インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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62話

科特研での用事を終え、研究所を後にした翔介と簪。

本来であれば学園の寮に戻るところだが、簪が買い物をしたいとのことで街へと繰り出していた。

 

駅から降りるとアニメキャラクターの描かれたカラフルな看板が並んでいる。

元は電気街であったというが今でもその名残が少し見える。それでも大通りに面した店舗にはアニメキャラクターやゲームの映像が流れたり、ガラス越しに古そうな玩具が陳列していたりと一種のカオスを感じる。

 

「翔介、こっち」

 

普段は大人しめな簪だが、テレビヒーローのお店を見つけるや否や翔介を引っ張っていく。

 

「更識さん、行くからちょっと待って!」

 

つんのめりながら簪に着いて行く。

彼女は展示ガラスの前に着くと鼻をくっつけんばかりに展示された玩具を見つめている。

やはり分かる人にはお宝なのだろう。

 

翔介も幼い頃はヒーロー番組を観ていたため、コマーシャルで流れる玩具が欲しくなったことは何度もあった。

だが、彼の故郷には玩具屋というものは無く、子ども心に仕方ないと諦めていた思い出がある。

そんな諦めた玩具を目の前にするとやはりワクワクするのはやはりまだまだ子どもである証なのだろうか。

 

「あ」

 

ガラス越しの玩具を眺めていた簪はすぐさま別の目標を見つけたのかそちらへと駆け出す。非常にアグレッシブである。

追いかける翔介も大変である。

 

簪が向かったのは映像ディスクコーナー。

古いものから新しいものまで揃っているようだ。

 

「これ、どこ探してもなかったやつ」

 

キラキラした瞳でパッケージを見つめる。

 

「更識さん、買うの?」

 

「うん、買う」

 

答えに一切の迷いがない。その決断力は是非とも見習いたいものだ。

翔介も映像ディスクをざっと流し見する。

すると、格闘技コーナーに差し掛かるとピタリと止まる。

 

「あ、これ」

 

そうして手に取ったのは数年前の異種格闘技の試合ディスク。

 

「あれ、翔介ってそういうのに興味あるの?」

 

「うぅん、僕じゃなくて次姉さん…従姉妹のお姉さんがね」

 

「へえ?」

 

翔介の従姉妹は二人いる。その中の次女が大の格闘技好きなのだ。

自室にはどこから集めたのか空手、柔道、合気道、剣道などなど全ての武道の雑誌や映像ディスクがある。

大量のコレクションを持つ彼女だが今翔介が手に取っているものだけは持っていなかったと言っていた。

 

「そうだ、これお土産に買って行こう」

 

「お土産?」

 

「うん、夏休みに帰省するでしょ? 元々何かお土産欲しいなと思ってたんだ」

 

お土産と言えば食べ物がメジャーかもしれないが、故郷を離れて初めての帰省。食べ物より形として残り続けるものがいいと考えたのだ。

ちなみに日程は友人たちの都合に合わせてお盆に帰省することになった。

 

「そうなんだ、じゃあ他のも探してみる?」

 

「え、でも更識さんも他にも見たいのあるんじゃない?」

 

「私は大丈夫。でも翔介のお土産はすぐに探した方が良い」

 

「そうかな? なら手伝ってもらっていい?」

 

「うん、じゃあ行こう」

 

そう言って二人はお土産探しの店巡りを始めた。

 

--------------------------------------

 

それから数十分後。

 

「ふぅ~、時間かかったけど無事に三人のお土産見つかったよ。ありがとう、更識さん」

 

「うぅん、見つかってよかった」

 

二人は大通りに面したカフェで休憩していた。暑い日差しが照り付ける中で飲むアイスココアは格別だ。

あれから町中をめぐりお土産を探した。以前、楯無からこの街は元は電気街であり色んなものがあると聞いていたが本当に何でも揃っていた。

その結果、次女には最初の異種格闘技映像ディスク。長女にはツゲの櫛、露天商で見つけたものだ。そして祖母には茶碗。どれもそこそこいい値段だったが科特研からの給金もあるのため奮発した。

