インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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54話

「くっ…!」

 

箒は降り注ぐ弾丸を片手の刀で打ち払いながら距離を取っていく。

もう片手に負傷した一夏を抱えながら。

 

あれは一瞬の出来事だった。

 

銀の福音と接敵し、一夏と二人で戦っていたところに立ち入り禁止を無視して侵入してきた密漁船を見捨てようとした箒。

しかし、それを一夏は身を挺して守り負傷。重傷を負ってしまった。

 

離脱しようにも銀の福音の執拗な攻撃でその隙が無い。

一夏を抱えたままでは反撃もままならず、その一夏をいつまでもこのままにはしておけない。急がなければ一夏の命が危ない。

 

銀の福音から多量のエネルギー弾が放たれる。

 

「まずい…!」

 

これは避けることができない。

箒は負傷した一夏を庇うように抱きかかえる。

 

「危ない!」

 

そこに影が割って入る。

 

「道野‼」

 

「篠ノ之さん、織斑君は!?」

 

翔介は重ね畳を構え、エネルギー弾を防いでいた。

 

「駄目だ! 意識がない!」

 

「そんな…!」

 

やはり状況は最悪のようだ。

一体どうするべきなのか。

 

このまま箒と一緒に一夏を連れて逃げるべきか。

しかし、もし銀の福音が旅館まで追ってきた場合何も知らない生徒たちに被害が及ぶ可能性がある。

ならば箒と共に銀の福音と戦うか。

これも駄目だ。二人で力を合わせたとして確実に勝てる保証はない。第一に一夏を庇いながら戦うことはできない。

そうなれば今こちらに向かっている教員が来るまでひたすら耐え続けるか。

いや、それでは一夏が手遅れになる可能性がある。

 

そうなれば取れる手段は一つしかない。

 

「篠ノ之さん。僕があのISの気を引くからその間に織斑くんを連れて逃げて」

 

自らが殿を務めて二人を逃がすしかない。

 

「何だと⁉︎」

 

「今は織斑くんを治療することが先決なはず。だったら僕が残って抑えるしかない」

 

この作戦は一夏が倒れた時点で失敗したも同然である。だが一夏が無事であればまだチャンスが来るかもしれない。

 

「馬鹿な! 残るなら私が残る! この不始末は私の責任だ!」

 

「篠ノ之さんのISもだいぶ消耗してる。その状態じゃ長くは戦えないはずでしょ?」

 

彼の言う通りだ。

一夏ほどではないとはいえ、紅椿もダメージが蓄積している。この中では性能的に見れば最も殿に向いているかも知れないが、今の箒の精神状態では返り討ちに遭う可能性も否めない。

それならば少しでも万全の状態である翔介が残るしかない。

なにより一夏が倒れたことでやけっぱちになってしまう可能性も無きにしも非ずだ。

 

「だが…!」

 

尚も食い下がろうとする箒。

 

 

 

「大切な人なら迷っちゃいけない!」

 

 

 

織斑一夏は作戦の要。

そしてそれ以上に大勢の人にとって大切な存在だ。

箒にとってもそうである。

 

「大丈夫、ある程度気を引いたら僕も逃げるよ。それに他の先生たちも向かって来てるからその間頑張るだけ」

 

翔介は箒を安心させるように笑みを浮かべる。

 

「くっ……頼む!」

 

箒は紅椿を翻して、一夏と共にその空域を離脱し始める。

銀の福音はそれを逃さぬと言わんばかりに砲口を二人に定める。

 

そこに割って入るように銃弾が飛んでくる。

福音はそれを軽やかに回避すると銃撃者の方へと振り向く。

 

「君の相手は僕だ!」

 

そこにはアサルトライフル『焔備』を構える翔介がいた。

翔介はアサルトライフルをしまうと、今度は刀を手に斬りかかる。一直線な斬撃は福音に届くことなく躱される。

 

速い。その速度は今まで出会ってきた中で一番のスピードだ。

事前に福音のデータを見ていたが実際にその眼で見るのとは全く違う。

福音は高速で飛行しながらエネルギー弾を放ってくる。

 

