インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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61話

臨海学校から帰ってきて最初の日曜日。

一学期のイベントも全て終えて待っているのは楽しい夏休み。

生徒たちはそれぞれ夏休みの予定を立てている。

 

そんな中、翔介は街へと繰り出していた。

今日は福音事件でボロボロになった装備たちを科特研に見せることになっていた。

前回は一人で来たが今回は同行者を伴っている。

 

「ここが科特研?」

 

「うん、そうだよ」

 

翔介の隣には空色の髪に眼鏡の少女、更識簪が立っていた。

今日も本来であれば楯無が同行するはずだったが、一学期の内に終わらせなければならない仕事が残っているという事で生徒会室に籠っている。

それも夏休みに翔介の故郷に遊びに行くためにも必死にこなしているようだ。

その為、今回も一人で行こうかと思ったのだがそこに簪が立候補。前々より科特研に興味があったようでこの機会に、という事らしい。

それ以外にも今日発売のヒーロー雑誌が欲しいという事で付き合うことに。

 

ちなみに楯無には報告していない。

後が怖い。

 

「よお! 来たか!」

 

「あ、山風さん」

 

二人で建物前のモニュメントなどを見ていると後ろから山風が声をかけてくる。

スーツの上着を肩にかけ、片手には鞄をぶら下げている。どうやら外回りから帰ってきたところのようだ。

その姿は働く大人そのものだ。

 

「お仕事ですか?」

 

「ああ、こう見えて忙しいんだぜ?」

 

そう言いながらハンカチで汗を拭く。

すると翔介の隣にいた簪に視線を向ける。

 

「おや、楯無の嬢ちゃんかと思ったが誰だい?」

 

「更識簪さん、お師匠さまの妹さんです」

 

「ああ、なるほど。そう言われると似てるな。よろしくな、嬢ちゃん」

 

「は、はい」

 

にかっと笑う山風に簪は少しオドオドと答える。

友人たちとはすっかり打ち解けたが、元々人見知りな性格なため山風のような豪快な相手には気後れしてしまうようだ。

 

するとグイッと山風が翔介の肩を掴み抱き寄せる。

 

「おいおい、楯無の嬢ちゃんと言い、簪の嬢ちゃんと言い、こんな美人姉妹と仲が良いなんて坊主も隅に置けないな」

 

「あの、ちょっと苦しい…!」

 

丸太のような腕をタップすると山風はパッと開放する。

 

「お師匠さまはお師匠さまだし、更識さんは友達ですよ」

 

困ったように答える翔介。

 

 

 

「友達…」

 

 

 

しかし、そんな翔介の答えに簪が不思議そうに呟く。

なんとも言えない空気が広がる。

 

「え、あ、あれ? 友達、だよね?」

 

翔介が不安そうに問い掛ける。

ずっと友達だと思っていたのにまさかそう思っていたのは自分だけだったのだろうか。

それなら今まで何と思われていたのか。

 

「うぅん、友達」

 

「だ、だよねぇ!」

 

無事に簪から友達宣言を貰いホッとする翔介。

 

「ほら、そろそろ行きましょう。皆待ってるでしょ?」

 

「おう、そうだな」

 

翔介は山風の背中を押しながら科特研の中へ入っていく。

それを簪はジーッと見つめながらふと疑問を抱く。

 

自分は今何故彼の言葉に疑問を持ったのか。

 

彼のことは友達だと思っている。それに友達というだけではない。長く続いた自分と姉との確執を解決してくれた恩人だ。

それなのに何故自分は彼の言葉に即答しなかったのか。

 

「更識さん?」

 

「今行く」

 

この疑問に答えは出ないが今は心の隅に置いておくことにした。

 

---------------------------------------

 

「やぁ~、ボロボロだね」

 

「すいません…」

 

翔介や科特研のメンバーの目の前にはボロボロになった装備たちが並んでいる。

重ね畳、絡み蔦、星の翼、鋼頭。

どれもこの科特研で生み出された装備だ。訓練機である打鉄に力を与えてくれる。

だがそんな強力な装備たちも度重なる強敵たちとの戦いで酷く損傷していた。

 

ちなみに簪は科特研の中を見学中。藤子が対応してくれている。

 

「これはどれも時間がかかりそうだねぇ」

 

「時間ってどれくらいですか?」

 

「そうだねぇ、全部で二週間ってところかなぁ」

 

「二週間…」

 

二週間もこの装備たちが使えなくなるという事か。

いや、これだけの損傷を二週間で直すというのだからかなり早いというべきなのだろう。

 

「まあ、何があったかは聞かないけどこれもいい機会だしゆっくり休むと良いんじゃないか?」

 

速田が翔介の肩を叩きながらそう告げる。

銀の福音事件のことは緘口令が布かれており、科特研の面々にも伝えることはできないが彼らもまた装備の損傷度から内心では察しているようだ。

協力してくれる彼らに何も話せないのは心苦しいが、口を滑らせれば科特研にも迷惑がかかることになるだろう。

 

だが装備、そして打鉄共々修理に時間がかかるとなれば速田の言うように心と体を休める良い機会なのかもしれない。

 

「それじゃあ装備は修理が終わったら学園に届けるよ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

井部は研究所の部下たちに指示をし、装備たちを運ばせていく。

 

「さて、これで修理の話は良いとして。翔介君、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

速田はそう言いながら紙の束やタブレット端末を取り出す。

 

