「ふんふんふーん」
夜の岬で上機嫌に鼻歌を歌いながら束は空間ディスプレイを操作している。
「使い始めてまだ一日なのに単一仕様を発動させるなんて流石は私の妹! いっくんも白式を第二形態にするし、やっぱり見に来て正解正解〜」
心底嬉しそうに語る。
「それに〜」
思わぬ収穫もあった。
束はコンソールを操作すると音声が流れてくる。
そこからは自身の過去を語る少年の声が聞こえている。
幼い頃に光の巨人と出会ったという嘘のような話。
花月荘の教官室に侵入した際に悪戯で仕掛けた盗聴器だったが思わぬ拾い物をしてくれた。
「それにしても宇宙人がくれた力とはねぇ」
出所不明で束にすら分からなかった謎の力。
その正体が宇宙人からの贈り物とは誰が想像できようか。
そもそも宇宙人という時点で突拍子もない。
もしこれが世間に知れたらどうなるだろうか。
束はニヤリと笑う。
どうもならないだろう。
世間の凡人どもは自分の知っているものしか信用しない。例えそれが世界に隠されていた真実であったとしても、自分の今までが否定されると思い真実に目を背け、耳を塞ぐ。
ISを開発した時もそうだった。
誰もがISの有用性を理解しようとしなかった。
だがそれも抗えない現実を突きつけてやれば凡人どもも無視できなくなる。
「これも白騎士事件の時みたいになったらどうなるかな? ねぇ、ちーちゃん」
束はいつの間にか背後に立っていた千冬へ問いかける。
「どうもこうもあるか、悪だくみはやめておけと言ったはずだぞ」
「悪だくみなんて人聞き悪い~。束さんがそんなことしたことないでしょ~?」
「どうだかな」
軽口でもなく本気でそう言っているのだから始末が悪い。
そもそも篠ノ之束に一般的な正義感や倫理観を説いたところで馬の耳に念仏という物。
「それでそれで、ちーちゃん。あの力、どうするつもり?」
あの力とは聞くまでもなく翔介の力の事だろう。
「ああ、あれなら基本的に使用禁止にした」
「……へぇ~、結構思い切ったね」
「あの力は人間相手に使用するには余りにも破壊力がありすぎる」
実際に翔介の放った光波熱線は無人機や黙示録を完膚なきまでに粉砕している。
どちらも操縦者がいなかったからよかったものの、あれがもし人に向けられたと思うとぞっとする。
「なるほどねぇ~、でもそれならいっくんの零落白夜も制限しなきゃじゃない?」
束の言う通りであり、白式の単一仕様である零落白夜もシールドエネルギーに直接ダメージを与えるものだが、一歩間違えればシールドエネルギーを切り裂き操縦者に危険を及ぼすこともあり得る。
「これは私が言い出したことではない。道野自身の選択だ」
「あいつが…?」
「ああ、正直なところ私もまさか本人からそんな申し出があるとは思わなくてな」
千冬はそう言うと彼の言葉を思い出す。
『この力は人に向けては使いません。これは誰かを守るための力だと思うんです』
彼は確かにそう言った。
誰かを守るための力。宇宙人からもらったという力が人を守るための物だとどうしてそう思えるのだろう。
それを直接本人に問い掛けて見た。
『どうしてって言われると…僕を助けてくれた彼がそんな使い方望んでいないと思うんです』
と、答えた。
「望んでいないか、まったくおめでたい奴だね」
「本人が望むのならそれを優先するべきだろう」
うーんと伸びをする束に千冬がそう付け足す。
元々力の使い方を強制するようなことは千冬も望むものではなかった。
「ふぅ~ん、まあちーちゃんたちが良いなら私は何でもいいけどね~」
「………」
千冬は黙ってお道化る束の意図を図ろうとするがすぐに無駄と考えたのか嘆息する。
「……ねえ、ちーちゃん」
「なんだ?」
「ちーちゃんは今の世界は楽しい?」
唐突にそう尋ねてくる。
「ふん、まあまあだな。少なくとも退屈はしていないな」
