インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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73話

町から一時間。

指定されている駐車場に愛車を止めて継実は警察署に入っていく。

本来であれば休暇であるのだが、今朝ごろ救援要請が来たため休日を返上してやってきたのだ。

 

「さて、何事かのぅ」

 

警察署に入ると正面の入り口では数名の男女が喚いている。

署員が宥めているようだが彼らの興奮は冷めやらない。

 

「本当なんだよ! 信じてくれよ!」

 

「だから落ち着いてください!」

 

「一体何の騒ぎかのぅ」

 

「あ、四季さん‼」

 

近づいた継実に若い警察官が助けを求めてくる。

 

「あの四人が朝からずっとあの調子で…!」

 

「ふむ…」

 

継実はちらっと四人の方を見る。

よく見ればどこかで見たことのある顔。

そう、つい先日四季家の私有地である浜辺に無断で入り、あまつさえ可愛い従弟に暴力を振った相手。

正直、げんなりするが警察官である以上一般市民を放っておくわけにはいかない。

 

「お前たち、一体何があった?」

 

仕方なしに声をかけると男がすっかりやつれた様子で継実に訴えかけてくる。

どうやら彼らは継実のことを覚えてはいないらしい。

 

「で、出たんだよ!」

 

「出た…? 一体何が出たんじゃ?」

 

 

 

 

「幽霊だよ! 侍の幽霊!」

 

 

 

「……はぁ?」

 

訳が分からずそんな声が漏れた。

その時点で自分が呼ばれた理由が分かった気がした。

速い話が厄介事の押し付けだ。

継実はまだ若いながらも署内でめきめきと実績を上げていた。その為か古参の警察官から

疎ましがられこういった面倒な件を回されることも多かった。

だが、それでもどんな面倒事にも対応して結果を出すものだからさらに実績が上がるという流れが出来上がっていくのだがこれは別の話。

 

「もう一度聞くぞ、何が出た?」

 

「だから幽霊だよ! 古臭い格好した侍の幽霊!」

 

やはり聞き間違いではないようだ。

今まで変な事件も多かったが、これで四季継実の変な事件簿にまた新たページが刻まれるようだ。もういっその事探偵業でも立ち上げてほうが良いかもしれん。

 

継実は嘆息しながら情報を聞き出すことにした。

 

「それで一体どこで見た?」

 

「そ、それは…」

 

急にごにょごにょと口ごもり始める。

これは何か疚しいことがあるようだ・

 

「話してくれなければこちらとしても調べ様がないのじゃが?」

 

「うぅ…その…」

 

継実にそう言われ渋々と呟き始める。

聞いていて呆れが止まらない。

イライラして酔っぱらった上に腹いせで墓石を破壊するとは庇い様がない。

 

だが、それはそれとして今の話からすれば見逃すことができない。

 

侍の幽霊が出たのは自分の故郷であること。

そして今そこには従弟とその友人たちが来ている。

 

正直、幽霊なんて荒唐無稽な話を信じているわけではない。

だがもしそれが幽霊ではない危険人物だとすれば。

 

「すまんがじっくり話を聞かせてもらおう」

 

継実は男にグイッと詰め寄る。

 

「ああ、それと器物損壊の件でも話があるからそのまま押さえておいてくれ」

 

自供も取れているのだ。そちらの方もしっかり罪を償ってもらおう。

とはいえあまりゆっくりはしていられそうもない。

 

「何もなければいいが…」

 

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「ふんふんふ~ん」

 

「キュウリとナスっていうからもしかしてと思っていたけれど、やっぱり精霊馬だったのね」

 

キュウリとナスに割りばしを刺していく一同。

 

「精霊馬ですの?」

 

「日本のお盆飾りでね。ご先祖様をお迎えしたり、お送りする乗り物の事よ。キュウリの馬で早く帰ってきて、ナスの牛でゆっくり帰ってもらうってね」

 

「なるほど…日本の文化とはなんとも興味深いものだな」

 

