臨海学校二日目。
今日から臨海学校の名に相応しくISの実技授業となる。
とはいえアリーナでの授業と違って海の近くでの実習はそれだけでも気分が違うものだろう。
それは翔介たちも変わらない。
「ようやく全員集まったな、おい遅刻者」
「は、はい」
授業に関しては専用機持ちと一般の生徒たちとで分けて授業を行うことになった。
先日自身で専用機を完成させた簪、専用貸し出しである翔介もこちらに加わることになっている。
そして早速授業が始まるというのだが意外なことに遅刻してきたのはラウラであった。
まあ、遅刻と言っても五分程度なのだが相手が千冬では甘い裁定はしてくれない。
「そうだな、コア・ネットワークについて説明してみろ」
「はい、では…」
突然の千冬からの質問にもラウラは正確に答えていく。
流石はドイツ特殊部隊隊長。
「流石に優秀だな。遅刻の件はこれくらいで許してやる」
感心したように千冬がそう告げるとラウラはほっと胸をなでおろす。
「では早速だがお前たち専用機持ちはそれぞれの特殊装備および専用パーツの稼働訓練となる。早く準備しろ」
『はい』
一同はそれぞれ自分たちの準備を始めていく。
翔介も用意された自分の打鉄の点検をする。ここに来る前にも虚にしっかり点検してもらったので間違いないだろう。
「あの…織斑先生、私はどうしてここに…?」
そういうのは箒。
確かにこの中では専用機も持たず、翔介のように専用貸し出しでもない彼女がここのグループにいることが不思議であった。
すると千冬は頭の痛そうな表情を浮かべながら、まるで愚痴るように告げる。
「あー。篠ノ之。お前には今日から専用…」
「ちーちゃ~~~~~ん~~~‼」
ドドドドと誰かが砂煙を上げて近づいてくる。
更に顔をしかめる千冬。
「会いたかったよ~~! さあさあ、再開のハグ~~~ぶへっ」
飛び掛かってくる女性を千冬が片手でその頭部を鷲掴みにする。
所謂、アイアンクローである。
「束…抱き着くな、暑苦しい」
「ぐぬぬ…流石はちーちゃん。容赦のないアイアンクローだね」
恐らく全力であろう千冬のアイアンクローを受けてもなおへらへらしている束も束であるが。
「それで頼んでおいたものは…?」
「うっふっふ、それはもう準備万端。それでは空を見よ! 星を見よ!」
流石にこんな昼間に星は見えないが、全員が空を見上げる。
なにやら米粒くらいのものがだんだんと地上に近づいてくる。
ズズン!
やがて地響きを上げて地面へと墜落、いや着地してきた。
それは銀色のコンテナ。
「さあ、オープーンー!」
束がカタカタとコンソールをいじると銀色のコンテナがガパリと開く。
そこに現れたのは…。
「紅いIS…?」
「そう、これこそ箒ちゃんの専用機! その名も『紅椿』! 全スペックが全てのISを凌駕する束さんお手製のISだよ」
それはとんでもない贈り物であった。
その場にいる全員が驚く中、一人だけ別のことに驚いている人物がいた。
「あの人が篠ノ之束博士?」
前日旅館で突然自分を凡人扱いしてきた女性。
それがISの生みの親であり、箒の実の姉である篠ノ之束その人であった。
しかし、尚更何故あんなにも嫌悪されるのかよくわからない。初対面であることには変わらないはずなのだが。
それに。
『何も知らないままでいいと思うなよ』
あの言葉はどういう意味なのだろうか。
一体自分は何を知らないというのか。
「翔介、大丈夫?」
一人で思考の海に落ちていると隣に立つ簪が心配そうに声をかけてくる。
どうやら少しボーっとしすぎていたようだ。
目の前では箒が紅椿のフィッティング作業中だった。と言っても事前にある程度データを組み込んでいるためそんなに時間はかからないようだ。
それにしても束に対する箒の態度はだいぶしょっぱいものだ。
彼女からすれば姉の束は一家離散の原因ともなってしまった人物。束がISを開発したことで彼女の生活がガラリと変わってしまったのだから心中複雑なのは仕方ないのだろう。
