インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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67話

夏休みも半分が過ぎて八月中旬。

世間一般ではお盆と呼ばれる一週間だ。

そして翔介にとっては大切な日だ。

 

「皆、準備は大丈夫?」

 

寮の前で翔介が友人たちに声をかける。

一夏たちは口々に答える。

 

今日から一週間、翔介の故郷で友人たちと過ごすことになっている。

故郷はIS学園から遠く離れているため忘れ物をすれば取りに帰ることは難しい。今のうちに気を付けなければならない。

 

それぞれ一週間の滞在という事もあり大荷物を抱えている。

しかし、約一名。鈴だけはボストンバッグ一つとかなり軽装である。

元よりフットワークが軽いのが彼女の特徴ともいえるのだが一週間という長期間そのバッグだけで事足りるのだろうか。

 

「凰さん、本当にそれで大丈夫なの?」

 

「平気よ。滞在分の着替えさえあればいいでしょ」

 

確かに寝食に困ることはないだろうから着替えさえあれば何とでもなるのだが。

年頃の娘としてはどうなのだろう。

 

「鈴さん、仮にも女子なのですから化粧品の一つでも…」

 

セシリアも苦言を呈する。

ちなみにだが友人たちの中で一番荷物が多いのは他ならぬセシリアである。

 

「あたしはそんなものに頼らなくても肌がツルツルだからいいのよ。化粧品なんかで誤魔化す必要もないしね」

 

鈴がそう告げるとセシリアが柳眉を逆立てる。

 

「まあ! 何て言い草! 若い内からケアをしないと後で痛い目を見ますわよ!」

 

「あ~、もううっさいわね!」

 

二人の言い合いが始まる。そんな光景もすっかりお馴染みとなり誰も敢えて止めようとはしない。

 

「皆、そろそろ電車が来るよ~」

 

そうこうしているうちに駅に電車がやってくる。

鈴とセシリアも喧嘩をやめて、大人しく電車を待つ。喧嘩はしても周りに迷惑はかけない辺り二人とも相手が嫌いで喧嘩をしているわけではないのが良くわかる。

 

駅に停車した電車に全員が荷物を持って乗車する。

電車に乗るとそのまま東京駅へと向かうことになる。翔介の故郷へは東京駅から新幹線へと乗り換える必要があるためだ。片道とはいえなかなかの値段はするが、後々の事を考えれば新幹線を利用する方が良いだろうという考えもある。

 

一同は電車に乗り、東京駅まで移動する。

実はここで一つ心配なことがある。

 

「ねえ、翔介君。新幹線の座席だけど結局どうなったの?」

 

「あ~…それなんですけど」

 

新幹線の座席は翔介が予約していたのだが。

翔介の故郷に向かうのは彼を含めて九人。新幹線の座席を動かして全員で一纏まりに座るつもりだった。その為、座席は二人掛けのシートと三人掛けのシートを取りたかったのだが、お盆という時期もあり既に予約で埋まっていた。その結果、八人分だけ一緒に座ることができるのだが、一人だけ離れて座ることになってしまった。

 

翔介はそれを楯無に告げる。

 

「誰か一人だけ離れるのね」

 

「そうなんです…」

 

「それは仕方ないよ。むしろこの時期に八人分の席が纏まって取れただけでもすごいと思う」

 

簪がそうフォローしてくる。

帰省ラッシュ時期でもあるお盆に並んで座席が取れるだけでも良かった方だろう。

するとそれを聞きつけた一夏たちも会話に入ってくる。

 

「一人だけ別の席か、どうする?」

 

「折角皆で行くのに一人だけ仲間外れは避けたいよね」

 

「それなら僕が…」

 

と翔介が手をあげようとするとそれを楯無が制する。

 

「はいはい、こういうのは恨みっこなしで…ほい」

 

そしてどこからか取り出した紙に適当に線を引いてあみだくじを作る。

どうやらこれで座席を決めようという事らしい。

 

「お師匠さま、そんなことしなくても…」

 

「翔介君、こういう時に遠慮とかしなくていいのよ。さあ、皆好きなところに印付けて~」

 

楯無の言葉に一夏たちも反対することなくそれぞれ好きなところに印をつけていく。翔介も戸惑いながら印をつける。

 

「さあ覚悟は良いかしら? それじゃあ御開帳!」

 

全員が自分の印から引かれた線を辿っていく。

そして…。

 

 

「俺かぁ!?」

 

 

あみだくじの結果、ボッチ席を獲得したのは織斑一夏であった。

 

