いかけもそうだが、彼女が最後に言い残した言葉。
「知らないままって…」
どういう意味なのだろうか。
翔介の心の中にまたもや暗雲が立ち込め始めていた。
本日はここまで。
また期間が空いて申し訳ありません。
原作三巻もついに始まりました。
ついに主人公と彼女が接触。