「ほい、フィッティング完了。それじゃあ早速動かしてみようかぁ! そうだなぁ…」
作業を終えた束が一同をじろじろと見渡す。
「おい、凡人。お前、箒ちゃんと戦え」
『え?』
突然の申し出に全員の目が点になる。
千冬がこめかみに指を抑える。
「いきなり何を言い出す。そんなこと許可するわけないだろう」
「えー、でもこういうのって実戦で覚えるモノじゃない? ほら、ちーちゃんもむしろ実戦で覚えろってタイプでしょ?」
「む…」
確かに千冬は実戦を通して習得することを第一とする実戦派だ。勿論、理論あってこそとけして座学をお座なりにするわけではないが。
千冬は翔介を見やる。暗に「やれるか?」と聞いているようだ。
「わ、わかりました。やります」
断れる空気でもなく翔介はそれを承諾した。
それに束は満足そうに笑うと箒へ紅椿の装備の説明を始める。
「翔介、大丈夫なのか?」
「うん、断れる感じでもないし…」
心配そうに見つめる友人たちに翔介は笑いかける。
翔介は自分の打鉄の準備に取り掛かるのだった。
いつも実戦は突然の事ばかりだが、多少は慣れたものだった。
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ISを身に纏った二人が海の上で対峙する。
箒の身に纏う深紅のISはとても美しい。
「姉さんが突然すまないな、道野」
「あはは…篠ノ之さんも大変だね」
振り回されているのは翔介だけでもないだろう。
そもそもあの自由人を制御するなんてそもそもできることでもない。
「それより新しいISはどう?」
「まだ何とも言えないが…うん、まるで自分の手足のような感覚だ」
そう感じるのは専用機だからだろうか。一応、翔介の打鉄も彼のデータを基に合わせてはいるものの訓練機であるため専用機と比べるとその差は大きい。
そう、訓練機と専用機は差が大きい。
もし紅椿の性能を確かめたいのなら訓練機である打鉄の翔介より、専用機持ちの代表候補生の方が良いと思うのだが。
何故翔介なのだろうか。
『二人とも準備は良いか?』
浜辺の方から千冬が通信を入れてくる。
「行けます」
「大丈夫です」
『それでは始めろ!』
千冬の合図と同時に箒が動き出す。
「はああああっ!」
箒は二振りの刀を展開し、斬りかかってくる。
これは紅椿の主力装備『雨月』と『空裂』だ。
それに対して翔介は片手に近接ブレード『葵』を呼び出して受け止める。
受け止めた先ですぐさま箒がもう一刀で振り払ってくる。
元より刀の腕が立つ箒。
刀が二振りであることで手数で勝負してくる。
それを受け止めるだけで翔介は精一杯だ。
「ええい!」
翔介は刀を振り、箒から距離を取る。
近接攻撃がメインである紅椿なら距離を取って銃撃すれば勝ち目があると考えたようだ。
近接ブレードをしまい、アサルトライフル『焔備』を呼び出し照準を合わせる。
「距離をとっても!」
しかし箒は臆することなく刀を握る。
すると空裂の刃にエネルギーが覆い、エネルギーの刃となり放出する。
「うわわっ!?」
予想外の攻撃に直撃こそ免れたがアサルトライフルを取り落としてしまう。
近接装備かと思えばまさか遠距離まで対応しているとは。
というより今の攻撃は一夏の雪片弐型にも同じ機能があったはずだ。
今度は箒が雨月で刺突を繰り出してくる。
その刺突と同時に今度はレーザーが襲い掛かってくる。
避けきれないと判断し可変型大型シールド『重ね畳』を展開する。
レーザーが楯に直撃するも、流石は科特研の盾。レーザーを受け止めてくれる。
だが予想以上にあの紅椿は多芸なISのようだ。
ならこちらも出し惜しみをしている暇はない。
翔介は星の翼を起動させ箒を迂回するようにぐるりと回っていく。
箒もそれに追従してくる。
勝負をかけるならここだ!
