謎の女性との遭遇から数分後。
翔介は女性に言われた意味を考えながら教官室へと戻ってきた。
既に部屋の中には一夏だけでなく、千冬たちまでいなくなっていた。そのまま海の方に出かけて行ったのだろう。
「ふぅ…」
翔介はため息を吐きながら窓の近くに備え付けられた椅子に座る。
窓からは海が見える構造となっており、砂浜にはIS学園の生徒たちが海水浴を満喫している。
夏をしっかり楽しんでいるようだ。
そういえば臨海学校に来る前、楯無が『羨ましい』と言って駄々をこねていた。
羨ましいと言っても去年は彼女たちも来ているはずなのだが。
生徒会長特権といってさらっと着いてこようとしていたが虚によりその野望は打ち砕かれている。今は恐らく執務地獄を送っていることだろう。
元々自業自得とはいえそこはお人好しの翔介。せめて風景だけでも、とカメラを起動し海の姿を収める。
だが行くことができない相手に海の写真を送るのは逆に酷ではなかろうか。
そんなことは露知らず海の写真を楯無に送信すると、それと入れ違いにメールが一件入ってくる。
相手は一夏。
『体調は大丈夫か? 大丈夫そうなら海に来いよ、皆待ってるぜ』
と短い文章が綴られていた。
それを見てまた何とも言えない表情になる翔介。
ここで体調が悪いと言ってしまえば行かずに済むのだが、皆が待っているのに行かないわけにはいかない。
「……よし」
翔介は覚悟を決めたように一夏に返信をした。
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青い海、白い砂浜。
そこで織斑一夏は携帯に届いた翔介のメールを読んでいた。
「どうですの? 翔介さんは来れそうですか?」
そこにセシリアが声をかけてくる。
セシリアは自らのIS・ブルーティアーズと同じく青いビキニ。そして腰にはパレオが巻かれている。その姿はとても優雅であり、彼女の魅力を引き立てている。
「ああ、今から来るってさ」
「そうですか、折角海に来たというのに遊べないなんて勿体ないですものね」
そう言いながらさり気なく一夏の隣を陣取る。スルスル~ッと手が触れるか触れないかくらいの至近距離。
夏のテンションで一気に勝負をかけていくセシリア。
しかし、それを妨害するようにザッザッと砂浜を蹴って二人の間に割って入る影。
「まったく車酔いなんてだらしないわねぇ!」
グイグイと無理やり入り込んできたのは鈴。
彼女もまた水着を纏っている。セシリアと違ってオレンジと白のストライプのスポーティーなタンキニ。活動的な鈴にピッタリだ。
「いや、車酔いではないみたいだぜ」
「それならどうしてすぐ来ない訳?」
「移動の時間も長かったですからね。少し休みたいのも当然でしょう」
割り込まれてムスッとした表情を浮かべるセシリア。
「ああそう? じゃあセシリアはそこで休んでていいよ。あ、一夏、あっちのブイまで競争しましょ」
「なっ!? 誰も疲れてるなんて言っていないでしょう!?」
ギャンギャンと口喧嘩が始まる。
この二人は大体一緒になるとこうやって口論になることが多い。それも仲がいい証拠だろうか。
「二人とも、翔介が来るんだから待ってようよ」
口論する二人をシャルロットが宥めるように入ってくる。
その後ろにはラウラ、箒、簪も一緒だ。
当然ながら一様に水着着用だ。
シャルロットはオレンジのビキニ。箒は白のビキニ、ラウラは大量のフリルがあしらわれた黒の水着、簪は水色のワンピースタイプの水着だ。
それぞれ個性が出ている。
「そ、そうですわね」
「はいはい、それにしても遅いわね」
「いや、丁度来たみたいだぞ」
決まりの悪そうな二人だが、箒が旅館の方を見ながら全員の視線を促す。
「お、みたいだな。おーい、翔介~」
一夏が手を挙げて彼を呼ぶ。
翔介もそれに気づいたようでトテトテと近づいてくる。
彼の格好はヤシの木が描かれた城のサーフパンツに上にパーカーを羽織っている。
「やっと来たようだな、マブよ」
「あ、えっと、ごめんね。ちょっと疲れててさ」
やや目を逸らしながら翔介が言う。
「よし、それじゃあ早速泳ぎに行こうぜ」
全員が一夏の意見に賛同するように頷く。普段は活発に動くことのない簪ですらも賛同している。
「僕はちょっと…」
「んあ? どうしたのよ、付き合い悪いわね」
「いや、ほら、臨海学校ってあくまで授業の一環でしょ? だからあんまり羽目を外すと織斑先生に怒られるんじゃ」
「翔介。ん」
翔介が告げると簪が隣にやってきて、向こうの方を指差す。
そこには他の生徒たちとビーチバレーに興じる織斑千冬の姿が。しかもしっかり水着姿で海を満喫していらっしゃる。
「ほら、これで心置きなく遊べるだろ? さ、行こうぜ」
そう言って一夏が翔介の腕を取り、海へと駆け出す。
かと思いきや、グンと抵抗され一夏は後ろにのけぞる。
振り向けばそこに砂浜の上だというのに足を踏ん張り、その場を動くまいと抵抗している。
その姿はまさしく大地に根を張る大樹のようであった。
