インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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58話

ガツガツガツガツ!

 

一同は唖然とした表情で翔介を見ている。

目の前の翔介は茶碗に山盛りに盛られたご飯を平らげていく。

 

「おかわり!」

 

「ま、まだ食べるのか!?」

 

「もうお櫃空っぽだよ?」

 

空になった茶碗を差し出し、おかわりを所望する翔介にさらに驚愕する面々。

信じられない食欲だ。

 

「なんだかお腹が空いて空いて」

 

「ふぅ…申し訳ありませんが頼めますか?」

 

千冬がため息交じりに女将に頼む。

それに女将は嫌な顔一つせずに快諾する。

 

「いいんですよ。若い子はいっぱい食べないと」

 

そう言ってすぐに炊き立てご飯の入ったお櫃を持ってくる。

 

「ほら、道野」

 

箒が翔介の茶碗に山盛りとご飯をよそう。

それを美味しそうにまた頬張る。女将の厚意によりおかずもどんどんと運ばれてくる。

ご満悦な様子の翔介。

 

つい少し前まで生死不明だったとは思えない。

いや、だからこそなのかもしれない。

 

「な、なあ、食べるのもいいけどそろそろ話してくれよ」

 

「うん? ああ、そうだね」

 

翔介は今思い出したかのように茶碗を置く。

そしていつも首から下げているお守り袋から赤い宝石を取り出す。

 

「それはいつぞや見せてくれたものだな」

 

「うん、これは僕の大切な宝物」

 

「まあ…綺麗な宝石ですわね。でも…何という宝石なのですか?」

 

セシリアが首をかしげる。

赤い宝石と言えばルビーなど多数存在するが、彼の持つ宝石はそのどれにも該当しない。

貴族であるセシリアでもわからないのだから、一夏たちにもそれの正体は分かるわけもなかった。

 

 

 

 

 

 

「これはね『ウルトラの星』って言うんだ」

 

 

 

 

 

「ウルトラの星…?」

 

翔介はゆっくりと語り始める。

 

「織斑君と篠ノ之さんを逃がした後、結局僕は福音に負けて海に落ちたんだ…」

 

そう話すと一夏と箒の二人は申し訳なさそうな顔をする。

 

「二人が気に病むことないよ。あれは僕が自分でした事なんだから」

 

二人に笑みを向けながら再度語り始める。

あの時なにがあったか、そして彼の秘密を。

 

---------------------------------------------

 

「あぁ…織斑くんと篠ノ之さん、無事に逃げれたかな…」

 

翔介は福音に単身挑み、力及ばず撃墜された。

友を無事を案じながらその身は蒼海に叩きつけられる。

機能を停止したISは水中では重りでしかない。

 

どんどん冷たい水底へと沈んでいく。

するとお守り袋が首から離れ、海面へと昇っていく。

薄れゆく意識の中、それだけは手放してはならないと手を伸ばす。

 

その時。

 

赤い宝石がカッと輝く。

次の瞬間、赤い光が沈みゆく翔介を包み込む。

 

赤い空間、ただひたすら赤いその空間。だが不思議と恐ろしさや寂しさは感じない。

どこか懐かしく、温かい。

次第にゆっくりと翔介の瞳が閉じられていく。

 

 

 

 

夢だろうか、いや夢というにははっきりとしている。

まるで過去をもう一度体験しているかのようなそんな気分。

 

 

これは今から十年前。翔介がまだ五歳の頃。

忘れもしない。その日は彼の誕生日である七月十日、今日で満六歳となる。

彼を引き取ってくれた祖母たちは今日という日のために朝から腕によりをかけて料理や飾りつけをしてくれて、先程まで故郷の住人全体が祝ってくれていた。

とても楽しかったのを今でも覚えている。

 

翔介は夜の田舎道を走っていた。

その手には今日の誕生日プレゼントで贈られた子供用の天体望遠鏡を携えている。

従姉妹たちには自分たちの片付けが終わるまで待てと言われたがすぐにでも試してみたかった翔介は居ても立ってもいられず家から少し離れた『星降丘』へ向かっていた。

 

夏の夜とはいえ、電灯の数が少ない田舎道は真っ暗で慣れた人間でもなければ灯りが必要だ。

引き取られて三年ほどの翔介にはすっかり慣れた道であった。

 

「ん?」

 

星降丘に向かっているとピカッと丘の方が光るのが見えた。

なんだろうか。丘の方には電灯のようなもの光るものは存在しない。そもそもこんな夜に

丘に登ろうとする人間はそうそういない。

今の翔介のように時たま天体観測に訪れる人もいるが、それも稀である。

なにかと不可思議なことが起きやすい里ではあるが、それとはまた毛色が違うように感じる。

 

キュッと天体望遠鏡を持つ手に力が入る。

この穏やかな里でこんな出来事は滅多に起こるものではない。

恐怖半分、好奇心半分。

 

幼い翔介は星降丘に向かって駆け出した。

得体のしれない恐怖より好奇心が勝ったのだ。

 

 

暗い林道を抜けることで星降丘に登ることができる。

 

「えっと…あれ?」

 

キョロキョロと辺りを見渡す。

丘の上に登ったはいいが何もない。さっきのように夜を照らすほど光るものがあるようには見えない。

 

「気のせいだったのかな?」

 

拍子抜けする翔介。

 

 

しかし。

 

 

ズンッ!