「まあ、精霊馬のことは分かったとして、今からやらされる盆童ってなんなわけ?」

 

今度は鈴が尋ねてくる。

その手には白い着物と白い帯、赤い輪袈裟が握られている。

これは盆童をやると言われ源之助に渡されたものだ。

 

「盆童はこの町に伝わる昔話でね。お盆になると各家に回って精霊馬と一緒にご先祖様を送ってくれる子供の神様みたいな存在かな。お盆の終わりにはナスの牛を一緒にむかえにきてくれるんだ」

 

この町では毎年お盆の時期になるとこうやって子供が盆童に扮して各家に精霊馬を置いていくという風習がある。かつて子供が多くいた頃はこの時期になると盆童に扮した子供たちが町を練り歩いたものだが、現在では唯一の子供である翔介が盆童の役目を一手に担っていた。

 

「それでなんであたしとラウラだけな訳?」

 

盆童の服装を与えられたのは鈴とラウラのみであった。

もし子供にやらせるのだったら人数分渡してもいいはずだが。

 

「それは盆童の服のサイズが小さいのしかなくてさ…」

 

翔介は年の頃の割には小柄であり、保管されている盆童の服も小さいサイズしか残っていなかった。

その為、友人たちの中でも体格の近い鈴とラウラの分しか用意ができなかったのだ。

 

「それじゃあ私たちは何をすればいい?」

 

「盆童は僕と凰さん、ボーデヴィッヒさんで手分けして家を回るから他の皆にもチーム分けして手伝いをしてもらおうかなと思ってるんだ」

 

「わかったわ、丁度三人一組で分けられるわね」

 

楯無がそう言った瞬間、五人の目がギラリと光る。

 

三人一組。つまりその中には当然一夏が入っている。この町に来てから常に全員で行動していたがこれは一夏と接近するチャンスでもある。

普段とは違う環境の中で共に過ごせば、何かしらの進展があるやもしれない。二人きりとはいかないが、それでもこのチャンスを逃さない手はない。

 

だが、これまでの流れを考えると。

 

「それなら俺は翔介と」

 

こうなる。

それが一番の悪手だというのに。

というよりも一番の強敵はやっぱりお前か、という表情で見られる翔介は溜まったものではない。

 

「いや、翔介君は私と簪ちゃんで行きましょう。あとの二人はそっちで決めて頂戴」

 

一夏の提案を楯無が一蹴する。

それを聞いた五人の表情が輝く。

これで一番の懸念がなくなったのだ。後は誰が一夏と一緒に回るかだが。

 

表情が輝いたのも束の間。

すぐさまバチバチと火花が散らされる。

 

「さぁて、チーム分けは決めておきなさいねぇ」

 

そう言って完全に丸投げの楯無。

これは絶対に楽しんでいる。

時たま愉快犯みたいになるのはどうなのだろうか。

 

とはいえ翔介も下手にこの件に関わって藪蛇になるのも面倒である。

 

「それじゃあ僕もちょっと離れようかなぁ」

 

飛び火するのも嫌なので翔介は境内から離れる。

 

「あら、それじゃあ私も」

 

「わ、私も」

 

更識姉妹もそそくさと翔介についていく。

背後が騒がしいが振り向くことなくその場を後にした。

 

「そうだ、お師匠さま、更識さん。少し一緒にいいですか?」

 

「あら、構わないけどどこに行くのかしら?」

 

「こっちです」

 

翔介は二人を連れて墓地へと入っていく。

その途中で井戸から水を桶に汲み運ぶ。

 

並び立つ墓石の前には彼岸花が供えられている。

翔介は並ぶ墓石を横切り葉っぱ生い茂る桜の木の前に立ち止まる。その木の根元には小さな墓石が鎮座している。

そこには『鞠之墓』と刻まれている。

 

「翔介君、このお墓は?」

 

「鞠?」

 

「はい。昔、この里に住んでた鞠さんって人のお墓です」

 