「君は射撃、格闘、どちらが得意だい?」

 

「え?」

 

速田に問われて頭を捻る。

射撃と格闘と問われると、射撃は得意ではない。

彼にとっては銃を撃つという行為はISに乗るようになるまで一度も経験したこともない行為であったことと、刀を以って振るという行為と比べると銃を狙って撃つという行為の方が慣れないというのも理由にある。

 

勿論、楯無との射撃訓練はあるが止まっている的への命中率もそれほど高くない中動き回る相手に当てるというのも難易度が高い。動いている相手に正確に銃撃できるセシリアにつくづく感心してしまう。

 

さて、それでは近接格闘が得意かと言われるとそうでもない。

射撃と比べれば、という注釈が付く程度である。

気持ち的に銃を撃つより刀を振るったりする方がまだイメージが湧きやすいというのが理由である。

だがそれも同世代の友人たち、箒や一夏の二人のように剣道での基礎がない分大きく譲る。

 

「う~~ん……」

 

頭から煙が出るんじゃないかというくらい頭を悩ませている翔介。

 

「翔介はどちらに特化しているという感じではないと思う。敢えて言うなら攻撃より防御とかサポートに向いてる」

 

すると扉を開けて簪が入ってくる。

 

「あ、更識さん。お帰り」

 

翔介がそう告げると簪は「ただいま」と返しながら隣へとやってくる。

 

「ふむ、サポートかい?」

 

「その証拠に盾の損耗率は他の装備の中でもダントツ。翔介は単独より誰かと組んで戦うのが得意なんだと思う」

 

簪の言う通りだ。

実際に翔介は個人戦より誰かと連携して戦う方が戦績が良い。

そもそも彼は自身が前に出るより誰かを立てる性分なのもあるのだろう。その為、組んだ相手を守るために盾を多く使用するため損傷が多かった。

 

「なるほどねぇ」

 

速田は呟くと端末に何かを打ち込んでいく。

 

「あの今のは…?」

 

「いや、気にしないでくれ。今後の参考にしたかったんだ」

 

そういって笑う速田。

参考とは一体何のだろうか。

 

「皆、お茶が入ったわよ」

 

そうしていると扉を開けて藤子が入ってくる。

手には人数分のお茶とお菓子がお盆に乗っている。

 

それぞれにお茶が配られるとホッと一息。

 

「ふぅ、さて簪さんどうかな、科特研は?」

 

速田が簪に尋ねる。

 

「どれも他の企業では見れないものばかり。中でも興味があるのはあのジェットエンジンかな」

 

「ははは、そうか。うちに興味を持ってくれて嬉しいよ」

 

「それよりそんな簡単に企業の中を見せてよかったの?」

 

IS産業はいまや世界的にも競争の激しい世界。

その為、自分たちの装備や技術は出来得る限り秘匿したいものだ。

有名企業などは常日頃から企業スパイなどに気を張っている。

 

「ああ、さっきも言った通りうちに興味を持ってくれれば嬉しいって。それに興味を持ってくれれば是非うちの装備を使ってみて欲しいからね」

 

商魂逞しい。

 

「簪ちゃんは自分でISを組み上げたのよね。凄いわね、そう簡単にできることじゃないわよ」

 

「どうしてそのこと…?」

 

「あなたのお姉さん、楯無ちゃんからメールが来るのよ」

 

そう言って携帯をちらっと見せる藤子。

いつの間にやら楯無は藤子とメル友になっていたようだ。

内容は今の台詞で何となく察せる。

 

「お姉ちゃん…」

 

恥ずかしそうに顔を覆う簪。

心中お察しする。

 

「あ、あと翔介君のことも言ってたわよ。真面目で可愛いお弟子だって」

 

「お師匠さま…」

 

今度は翔介が顔を覆う番だった。

褒められるのは嬉しいがこれはだいぶ気恥ずかしい。

 

「はははっ、仲が良いなぁ、君たちは」

 

速田たちはそんな二人を見て微笑ましそうに笑う。

他人から見たら可愛いものだろうが、実際にやられる身としてはなかなか溜まったもんではない。

 

「そういえばもうすぐ君たちは夏休みだったね? 何か予定は決まってるのかい?」

 

「僕は皆と一緒に故郷に帰省するつもりです」

 

「へえ、翔介君の故郷って?」

 

「東北の田舎ですよ。ここと違って物はないけど湖と川と山があります」

 

本当に何もない。一番近い町と言っても車で三十分以上かかり、買い物も移動販売などで賄っているような田舎。

だからこそ初めて学園に来た時の人やビルの多さに驚いたものだ。

まあ、都会に来て物や人の多さ以上に色んな出来事も多かったため、ホームシックになんてなっている暇もなかったが。

 

それでもやはり故郷に帰るのは楽しみだ。

それも初めて出来た友達と一緒にだ。

 

「嬉しそうだね、翔介君」

 

「…はい!」

 

どうやら顔に出ていたようだ。

だがその通りなのだから否定もしない。

 

従姉妹たちや祖母は友達を、それも大勢連れて帰ったらどんな顔をするだろう。

驚くだろうか、どちらにしても間違いなく喜んでくれるはずだ。

 

翔介は故郷で待つ家族のことを考えながらお茶をすするのだった。




本日はここまで。

今回は特に大きな進展のない話でした。


科特研での用事も終えた主人公たち。

二人は街で買い物をすることに。
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