 

「みんな喜んでくれるかな?」

 

「……翔介って本当に家族と仲が良いね」

 

「そうかな?」

 

「うん」

 

不思議そうにしている翔介に頷いて見せる簪。

世の中家族と言えど仲が良い家族ばかりではない。それは簪自身が身に染みて感じている。少し前まで姉である楯無とのすれ違いでギクシャクしていた身としては家族の事を嬉しそうに語る翔介は眩しく見えた。

元々更識家は特殊な家系だ。

一般的な家族と比較するものでもないということはわかってはいるが、隣の芝は青いというかやはり羨ましく感じる。

 

「一人でこんな遠くまで来て寂しくない?」

 

「寂しいって思う暇のなかったかなぁ」

 

何しろ濃い一学期であった。今思えばよくもまあ五体満足で生きていたものだ。

故郷にいた頃はこんな体験をするとは思っていなかった。

 

「それでもやっぱり一人は寂しくない?」

 

「……うん、そうだね。寂しいかどうかって言われるとやっぱり寂しいよ。でもね」

 

翔介は空を仰ぐ。

 

 

 

 

 

「遠く離れていても家族はこの大空の下で繋がってるから」

 

 

 

 

 

「大空の下で…」

 

簪もつられて空を見上げる。

翔介は顔を戻して、簪に笑いかける。

 

「でも更識さんもお師匠さまと仲良いじゃない」

 

「あれはお姉ちゃんが絡んでくるだけ」

 

今まで抑圧されていた妹愛が爆発している楯無。それに対して塩対応な簪。

とはいえけして簪も悪い気はしていないのだろう。ただあまりにも今までの姉との違いに困惑しているのが見て取れる。

 

「お姉ちゃんはもっと加減を知るべきだと思う」

 

「それは確かに」

 

妹を可愛がるのはいいが度が過ぎるのも流石にどうかと思う。ややセクハラめいたのもあるし。

愛は何してもいい免罪符ではないのだ。

 

だがあれだけの妹愛溢れる女性が今まで抑圧されていたものをようやく解放できたのだから仕方ないとも感じていた。

 

いや、やっぱりセクハラはダメだ。

 

「更識さんももっとお師匠さまに甘えても良いんじゃない?」

 

「甘える…」

 

簪は元々他者に甘えることを好まない性格である。そんな彼女に姉に甘えてみろというのもなかなか難しいかもしれない。

それでももし簪が楯無に甘えるようなことがあれば、恐らく歓喜の表情を浮かべて甘やかすことだろう。

 

「まだ慣れないってこともあるだろうけどお師匠さまと更識さんは二人の姉妹なんだから」

 

「……考えておく」

 

「うん、そうしてあげて」

 

素っ気ない返事の簪。そんな彼女に微笑みながら頷く翔介。

 

「さて、そろそろ帰ろうか?」

 

「うん、買うものは買った」

 

翔介が立ち上がると、簪も戦利品を手に立ち上がる。

二人はカフェの料金を払うと駅の方へと歩いていった。

 

-------------------------------------------

 

IS学園前駅へと到着した二人。

時間はもう夕方の十七時頃だが空は未だ明るい。これも夏を感じさせる風景だ。

二人はホームを下りて、寮へと向かっていた。

 

「あ、お姉ちゃんからメール」

 

「お師匠さまから?」

 

簪が楯無からのメールを見せてくる。

 

『羨ま、ズル、助けて』

 

文章としては容量が得ないが、何が言いたいかは実によくわかる。

しかし、こればかりは生徒会長の仕事ゆえ仕方ない。

 

「やっぱりお師匠さまにお土産買ってきて正解かな?」

 

恐らく出掛けたことがバレるだろうと帰り際にシュークリームを買ってきておいていた。これで少しは気分が晴れるといいのだが。

 

「だといいけど…」

 