翔介は鞠の墓石に水をかけると屈みこみ手を合わせる。

 

「どうしてその人だけこんな離れたところにお墓があるの?」

 

簪が不思議そうに首を傾げる。

鞠の墓は他の墓から少し離れた場所に設置されている。

 

「それはこの鞠さんがもし自分が死んだらここに埋めて欲しいって頼んだかららしいです」

 

「それまたどうして?」

 

「鞠さんがこの場所が好きだったからっていう話ですけど…僕も良くはわかりません」

 

翔介は墓石の前に屈みこみ手を合わせる。

やがて立ち上がるとくるりと後ろの更識姉妹に向き直る。

 

「さて、もう一か所いいですか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

「うん」

 

姉妹にも否やはなく翔介と共に今度は集合墓地へと歩いていく。

やがて三人は一つの墓石の前で足を止める。

 

「今度は誰のお墓かしら?」

 

「大取桃子さんのお墓です」

 

翔介がそう告げると目を丸くする二人。

 

「大取桃子さんって…」

 

「源之助和尚の…」

 

 

 

 

「数年前に事故でな」

 

 

 

驚く姉妹の横から源之助が歩いてくる。

その手には菊の花束を持っている。

 

「事故?」

 

「ああ、数年前に大きな地震があっただろう。その時に老朽化した建物が崩落した」

 

源之助は菊の花を供える。最初に会った時と同じく鋭い目つきではあるが、その表情にはどこか悲し気な様子がうかがえる。

 

「翔介も毎回すまないな」

 

「うぅん、僕も桃子さんには優しくしてもらったから。むしろIS学園に行ってから全然会いに来れなかったから」

 

翔介はそう言うと桃子の墓石に向かって手を合わせる。

源之助はそんな翔介の様子を見ると薄く笑みを浮かべ、同じく手を合わせる。

 

更識姉妹はそんな翔介の背中を見つめる。

 

「うん、なんだか翔介が愛される理由が分かった気がするわ」

 

「私も」

 

どんな相手だろうと真摯に向き合うことができる少年だ。

そんな素直な翔介だからこそ家族だけでなく、町の住人や多くの人に愛されるのだろう。

 

少し眩しくも、羨ましく感じる。

 

「よし、そろそろ時間だ。お前たちも準備が終わったら門のところに集まれ」

 

「わかりました、それじゃあ行きましょうか。翔介君、簪ちゃん」

 

楯無に促されて、盆童の準備へと向かおうと境内へ戻る三人。

すると源之助が翔介を呼び止める。

 

「翔介、少し待て」

 

「おっと…何、源和尚?」

 

急に呼び止められつんのめりながらも振り返る。

 

「お前、何か強い力を手にしたな?」

 

「え…」

 

それはISの事だろうか。普通に考えれば強い力とはISの事。

だが翔介には思い当たる節がもう一つある。

 

光の巨人・ウルトラマンの力。

この世で彼しか持ちえない強大な力。

 

「翔介、俺の言った言葉を覚えているか?」

 

「…はい」

 

翔介は頷くとかつて何度も聞かされた言葉を唱える。

 

 

 

「誰かが立たなければならない時、誰かが行かなければならない時。きっとそれは力を持つ自分、ですよね」

 

 

 

そう告げると源之助は首肯する。

 

「わかっているならいい。力を持つ意味をけして忘れるな」

 

「……はい!」

 

「呼び止めて悪かったな。ほら、準備をしてこい」

 

源之助がそう言うと翔介は慌てた様子で境内へと走っていった。

 

 

 

「桃子、俺たちに子供はいなかったがあの子が大人になるまで見守っててくれ」

 

 

一人残った源之助は亡き妻の墓石にそう語りかける。

その表情は先程と打って変わってとても穏やかで優しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




本日はここまで。
もはや申し開きもない。

それでもいつも見てくれている皆さんには感謝しかありません。

次回、盆童本番。

しかし、夏休み編も大きく動き出す。
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