「…そっか」
「お前はどうなんだ?」
「ちーちゃんと同じだよ」
そう言いながら束はくるりとエプロンドレスを翻しながら振り返る。
「退屈しない程度には…ね」
トンッと束が岬から飛び降りる。
普通であれば一大事であるが千冬は微動だにしない。
すると崖下から人参のような物体が空へと飛んでいく。
それは束の移動式研究所『吾輩は猫である』だ。
今の束はそれを拠点として居場所を転々としている。多くの国が彼女を探しているがなかなか見つからないのもこれが原因だ。
千冬は空へ飛び去っていくそれを黙って見届けていた。
束は移動式研究所内でも何度も黙示録戦の映像を眺めていた。
気になるのはやはり翔介の光の力。
するとピピッと通信が入ってくる。
『束さま、解析が終了しました』
通信からはまだ幼い少女の声。
「おお、もうできたんだ。流石クーちゃん!」
束はニコニコとクーちゃんと呼ばれた少女に返事をする。
『結果ですが、あの光波熱線は地球のどのエネルギー物質にも属していませんでした』
「やっぱりかぁ」
ピッと波状のグラフが複数表示されている。それが翔介の放った光波熱線のエネルギー波形を表しており、他のグラフは地球上で観測できるエネルギー波形のようだ。
光波熱線のエネルギー波形はその中のどれとも合致していなかった。
これで科学的にも本当に地球外の力であることが証明されたことになるだろう。
地球上に存在しないエネルギー。
いや、本当にそうだろうか。
束はしばらくじっとそのグラフを見つめていると、唐突にコンソールを操作する。
モニターに表示されているのは数字とアルファベットの羅列。一見すればただの文字化けのようにも見えるが。
「随分と厳重に隠蔽してるね。でも束さんに掛かれば~」
コンソールを軽く操作すると次々とセキュリティを解除していく。
やがて。
「あった」
最後のセキュリティを解除するとモニターにデータが映し出されていく。
どうやら目的のものらしい。
『束さま?』
「クーちゃん、どうやら随分と前にこのエネルギーの正体を突き止めていた人間がいるみたいだよ」
束がいつぞや暇つぶしであらゆる機関の超重要機密覗き見ツアーしていた時に見た記憶が残っていた。
そこには解析された光波熱線と全く同じエネルギー波形が記録されている。
その名は。
「スペシウム」
今より十数年前に既にこのエネルギーを発見し、スペシウムと名付けた人物がいたのだ。
自分ですら知らなかったものを先に発見した人物。
束はグラフと一緒に添付されていたレポートを流し読みし、最後に表記された名前の欄を見る。
「……どういう偶然だい、これは」
『道野明介・巡』
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波乱の臨海学校もついに最終日。
後は学園に戻るだけとなり、クラス別にバスに乗車していた。
発射までしばらく時間があるようで翔介と一夏は座席に座り待っていた。
「なあ、本当に良かったのか?」
「良かったんだよ」
問い掛けてくる一夏に翔介は迷うことなく答える。
昨日から何度か聞かれたが彼の答えは変わらない。
ウルトラマンの力を人間に向けたくないという気持ちと同時に、直感的にこの力は使い時でなければ発動しないという漠然としたものを感じていたからだ。
「お前がいいならいいんだが…」
「ふふふ、ありがとう、織斑君。それにこの力に頼り切りになりたくないんだ。自分でも強くならないと」
「翔介は本当に変わってるな…」
朗らかに笑う翔介に一夏が困ったように笑う。
「ところでさ僕も一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「昨日の夜、何かあった?」
翔介は周りに座る少女たちを見ながら問い掛けた。
