インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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56話

『KYAAAAAAAAAA‼』

 

「くっ…! こいつっ…‼」

 

女性のような叫び声を上げて福音がラウラに飛び掛かる。

飛び退くラウラだがガシッとその足を掴まれる。

 

「ラウラ‼」

 

シャルロットが近接ブレード『ブレッド・スライサー』を手にして飛び掛かる。

だがそれは福音に片手で受け止められる。

 

「シャルロット! 逃げっ…!」

 

ラウラが言い切る前にエネルギーの翼がはためく。すると羽が翼から抜けたかと思えばまるで意志を持っているかのようにラウラへと降り注ぐ。

至近距離で受けたラウラは防御に徹することもできずボロボロに。そのままラウラは海へと落ちていった。

 

「やりやがったわね!」

 

「おのれっ!」

 

箒と鈴が再度突撃する。

しかし、福音はそんな二人には目もくれずレーザーライフルを構えたセシリアに急接近する。その速度は先程とは比較にならないほどだ。

 

「何ですの! 軍用とはいえ、この性能は‼」

 

セシリアのライフルは長射程を誇るがその反面、至近距離が苦手だ。

後ろに下がって銃口を向けようとするも、福音はその銃身を蹴り飛ばす。

 

「あっ!」

 

息を吐く間もなく次の瞬間には彼女はエネルギー弾の雨に飲み込まれた。

ラウラに続き、セシリアも力尽きる。

 

「セシリア! いい加減に堕ちなさいよ!」

 

激昂した鈴が双天牙月を手に斬りかかる。

だが福音は視線を向けることもなくそれを躱すと、スラスターのブーストを活かした蹴りを放つ。

双天牙月でそれを防ごうとするも、ブーストで威力が上昇した蹴りは防ぎきることはできず双天牙月がバッキリと折れてしまう。

福音は続けざまにもう一度蹴りを放つ。鈴は腕をクロスして防御の構えを取るが、その威力を殺しきることはできなかった。

 

「あああああっ!」

 

「鈴‼」

 

衝撃で吹き飛ばされる鈴を簪が受け止める。

だが甲龍の装甲には亀裂が入り、既に戦える状態ではないだろう。

これで残っているのは箒、シャルロット、簪の三名。

 

福音は周囲を一掃しようと、エネルギーの翼をチャージし周囲を埋め尽くすようにエネルギーの波が襲い掛かってくる。

 

「箒! 簪! 僕の後ろに!」

 

シャルロットが二人を庇うように立ちはだかり、四枚のシールドを展開する。

エネルギー弾の雨が周辺を覆う。

 

『うわあああ⁉︎』

 

少女たちの叫び声が木霊する。

周辺にはモウモウと煙が立ち込める。

やがて煙が晴れる。

 

「ぐ、あ…!」

 

そこには箒の細い首をギリギリと締め上げる福音の姿があった。

シャルロットと簪も既に満身創痍。

もはや戦局は完全に福音に傾いていた。

 

「ここまで、なのか…」

 

福音の砲口が箒に一斉に向けられる。

箒は目を閉じる。

 

瞼の裏に映るのは一夏と翔介。

最後に、最後にもう一度会いたかった。

 

 

 

ドンッ!

 

 

それは突然の出来事だった。

箒の首を締め上げていた福音が真横に吹き飛んだのだ。

 

「うあっ…!?」

 

突然手を離された箒を誰かが受け止める。

 

「大丈夫か、箒?」

 

「あ、あぁ…」

 

その人物は…。

 

 

 

「一夏…!」

 

 

白いIS・白式を纏った織斑一夏だった。

その白式はいつもの姿とは違っていた。

白式第二形態・雪羅だ。

 

「ああ、もう大丈夫だ。後は俺に任せろ!」

 

一夏は箒を下ろす。

他の少女たちも少年の登場に顔をほころばせる。

 

「それより翔介は…?」

 

周りを見渡しながら問い掛ける。

彼は翔介が生死不明となったことをまだ知らない。

 

「翔介は…私とお前を守るために…」

 

「そうか…」

 

「私がもっとしっかりしていれば…」

 

「いや、誰の所為でもない。あいつが自分の意志でやってくれたんだ。それに…」

 

にやっと笑う。

 

 

 

「あいつがそんな簡単に死ぬわけないだろ!」

 

 

「あ、あぁ…!」

 

