インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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60話

「あの…お師匠さま?」

 

「………」

 

翔介が恐る恐る声をかけるが、楯無は無言のまま彼をジッと見つめている。

 

「これなんの意味があるんですか?」

 

やはり無言。

 

現在生徒会室において生徒会長が庶務の男子生徒を両手をホールドアップさせ、くるくる回すという異様な光景が広がっている。

端から見れば何の宗教かと思われるだろう。

いや、実際に虚と簪からはこの師弟は何をしているのかと不審な目で見られている。

 

こうなったのは今から数分前。

臨海学校から戻った翔介と簪はお土産を渡そうと生徒会室に来たのだが到着早々に翔介は楯無に無言で捕まり、今に至る。

 

無言のまま約五分。

ひとしきりお弟子をくるくる回した師匠は。

 

 

 

もに。

 

 

 

お弟子の脇腹を摘んだ。

 

「のひゃあ!?」

 

悲鳴を上げてのけぞる翔介。

 

「な、何するんですか!?」

 

「う~ん、翔介君って柔らかいわよね。私の訓練メニューこなしてるわよね?」

 

つまんだ指先をもにもにとしながら不思議そうにしている。

 

「僕、あまり身体に出ない体質みたいで。あまり太らないんです」

 

その為自分が成長している感じがしないのが悩みでもあった。

 

「翔介君、あまりそれを言いふらしちゃ駄目よ?」

 

どういうことかと首を傾げると、楯無が横に視線を向ける。

すると何故か簪と虚が恨めしそうに翔介を見ている。それを見てようやく得心がいった。

確かに年頃の少女たちばかりのこの学園内で口走ればどれだけの乙女を敵に回すことか。

 

「まあ、私は普段から節制してるから問題ないのだけれどね」

 

ふふんと得意げに胸を張る楯無。

少し前にお弟子に冷たくされて暴飲暴食をしていた人の台詞とは思えない。

 

「それで。それと僕のお腹摘まんだこと何の関係があるんですか?」

 

「特に関係ないわ」

 

あっさり言われてしまった。

特に意味もなく摘ままれたというのか。

翔介は摘ままれた脇腹をさすりながらジトッと師匠を見つめる。

 

「さて。翔介君、簪ちゃん集合」

 

楯無に前に集合するようにと言われ不思議そうに二人が並ぶ。

すると徐に楯無が二人を抱きしめる。

 

 

 

「無事に帰ってきてくれてありがとう」

 

 

 

囁かれた言葉はとても暖かいものだった。

自分より少し身長の高い楯無に抱きしめられるとなんとも気恥ずかしい思いもあるが、彼女の嘘偽りのない言葉が何より嬉しかった。

それは翔介だけなく一緒に抱きしめられた簪も同じようだ。その表情はむず痒そうな顔をしている。

 

先程翔介をくるくる回していたのも彼の身体に目立った怪我がないか調べていたようだ。とはいえ異様な光景ではあったが。

 

「二人とも、無茶だけはしないで頂戴。心配するしかできないって凄く苦しいから」

 

「…はい」

 

「お姉ちゃん…」

 

 

 

 

「どさくさに紛れて何してるの」

 

「いたたたたっ!?」

 

何が起こったのかと見てみたら簪が楯無の手の甲を抓っていた。

どうやら抱きしめているところにさらっと妹のお尻にお触りしたようだ。何故あんなに良いシーンだったのに欲望に負けてしまったのか。

 

「た、たまたまよ! 手が当たっちゃっただけで!?」

 

言い訳が痴漢のそれである。

 

「次やったら姉妹の縁切るから」

 

折角仲直りしたのだからこんなことで喧嘩しないで欲しい。

 

「こほん…! と、とにかく二人とも無事に帰ってきてくれて良かったわ」

 

気まずい空気に咳ばらいをする楯無。

 

「ただ翔介君の打鉄は随分とダメージを受けちゃったようでね」

 