「織斑君、やっぱり僕が…」

 

「い、いいんだ、翔介。俺も男だ。文句は言わねえ」

 

やや引きつりながらも一夏はそう告げる。

 

「一夏の言う通りだ。道野、お前が気を遣うことはない」

 

他の友人たちもうんうんと頷く。

 

「さあ、座席も決まったし駅に着くまで待ちましょう」

 

決まることも決まったため、一行は東京駅に向かうのだった。

 

 

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電車から降りて、一行はすぐに自分たちの乗る新幹線に乗り込む。

一夏を除いた全員は纏まって着席する。

一人だけ離れて座る一夏の背中が妙に哀愁が漂っていた。後で周りの迷惑にならない程度に声をかけに行こうとそう心に決める翔介だった。

 

まもなく新幹線は動き出し、これから一時間半ほどはこのまま新幹線に乗っていくことになる。

時間は昼時。全員、新幹線に乗る前に売店で購入した駅弁を食べることにした。

 

「む、マブよ。お前の弁当も旨そうだな」

 

「うん、この唐揚げが美味しそうで選んだんだよね」

 

「ならば私のこの卵焼きとトレードを要求する」

 

「いいよ」

 

翔介の弁当の上に卵焼きが置かれ、ラウラの弁当の上に唐揚げが置かれる。

これでトレード完了である。

そんな光景を見ている箒たち。

 

「なんというか…あの二人は平和だな」

 

「あはは…なんか空気がほのぼのしてるよね」

 

翔介とラウラの間にほんわかお花畑が見える気がする。

ラウラにとって翔介は初めての友達。翔介にとってラウラは初めて自分から作った友達。そういう意味では二人の間には他の面々とはまた違った繋がりがあるようだ。

 

「どうした、シャルロット。お前もこの卵焼きが欲しいのか? だが生憎とこれはもう一つしかないのでな。その代わりこの椎茸の煮物を…」

 

「いや、大丈夫だよ。というか椎茸はラウラが自分で食べなさい」

 

あっさり拒絶され渋い顔になるラウラ。

スケープゴート作戦失敗。嫌いなものを他人に押し付け作戦ともいう。

 

「そういえばさ、翔介」

 

「なに、凰さん?」

 

「これからあんたの故郷に行くのは良いけど、どんなところなのかは聞いたことなかったんだけど」

 

「そうですわね、詳しくは聞いたことがありませんでしたわね」

 

「そうだっけ?」

 

キョトンと首を傾げる翔介だが、友人たちは「そう」と頷いてくる。

 

「現地に着いてからのお楽しみもいいけど、予備知識で教えてくれると嬉しいのだけど?」

 

「そうですね、じゃあ…」

 

翔介はたどたどしくではあるが自分の故郷の話を始める。

 

彼の故郷は東北の田舎だ。街というより村という方が正しいような小さな町だ。

発展した街からも離れており、若い世代がほとんど離れたような場所。ただ広大な土地は農業や畜産業に適しており、街の大体の人々はそれを生業としている。

新しいものはないけれど、古くから街の人たちから守られてきた自然が今もなお息づいている。

 

「だから皆からしたら少し退屈かもしれないけど…でもね!」

 

新しい物もないけれど、昔からある自然。

特に町の中心に広がる湖は美しく、翔介も泳ぐことこそなかったが夏にはよく遊びに行っていた。

 

「へぇ、だから水着を持ってきたほうがいいって言ったわけね」

 

「僕は泳げないけどみんなは絶対に遊びたいだろうなと思って」

 

臨海学校の時も海で遊んだが、あの後色々あったこともあり故郷で改めて遊び倒して欲しいという想いもあった。

 

何もない故郷。

だけどそんな故郷を大切な友人たちに好きになってほしかった。

 

「僕から話せるのはこれくらいかな」

 

「それじゃあ後は着いてからのお楽しみね」

 

「はい!」

 

その後も一行は談笑を交えつつ、翔介の故郷へと向かうのだった。

 

 

 

 

「……楽しそうだな」

 

 

 

約一名、賑やかな一行を寂しそうに見つめる少年・織斑一夏がいた。




本日はここまで。

またまた遅くなって申し訳ありません。

今回から帰省旅行編となります。
実はここまでの間に色々とお話を考えていたのですが、本題がなかなか進まないと考えて省きました。
ですがもしかしたら番外編という事で合間合間に投稿するかもです。

新幹線と電車に揺られて、次回。

ついに翔介の故郷に到着。
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