翔介の指導役はあのキャラになります。
次の日。
時間はまだ6時になったばかり。ルームメイトも隣のベッドで寝ている。
翔介は早起きが得意な方だった。田舎に居た頃は朝早くに起きて畑の収穫を手伝っていた。
特に夏はもっと早く手伝うこともあった。
まだ眠るルームメイトを起こさないようにそっと部屋を出る。
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早朝ということもあり、シンと静まり返っている。
しかし後一時間もすればまた賑やかになるだろう。
耳をすませばグラウンドの方から声が聞こえてくる。どうやら部活の朝練が行われているようだ。その掛け声を聞きながらアリーナへと向かう。
「おお…」
アリーナというから体育館みたいなのを想像していたがやはり田舎と都会は違った。
スケールの違いに声をあげるのも何度目だろうか。
制服のままで特訓はできないため更衣室で着替えをすることに。
本来はISスーツというものを着るらしいが、生憎と翔介の分が届いていなかった。その代わりにと訓練は体操服ですることになった。
体操服もハイカラなデザインだ。
中学校の頃の芋ジャージとは違った。
更衣室も広々としたスペースが取られていた。
いちいち驚いていてはキリがないのはわかっているがこのカルチャーショックばかりはどうしようもない。
翔介はしみじみと感じながら着替えを初める。
それにしても……。
「静かだ…」
早朝の更衣室はとても静かだ。
シンとした空気が流れなにか異様に寂しさと恐怖を覚える。
翔介の名誉のために言うと、彼は心霊の類いが怖い訳ではない。ただ人が作ったホラー映画、特に殺人鬼やらが出てくる作品は苦手であった。
理由は本当に怖いのは生きた人間、という訳ではなく単純に驚かし方がしっかりしているからだ。
幼い頃にテレビで放送されたホラー映画をたまたま観てしまい、夜にトイレに行けなくなった思い出がある。
そのホラー映画では今のように一人でいると突然殺人鬼が現れ、襲われるというシーンがあった。
「……早く着替えよ」
どうして人は一人でいると時たま怖いことを考えてしまうのだろう。
いや、そんな事起こるわけないとわかっているのだがあまり長居したくなかった。
カタン
「…!?」
ビシリと体が固まる。
「いやいや…」
怖いことを考えてしまったから過敏になっているだけ、そのはず。
翔介は頭を振りながら着替えに戻る。
カタタン
「ほわっ!?」
二度目はいけない。
何がいけないのかと言うと上手くは言えないがこれはいけない。
気にしてはいけないと着替えを早々と終わらせようとわたわたと体操服の袖に腕を通す。
「男の子がそれくらいで怖がってちゃ駄目じゃない」
いつの間にか、翔介の背後に、空色の髪の少女がいた。
「ひああああああああああああああ!!!!??」
絹を裂くような悲鳴がこだまする。
「あらあら、駄目よ。そんな悲鳴上げちゃ」
少女は口元を扇子で隠す。
その扇子には『不用心』と書かれている。
「お姉さんの嗜虐心が刺激されるじゃない」
「ひいいいいいいいいいいいい!!!!???」
にじり寄る空色の少女。
恐怖で悲鳴を上げる翔介。
その様子はまさに地獄絵図。
「ほら、そんな悲鳴を上げても無意味よ。ここには翔介君と私だけ」
更ににじり寄る。
「安心なさい、お姉さんが手取り足取り色々取り教えてあげるわ」
迫る少女に怯える少年。
普通は逆の立場なのではないだろうか。
「ち、ち、痴女だーーーーーーーーー!!?」
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「というわけで私があなたの訓練を任された二年の楯無よ、よろしくね」
更衣室から出て、アリーナへとやってきた二人。
空色の少女はニコニコと告げる。
それに対して翔介はジトーッと楯無を見ながら距離を置く。
あの後よくよく見れば前日に職員室ですれ違った女生徒だった。
最初こそ不思議な印象を受けていたが、現在は怪しい人物に格下げされていた。
「ほら、そんなに警戒しないでこっちに来なさい」
「婆様が言ってた。都会には痴女っていう男を騙してお金を取る人がいるって」
すっかり警戒されている楯無。
「そんなことしないわよ、さて早速訓練始めましょうか」
そう言って楯無は自分の隣に置いてあった二つの機体を示す。
片方は武骨なIS、もう一つは翼の付いたIS。
「織斑一夏君には政府から専用機が用意されることになったのだけど、翔介君の分は用意出来なかったからこの二つのどちらかを選んで使ってもらうことになるわ」
どちらも学園の設備として用意されている機体らしい。
「どっちがいいんですか?」
「本来は機体ごとに特徴はあるし、人によって合う合わないはあるわ」
楯無が言うにはこの二つは学園の設備であり、量産機と言うものらしい。目立った特徴はないが、どんなことも卒なくこなすことができるものらしい。敢えて言うなら装備が刀か銃かというところらしい。
「まあ、でも今は難しいこと考えないで第一印象で決めればいいわ。第一印象から決めていましたってやつね」
クスクスと笑う楯無。
「第一印象…」
そう言われ二つを見比べる。
そして、じゃあと片方を指差す。
翔介が選んだのは。
「打鉄、ね。なかなか渋い選択ね」
「打鉄…」
「ええ、名前の通り純日本製のISよ。第二世代のISで現行の専用機と比べれば旧式になるわ。でも安定したスペックを持ってるわ」
なんだか色々説明してくれるが要は古い機体だけど使いやすいということらしい。
「さっ、ISを決めたら早速乗ってみましょうか」
「えっ、いきなりですか!? こういうのってまず勉強とかするんじゃ?」
「知識、理論は授業でもやるわ。でも翔介君に必要なのは実践よ」
楯無の言う通りかもしれない。
試合は五日後、試合日決定から一日経っているので残り四日。
試合までに動かせなければ元も子もない。
「でもいきなり乗って大丈夫かな…」
「誰でも初めては不安なものよ、そう誰にでもね」
なんだろう、妙な含みを感じる。
でも、楯無の言うことは至極もっともだった。
「……挑戦しない成功はない、か…」
翔介は首から下がるお守り袋を握る。また、少しだけホッと温かくなった気がする。
そして意を決したように打鉄に向かう。
すると、それを見た楯無が止めに入る。
「あっ、翔介君。それは外したほうがいいわ」
そう言ってお守り袋を指差す。
「これですか?」
「ええ、ISを動かすときに引っかかったりして危ないわ」
「は、はい…でもこれは…」
割と素直な翔介だが、珍しくごねる。
「……大事なものなのかしら?」
「はい、僕にとって大切なものです」
「……そう、ならせめて服の中に入れておきなさい」
楯無はそれ以上追及せず訓練の準備に入る。
翔介も今度は素直に言うことを聞いた。
「さて、始めましょうか」
楯無の扇子には『訓練開始!』と書かれていた。
本日はここまで。
今回は指導役である更識楯無との顔合わせだけになりました。
次回からは本格的に訓練開始となります、
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