楯無がそこまで言うと引き継ぐ形で虚が話し始める。

虚には詳細は知らされていないようだが、それでも何となく察しがついているようだ。

 

「道野君の打鉄ですが機体ダメージが酷くオーバーホールまたは廃棄となると思われます」

 

「廃棄…」

 

確かに福音や黙示録との戦いで彼の打鉄は甚大なダメージを負っていた。ウルトラマンの力により何とか動いていたようなものだった。

 

「機体以外にも装備のほとんども破損が目立ち、そちらは科特研に送り修理を行います」

 

「科特研にですか?」

 

普段なら虚を筆頭に整備科の生徒たちが見てくれるのだが。

 

「はい、あれだけの破損だとこちらで修理するには限界があります。それに…」

 

虚がクイッと眼鏡を上げる。

 

「整備科として情けない話ですが科特研製の装備は私たちでは手が施しにくい部分もあるのです」

 

そう言われていつだかに速田がこんなことを言っていた。

井部は優秀だがインスピレーションで発明することも多く、その為設計図もなく量産に向かないものができてしまうと。

現在翔介の打鉄が装備している星の翼や鋼頭なども井部開発主任による特注品といえるものであり開発した本人でもないと修理ができないという場合があった。

 

「それで翔介君。ここで一つお知らせがあるのだけど」

 

「はい?」

 

 

 

 

「もし専用機が手に入るとしたら欲しいかしら?」

 

 

 

専用機。

それはつまり今までの訓練機である打鉄ではなく、一夏の白式や代表候補生たちが持つような一点物のISのことだ。

 

「でも僕って確か専用貸し出しじゃ…?」

 

「そうなのだけど今なら訓練機ではなく本当の専用機として用意することができる準備があるの。翔介君の返答次第で用意することができるわ」

 

「僕に専用機が…」

 

正直なところそれはとても魅力的であった。

専用貸し出しとはいえ打鉄はどうしても訓練機。今回の福音や他の代表候補生たちに対抗するにはどうしても性能の差が拭い切れないものであった。

打鉄の性質上装備や操縦者の技術によっては対抗することはできるがやはり地力の差は大きい。

だがもし専用機が来れば、少なくとも今の訓練機である打鉄よりも性能の良いISが送られてくるのは間違いなかった。

 

「どうする?」

 

一応こちらの意見を聞いてくるようだが大抵の人は喜んでその申し出を受けるだろう。それだけ専用機持ちというのは個人のステータスとしても大きなファクターとなるのだ。

翔介も今よりもっと強くなれるのならこの申し出が悪いものではないのが十分に理解できた。

 

やがてひとしきり悩むと翔介が口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「あの…その申し出は嬉しいですけどお断りします」

 

 

 

 

 

翔介の答えはNOであった。

 

「断る…専用機は良いのかしら?」

 

「はい。その代わりに今の打鉄をピカピカに直してあげてください」

 

「それは良いのだけれど…翔介君、専用機を持つ方が」

 

なにかと有利だ、と言い切る前に翔介が割って入る。

 

「それは分かってます。でも…」

 

 

 

 

 

「なんだか愛着が湧いちゃって…僕はあの打鉄と一緒に強くなりたいんです」

 

 

 

 

思えば初めて楯無と出会った日に同じく出会った打鉄。

まだ三カ月ほどだというのに共に困難に立ち向かう日々の中、次第にその打鉄に相棒ともいえる連帯感のようなものを感じ始めていたのだ。

確かに専用機を持つことができるというのは魅力的だ。だが、それ以上に打鉄に感じる連帯感と愛着がそれを上回っていたのだ。

 

「愛着、かぁ…」

 

「お姉ちゃん、どうするの?」

 

簪に問い掛けられるとやがて楯無は口元に笑みを浮かべる。

 

「本人がそういうのなら仕方ないわね。虚ちゃん、打鉄は新品同様に修理してあげて」

 

「畏まりました」

 

虚が恭しく頭を下げる。

 

「良かったの?」

 

