インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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65話

財布良し!

携帯良し!

ポータブルCDプレイヤー良し!

 

既に何度も入念にバッグの中を確認した。

最後に帽子をかぶり準備は万端。

 

いざ、宝を探しに!

 

翔介は寮の扉を開き、飛び出した。

 

今日の目的は詩月梢のCDを入手することだ。

資金は十分にある。

ちなみにポータブルCDプレイヤーは従姉妹のおさがりである。持っていても使う機会がなかったのだがようやくその役目を果たすことができそうだ。

翔介はウキウキとしながら電車に乗って街に繰り出す。

何でも揃うこの街ならすぐに見つかるだろう。

 

「よし、行くぞ!」

 

翔介は意気揚々と歩きだした。

 

 

 

一時間後。

 

 

 

「見つからない…」

 

翔介はベンチに座りうなだれていた。

CDショップや音楽関連店舗に足を運んだがどこに行っても売り切れ。再入荷の目途も立っていない。

そもそも最近はCD本体を買うより携帯にダウンロードする方法が主流となっていることもあり補充が後回しになっているらしい。

 

「すぐに見つかると思ったけど…」

 

ふぅとため息を吐く。しかし、すぐに頭を振る。

 

「いや、まだ探してないお店があるはず!」

 

翔介はフンと気合を入れて歩き出す。

やがてまた別のCDショップにたどり着く。店内は空調も効いておりとても涼しい。

店内に入るや翔介はすぐに邦楽コーナーに向かう。

棚には五十音順にCDが揃えられており、詩月梢を探して指でなぞっていく。

 

「あ、あった!」

 

果たしてようやく目的のものを見つけてそのCDに手を伸ばす。

しかし、その手がCDに触れる瞬間、もう一つの手がCDに触れた。

 

「あ」

 

「え?」

 

思わず声を上げる。それは相手側も同じようでお互い顔を見合わせる。

相手は翔介と同じくらいの少女。ラフな格好に頭にはバンダナを捲いている。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「あ、こちらこそ」

 

少女は慌てて頭を下げてくる。

翔介は手を振りながらそれに答える。

 

「えっと、あなたも詩月梢のCDを?」

 

「は、はい。でも…」

 

棚にあった残っていたCDは一枚だけ。

少女はしばらく悩みながらそれを翔介に差し出してくる。

 

「どうぞ、先に手を伸ばしてたし…」

 

どうやら翔介にCDを譲ろうというようだ。

本来であれば喜んで受け取りたいところだが、彼女の様子を見ていると悩ましい。

バンダナをしているが頬を伝う汗が翔介と同じくこのCDを探し回っていたのだろう。

 

それでもここでこれを逃せば次はどこで見つかるか…。

 

 

「いや、それはあなたが買うといいですよ」

 

 

翔介は少女が差しだすCDを丁重に返す。

それに少女は目を丸くする。

 

「え、でも…」

 

「大丈夫。僕はまた他のお店を探せばいいからね」

 

翔介はあははと笑いながらCDショップを後にする。

後ろから少女が声をかけてくるが足を止めることなく出て行った。

 

 

 

 

「うぅ…カッコつけすぎたぁ…」

 

 

 

さらに一時間後。

あれから町中を探したのではないかというくらい歩き回った。結局どこもCDは売り切れ状態。こんなにも見つからないものなのか。

 

今は近くに来たということもあり『ベーカリーエース』で休憩している。北登たちは快く迎えてくれた。

翔介はお昼代わりの特性ヤキソバパンをモソモソと食べる。

 

「はっはっは、だけど女の子のために我慢するなんてカッコいい事するじゃないか」

 

北登は笑いながら商品を並べている。

確かに彼女にCDを譲ったことは後悔はしていない。

武士は食わねど高楊枝という訳ではないが時には無理してでも我慢するべき時もあるのだ。

だけど改めて詩月梢の人気の高さを窺える。こんなに探してもどこに行っても売り切れとは。

 

「後はどこを探せば…」

 

「CDを探すか…」

 

北登と翔介は二人で頭を捻る。

すると奥から新しいパンを持って結子が出てくる。

 

「音楽CDならあそこはどうかしら?」

 

「ああ、あそこか。だけど今日はやってるかな?」

 

「あそこってどこですか?」

 

どうやら北登夫妻には何か心当たりがあるようだ。

ここまで来たら何が何でもCDを手に入れたい。

翔介は最後の希望として心当たりへと向かうことにした。

 

 

--------------------------------------------

 

「あった」

 

翔介は一軒の小さな店舗の前に来ていた。

そこは壁はレンガ造りであり、蔦が覆っている。どこかモダンな印象を受ける。

しかし、同時に営業しているのかどうか怪しい雰囲気もある。

 

扉の上には手作りの看板で『レコ―堂』と書かれている。

北登夫妻に教えてもらった店で間違いないようだ。

しかし、人気はなく入っていいのか躊躇してしまう。

だが扉の所には営業中と札がぶら下がっている。

どうやら営業はしているようだ。

翔介は戸惑いつつも扉に手をかけ中へと入店する。

 

「お邪魔します~…」

 

レコ―堂の中に入るとコーヒーの匂いが鼻をくすぐる。

店内は半分がCDやレコードが並んでおり、もう半分は小さなテーブルが二つとカウンター席が用意されている。

 

