インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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69話

翔介の故郷に帰省して二日目。

一夏は床に敷かれた布団の上で目を覚ます。

昨夜は翔介の従姉妹である長歌の手料理をお腹いっぱい食べた後は大きな檜風呂でゆっくりと温まり、ふかふかの布団で休むことができた。

お陰で長時間の移動の疲れもすっかり癒えた。

 

ちなみに部屋割は空いていた大部屋に女子たちに宛がわれ、一夏は翔介の部屋で泊まることになった。

 

目を覚ました一夏が隣の布団を見るとそこに寝ているはずの翔介が既にいない。

 

「あれ? 翔介、もう起きたのか? 起こしてくれればいいのに」

 

一夏は布団から立ち上がり、部屋を出る一夏。

部屋の襖を開けると目の前に中庭が広がっている。

すると、そこには朝早くから竹刀を振るう箒がいた。

 

「箒、ここに来てまで素振りか?」

 

一夏は廊下に出ながら声を掛ける。

箒は素振りを止めると首に巻いたタオルで汗を拭う。

 

「こういうものは毎日の積み重ねが大事なのだ。それにちゃんと長歌さんにも許可は取ってある」

 

「それなら良いんだけどな…」

 

「しかし改めて見てみると大きな家だな」

 

汗を拭いながら翔介の実家の中をぐるりと見渡す箒。

一夏もその言葉に首肯する。

正確に言えばここは彼の母方の実家であるのだが、まさかここまで立派な所だとは思いもしなかった。

 

「よくよく考えてみたら俺たち、あいつの事あんまり知らなかったかもしれないな…」

 

「あぁ、道野と会ってからかれこれ四ヶ月か。そこそこ長く一緒にいたように思ったが、あいつから自分の事を聞いた事はあまりなかったかもしれないな」

 

そう、何かと一緒にいることが多かった割には彼の口から自分のことを語られることはなかった。

 

「それでもこれから知っていけばいいだろ?」

 

「そうだな、この旅行で少しでもあいつの事分かればいいな」

 

「ああ。……そうだ、箒。翔介の奴どこに行ったか知らないか?」

 

「む、私はまだ会っていないが。部屋にいないのか?」

 

「そうなんだ、朝起きたら既にいなくてな」

 

二人が翔介の行方に首を傾げていると廊下の先からシャルロットが歩いてくる。

 

「あ、いたいた。一夏、箒、長歌さんがそろそろ朝ご飯にするよって」

 

「シャル、でも翔介がいないんだ」

 

「それなら大丈夫だって長歌さんが言ってたよ」

 

シャルロットの言葉に二人は顔を見合わせる。

従姉妹である長歌が大丈夫だというのならばそうなのだろう。

二人は促されるままに居間へと向かうことにした。

 

三人が居間に着くと食卓の上には朝食が並べられており、セシリアたちも既に座敷に座って待っていた。そこに長歌がみそ汁の入った鍋を持って入ってくる。

 

「おはようございます、よく眠れましたか?」

 

「おはようございます、はい、よく眠れました」

 

一夏の答えに長歌はにこりと微笑み、座るように声をかける。

 

「あの、翔介の姿が見えないんですけど…」

 

「それなら大丈夫ですよ。多分そろそろ…」

 

一夏の問いに答える長歌。

するとガラリと玄関のドアが開く音。そしてトタトタと廊下を走ってくる音が響き、ガラリと今の襖が開かれる。

 

「ただいま~」

 

そこにはもっさりとしたジャージを着た翔介が立っていた。

その腕には色とりどりの夏野菜が入った籠を抱えている。どれも朝露に濡れて瑞々しい。

 

「長姉さん、夏野菜いっぱい貰ったよ~」

 

「翔介、どこ行ってたんだ?」

 

「うん? 近くの農家さんのお手伝いしてきたんだ」

 

「手伝い? それなら声かけてくれりゃいいのに」

 

「あはは、織斑君気持ちよさそうに寝てたから無理に起こすのも悪いと思ってね」

 

翔介は夏野菜を長歌に渡すと食卓に座る。

 

「それにしても翔介君、そのもっさりしたジャージは何?」

 

「これ僕の中学校の頃の運動着です。畑仕事するなら汚れてもいい服装の方が良いですからね」

 

もっさりしてはいるが意外と通気性もよく夏場でも動きやすいので重宝している。

 

「それじゃあ皆揃ったし朝ご飯を食べましょうか」

 

『いただきます』

 

全員が声を合わせて食事を始めた。

白米とみそ汁、焼き鮭に煮物と素朴なものばかりだが長歌の料理の腕は一級品。

長歌の朝食を食べながら九人は今日の予定を話し合う。

 

「それで今日はどうするのかしら?」

 

「やっぱり湖に行きたいな」

 

「私、この町を見て回りたいかな」

 

等々、色んな案が上がってくる。

 

「それなら街を歩きながら湖に遊びに行きましょうか。湖は私有地がありますからそこっでいいでしょうし」

 

さらっとそう告げる翔介に唖然とする一同。

 

「私有地って…」

 

「翔介さんのご実家はプライベートビーチまで持っていらっしゃるのですね…」

 

「プライベートビーチって程ではないけどね」

 

苦笑気味にそう答える。

 

「今日も熱くなるから皆さん、水分補給だけは忘れないようにしてくださいね」

 

長歌からの忠告を受けて本日の予定が決まった。

 

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「よいしょっと…準備はこれでいいかな」

 

翔介は玄関先で湖水浴の準備をしていた。

レジャーシートと日除けのパラソル、長歌が作ってくれた昼の弁当、腐らないようにしっかり保冷剤をいれてある。飲み物を入れたクーラーボックス。

出掛ける準備はばっちりだ。

 