翔介も星の翼を起動させ、箒たちとは真逆の方向へ飛ぶ。

果たして福音は目標を箒たちから翔介に変え、追いかけてくる。

 

「よし…! このまま…!」

 

取りあえず第一段階は無事成功だ。

どうやら福音は自信に危害を与える相手を優先して攻撃してくるようだ。

福音は翔介を追い越して、目の前に立ちはだかる。

 

「ここまで来ればもう大丈夫…」

 

二人との距離はだいぶ離した。これなら二人に危害は及ばないだろう。

その代わり救援に動いている教師たちからも離れてしまっている。援軍が来るまでは一人で頑張るしかない。

翔介は刀を構える。

 

それを敵対行動と判断した福音は砲口を展開し、弾幕を張ってくる。

すぐさま上方に躱し、星の翼を起動させ疑似瞬間加速で一気に近づく。

 

「たああっ!」

 

刀を二度、三度振るう。

それを福音は寸分だけその身を逸らすことで躱していく。

そのまま福音は後方に飛び退くとまたもやエネルギー弾を放つ。

 

「うっ…あっ!」

 

翔介もまた後ろに飛び退るがエネルギー弾に刀が弾き飛ばされてしまう。

刀はそのまま海へ落ちていく。

これで翔介の攻撃手段の一つが消えてしまった。

救援が来るまであとどれくらいか…。

 

翔介は重ね畳を展開する。

攻撃よりも防御重視で耐える策に出たようだ。

 

福音はエネルギー弾を放ちながら接近してくる。

それを翔介は盾で防ぐ。しかし、福音の攻撃はそれで終わらない。

防御を固める翔介の盾をその足で蹴り上げてくる。

 

「うわっ!? このぉ‼」

 

翔介は盾を横に薙ぎ払う。やはりそれも躱されてしまう。

こちらの攻撃はどれも躱されてしまう。

防御を固めてもそれがどこまで時間稼ぎになるか。

 

それなら…。

 

翔介は盾を量子データに戻し、蹴り上げてきた福音の足を土台にしてさらに上空へ飛び上がる。

飛び上がると星の翼の出力を上げて飛び出す。

攻撃も防御も駄目ならひたすらに逃げる。

 

福音も当然ながら追いかけてくる。

福音と打鉄が空中でぶつかり合うたびに火花が散る。

その度に打鉄に傷が増えていく。

両肩に装備された盾もビシリビシリとひびが入っていく。

 

打鉄の盾は『破壊される前に再生する』という特性を持つ。

しかし、今の打鉄には再生する前にさらにダメージを受け傷を広げている。

 

「うぅ…このままじゃ…!」

 

堕ちるのも時間の問題だ。

 

「何か手は…」

 

この状況を打開する手段。

刀は落としてしまった。

盾で防いでも福音の攻撃力を防ぎきれるかは怪しい。現に打鉄に備わっていた盾は既に半壊状態だ。

残っている装備でどこまでできるか。

それもただ我武者羅にぶつけるだけじゃ駄目だ。

 

翔介は迫る福音の猛攻を受けながら必死に頭を捻る。

 

 

 

一つ。

賭けではあるが一つだけ方法がある。

 

 

その為には。

 

 

「星の翼の最大スピード…」

 

今まで試したことのない領域に挑戦する必要がある。

ぶっつけ本番で行けるのか。

 

 

「やる前から失敗することを考えて、その先には行けない…」

 

翔介はキッと覚悟を決める。

どの道このままでは墜とされるのも時間の問題。

それならば賭けだとしても挑戦するしかない。

 

翔介はディスプレイから星の翼を操作する。

出力を最大に。今まで掛けていたセーフティも解除する。

するとディスプレイには今までにない数値に上がり始める。

 

星の翼の形状が変わる。

そして次の瞬間ドンッと体中に衝撃が走る。

ISは基本的に操縦者を危険から守るようにできているが、それを以ってしても大きな衝撃がその身に降りかかる。

 