 

丘全体が大きく揺れる。

あまりの揺れに翔介は立っていられず地面に倒れ込む。

 

「なに…!?」

 

翔介が顔を上げると同時に木々をなぎ倒し巨大な何かが姿を現す。

それは棘のような突起が生えた身体に長い尻尾。腕は短いが、口から覗く牙や焦点の定まらない大きな目が凶暴さを際立たせている。

 

それはまるでテレビでよく見るヒーロー番組に出てくる空想上の産物。

 

「か、怪獣…!」

 

五十メートルはあろうかという巨体が唸りを上げ、口から青白い熱光線を放つ。

熱光線が周りの木々を焼き払っていく。

 

「あ、あぁ…」

 

突然現れた非日常に腰が抜けて立ち上がることがない。

身体全体が震える。

このままでは里が、祖母が、従姉妹たちが危ない。

でも自分にできることは…。

 

 

 

「や、やめろぉ!」

 

 

 

翔介は震える足に鞭を打ち立ち上がり、声の限り叫ぶ。

自分には何もできない。

けれど。

 

 

何もしない訳にはいかなかった。

 

『出来ないことをやらない理由にしてはいけない』

 

出来ないからと言って挑戦しないというのは間違っている。

例えどれだけ難しくても挑戦して初めて出来ることだってあるからだ。

それが祖母に教えられてきた『挑む勇気』だった。

 

翔介の小さな叫び声が聞こえたのか。

怪獣が翔介の方へと迫ってくる。

 

「う、うぅ…」

 

近づいてくる怪獣に腰が引ける。

叫んだはいいものの、今度はどうするべきか。

怪獣がついに目の前に。

 

 

ドンッ!

 

 

目の前の怪獣が丘の上に倒れる。

 

「え…?」

 

翔介に影が覆う。

後ろを振り向き、見上げる。

口から感嘆の声が漏れる。

 

「わぁ…」

 

音もなく彼の後ろに立っていたのは身長四十メートルの巨人。

銀色の身体に赤のライン。胸の中央には青く丸い宝玉のようなものが付いている。鉄仮面のように表情の分からない顔だが、その口元にはアルカイックスマイルがたたえられている。

翔介の心には何故か言い知れぬ安堵の気持ちが溢れてくる。

 

巨人は怪獣へ向けて、両腕で十字を作る。

組まれたその両腕から青い光波熱線が放たれ、怪獣を貫く。

 

怪獣は断末魔を上げながら爆炎の中へ消えた。

 

この短時間であまりにも多くのことがあり過ぎた。

知りたいことはいっぱいあるが、翔介は目の前にいる巨人を見上げる。

 

突然現れ、怪獣を一撃の下に撃破した巨人。

巨人も翔介に気付くと、腕をクロスさせる。すると、巨人は見る見るうちに小さくなり、百八十センチほどの大きさにまで変わった。

それでも子供の翔介には大きいが、四十メートルの巨体よりは威圧感がないだろうと判断したのだろうか。

 

「君は…誰? 宇宙人?」

 

翔介は目の前の巨人に問い掛ける。

巨人の口は動かない。しかし、翔介の頭の中に彼の言葉が流れ込んでくる。

 

「ウルトラマン…? それが君の名前?」

 

巨人はゆっくりと首肯する。

 

「え、えっと…助けてくれてありがとう」

 

感謝を口にするもそれ以外に言葉が出てこない。

ウルトラマンは頷きながら空を見上げる。

 

「もう…行っちゃうの?」

 

寂しそうに尋ねる翔介。

すると巨人、ウルトラマンは膝をつき、翔介の手を取ると赤い宝石をその手に置く。

 

「何これ?」

 

その宝石は不思議な輝きを放っている。

 

「ウルトラの星…? 凄く綺麗…」

 

翔介の問いにウルトラマンはゆっくりと立ち上がる。

 

「友好の証? 僕たち、友達?」

 

飛び上がりそうなくらい嬉しそうにはしゃぐ翔介。

子どもの少ない里に生きる翔介にとって友達というものは特別なものであった。

しかもその友達が宇宙人ともなれば尚更であった。

 

ウルトラマンはそれを見届けると地を蹴り、空に飛び立つ。

翔介は満天の星空に昇っていく異星の友人に手を振る。

 