「フン!」
「………」
不機嫌そうに鼻を鳴らすラウラ。ニコニコしているのに異様な迫力を湛えるシャルロット。そしてツンとそっぽを向いているセシリア。
バスは違うが鈴も今朝がた目に見えて怒っていた。
それだけなら何となくまた一夏が粗相をしたのかと想像もできるが一名、態度が少し違っている。
「……!」
目が合った瞬間、すぐに視線を逸らす箒。
反応自体は他の三人と同じだがどこか様子が違う。
「いや、その……」
すると珍しく言いにくそうな一夏。
気にはなるがあまり無理に聞き出して三人の機嫌をさらに損ねる可能性もあるため、これ以上は追及するべきではないだろう。
少なくとも箒に対しては悪い出来事ではなかったかもしれない。
翔介は大人な対応を取った。
それにこう言っては何だが一夏が特定の誰かと良い雰囲気になったこと自体は喜ばしいことだった。
現状五人の恋の相談をしている身としては全員の恋が無事に実ってほしいものだが織斑一夏は一人。
恋が成就するのも五人中一人だ。
それに必ずしもこの五人の中から結ばれるとは限らない。全く知らない伏兵に持って行かれることだってあり得るだろう。
恋愛とはかくも難しいものである。
翔介はしみじみとそう感じるのだった。
「ん?」
すると一夏がバスの入り口を見て声を上げる。
翔介もその視線を追うとそこには艶やかな金髪の女性がいた。左耳にはイヤリングをしている。
女性は車内を見渡すとやがて一夏と翔介を見つけると笑みを浮かべて近づいてくる。
近くに来ると柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。
千冬や真耶とは別ベクトルで大人の女性を感じさせる。
「君たちが織斑一夏くんと道野翔介くん?」
「は、はい、そうですけど…」
どうして名前を知っているのだろうか。
少なくとも大人の外人の知り合いは居なかったはずだが。
「私はナターシャ・ファイルス。銀の福音の操縦者よ」
「あなたが?」
そういえばドタバタですっかり失念していたが福音が暴走する寸前に強制脱出させた女性がいたがそれが彼女のようだ。
「君たちのお陰で助かったわ。それにあなたたちのお陰であの子のコアも無事だったし」
あの子というのは福音のことで間違いないだろう。
翔介が浄化したコアはそのまま返却されるらしい。
しかし、改めて感謝されるとなんともむず痒いものである。
一夏と視線を合わせるとどうやら彼も同じ気分のようだ。
チュッ
二人の頬に柔らかい感触。
『なっ!?』
二人して頬を抑えて呆気にとられる。
「ふふっ、これはお礼よ。ありがとう、白いナイトさん。銀色の流星さん」
そう妖艶な笑みを浮かべてナターシャはバスを降りて行った。
当の二人は突然の出来事にフリーズ状態。
「や、やっぱり外国の人ってこういう挨拶するんだね?」
「あ、ああ、そうだよな。挨拶だよな?」
二人して納得させるように頷き合う。
ぴしり。
背筋に冷たい気配が走る。
二人で恐る恐る振り向く。
そこには四人の少女たち。その背には修羅が揺らめいている、ような気がする。
思わずたじろぐ二人。
彼女は最後にとんでもない置き土産をしていった。
『一夏(さん)~…』
「ま、待て! 俺だけじゃないだろ!?」
一夏は道連れに翔介を巻き込もうとするが彼女たちの怒りの原因を鑑みればこうなるのも無理はない。
翔介は気配を殺すようにそっと座席に座る。
おお、許せ友よ。
四人の怒りを一身に浴びる友に心の中で侘びながら翔介は唇の触れた頬を撫でた。
本日はここまで。
前回から随分と空いてしまいましたが、ようやく原作三刊終了。
次は楽しい夏休み編。
の前に少し日常編となります。
無事に臨海学校から帰ってきた主人公。
夏休みの前にまた一つの出会いが待っていた。