インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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63話

「返してこい」

 

現在、翔介は学食内で正座をさせられていた。

その隣には簪が同じように正座をしており、二人の間にちょこんと子犬が座っている。

目の前には仁王立ちする千冬と困った表情の楯無。

 

当然のことながら話題となっているのは二人の間に座る子犬だ。

二人の話によれば科特研で用事を済ませ、買い物をした帰り。学園駅前から少し外れた先の道端で捨てられていたところを拾ってきたという。

 

「寮で犬を飼える訳ないだろう」

 

「そんなぁ…」

 

IS学園は主に千冬を筆頭として規則には厳しい。

その反面、学生に対する校則は意外と緩い。

その為、学生服の改造や寮の部屋に私物を揃えたりとわりかし自由である。

 

だが流石にペットは許されていない。

 

「服装や家具ならまだしも動物は人によってはアレルギーがある。命に関わるようなものは許す訳にはいかない」

 

「それは分かってますけど…」

 

アレルギーは油断できないものだ。酷ければ命を落とす原因になることもある。

 

肩を落とす翔介を見て、少しばかり言い過ぎたかと眉を顰める。

だが翔介のことだ。他人に迷惑をかけてまで自分の意志を押し通そうとはしない。周りとの和を重んじる彼ならば。

 

 

 

 

 

 

「い、嫌です」

 

 

 

 

「何…?」

 

まさかの拒否。

今までこんなにあっさり拒否することがあっただろうか。

 

「嫌です、この子をまた捨ててくるなんてできません」

 

「翔介君、それでも学園ではその子を置いておくわけにはいかないのよ」

 

「それでもこの子を一人には出来ないです!」

 

翔介は子犬を抱き寄せる。子犬は大人しく彼の腕の中にすっぽり納まっている。

 

「だが毎回捨てられていたら拾ってくるつもりか?」

 

それではキリがない。

どんな命も愛するその心根は素晴らしいものだが度を越せばかえって自らや周りの首を絞めることにもなる。

実際に捨て犬や捨て猫をすべて拾ったはいいものの結局世話を見切れずに保健所行きになってしまったという例もある。

 

「でも、でも…」

 

それでもなお食い下がろうとする翔介。

 

「道野、命を飼うと言う事がどういうことか…」

 

「わかってます。よくわかってます」

 

千冬が言い終わる前に翔介が断言する。

何度も言うが翔介の故郷はひたすらに田舎であった。そこに生活する人々は農業や畜産業を営んでいるものがほとんどだ。

翔介も幼い頃から何かと故郷の住人たちの手伝いをしてきた。その中には勿論家畜、牛や豚、鶏などの世話も入っている。食べるために命を育て、その命を戴く。命の重さを誰よりも知っている。

だからこそ、断言するのだ。

 

「……だが、やはり許可はできない。道野、前例を作るわけにはいかん。今回許したとして今度同じようなことが起きた場合全て許可することはできない」

 

「うぅ……」

 

「お姉ちゃん…」

 

俯く翔介を見て、助けを求めるように姉を見る簪。

しかし、楯無も困ったように顎に扇子を添える。

 

今回の言い分はどちらも正しいが生徒の長である立場上、千冬の言うように特例を作るわけにはいかなかった。

だが翔介の子犬を助けたいという想いも無下にはできない。

 

子犬を戻してきたとしてその後また誰か心優しい人が拾ってくれるとは限らない。もしかすれば事故に巻き込まれる可能性も十分にあり得る。

かといって学園で飼うとしてもエサや寝床など物入りだ。学園側でそれを用意するわけにはいかない。

 

「何とかしてあげたいけど…こればかりはどうしようもないわ」

 

楯無が首を振ると簪も残念そうに肩を落とす。

力になってあげたいのも山々だが身内に対して甘くしては他の生徒に示しがつかない。

 

千冬は正座する翔介の目線に合わせるように身をかがませる。

 

「道野、お前が命を大切にしようとする気持ちはよくわかった。だが、私たちはルールの中で生きている。そのルールは守らなければいけない。それはわかるな」

 

「はい…」

 

やはり最初こそ拒否はしたが話してわからない少年ではない。

だが心底がっかりするその表情は見ていて可哀想にも思えてくる。

元々、彼は良心からの行動なのだから。

 

「…ここに置いておくことはできないがその代わり飼い主を探すくらいなら…」

 

 

 

 

「おや、どうかしたのかな?」

 

 

 

そこに穏やかな男性が声をかけてくる。

この学園において一夏と翔介以外の男性は一人しかいない。

 

「轡木さん?」

 

「やあ、翔介君。子犬を拾って来たんだって?」

 

轡木十蔵はニコニコとしながら翔介の腕から子犬を抱き上げる。

子犬は尻尾を振りながら大人しく抱かれている。

 

