「翔介…なのか…?」
一夏は夕日に立つ赤い瞳の少年に恐る恐る声をかける。
以前黒の無人機相手に翔介が今のように現れた時は一切会話をすることができなかった。
今度もそうなのでは、と心配したが故だ。
「うん、心配かけてごめんね」
今度はちゃんと返事をする翔介。
浮かべる笑顔もいつもの彼だった。
わっと彼の周りに集まる友人たち。
「本当に、本当に翔介なんだね…!」
「本当だよ。それより…」
翔介が言い切る前に海から水飛沫を上げて銀の黙示録が浮かび上がってきた。
黙示録はすぐさま翼を展開し、翔介たちに向かってエネルギー弾を放つ。
「皆、僕の後ろに!」
翔介は一歩前に飛び出すと、ディスプレイから重ね畳を展開。
前に構えると、盾がはガチャリと大きく展開し、さらに光の壁が全員を包むように覆う。
その光の壁は傷つくことなく、全てのエネルギー弾から友人たちを守り切る。
「これは…!」
「力を貸してくれてるんだ、彼が」
「彼?」
「その話は後でするよ。それよりアレを何とかしよう!」
「あ、ああ。だけどあいつ一体何があったんだ?」
「まさか第三形態移行!?」
ISとは操縦者に従ってその姿や能力を文字通り成長させていく。
その為、第三形態へ進化する可能性も十分にあり得ることだ。
「でも操縦者は…」
そう。操縦者は今一夏の腕の中にいる。
第二形態には操縦者の意志を無視して進化したが、機体自体から操縦者が離れた時点でここまで自立行動することは可能なのだろうか。
「うぅん、あれはISじゃないよ。もっと悪い…悪意の塊」
「悪意…? 一体誰の…?」
「僕にもよくわからない。でもあんな姿あの子も望んでなんかいないはずだよ」
「まるでISが生きているみたいに言うな」
「人と一緒に成長するなら生きてるのと同じだよ。それに福音には心がある。だからああなる前にその人だけでも逃がしたんだよ」
それをシステムと言ってしまえばそこまでだろう。
だが、翔介にはそれが機械的な機能とは思えなかった。
それにあの禍々しい紋様には確かな悪意がある。そう胸の宝玉が翔介に伝えてきている。
「僕は福音を助ける」
翔介は盾をしまう。
「それは僕だけじゃ駄目。だから織斑君、力を貸して」
「力を貸すって言ってももう白式も展開してるのでやっとだぜ?」
紅椿によりエネルギーが回復したとはいえ、先程までの激戦で白式のシールドエネルギーはまた枯渇寸前である。
「それなら」
翔介は胸の宝玉に手を触れると、そこから光が溢れ出す。
光は一夏の白式を包み込む。
紅椿からのエネルギー補給は電撃が走るような熱いものを感じたが、こちらは温かな
まるで縁側で日向ぼっこをしているような気持ちになる。
白式のディスプレイにはピピッとシールドエネルギーが全快する。
「行くよ! 織斑君!」
「ああっ! 箒、この人を」
一夏は福音の操縦者を箒に手渡す。
「わかった、二人ともちゃんと勝ってこい!」
「おう!」
「うん!」
一夏と翔介は箒の言葉に頷くと、銀の黙示録目掛けて飛び出す。
少女たちはそんな二人の背中を見送った。
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「うおおおおおっ!」
「たあああああっ!」
一夏が雪片を翔介は手刀をそれぞれ振り下ろす。
黙示録は自らの腕を鋭いかぎ爪状に変形させ、両手でそれを受け止める。翔介はその腕を掴むと背負い投げの要領で投げ飛ばす。
しかし、戦場は空中。黙示録は無茶な機動で態勢を立て直す。
それを見ているとやはり福音は操縦者のことを気遣って動いていたのだと感じる。
「相変わらずとんでもない動きするな!」
「普通に戦っても駄目そうだね」
一夏は雪片を構え、翔介は両手を前に出し猫背気味に構える。
「なら我武者羅にやってやろうぜ!」
「うん!」
一夏は雪片からエネルギーの刃を飛ばす。
黙示録は上空に飛び上がり回避する。それを翔介は丸鋸状のエネルギー光輪を二連続で放つ。光輪は飛び回る黙示録を追尾するように飛んでいく。
鬱陶しそうに光輪をエネルギー弾でかき消す。
「おらあああっ!」
しかし、それは陽動。
一夏が背後から雪片と小刀に変化させたう雪羅で迫る。
黙示録はそれに異常な反応速度で受け止める。そこに今度は背後に衝撃を受ける。
そこには掌を合わせて鏃状の光弾を放つ翔介がいた。
威力こそ低いものの、黙示録の姿勢を崩すには十分な効果があった。
一夏の雪片と雪羅が黙示録のかぎ爪を叩き折る。
遂に黙示録にダメージを与えた。
「このまま!」
「押し切る!」
翔介は飛び去ろうとする黙示録の足を掴み、ぶんぶんと振り回す。
十分に遠心力が高まったところで手を離し投げ飛ばす。
黙示録はまたも態勢を立て直そうとするが、一夏がそこに蹴りを叩き込み妨害する。
二人の連携が確実に黙示録を追い詰めていく。
「織斑君!」
「おう!」
二人は視線を交わし、互いに頷く。
翔介はアサルトライフルを呼び出し、それを一夏に投げ渡す。既に使用許可を出しているため一夏にも使用することができる。
一夏が受け取るのを確認すると翔介は星の翼を起動させ、黙示録を包囲するように飛び回る。
黙示録が逃げようとすれば、すぐさまその進路を阻むように飛んでいく。
そして飛び回る影から一夏がアサルトライフルで黙示録に弾丸を叩き込んでいく。
腕を交差させ、弾丸の雨を防ぐ黙示録。
「てやあああああっ!」
翔介はキュッと方向転換をすると、星の翼のさらに出力を上げ一直線に黙示録へ拳をお見舞いする。
スピードの乗った拳は黙示録のガードごと後ろに殴り飛ばした。
ピコン!