「うん、それに今専用機をもらっても使いこなせるかはわからないからね」

 

「ふふふ、それじゃあ話は以上よ。二人とも、長旅で疲れたでしょ? 部屋に戻ってゆっくり休みなさい」

 

楯無がそう促すと二人は生徒会室を後にした。

 

 

 

「打鉄に愛着が湧いたかぁ…翔介君らしいわね」

 

「しかし良かったのですか? 今回の申し出は…」

 

「そうねぇ…」

 

実を言うと今回の翔介の専用機授与は言わば口止め料なのだ。

今回の銀の福音事件は国家間でも守秘義務が適用され、元々口外すれば重いペナルティが

課せられるため情報漏洩には細心の注意を払われている。

 

だがこれはあくまで一人の人間個人に適用するもの。

 

今回の事件の発端であるアメリカ・イスラエル両国はIS学園がこれを解決したことにより日本に借りができたことになる。

国家間でのこう言った貸し借りは時に厄介な問題の引き金になる。

その為アメリカ・イスラエル両国は日本に対して『事件解決のお礼』という形で貸し借りを帳消しにし国家間のバランスを保つことを優先したのだ。

日本も二国に対して必要以上に詮索しないことを約束した。

 

そしてその今回のお礼の一つが事態解決に貢献した男性操縦者への専用機授与だった。ただでさえ世界中が注目しているISの男性操縦者二人が事態解決に関わっていた場合の影響も馬鹿にはできない。

ならば例え高く付くとしてもそれで収まるのならそれでいいのだ。

 

 

だが、その当の本人が専用機の授与を断ってしまったのだ。

これでは国家の思惑が外れてしまうことになる。

 

「とはいえ本人がいらないのなら仕方ないわ。いらないものを無理に押し付けても逆効果でしょうし」

 

なにせ『国からの命令』ではなくあくまで『事件解決のお礼』なのだから。お礼を押し付けるなんて体面が悪いにも程がある。

だがこれではアメリカ・イスラエル両国の面子の問題になる。

 

「……まあ、いいじゃない」

 

「え?」

 

「その後の対応なんて国の仕事よ。あの子たちがべらべら喋るようなこともないでしょうし。それにここはIS学園よ」

 

そう言って楯無は生徒手帳を虚の前にひらひらと見せる。

それを見て虚も察しがついたようだ。

 

IS学園特記事項。

『学園に在籍する者はいかなる国家、団体、組織に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として禁止する』

 

つまりは学園の生徒である以上外からの干渉を受けないというもの。

特殊な場であるIS学園が生徒を守るために定めたものだ。この特記事項がある以上、必要以上に彼に干渉してくることはできないだろう。

 

「確かに特記事項の通りであれば例え国からの申し出だとしても躱すことはできます。ですが…」

 

虚が言いたいことも分かる。

 

秘密をばらされたくない時に一番いい方法とは何か。

 

 

 

 

それは秘密を知っている者がいなくなること。

 

 

 

極論である。極論ではあるが。

口止め料も受け取らない。それなのにこちらの弱みを知っている。

かの国が焦って影から…という事がないとは断言できない。

 

「その時は私があの子たちを守る。それが」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『更識』の役目だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無の揺るぎない瞳。それは裏の世界に生きるものの覚悟の表れ。

 

「…御意のままに」

 

主がそういう以上、虚に否やはなかった。

 

それと同時に。

 

この少女が裏の世界という重荷を背負っている現実を改めて感じるのだった。

 

 




本日はここまで。

最近ウルトラギャラクシーファイトが楽しみで仕方ありません。
ニュージェネレーションズは勿論、マレーシアのウルトラマンリブットも登場でさらに期待度爆上がりです。
3年程前のあるイベントでサプライズ登場した時からカッコよくていつか日の目を見るのかとずっと楽しみにしてました。配信が待ち遠しいですねぇ。

師匠に無事を報告出来た主人公。

そんな主人公は休みに科特研へ向かうことに。
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