「ちょっと、何やってんのよ」
「いや、これは、その…」
「翔介、どうしたの?」
勢いを削がれてむくれる鈴。
そして翔介の様子を訝しむ一同。
その中でただ一人。じっとなにかを思案する箒。
その間でも海へと連れて行こうとする一同と必死に抵抗する翔介。
「道野、お前」
ビクッと肩を震わせる翔介。
「泳げないのか?」
長い沈黙。
やがて。
コクリと頷く翔介。
「マジか、それならそうと言ってくれればいいのに」
「だって…カッパが…」
『カッパ?』
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「なるほどな、そういうことがあったのか」
あの後、パラソルの下に全員で休むことなった。
そこで彼が何故泳げなくなったかを聞くことになった。
幼い頃は普通に泳げたのだが、そんなある日故郷の川で泳いでいたところを足をカッパに引っ張られ溺れかけたことがあったという。
その恐怖をいまだに引きずっており、泳げなくなってしまったという。
「あははははははっ‼」
大爆笑の鈴。
そりゃあカッパに足を引っ張られたなんて話、普通に聞けば笑い話でしかない。
「ちょ、ちょっと鈴。笑っちゃ悪いよ」
「これが笑わずにいられるわけないでしょ! だって、カッパよ! あっははははは!」
シャルロットが止めに入ってくるが、かく言うシャルロットの口元にはすこし笑みが浮かんでいる。
「だから嫌だったのに…」
翔介は恥ずかしそうに体育座りのまま顔を隠してしまう。
別に泳げないこと自体は仕方ないと諦めもつくのだが、その原因がカッパなんて笑われるのは目に見えていた。
しかし本当なのだから仕方ない。
「でもそれでは折角来たのに勿体無いな」
「僕のことはいいから、皆で行ってくるといいよ」
「それでは申し訳ありませんわ」
セシリアの言葉に他の友人たちも頷く。
翔介からすればこうなるとわかっていたから悩んでいたのだが、やはりこうなってしまったか。
するとラウラが「それならば問題ない」とスクッと立ち上がる。
「海で泳ぐだけが、海の遊びではないだろう」
そう言ってどこからか持ってきたのかシャベルとバケツを広げる。
「部下から聞いたのだが、海では砂浜に要塞を建設するのも鉄板なのだろう?」
キラキラした瞳でラウラがフンスと鼻を鳴らす。
「いやいや、高校生になってまで砂遊びとか…」
と鈴が断ろうとするがラウラの澄んだ瞳にウグッと言葉に詰まる。
今までドイツ軍人としてこのように遊ぶ機会などほとんどなかったのだろう。そんな彼女の提案を断れるほど鈴は冷血ではなかった。
せめてもの抵抗なのかチラリと他の面子に視線を送る。
「いいんじゃないか? それなら翔介も一緒に遊べるだろう?」
「決まりだな。ならばチーム分けをしてどちらが巨大な要塞を建てられるか勝負といこうじゃない」
「あー! 分かったわよ! やるからには勝ってやるわ! 万里の長城作ってやるわよ!」
やけくそ気味に鈴はシャベルを持ち立ち上がる。
「負けたチームは買ったチームにジュース奢りでどうよ!」
一同も否やは無く、チーム分けの話へと移った。
なんて良い友人たちだろうか。
だからこそ尚更申し訳なくなってくる。
思い返しても見れば彼らには随分と世話になっている。この辺りで何か恩返しのようなことは出来ないだろうか。
うーんと頭を捻る翔介。
やがてある考えが浮かんだ。
「ねぇ、皆」
「ん? どうした? チーム分けで何かあったか?」
因みにチーム分けは一夏、ラウラ、鈴、セシリアチーム。翔介、箒、シャルロット、簪チームと相成った。
「うぅん、ちょっと別の話。皆、夏休みに時間ある?」
「夏休み?」
特殊な学園ではあるが当然ながらIS学園にも夏休みは存在する。
夏休みの間に故郷へ帰ったり、寮で生活したりと過ごし方は様々だ。翔介も夏休みの機会に一度故郷に戻ることにしている。
「もし時間があるなら皆で僕の故郷に来ない?」
「翔介の?」
「うん、海…ではないけど湖とか川もあるし今日泳げなかった分どうかなって…」
実はこの申し出、かなり勇気を出している。
元々この学園に来るまで友人などいなかった翔介にとって友人を誘うという体験自体初めての事であった。
彼の故郷は随分と遠いため、内心ドキドキしながら誘ってみたのだが。
「いいじゃないか! なら皆で予定合わせて行こうぜ!」
「だがこんなに大勢で大丈夫なのか?」
「人数は大丈夫。なんとかなると思う」
それならば、と全員が賛同してくれた。
それにホッとする翔介。後は日頃からお世話になっている楯無や虚も誘ってみようか。
今年の夏休みは賑やかになりそうだ。
翔介の心はウキウキと弾んでいた。
本日はここまで。
これで夏休みのお泊りイベントが発生致しました。
私の夏休みですが、今年もなんとかウルフェスに行くことができました。年を経るごとに中身もパワーアップして大変見応えがありました。
次回、天災登場。
そして箒の専用機も。