胸の宝玉が青から赤に変わり、点滅を始める、
「翔介、なんかピコピコ言ってるぞ!?」
「もうすぐ時間が来るんだ」
「時間?」
「織斑君! 一気に決めよう!」
気になることを言ってはいるがそれどころではないだろう。
一夏はアサルトライフルを翔介に投げ返す。それを素早くデータ領域に収納する。
そしてディスプレイから鋼頭を選択する。
翔介の右腕に巨大な鋼の腕が装着される。しかし、その腕は所々ひび割れており、破損している部分も見受けられる。
エネルギーの過剰チャージによる反動のようだが、次の一撃だけで持って欲しい。
「零落白夜作動!」
一夏は打鉄と雪羅に零落白夜を纏わせて、翔介と共に黙示録に突撃する。
「うおおおおおっ!」
「だあああああっ!」
殴り飛ばされグラつく黙示録に、一夏の雪片と雪羅がエネルギーの翼を切り裂く。バランスを失った黙示録の下から上へ向けて鋼頭のアッパーが叩き込まれた。
ぐるぐると回転しながら上空へ吹き飛んでいく。
「フィニッシュブローだ!」
「うん!」
一夏は雪羅を荷電粒子咆に変形させる。
そして駿介は胸の宝玉から自身の腕にエネルギーを纏わせ、十字にクロスさせる。
『いっけええええええええ!!』
一夏の荷電粒子咆、翔介の腕から強力な光波熱線が発射される。
『コ…シノ………ラカ…! …ウコ…セネ、バ…!』
黙示録はエネルギー弾で対抗するも合わさった二つの熱線を抑える程の威力はなく、その身体は光の奔流の中に消えた。
「…!」
翔介はバッと黙示録に飛び込む。
やがて爆炎から飛び出してくる。その手には淡く光る物体を抱えている。
「…やった、のか…?」
「うん、勝ったよ…勝てたよ、僕たち!」
一夏の問いに翔介が頷いて見せる。
「ぃよっしゃあああああ!」
一夏が歓声を上げながら手を上げる。
その意図に気付いた翔介も同じく手を上げて。
ガチン!
白式と打鉄の機械の腕がぶつかり合った。
「やったな! 一夏、道野‼」
二人の下へ少女たちが集まる。
「翔介、それって…」
簪が翔介の抱えているものを見つめる。
「うん、福音のコアだよ」
翔介はそう言ってコアを全員に見せる。
その周りには禍々しい紋様が浮かんでおり、まるで苦しむかのように弱々しい光を放っている。
翔介はそれを両手で抱え、瞳を閉じる。
すると胸の宝玉から光が溢れ、コアを包み込む。コアを蝕んでいた紋様が消えていく。
それと同時に胸の宝玉と赤いラインが消え、ボロボロの打鉄の姿へと戻っていく。
「紋様が消えた…? もう大丈夫なの?」
「うん、もう福音は暴走したりしないはずだよ」
なんの根拠があってそう言うのだろうか。
だが今の翔介を見ていると嘘を言っているようには見えなかった。
「翔介さん、あなたは一体…?」
「それも後で話すよ。だか、ら…」
ぐらりと翔介の身体が傾く。
素早くラウラと簪が支える。
「おい、大丈夫か!?」
「翔介!?」
心配そうに全員が翔介を覗き込む。
「すー…すー…」
支えられた翔介は安らかな寝息を立てていた。
ドッと力の抜ける一同。
「またぁ? こいつ、やっぱり度胸あるわ」
「まったくですわ。心配かけてくれますわ」
「あはは、まあまあ」
呆れ気味な鈴とセシリア。
それを苦笑しながら宥めるシャルロット。
「無理もないだろ。俺も疲れたし」
「戻ろうぜ、皆のところに」
一夏の言葉に全員が頷いた。
それから数分後。
花月荘に専用機持ち全員が無事に帰還した。
本日はここまで。
これにて福音、黙示録戦終了!
やや駆け足気味になってしまいましたが、無事に全員揃って帰ってきました。
次で原作三巻も終了となります。
次回。
光と共に現れた主人公。
主人公と彼の思い出が語られる?