「おお、おお、人懐っこい子だね」

 

「轡木さん、今丁度その犬の処遇について話していまして」

 

千冬は事の経緯を十蔵に話す。

不思議なことに事務員である彼に敬うような丁寧な話し方をする。

 

「そういう事だったんだね」

 

十蔵はうんうんと頷きながら話を聞いている。

 

 

 

 

「良いじゃないですか、この子をここで飼っても」

 

 

 

『え!?』

 

食堂にいた全員が驚きの声を上げる。

 

「いいんですか!?」

 

翔介が身を乗り出して十蔵に問い掛ける。

 

「ああ、日中は私が面倒を見るから朝とか放課後はちゃんと翔介君が見てくれるなら」

 

「見ます! 絶対に!」

 

「轡木さん、それは…」

 

「学園長には私から話を通しておくから」

 

千冬の言葉を制して十蔵がそう告げる。

彼がそう言うと千冬は何も言い返すことができずに口をつぐむ。

一介の事務員にそんな権限があるのかどうかわからないが翔介にとっては大人が味方に付いてくれただけで嬉しかった。

 

「轡木さんがそういうのであれば…」

 

「良かったわね、翔介君」

 

楯無が少し困ったような顔で笑う。

 

「はい!」

 

満面の笑みで子犬を十蔵から受け取り抱き上げる。

簪も嬉しそうに翔介の隣で子犬を撫でている。

 

「ねえ、翔介。この子の名前決めないと」

 

「もう決めてあるよ!」

 

「あら、気が早いわね。どんな名前かしら?」

 

楯無も二人に加わり問い掛ける。

 

 

 

 

 

「わん太郎!」

 

 

 

 

「わん…」

 

「太郎…」

 

なんとも言えないネーミングセンスである。

いや、拾ってきた本人がそう決めたのだから何も言うまい。それに心なしか子犬改めわん太郎も嬉しそうだ。

 

「よろしくね、わん太郎!」

 

翔介の声にわん太郎もワンと一鳴きで答えるのだった。

 

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「良かったのですか?」

 

子犬を抱えて喜ぶ三人を遠目に見ながら千冬は十蔵に問い掛ける。

 

「ええ、良いんですよ。大きくなれば番犬になってくれます。まあ、織斑先生がいれば必要ないのかもしれませんが」

 

そう言ってころころ笑う十蔵。

読めない人だ、と千冬は心の中で呟く。

 

「しかし、すいませんね、織斑先生。勝手に決めてしまい」

 

「いえ、あなたがそういうのであれば私に否応はありません」

 

 

 

 

「轡木十蔵学園長」

 

 

 

「ははは、今の学園長は妻ですよ」

 

表向きは、だが。

IS学園事務員、轡木十蔵。その正体は学園の実務関係を取り仕切る事実上の運営者。

ISは二人の例外を除いて女性しか動かすことができない。そんなISに関わる学園のトップが男性では何かと不都合だろうと考えた十蔵は妻を表向きの学園長としたのだ。

その代わり彼は事務員として日々学園のため、生徒たちのために業務をこなしていた。

 

「それにたまにはいいじゃないですか」

 

「と言いますと?」

 

「翔介君にはいつも仕事を手伝ってもらっていますからね。たまにはご褒美があってもいいでしょう」

 

これは贔屓になってしまいますかね、と言ってまた笑う。

 

翔介は何かと十蔵と一緒に花壇の手入れなどを一緒にしている姿をよく見られ、とても仲が良い。

そのお礼も兼ねているのだろう。

贔屓と言ってしまえば贔屓だが事実上の運営者がいいというのならばいいのだろう。

 

それに。

 

はしゃぐ翔介を見やる千冬。

 

「……そうですね。たまには、いいでしょう」

 

ここ最近、翔介は大変な目にばかり合っている。それは翔介に限らず専用機持ち全員なのだが、生死不明になったり、とある天災にちょっかい掛けられたりと何かと苦労ばっかりだった。

 

それならたまにはこんな風に良い事があってもいいだろう。

 

千冬はフッと笑いながら喜ぶ翔介を見ていた。

 

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翔介は朝起きるとすぐさま運動着へと着替えるといそいそと寮の玄関まで降りていく。

 

「わん太郎、おはよう!」

 

寮の入り口横に作られた犬小屋からわん太郎が顔を出す。

首には真新しい首輪が付けられており、翔介はその首輪にリードを取り付ける。

 

「行くよ!」

 

IS学園に子犬と一緒にジョギングをする男子生徒という名物が増えた。

朝から照り付ける陽光が眩しい。

 

もうすぐ夏休みだ。

 

 

 




本日はここまで。

無事に子犬を飼うことになった主人公。

そして待ちに待った夏休み。
まだ里帰りには時間があるけれどやることはいっぱい。

次回、主人公目覚める。
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