「とにかく今は早く帰…ん?」

 

ふと翔介が足を止める。

 

「どうしたの?」

 

「今何か聞こえなかった?」

 

「え?」

 

翔介に言われ耳を澄ませる。

だが簪の耳には何も聞こえてこない。

 

「何も聞こえないけど…?」

 

「……こっち」

 

それでも翔介はさらに耳を澄ませ、学園へ向かう道から外れていく。

 

「しょ、翔介!」

 

慌ててそれを追いかけていく簪。

やがて道路端にかがむ翔介がいる。

 

「突然走ってどうしたの?」

 

尋ねる簪に翔介が無言で視線を送る。

 

「…わぁ」

 

簪は思わず息を吐いた。

 

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「なんか…あの二人の様子、変じゃない?」

 

夕食の時間。寮の食堂。

一夏をはじめとしたいつものメンバーで食事をしている中、鈴が机に頬杖を突きながら呟く。

 

「鈴もそう思うか?」

 

鈴の問いかけにラウラも同意する。

 

「二人って、翔介と簪の事か?」

 

「実際変でしょ」

 

鈴の言う通り、外出から帰ってきた翔介と簪の様子がどうにもおかしい。

夕食の時間となり一夏たちが一緒に食べようと声をかけたが何故だか慌てたように断り、断ったかと思えば二人して学食を部屋に持ち帰って食べると言って戻っていってしまった。

 

「何かあったのでしょうか?」

 

「そういえばあの二人、今日一緒に出掛けたんだよね? その時に?」

 

「ふむ…これは…」

 

ラウラが腕を組む。

 

「あの二人、所謂一夏の過ちというものがあったのやもしれんな」

 

「過ちって…」

 

「道野に限ってそんなことはないだろう」

 

ラウラの言葉に苦笑するシャルロットと箒。

翔介と簪に限ってそんなことはそうそう起きえないだろう。

 

「そうだぜ、ラウラ。翔介はしっかりしてるし…」

 

 

 

 

 

「なん…ですって…」

 

 

 

 

 

一気に冷え切ったのは食堂の冷房によるものじゃないだろう。

まるで全ての物を凍てつかせるような冷たい声。

 

「た、楯無さん!?」

 

「簪ちゃんと翔介君が…? そんな、あり得ない…でもあの二人なら、まさか…!」

 

ブツブツと呟いたかと思うとゆらりと幽鬼のように背を向ける。

 

ダッ!

 

そして突如走り出し食堂を出ていく。

 

「お、おい! これはマズいんじゃないか?」

 

「マズいってレベルじゃないでしょ!」

 

「急いで翔介たちの部屋に行くぞ! このままじゃ凄惨な事件が起こりかねん!」

 

一夏たちは慌てて食器を返して、楯無を追いかけていく。

 

 

 

楯無はダダダッと廊下を駆け抜けて寮の一室の前で足を止める。

そこは翔介と簪の部屋。

楯無はまるで殴り倒そうとするように拳を扉に振り上げる。だが、わずかな理性がそれを制止する。

 

「い、いや、待ちなさい、更識楯無。これで勘違いだったら取り返しがつかないわ。冷静に、お姉ちゃんとして、お師匠さまとして冷静に」

 

深呼吸をしながらドアに耳を聳てる。

 

 

 

 

 

「あ、駄目だよ、更識さん! それは…!」

 

 

 

 

異常事態。

 

 

「簪ちゃん! 翔介君! 大人の階段はそう簡単に上るもんじゃないわよぉ!?」

 

楯無が乱暴にドアを開く。

 

 

 

「お、お師匠さま?」

 

「お姉ちゃん?」

 

そこには翔介と簪。

 

 

 

「わふ」

 

 

 

そして茶色と白の毛玉、もとい子犬がいた。




本日はここまで。

穏やかに買い物を済ませたその日。

主人公は1匹の毛玉と出会った。

当然ながらこれはちょっとした騒動の種に。
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