「あいつが帰ってくる前に全部終わらせてやろうぜ!」

 

一夏は雪片弐型を手に福音へと斬りかかる。

福音はそれを飛び退り避ける。そこへ左手の新装備・雪羅を振るう。

これは第二形態に移行したことで出現した新装備だ。状況においていくつかのタイプに切り替えられるものだ。

今は一夏のイメージを基に指先からエネルギー波のクローが飛び出す。

 

クローは福音の装甲を切り裂く。

 

福音も負けじとエネルギーの翼を掃射する。

 

「そう何度も!」

 

今度は雪羅を大きな盾に変化させる。

燃費は悪いが、エネルギー攻撃であればどんな攻撃でも無効化できるという強力な盾だ。

この盾は翔介が愛用している重ね畳をイメージして作り出したものだ。

一夏にとって翔介の盾こそ仲間たちか全てを守るものだったからだ。

 

「うおおおおおっ!」

 

増設されたスラスターによる二段階瞬時加速で福音に肉薄する。複雑な動きをする福音にもこれで追いつける。

 

ピピピッと白式のディスプレイに警告音が鳴り響く。

エネルギー残量が二十パーセントを切った。装備が強力になった分、やはりエネルギー消費量も多くなっている。

 

すると福音が翼を自身に巻き付け始める。

バッと一斉に翼を開き、全方位に向かってエネルギー弾の雨を降らせる。

 

「くそっ!」

 

もう一度盾を広げる。

エネルギーの残量がさらに減少する。このままではジリ貧だ。

 

「ならなくなる前にやってやる!」

 

一夏は雪片と小刀に変化させた雪羅に零落白夜を纏わせ、福音へと突撃していった。

 

 

「私は…私にはもう戦う手段はないのか…」

 

一人福音と戦う一夏を遠くから見守る箒。

一夏が無事でいてくれたこと、駆け付けてくれたことはとても嬉しい。

だがこのまま何もできない自分が悔しくて堪らなかった。これでは一夏と箒を逃がしてくれた翔介の時同じくなってしまう。

 

「違う…! まだ、まだ何かあるはずだ! 道野は、あいつだって自分にできる何かをしようとした!」

 

だから諦めるわけにはいかない。

箒は刀を支えに、今一度立ち上がる。

 

「私は共に戦いたい!」

 

そう強く願った。その時。

 

ピッとディスプレイに新たな力が表示される。

その名は。

 

『絢爛舞踏』

 

「これは私の単一仕様…!」

 

すると彼女の近くに簪たちが集まる。

 

「行って、箒!」

 

「だがお前たちは?」

 

「アタシたちは腐っても代表候補生よ。このまま終われるかっての!」

 

「ええ、わたくしたちに出来ること。やらせていただきますわ」

 

「だから僕たちは大丈夫。箒は一夏のところに!」

 

「ここは任せろ!」

 

友人たちが背中を押す。箒はそれに力強く頷き、黄金の光を纏いながら飛び立つ。

 

「さて、あたしたちのできることって言うと?」

 

「一番厄介なのはあの翼だ。あれを破壊できれば…」

 

銀の福音における最大の武器であるエネルギーの翼。

あの翼の射程距離はかなり広範囲かつ強大な威力を誇る。

それさえ防げれば。

 

「残ってる装備は?」

 

次々と自分たちの現状報告をする。

その結果、残った装備の中で一番有効なのはラウラのブリッツ。ただこちらは戦闘により一門だけしか使用できない。

それ以外にも。

 

「砲台の機能は生きているが、ロックオンとトリガーがイカレてしまった」

 

「それならば引き金はわたくしのライフルで代用しましょう」

 

「目標の捕捉は私がやる」

 

「それならあたしとシャルロットは」

 

「三人の壁だね」

 

五人は頷き合うとそれぞれの準備を始める。

 

 

 

「おおおおおおおっ!」

 

雪片と雪羅を振るい、何度も福音へ斬りかかる。

だが福音はそんな一夏に強力無比な攻撃を繰り返す。

それを弾いては盾で防ぐ。

 

ピピピッ!