「また、また会おうね! 今度は僕が会いに行くよ!」

 

その声が届いているかはわからない。

しかし、その時初めて翔介に将来の夢というものができたのだ。

 

 

 

 

 

ゆっくりと目を開く。

そこは赤い空間。

 

「ここは…?」

 

そう呟いてすぐに思い出す。

自分が福音と戦い、敗北したこと。そして海へと墜ちたこと。

身に纏っている打鉄もそのダメージでボロボロだ。

だがここはどう見ても海の中ではない。かといってどこかの建物の中とも違う。

 

ならばここは一体どこなのか。

 

するとその赤い空間の中央に赤い宝石『ウルトラの星』が浮かんでいた。

 

「そうか、ここは…」

 

ウルトラの星が作り出した空間。

この何もないながらも、安心できるのはウルトラマンの力によって作られているからだろうか。

すると頭の中に自分の知らない記憶が入ってくる。

それはクラス代表戦時に現れた無人機相手に単身撃破した記憶。

 

「これは…あの黒いISは僕が…」

 

ずっと一夏たちが倒したのだとばかり思っていた。

そして次はVTシステムにより暴走するラウラを抑えるために立ち向かった記憶。この時の記憶ははっきりしているがあの時の急なパワーアップもこの力が使われていた。

 

「そっか…僕は何度も君に助けられてたんだね」

 

翔介はウルトラの星を両手でそっと掬い上げる。

ウルトラの星からまた新たな映像が頭の中へ送られてくる。

 

「…皆!」

 

一夏たちが銀の福音、いや姿形が変わっており既に銀の黙示録に変貌した軍用ISと戦っている。

 

「姿が変わってる? …邪悪な意志…?」

 

黙示録へと変貌した福音を見ているとウルトラの星がそう語りかけてくる。

邪悪な意志とはなんなのか。それも気になるが今はそれどころではない。

頭に送られる映像には一夏が奮戦しているも、苦戦は免れない。

彼が無事であったことは喜ばしいが、このままでは今度は一夏だけでなく箒たち全員の身が危ない。

でも今の自分が行っても焼け石に水になってしまう可能性がある。

 

それなら。

 

翔介はウルトラの星を握り締め強く願う。

 

「ウルトラマン! 皆が、僕の友達がピンチなんだ! だから…!」

 

 

 

 

 

 

 

「僕に力を貸して!」

 

 

 

 

 

 

翔介の願いが届いた。

ウルトラの星が強く輝き、その形を変える。

 

それはペンライトのようなカプセル状の形をしており、柄の部分には赤いボタン。そしてその頂点にはクリスタルがはめ込まれている。

 

「ありがとう…行こう!」

 

翔介はカプセルを上に掲げ、赤いボタンを押す。

すると眩い光と共に身に纏う打鉄が銀色へと変わり、赤いラインが刻まれていく。胸には青い宝玉。

彼がかつて出会ったウルトラマンに非常に似た姿だ。

 

 

 

「皆、今行くよ!」

 

 

翔介は一夏たちの下へ飛び立った。

 

 

---------------------------------------------------

 

「それで後は皆の知ってる通りだよ」

 

『………』

 

話し終えてまたご飯をパクつき始める翔介。

それを聞いていた一同はなんとも言えない表情をしている。

 

それも無理からぬことだった。

 

なにせ『どうして無事だったのか』と聞いてその答えが『宇宙人の力に助けられたから』なのだから。

とはいえ奇跡とも呼べるあの力は現代の人間では作り出せないものだ。

 

事実は小説よりも奇なりとはいうが、まさにこのことだろうか。

 

「ま、まあ、なんであれここに皆無事でいるという事は事実なんですからそれを喜びましょう」

 

なんとも言えない空気の中、真耶が場を収めるように手をポンと合わせる。

 

「そうですわね、一夏さんも翔介さんも無事であったわけですし」

 

「まあ、翔介の場合元気すぎるみたいだけどね」

 

箒にご飯のお替りをよそわれさらにパクつく翔介。

そんな彼を見ていると変に疑うのも馬鹿らしくなってくる。

真耶の言う通り、今は全員が無事に揃っていることを喜ぶべきだろう。

 

「というか俺も翔介の食いっぷり見てたら腹減ってきたな。箒、俺にもくれ!」

 

翔介の食欲に触発された一夏も参戦してくる。

それを少女たちは苦笑気味に眺める。

 

 

その光景が紛れもない自分たちが勝ち取った日常であるのだとしみじみと感じるのだった。

 

 




本日はここまで。

お気に入り登録も三百件を突破。
これほどまでに増えるとは始めた当初は思いもしませんでした。
ここまで来たらどこまで伸びるのか是非とも試したいものです。


遂に語られた翔介とウルトラマンの出会い。

この出会いが一体どんな運命を綴っていくのか。

是非見守ってあげてください。
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