翔介は物珍しそうに店内を見渡していると。

 

 

 

「いらっしゃい」

 

 

 

「ふわっ!?」

 

不意に声をかけられ飛び上がってしまった。

振り向くとカウンターに一人の女性が腰かけていた。気付かなかった。

ぼさっとした髪に気だるげな表情と黒縁の眼鏡、口元には棒付きのキャンディーを咥えている。

 

「ご、ごめんなさい。勝手に入って…!」

 

「扉に営業中と下がってただろう? なら自由に入って構わないさ」

 

女性はそう言いながらのっそりとキッチンの方に移動する。

 

「それで? CDかい? それともコーヒーかい?」

 

「え?」

 

「ここに来る客の目的は二通り。CDを買うか、それかコーヒーを飲むか」

 

なるほど、どうやらこのレコ―堂という店はCDショップ兼喫茶店でもあるようだ。

 

「でもどうして喫茶店と一緒になってるんですか?」

 

「私の祖父…前マスターの趣味でね。どっちもやりたいから一緒にしたってだけさ。それよりそんな所で立ってないで取りあえず座ったらどうだい?」

 

女性マスターに促され、翔介はいそいそと彼女の目の前のカウンター席に腰掛ける。

 

「さて、今日の用はどっちかな?」

 

「あ、えっと、今日はCDを探してて…」

 

コーヒーカップを拭きながらのマスターの問いに答える。

 

「CDか。誰のを探してるのかな?」

 

「詩月梢さんって女性歌手なんですけど」

 

翔介がそう答えると女性マスターはピクリと反応する。

 

「詩月梢か。残念ながら最近のCDは余り置いてなくてね。なにせ前マスターの趣味で古いものばかりだから」

 

その答えに翔介はガクリと項垂れる。最後の希望も潰えてしまった。

確かによくよく見てみれば陳列されているCDは演歌や歌謡曲など若い世代より自身の祖母くらいの齢の人々が聞いていそうなものばかりだ。

時折最近のCDも混じってはいるが全体から見てみればほんの一握りといったところである。

 

「折角こんな店まで足を運んでもらったのにすまないね。お詫びという訳ではないけどサービスだ」

 

目に見えて落ち込んでいる少年に女性マスターはことりとコーヒーカップを置く。

 

「でも…」

 

「なに、今も趣味でやってるような店なんだ。売上なんて気にするものでもない」

 

女性マスターはあっさりと答える。気前がいいのか、本当に売り上げの事なんて考えていないのかはわからないが厚意を受け取らないのもかえって失礼だろう。

 

翔介はカップを持ち、ゆっくりと啜る。

 

「……美味しい…」

 

思わず声が漏れ出る。

本来翔介はコーヒーが得意ではなかったはずなのだが、本当に美味しいと感じた。砂糖もミルクも入れないブラックだというのに。

翔介はズズッとさらにコーヒーを啜る。

やはり美味しい。

 

夢中でコーヒーを飲んでいると女性マスターがキャンディーを舐めながら問い掛けてくる。

 

「それにしても詩月梢ねぇ。最近名が知れているが、君もファンなのかい?」

 

「はい。といってもファンになったのはつい昨日なんですけど」

 

「昨日?」

 

「昨日初めてコンサートに行ったんです。そしたら想像以上の衝撃で…」

 

よく雷に打たれたような衝撃、というが正にその通りだ。

あの圧倒的な歌唱力にすっかり心を奪われてしまった。

 

「昨日の今日でCDを買いに来たという訳か。行動が早いね」

 

女性マスターは感心したように告げるが「だけど」と続ける。

 

「それならコンサートの物販で買えばよかったんじゃないかい?」

 

「……………あ」

 

それは失念していた。

今思えばその通りである。会場のグッズ販売ならCDの一枚くらい買えたはずだ。

だが一つ言い訳をするのならば。

 

「コンサートの衝撃で魂が抜けてたと言いますか…」

 

詩月梢のあまりの衝撃に帰宅する頃には夢の中にいるような放心状態だった翔介。自分がどうやって帰ったのかも覚えていないほどだったのだ。グッズ販売でCDを購入するという考えがそもそも浮かんでこなかったのだ。

 

余談であるがコンサートの帰り道。放心状態の翔介を楯無が引っ張って寮まで帰ってきたことをここに付け加える。

 

「でも本当に詩月梢さんは凄くて…!」

 

翔介は興奮したように女性マスターにコンサートでの衝撃を伝える。

彼女はそれを黙って聞いている。

そしてある程度語りつくすと翔介はカウンターに突っ伏す。

 

「あぁ…やっぱりCD欲しいなぁ…」

 

「大した人気っぷりだね、詩月梢は」

 

 

 

 

 

「でも確か彼女、今少し問題抱えてただろう?」

 

 

 

女性マスターから何気ないトーンでとんでもない話が飛び出した。

翔介は目を丸くした。




本日はここまで。
またまた期間が開いて申し訳ないです。
1週間に1本のペースは守っていきたい所存。


CDを探し求めて訪れたレコ―堂。

詩月梢の凄さを熱弁する中、衝撃的な事実を聞いた主人公。
果たして彼女も抱える問題とは。
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