 

白式が再度警告音を鳴らす。

エネルギー残量が十パーセントを切る。

このままではこちらが先に力尽きてしまう。

 

「どうする…!?」

 

歯噛みする一夏。

 

「一夏!」

 

そこへ箒が紅椿を駆り、手を伸ばす。

 

「箒!?」

 

「手を取れ!」

 

真剣な眼差しに一夏は否やもなくその手を取る。

握られた箒の手から一夏へ雷にも似た黄金色の光が流れていく

 

「な、なんだ、これ…」

 

言いようのない感覚に困惑する一夏。

だがディスプレイを見てハッと気づく。

 

「エネルギーが回復!?」

 

「今は考えるな! 行け! 一夏!」

 

「ああっ!」

 

理由はわからないがまだ希望はある。

一夏は零落白夜を発動し、福音に肉薄する。

福音はエネルギーの翼を一夏に向けて。

 

 

ズウンッ!

 

 

次の瞬間、福音の翼が大爆発を起こした。

完全な不意打ちに動揺の色を隠せない福音。

 

「命中だ」

 

「流石だね、セシリア」

 

「いえ、簪さんのお陰ですわ」

 

「こういうの確かことわざであったわよね」

 

窮鼠猫を噛む。

追い詰めたはずの鼠にまさかの手痛い反撃を受けた。

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

木を取られた一瞬の隙。

一夏はありったけのエネルギーを零落白夜に乗せてすれ違いざまに刀を振り抜いた。

 

手応え、あり。

 

福音は一夏へ手を伸ばす。

しかし、やがて動きを停止した。

 

「や、った…?」

 

「ああ、やったぞ…!」

 

先程まで響いていた戦闘音が止むと海はまた静寂を取り戻す。

いつの間にか青空は赤い夕空に変わっていた。

一夏の周りに仲間たちが集まる。

一同共に安堵の表情を浮かべている。

 

 

これでようやく終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビシリ

 

 

 

 

 

 

静寂の海に異音が鳴る。

 

「なんだこの音…?」

 

「…っ! あ、あれっ…!?」

 

簪が何かに気付いたように指をさす。

全員がその視線の先を追う。

 

そこには…。

 

 

 

「なんだ、あれ…?」

 

 

 

倒したはずの銀の福音に黒い何かが纏わりついていく。

福音はまるで苦しむように異音を上げる。

そしてバグンッと胸部分の装甲を開き、ISスーツを着た操縦者をはじき出す。

それはまるで操縦者を巻き込むまいとしているようだった。

福音の操縦者を一夏が受け止める。

 

 

『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』

 

女性のような声が一変して、まるで地の底から響くような雄たけびを上げる。

やがて福音の装甲に禍々しい紋様が浮かぶ。

 

「ねえ、あれって!」

 

「ああ、間違いない」

 

そう、一夏たちは前にも同じ紋様を見ていた。

それはクラス代表戦で乱入してきた黒い無人機と同じものだった。

倒したはずの無人機に突如同じ紋様が現れ、狂暴化するという出来事。

 

福音の装甲は刺々しく変化していく。

その禍々しさにはもはや福音という言葉は似合わない。

 

「銀の黙示録…」

 

誰が呟いたか、今の福音にはまさにその名が相応しかった。

 

黙示録が翼を展開する。その翼も福音の時とは変わっており黒くギザギザとしたものに変わっている。

 

「ヤバい! 皆、逃げろ!」

 

「逃げろったって!?」

 

「駄目、間に合わない!」

 

禍々しい翼の弾雨が一夏たちに襲い掛かる。

避ける暇も、防ぐ手立てもない。

 

万事休す、か。

 

 

 

 

 

カッ!

 

 

 

 

弾雨が直撃する瞬間。

眩く輝く赤い光が一夏たちの前に立ちはだかる。

赤い光は弾雨を打ち払い、黙示録に体当たりをしかける。

 

予想外の攻撃に黙示録が海へと叩き込まれる。

 

「これは…」

 

これも前に見たことがあった。

 

そう、暴走した無人機が現れた時。

彼もまた光とともに現れた。

 

 

赤い光がゆっくりと消えていく。

果たしてそこには銀色のボディに赤いライン。胸には輝く青い宝玉。

赤い瞳を持った少年。

 

 

 

 

 

「助けに来たよ、皆!」

 

 

 

 

道野翔介が立っていた。




本日はここまで。

次回、原作三巻クライマックス。

仲間の危機に再び立ち上がった一夏。

だが黒い何かに暴走する銀の黙示録。

そこに、あの少年が戻ってきた。
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