「うぅ…!」

 

その衝撃に思わず目を閉じてしまう。

やはり怖い。

だがそんな時にある日の言葉が蘇る。

 

『そのスピードの先に夢がある』

 

このスピードは夢へと続くスピード。

必要なのは技術だけじゃない、ほんの少しの勇気。

翔介は恐る恐る目を開く。

 

「おぉ…」

 

空が、海が、雲が、流れていく。

車や電車の窓から見た光景とは全く違う。視線を止めたかと思えばすぐに通り過ぎていく。

これが宇宙へ飛び立つスピード。

翔介の後ろから福音が追いかけてくる。しかし、今度は追いつかれることも拮抗することもない。確実に翔介のスピードが福音を圧倒している。

 

「これが…星の翼…!」

 

翔介は前へ前へとさらに加速する。

その姿はまるで銀色の流星のようだ。

 

十分に福音との距離を開けるとぐるっと旋回し福音に迫る。

福音は砲口を構えるも翔介はその横を通り過ぎていく。また方向転換をして横切るを何度も繰り返していく。

福音は近づく度に砲口を構えるが彼を捉えることができない。

 

初めて翔介が福音を圧倒した瞬間だった。

 

福音を翻弄しながら翔介は鋼頭を呼び出し、必殺技モードを起動させる。

急速に熱エネルギーが右腕にチャージされていく。

やがてディスプレイにフルチャージと表示される。だが翔介はさらにエネルギーチャージを操作する。

過剰チャージの影響か。

鋼頭の表面がまるでマグマのように赤く、黒くその大きな腕がさらに巨大化していく。

井部から忠告されたエネルギーの過剰チャージによる熱暴走。

機体への反動が大きいが、その分だけ破壊力が上がるそれを利用したのだ。

 

「たああああああああっ!!」

 

翔介は急接近し、右の拳を福音へ振り下ろす。

福音は減速した隙を見逃さず、その拳を回避しようと背部のスラスターを動かす。

 

ガクン

 

だが福音の態勢がぐらりと崩れる。

表情は見えないが驚愕の様子を見せる福音。

 

見れば福音の足やスラスターのウィング部にワイヤーが巻き付いている。

先程まで福音の周囲を飛び回っていたのは撹乱すると同時にワイヤーで動きを制限させるためだった。

まさに機械的な回避性能を見せる福音だが、その動きを妨害されてしまえばそれも上手く活かされない。

 

 

勝機が見えた!

 

翔介はマグマのように燃え滾る右腕を福音へと叩き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

叩き込んだはずだった。

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

拳が空を切る。

いや、福音の頭部を少し掠めてはいる。

あのタイミングであれば間違いなく当たるはずだった。

だが、躱された。本当に拳が当たる直前にワイヤーが断ち切られた。

 

ビーッとディスプレイから警告音が響く。

過剰チャージされた鋼頭からの反動が打鉄に襲い掛かる。関節部から黒煙が噴き出し、鋼頭もビシッとひびが入る。

そこへさらに警告音が鳴り響く。

 

後ろを振り向く。

 

スラスターと融合した三十六の砲口の全てが翔介に向けられている。

 

 

世界がスローモーションのように流れる。

 

 

三十六の砲口から光の弾丸が一斉に飛び出してくる。

 

 

「あ…」

 

 

ズウウウウン!

空中で大爆発が起こる。

 

爆炎の中、ボロボロになった打鉄と翔介が海へと墜落していく。

 

 

 

「あぁ…織斑君と篠ノ之さん…無事に戻れたかな……」

 

 

薄れゆく意識の中、翔介は二人の友人の身を案じながら海へと落下していった。

 

 

 

----------------------------------------

 

 

数分後。

一夏を連れて、箒が帰還した。

 

それと同時に戦況をモニタリングしていたパソコンから翔介の反応がロストした。

 




本日はここまで。

たった一人で福音に立ち向かった主人公。

しかし奮闘空しく、海中へ姿を消した。

一夏と主人公を欠いた学園の選択は…。

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