翔介は楯をしまい、ディスプレイから新たな装備を選択する。
すると打鉄の右手に巨大な腕が展開していく。
真っ黒な腕に翔介の頭以上に大きな拳・『鋼頭』だ。
「それがお前の新しい武器か!」
「行くよ!」
接近してきた箒が二振りの刀を振り下ろす。
翔介はそれを鋼頭で受け止める。
鋼の名は伊達ではない。火花が散る中、ディスプレイから井部曰く必殺技モードを起動させる。
すると鋼頭からブウンと起動音が鳴り、だんだんと熱エネルギーが充填されていく。
「決めの一手か! ならば!」
今度は箒が距離を取り、二振りの刀からレーザーとエネルギー刃を放つ。
今度は盾を呼び出す暇がない。
「このまま勝負だ!」
迫り来るレーザーに翔介は右の拳を突き出す。
「わああああっ!」
拳とレーザーがぶつかり合う。
激しい閃光と共に遂に翔介の拳がレーザーを打ち消した。
だが充填されたエネルギーもそれで底を尽きる。
「篠ノ之さんは⁉︎」
激しい閃光の中見失った相手を探す。
チャキリ
気付いた時には既に遅し。
「勝負あり、だな」
翔介の背後には刀を突き付ける箒がいた。
「ま、参りました…」
どうやら彼がレーザーと拮抗している間に背後に回ったようだ。この距離ではどうも対処できそうにない。
翔介は素直に負けを認めるのだった。
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「ふぅ…これで満足か?」
一試合終えた二人が浜辺へと降りてくる。
そんな二人に駆け寄る専用機持ちたちを見ながら千冬が隣の束に問い掛ける。
束はニコニコと笑みを浮かべながら黙っている。
「…満足してはいないみたいだな」
「え~? そんなことないよぉ? 紅椿の完成度も確認できたし満足だよぉ?」
「……道野か」
「ん~?」
キッと視線を鋭くする千冬に惚ける束だがその返事が答えでもある。
そもそも模擬戦の相手に翔介を指名したのにも目的があってのことだろう。
もし紅椿の性能差を見せつけたいのなら専用機持ちの誰かを指名するはずだ。
「お前のもう一つの目的は道野の力なんじゃないのか?」
「あはは、ちーちゃんは面白いこと言うねぇ。もしそうだとしたら束さんの目的は果たせなかったことになるねぇ」
「アレは道野自身も知らないものだ。そんなものを他人がとやかく言うべきではないだろう」
千冬がそう言うと束の表情がスッと消える。
「自分の力の大きさに気付いていない人間ほど危険な存在はないじゃないか」
「束…お前は…」
千冬が言葉を紡ごうとしたその時。
「織斑先生! 大変です!」
一般生徒たちを指導していたはずの真耶が息を切らせて走ってくる。
「山田先生、何かありましたか?」
「今、本校の方から連絡があって…!」
真耶が千冬に耳打ちをする。
余程の事態だったの千冬の表情が険しくなる。
「実習は中止。一般の生徒は自室で待機指示を」
「はい!」
真耶は指示を受けるとすぐさまトンボ返りしていく。
「何かトラブルかなぁ~?」
そう言って笑う束。
千冬はそんな彼女を一瞥すると専用機持ちたちの下へと向かっていく。
そんな千冬を束はじっと見ていた。
本日はここまで。
気付けば投稿を始めてから既に半年が過ぎていました。
これからもどうぞよろしくお願いします。
起承転結における省の部分。
物語においても重要なシナリオになっていきます。
急転直下のトラブル発生。
主人公たちは一体どうなるのか。