ちなみに水着にはここで着替えていくことにした。

今は女性陣の着替えを一夏と二人で待っているところだ。

遠くからキャイキャイと賑やかな声が聞こえてくる。ただ時折悲鳴が聞こえるのは何なのだろうか。

 

「それにしても長歌さんには感謝しないとな。弁当まで作ってもらっちゃって」

 

「いいんだよ。遊びに来てくれたんだから遠慮なんてしないで」

 

ニコニコと笑顔で首を振る。

 

「どこか行くのかい?」

 

「うわっ!?」

 

「あ、ババ様」

 

音もなくいつの間にか後ろに立っていた統子に驚いてのけぞる一夏。

平然としている翔介は慣れているのだろう。

 

「うん、皆と街の中歩きながら湖に遊びに行ってきます」

 

「そうかい、気を付けて行ってきな」

 

統子はそれだけ言うと奥の部屋へと引っ込んでいった。

 

「ふぅ…なんか緊張するな…」

 

「あはは、仏頂面だからね。でもみんなが来てくれたこと、本当に喜んでくれてると思うよ」

 

「そうなのか?」

 

 

 

「うん、だって僕だって嬉しいんだから」

 

 

 

そう言って花笑む翔介だった。

 

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二人が和やかに会話をしていると準備を終えた女性陣と合流し、一路湖水浴へと向かっていた。

女性陣は臨海学校の時とはまた違った水着を着ており、全員良く似合っている。

水着の上にはパーカーなど羽織っているが、公道を水着で堂々と歩けるのも田舎特有かもしれない。

今日の天気も雲一つない快晴。湖水浴にはもってこいの天気だろう。

 

「おおい、ボンじゃないか!」

 

湖へと向かっている途中、畑仕事をしている住人に声をかけられる。

ちなみにボンとは『四季家の坊ちゃん』という意味合いで、町の人たちは親しみを込めて翔介のことをボンと呼んでいるという。

 

「帰ってきたんだね。そっちは友達かい?」

 

「うん! お盆の間、友達と一緒に帰ってきたんだ」

 

「そうかそうか、こんなに別嬪さんばかりでなかなか隅に置けないねぇ」

 

「あはは、皆美人さんなのは本当だけどね」

 

「これから遊びに行くのかい? ならこれを持って行きな」

 

そう言って翔介は採れたてのキュウリを人数分手渡される。

 

「ありがとう! 皆で食べるよ」

 

翔介は受け取ったキュウリを全員に配る。清流によって冷やされたキュウリは暑い夏空の下では嬉しいものだ。

 

「それじゃあ気を付けていきな」

 

「うん!」

 

そう言って畑仕事に戻っていく住人に向かって手を振る翔介。

 

「……なんていうか…翔介君」

 

「はい?」

 

 

 

「あなた、貰いすぎじゃない?」

 

 

 

そう、今のように呼び止められてお土産をもらうという流れがかれこれ三度目である。

最初はペットボトルのお茶を貰い、二度目はスイカを貰っている。

 

「そうですか?」

 

「いくら名家の孫とはいえこんなに周りから物貰う?」

 

「う~ん、そうかなぁ?」

 

本人にはどうやらその自覚はないらしい。

と言っても本人にも声をかけてきた住人達からも下心のようなものは一切感じられず、本当に心からの善意で接してくれているのはなんとなく察することができる。

 

というよりも。

 

「翔介君、可愛がられてるわね」

 

楯無の言葉に全員が頷く。

そう、可愛がられているのだ。会う人会う人全員が自分の息子や孫のように彼と接していく。

しかし、それも無理からぬことかもしれない。

 

この町には子供の姿はなく、彼が唯一の子どもであるため町ぐるみで可愛がられていてもおかしくはないのかもしれない。

しかし、それだけ周りから可愛がられていても我が儘な性格や甘ったれた性格にならなかったのは四季統子の教育がしっかりしていた証左だろうか。

 

「いや、それだけじゃないのかしら…」

 

楯無はキュウリをポリポリと齧りながら歩く翔介を見ながら呟く。

 

「翔介君」

 

「なんですか、お師匠さま?」

 

「翔介君はこの町が好き?」

 

 

 

「はい! 大好きです!」

 

 

 

幼い頃に両親と死に別れ、実質親の愛情を受けずに育ってきた翔介。

そんな彼が腐ることもなく、真っ直ぐに、穏やかに育ったのは四季家の人々だけでなく住人全員が彼を愛したこともその一因なのかもしれない。

 

そして、翔介もまた自分が愛されていることをよくわかっているのだろう。

だから彼も四季家の人々やこの街の住人のことが本当に大好きと声を大にして答えることができる。

 

「愛されたように、愛する…っていう事かしらね」

 

自分で口にして思わずむず痒くなる。

色々特別な立場にいる楯無ではあるが、愛なんて言葉を口にするのは抵抗がある。

だけれど彼とこの町の人々の関係を表すなら『愛』という言葉なのかもしれない。

 

「お姉ちゃん?」

 

「お師匠さま?」

 

「ええ、今行くわ」

 

妹と弟子に声をかけられ楯無はその後を追いかけていくのだった。




本日はここまで。

またまたまたまた遅くなって申し訳ございません。
やはり原作の無いものを書くのは難しいですね。
次回はもっと早く投稿したいです。

後、ツブコン行ってきました。
円谷を一生応援したいという気持ちになりました。

次回、湖水浴を楽しむ一同。

そこにある人物が登場。
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